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チーターの待ち人  作者: 春ヶ勢はせる
プロローグ〜女神の涙〜
6/43

一人の少女とさくらのケーキ

「よし、支度するか」


 陽衣と女奈が同居してから今日で一ヶ月。

 今、女奈は仕事(女神)の時間で仕事部屋にいる。


「よし、準備はバッチリだな」


 今日のために『料理人』も『パティシエ』ももらっておいた。


「女奈は絶対にこんなのやったことないからな」


 キッチンには、陰キャでオタクで自分も経験がないことを棚に上げてひとりごとを話す男子がいた。


「さて、女奈が帰ってくるまでの残り五時間、忙しくなるぞ〜」






 その日の女奈は、仕事が終わってから、妙に陽衣の服から甘いにおいがすると思っていた。

 だが、何を聞いても話をうまくそらされてしまう。


(こんなことになるんだったら『話術師』は、もっとあとに渡せばよかったな)


 そう思いながらも、陽衣に急かされ先に風呂に入った。






 ふぅ、と小さくため息を付いた。


(女奈がチートを使うほど怪しんで来なくてよかった〜)


 いくらここ一ヶ月でチートも増え、それを使いこなす訓練をしている陽衣でも、女奈の能力には敵わない。


「よし、風呂出てくるまでに準備を整えよう」






 風呂から上がった女奈は、とても驚いていた。

 装飾されたリビング、目の前のごちそう、何より陽衣がこっちを向いて笑いかけている。

 その笑みには普段はない柔らかさがあって、少し心臓が高鳴った。


「なにこれ?」

「今日っておれたちが出会ってから一ヶ月だろ? だから、記念にパーティーでもしようかと思ってさ」

「陽衣くんはそういうことには興味ないと思ってたんだけど」

「いやおれも興味はなかったよ」


 そう言いながら陽衣は理由を説明し始めた。


「普通の人ならともかく、お前は女神だからこういうことはしたことないんじゃって思って。だってお前は今まで一人だったんだし、そもそも誕生日とかそういうのがあるのかわかんないし。」


 だんだんと赤くなりながらも陽衣は説明し続ける。


「だから、二人でなんか思い出になりそうなことをしたいなって思って。だけど、行事は何もないし、おれは料理できないしで一週間のときはできなくてさ。それで、『料理人』とかもらえたこの時期なら成功するかな、とか思ったりしたんだけどどうですか?」


 途中から、説明している相手の顔も見れずにまくし立ててしまったが、ふと我に返って女奈を見るとうつむいてしまっている。

 よく聞くと、すすり泣いているようだ。

 もちろんどうやって対応したら良いかわからない陽衣は混乱した。


「うわあ〜、どうした? ゴメンな。何か気に触ったか? 誕生日とかまずかったか?」

「ちがう。ちがうの」


 そう言いながら、女奈は話し始めた。


「今までずっと一人だったから、きっと君も加護をもらうためだけに私と接しているのかなって心のどこかで思ってたんだ。でも、こんなにも私自身のことを気遣ってくれていたんだなって」


 その言葉の影に隠れている孤独の大きさに、思わず陽衣は、目の前のいる()()()()()を抱きしめた。

 その体は意外と細く華奢だった。

 腕に中の少女は固まっているが、陽衣は抱きしめた体を離さずに優しく語りかけた。


「当たり前だろ。おれのわがままきいてくれて感謝してるし何年も一人で頑張ってきて尊敬している。だから、おれはお前と一緒にいる限り、お前を支え続ける。」


 陽衣は目の前の少女を支えたい一心で言葉を続けた。


「目の前に頼っても良いって言ってるやつがいるんだ。ためらわずに頼りたいときは頼ってくれ。」


 どくどく波打つ鼓動の音が、どちらのものかわからない。

 それでも、今の彼女に必要な、たった一つの言葉を伝えたかった。


()()()()()()()()()()


 そのたった十一文字の言葉は、今までずっと一人がだった女神の胸に響いて、


「こんな泣き虫女神でもひとりにしないでくれる?」

「泣き虫な女神に頼られる生活もきっと悪くない」

「じゃあ、早速頼っていい?」


 その言葉に陽衣は優しくうなずいた。


「もう少しだけ、ぬくもりを貸して」

「わかった」


 それから女奈が落ち着くまで、陽衣は抱きしめながら女神様の頭を撫でていた。

 

 しばらくすると、女奈は落ち着いたらしく顔を上げた。

 そして、女神の笑顔という言葉すら足りないような笑顔を向けていった。


「ありがとう、()()!」


 伝説や幻の奴らも倒せそうな破壊力の笑顔に陽衣が真っ赤になったのは言うまでもない。





 女奈が落ち着いてから、本格的に一ヶ月記念パーティーを行った。


「そんな食い過ぎんなよ〜。ケーキもあるから」

「女の子にとってデザートは別腹なの」

「何だ、そのテンプレみたいな返し」


 二人とも、美味しくごちそうを頂いた。


「そういえば、こんな料理どうやって作ったの? 『料理人』や『パティシエ』もレシピがなければ使えないよね?」

「そこは、先人のレシピをお借りしました」


 陽衣は料理をしたことがなかったので、当然調理法も知らなかった。

 そこで、色んな人の歴史書を読んで『瞬間絶対記憶能力』で作り方を暗記したのだ。


「てなわけで作ったんだけど、まずいのなかったよな?」

「うん。全部美味しかった」

「なら良かった。じゃあケーキ持ってくるか」


 そう言って陽衣はケーキを持ってきた。


「なにこのかたち。さくら?」

「そ。さくら」


 なんと、陽衣の作ったケーキはさくらの花の形をしていたのだ。


「でも、なんで?」

「あれ? おれの歴史書読んだんだろ?」

「知られたくないものとかあるかなって」

「それはお気遣いどうも」


 知らないうちに気遣われていたことに少し嬉しさを感じつつも、陽衣は話した。


「昔、母さんに言われたんだよ。大切な人にはさくらのケーキを渡せって」

「さくらのケーキか。どういうことなんだろう?」

「さあ?」


 そう言いながらも二人で楽しい時間を過ごしたのだった。

大切な人という部分に突っ込まないという。なお、陽衣くんはさくらのケーキだけは幼少期にお母様に仕込まれた模様。

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