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神具の印  作者: 零
第1章 一級霊跋師「我来斂徒」
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第2話 対付喪霊

「ここか」


俺は新人師団一行が向かったという神社の目の前に来ると、少し苔のついた鳥居を見つけた。距離的にも遠いわけではなく、日帰りでということなのだろう。

霊跋師は、まず新人として近場で研鑽を積んでからと決まっている。

まぁ、初歩で躓くどころではない事態になったのは、油断なのか想定外なのか、

桃さんの話だと…


『神社に憑依した付喪系の霊ですね。階級が発見した時の状態なので新人が危険な目に遭いやすいんですよね』


とか言ってたな。おそらく油断だろう。

付喪系は物に憑く霊で、危険度や階級は姿形からでは分からないことも多い。さらに、見つけにくいことも相まって、基本は想定よりも高い位階の霊跋師が行く任務であることが多い筈だ。

受付の所為か?やはり本部はダメだな。


(階級も変わっている可能性がある。()()()()もいないから、なおさら気を付けなきゃならない)


1人で戦うことには、様々な危険がある。

どれだけ相手が弱かろうと、油断してはいけない。


「その前に、まずはこれだ」


一本の神楽鈴を取り出した。


———表裏(ひょうり)(すず)

   世界の境界を緩くすることができる。

   神力を持たない者でも霊を見ることができるようになる。


俺は神力を持っていない。故に霊を見ることが出来ない。

よって、俺はこの神具で見る。



鳥居をくぐる直前で足を止める。

前には、開けた空間と何の変哲のない神社があるだけだ。

そこを見据える。


シャラン…


鈴を一回鳴らす。音が周りに反響する。


シャラン…


鈴をもう一度鳴らす。前の景色が歪み始める。


シャラン…


三度鈴を鳴らすと、先ほど見えていた景色とは違う光景が広がる。


その中心、神社があった場所に、社の形をした化物がいた。

付喪霊。物に憑くとは言えど、その種類は様々だ。その物に対しての人の念などが集まって生まれる霊なわけで、どんな物だろうが霊化する可能性はある。

しかし、おかしい。目の前の現状は奇妙だ。

こんな大型の物、建物が霊化することはめったにない。まして神社が霊になるなんてことは通常あってはならない。ここは人々の信仰が集う場所の筈だ。


(いや…そんなことは後でいい。まずは人命だ)


見れば、人の姿もある。おそらく『不明の結界』を張っていたのだろう。

人数は一人。倒れているようで安否確認は難しい。

数は四人と聞いている。あと三人。


「大丈夫か?」


倒れていた少年に近寄って声を掛けると目を覚ました。気絶していたようで、少し困惑しているみたいだ。

少年の服装は霊跋師の戦闘服で七級のもの。年齢は俺と同じくらいで、青い目に金髪。依頼の人物の一人で間違いないだろう。写真を見たので間違いはない。

少しして、彼は驚くように目を見開いて叫んだ。


「危ないっ!!」


大丈夫。気づいている。

俺は背負っていた二本の薙刀を取り出し、それを斬り裂いた。


———(うぐいす)薙刀(なぎなた)(くれない)薙刀(なぎなた)

   二本で一対の薙刀であり、二つ揃った時にこそ真価を発揮する神具。

   鶯は斬撃に特化しており、紅は逆に突きに特化している。


それ、は黒い手のようで、社の霊正面から伸びている。

さっき、彼に声を掛け背を向けてから、ゆっくりと手を近づけていた。

目的はわからないが、明確な殺意を感じなかったので、おそらくは捕食か捕縛だろう。

斬ったと同時に振り返り、霊を見据える。


一呼吸


再度手が飛ぶ。数は六。左右内側から切り落とす。斬った手は塵となって消えた。

前を向けばあるのは、ちゃぶ台や棚といった家具。霊力は感じられない。反射で避け…と思ったが、後ろに保護対象がいるため蹴飛ばす。守りながらはやりづらい。

そうと思えば、次は視界を埋め尽くさんばかりの“手”。

これは、対処が難しい。

鶯と紅を地面に突き刺し、背から杖を抜く。


---護光杖(ごこうじょう)

   神力を多く内包した杖。

   簡易的な結界を作ったり、術の触媒にすることができる。


(一旦整理をしよう)


あの手は、実体がないから術系だろう。思った以上に速いため、新人がやれるのも納得がいく。数はおそらく無尽蔵。どれだけ保つかはわからん。

憑いたものが大きいからなのか動きは遅い。

中にあったであろう家具は、軌道的に操術ではなく物理的な投げ。そうなれば、霊が憑いているのは大部分ではない?だが、あの量の手はおかしい。規模に合っていない。温存か?

