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神具の印  作者: 零
第1章 一級霊跋師「我来斂徒」
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第1話 緊急事態

デビュー作です。

どうぞよろしくお願いします!

霊跋師総統所、本部のエントランスでため息をついた。

ここは霊跋師の本部であり日本のあらゆる霊関係の事件が集まる場所だ。

霊跋師、それはこの世の霊と呼ばれるものを殺す職業だ。霊を殺すには様々な方法があるが、霊跋師は神力という力を使って霊を見、霊と戦う。

そして霊とは生物の念の集合体のようなものであり、見た目は様々で一般的には意思は無いとされている。加えて一部の人にしか見えないという特徴を持つ。

重要なのは『祓う』ではなく『殺す』ということ。

霊といえど、元に成っているのが生物なのでどうにも「らしい」。殺すつもりの覚悟で戦わなければ、自分が死んでしまう。若くしてやめる霊跋師が多いのはこの理由が大半だろう。

そうは言っているが、かく言う俺、我来(がらい)斂徒(れんと)も霊跋師の一人である。



普段は来ない本部に顔を出している要因の彼女を待っているため、俺がここにいるのもなんらおかしくはない。

なので、周りの冷たい視線を無視してまた、視点を落とした。


待つこと10分。


「すいません!お待たせしました!」


向こうから受付の格好をした女性が走ってきた。

結構急いできたらしく、若干息を切らしていた。

遅れているので当然と言えば当然か。


「すみません。思っていたよりも連絡が多かったんです」

「いえ、全然大丈夫です。それより要件というのは?」

「はい、天式(あましき)(めい)様からのお手紙と書類が合わせて3点です。しっかり受け取るようにとのことです。後、『あれはいつも通り明後日に渡すから来るように』という言葉を預かっています」

「……わかりました」


あの師匠め、めんどくさいから俺をこっちに来させたな。

大きめの封筒と手紙を受け取ると、受付に「これも」と少し装飾のついた紙を手渡された。


「あの…これは?」

「神闘祭への招待状です」

「それは結構です」

「いえ、私が持っていたら職務怠慢になってしまいますので受け取ってください」

「いや、でも」

「斂徒さん?」

「…ハイ」


この女性は宍輪(ししわ)(もも)

師匠の天式冥の専属サポーターであり、ついでに俺の専属もやってもらっている優秀な人で、ベテランだ。

ただ、それ以上に長い付き合いであるから、この人には一生頭が上がらないだろう。


「はぁ、そういうところ直してくださいよ?私みたいに知った間柄じゃなかったら、もっと素っ気ない態度をとるでしょう?」

「…善処するつもりです」

「善処するって言って治らなかったことばっかりじゃないですかぁ!」

「すみません…」

「そもそも斂徒さんはもっと会話をするべきですよ。いつも——


桃さんの説教は広いエントランスに響くものだから、周りからチラチラと見られる。

その視線が、先ほど受けた軽蔑を孕んだものではなく同情と奇異、好奇心の混ざった感情向けられたもので、非常に刺さる。

周りに視線を彷徨わせていると、何やら言い争いが受付で起きているのに気づいた。

しばしばある光景なのだが、何故か興味が湧き聴力を集中させて、聞いてみることにした。


「出発したのは5時間前ですよ!!」

「落ち着いてください。今確認しますので」

「今確認では遅いんです!早く救援をお願いします!!」

「いや、そんなこと言われましても…」

「早くっ!!」


なにやら緊急事態のようだ。

おそらく、仲間が重傷だとか行方不明だというような事案だと思う。

関わる気は無い。面倒なのは目に見えている。


 ——って聞いてます?」

「えっ、あー…」

「あっちでなにかあったんですか?」

「多分ちょっとしたトラブルですよ。ほっときましょう」

「行きましょう」

「は?ちょっと待ってくださいっ」


桃さんも気づいたようで、見た途端行ってしまった。

着いた時には、桃さんが大きな声出していたらしい女性に話を聞いていた。

話によると、彼女の所属する師団が任務に行ったっきり帰ってないらしい。


「なるほど、新人の師団が初任務から戻っていないと。それも5時間」

「5時間…少し長いか、危険かもしれない」

「そうなんです!なので早く救援を!!」

「でも、そう簡単に救援は出せません。救援となれば上位以上の霊跋師にしか頼めません。ですが、すぐ動いてくれる霊跋師なんていませんよ」

「そんな…」

「どうしましょうか、うーーーん」


こういう事はよくあるものだ。新人ということもあり注意を怠った結果だろう。

仲間の大切さは分かるが、力不足というもの。諦めるしかない。

霊跋師の世界は弱肉強食だ。強い者、実績を積み重ねた者しかこの仕事を続けられない。

実際、ほとんどが家業として霊跋師をやっている人ばかりだが、数が少ないのはそれが理由とは限らないということだ。


「任務は連帯責任、自己責任だ。ここの他に頼る当てもないだろう。諦めるしか無いんじゃないか?」

「で、でも」

「斂徒さん、そんな酷いこと…あっ」

「どうしました?」

「いい案が思いつきましたか!?」

「はい!とてもいい案です。斂徒さん行ってあげてください」

「は?」

「『は?』じゃないですよ!あなたは今暇ですし、話を聞いていたので直ぐ向かえます。しかも一級の霊跋師なのですから!適任です!」


暇って、呼び出したのはそっちのくせに…さすがに勝手じゃないか?

でも、そんなことになるんじゃないかとは思っていた。本当に勝手だが。


「拒否権は?」

「ないです」

「笑顔で言われると怖いな」

「斂徒さん?」

「分かった分かった、行けばいいんですよね?」

「はい、ありがとうございます」


この人の笑顔(威圧)は逆らってはいけない。

仕方ない。乗りかかった船だ。

決めたからには、師の教えと矜持の元、責任を持って果たそう。


『責務に意思を、命に敬意を』

その言葉を飲み込み、スイッチを切り替える。



…すぐ向かわなければ。


「君」

「はいっ、私ですか?」

「そう、任務は受けたから安心してくれ」

「ありがとうございます、でも…あの…本当に大丈夫なんですか?」


彼女が心配している理由は、俺の格好のことだろう。

その理由は、単に多くの神具を身につけているからだ。

神具とは、霊跋師の戦闘の補助的な役割で使われている武器のことで、何種類も使う奴は神具に頼っている弱い奴という風潮がある。

今日、嫌な視線を向けられていたのもそれが原因だろう。


「心配しないでください。斂徒さんは、一級霊跋師ですから実力も折り紙付きですよ」

「いっ一級!?ほ、本当ですか?」

「本当ですよ。ねぇ?」


俺は頷く。だが疑うのは仕方ない。

霊跋師には位階という区分があり、七級から始まり一番上が一級だ。

要するに、自分は霊跋師の中で一番強いです。と言っているようなもの。大抵の人間は疑ってかかる。この一級だって少々訳ありである。

さて、そんなことを考えていると桃さんが何か説明したらしい。


「自分が強いと傲ったことはないが、この本部に籠ってるやつらほど弱くない自負も持ってる。神具が気になるんだろうが、仲間のためを思うなら信じろ」

「そうですか…はい、みんなのことよろしくお願いします!!」


安心したような、覚悟を決めたような顔で彼女は俺に託してきた。

ならば、あとはそういうものだ。


「ああ、まかせろ」


そう言って俺は、その場を後にした。

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