いや、そうじゃないな。


あの霊は素体に能力が見合っていないんじゃない。逆だ。

理由は不明だが、何らかの出来事で強めの霊が神社に憑いた。

大規模に手を出すだけの力はあるが、憑いたものが合わずそれ以上が何も出来ない。

それなら説明がつく。とんだ欠陥品だな。

だが…


「これならいける」



結界の右から飛び出す。向かっていた手が、俺を追いかけ曲がる。

それを背に、一直線に駆けていく。

前からも迫る手は、すれ違い様に斬っていく。

これではダメだと思ったのか、手が数十本のものから、大型のものが数本に変化した。

だが、それも予測済み。数で無理なら質だろう。それは人霊共通だ。

大きすぎるので、鶯を斬り上げると同時に天へと投擲。

紅得意の突きで大腕とも呼べる“手”を串刺しにする。

これで敵は無力だ。これ以上は不可能。

降った鶯の柄先を取り、疾走。

神社の屋根の真下から、ちょうど三メートルくらいの場所から一気に跳躍。


(決める)


見据えるは、心臓。霊の魂とも呼べる根幹。

正面上方。しめ縄のちょうど真ん中にある。そう()()()

それめがけて、真一文字に斬る。

戦闘終了。


霊の気配は消えた。

神社は元に戻っている。しめ縄は切れてしまったが。後で復元を依頼しておこう。

どれだけ経ったかわからないが、戦闘時間は体感3分といったところだろう。

神具の損傷は無し。身体の損害も無し。救助者は一名、あと三人。


「ひとまず安心、か…」


俺は倒れていた少年に歩み寄り「大丈夫か?」と言いながら少年に手を伸ばした。

少年は呆けていたようだが、はっとして手を取った。


「ありがとう。助かったよ」

「頼まれたんだ。名前は?」

輝橋(かがやばし)光迅(こうじん)、光迅って呼んでくれ」

「分かった。俺は我来斂徒、名前で呼んでくれて構わない」

「斂徒さんか、ありがとう。ところで頼まれたっていっていたけど、誰に頼まれたんだ?」


誰だっただろうか?確か…泡舞なんたら?

名前を聞いたはずなんだが、覚えているか怪しい。

多分合っている。と思う。名字だけだが。


「確か泡舞、さんだと」

「歌奈が!?そうだったのか」

「他の仲間は?全員で四人と聞いていたが」


そう聞くと輝橋は苦虫を噛み潰したような表情で言った。

当然だ。仲間が死ぬという事実は、任務を達成出来ないことよりも重い責任となる。それに、俺にとって師団の仲間は家族同然だ。変えられない宝なんだ。他のことは知らないが、同じようなものだと思っている。

しかしだ、こいつにとってはまだ落ち込むには早い。


「予想通りだ」

「何が?」

「さっき異変を感じた。あの霊からは殺意を感じられなかったんだ。だから目的は捕食か捕縛だと考えていたんだが、どうやら俺たちを捕まえたかったらしい」

「殺意?捕縛?どうしてそんなことがわかるんだよ」

「捕縛については簡単だ。あいつは付喪の霊であって実体はあるが物だ。だから捕食行動はとれない。よって捕縛目的と推察される。殺意に関しては…俺にはそれがわかると言えば信じてもらえるか?」

「わかった。信じる」

「そうか、良かった。でだ、それならまだ生きてるんじゃないか?お前の仲間」

「ほ、本当か!?」

「本当だ。可能性は高い」


さっきからずっと気になっていた。あの霊の目的とは?

解は予想でしかないが、狩りと防衛。その理由は『あの中に空間があるから』。つまりは人を内包する空間に捕え、そこを外敵から守ることが目的だったんだろう。

ならば、善は急げだ。


「俺はこれから中に入る。仲間が入れられたのはどこからだ?」

「あ、あの扉が開いて食われた」

「わかった。お前は待つか、帰るかしてろ」

「待ってくれ!俺にも行かせてくれ!」

「駄目だ。お前はさっきまで倒れていて、神力も枯渇しているだろう。それに、中の空間はあの霊あってのものだ。多分崩れる。せっかく助けた人間を危険な目に遭わす訳にはいかん」

「それでもだ!それでも俺はリーダーとしての責任を取らなきゃきけないんだ!」


こいつ馬鹿だな。早死にするタイプだ。自分の命よりも他人の命をみている。

だが、その仲間を思う気持ちには共感できるか…


「そこまで言うならついて来い」

「ありがとう!」

「俺から離れるなよ、死ぬからな」

「わ、わかった」


俺達は中へと足を踏み入れた。

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