隣にいるやつの
ふわふわとした空間。
地面があるように感じない。
自分が立っているのかどうかもわからないような変な感覚を刀輝は感じる。
しばらくの間、その体をならすことに集中する。
時間にしては数秒程度、陽衣が剣を構える。
「体は慣れたか?」
「おかげ様でね」
軽口を言い合っていた次の瞬間。
「っ!!」
「! ふぅ」
一筋の風が吹く。
目に見えないほどの速さで、ふたりの剣はぶつかっていた。
「流石の反応速度だね」
「っ! いきなりか!」
刀輝の剣撃を冷静にいなす。
今回はこの前と違って純粋な剣技で戦っていく。
しばらくの間、刀輝が攻めて陽衣がいなす形が続く。
「体、暖まってきた?」
「あぁ!」
お互いに剣を構え直す。
「行くよ!!」
「来い!!」
血が暴れるような、手足がジンジンするような、そんな感覚。
もう、ふたりはお互いのことしか見ていなかった。
刀輝が攻め、陽衣が流す。
陽衣が斬り込み、刀輝が受け止める。
お互いだけに集中した剣がふたりの間を幾度となくを舞う。
「おい刀輝! 勇者の剣技っていうのはそんなものなのか?」
「まさか! まだまだだよ!」
刀輝の剣撃がどんどん重く、速く、鋭くなっていく。
相変わらず刀輝の剣は一撃一撃が重く鋭い。
満遍なく体のバネを使い無駄のない一撃を続けてくる。
その気迫に陽衣は口の端に笑みを浮かべる。
「それだ」
ぼそりとつぶやく。
陽衣の笑みがだんだんと不敵なものに変わっていく。
陽衣の一撃一撃が単純な強さの暴力に変わっていく。
「力勝負だ」
「! 望むところだよ!」
刀輝の笑みもいつものような柔らかい笑みではない。
これは男の子の笑みだ。
真夜中の虚空の中で、ふたりを照らすように火花が宙に舞う。
「うぉお!!」
「はぁ!!」
ふたりの剣技はどんどん重くなっていく。
ふたりは剣を重ねるごとに強くなっていく。
「そこだ!!」
「甘いな!」
刀輝が胸に突きを出し、それを陽衣が交わしてカウンターを腹に浴びせようとする。
それを刀輝が紙一重で弾くと、衝撃でお互いにノックバックする。
ふたりは虚空上の本来は実態のない場所に剣を刺して衝撃から回復すると、剣を構え直す。
「どうかな? 僕は君についていける。君が遠慮する必要はない」
刀輝はそう言うと、構えていた剣を前に出す。
剣先が陽衣の目を捉える。
「この一撃で、それを証明する」
そう言うと、刀輝は自分の右側に剣を構える。
その構えに、真剣な表情に、陽衣は少し笑う。
「知ってるよ。お前がすごいことも、お前が本気なことも」
剣を一回転させ、肩に乗っける。
「来い!! おれも全力だ!!」
陽衣は左横に、まるで抜刀術のように剣を構える。
そのまま、目の前の相手のみに集中する。
ふたりのいる空間が静止する。
虚空の中のふたりの場所は、無音無動の空間となる。
動き出しは同じだった。
ふたりの間にあった距離は一瞬でなくなる。
「はぁっ!!!!」
刀輝は左足で踏み込み、真上から剣を振りおろす。
「うぉお!!!!」
陽衣は右足を踏み出し、左側から居合い抜きをするように剣を出す。
もう、目に見えないほどではない。
目に見えない速さのふたりの剣が、激しい火花を纏って交差する。
刀輝は、陽衣の視線を吸いこむ。
「僕は」
剣を強く握り直す。
「僕は君の親友だ」
全身体の力を剣に集中させる。
「君の強さをひとりにしない」
刀輝の踏み込む力が一段上がる。
「だから!」
鉄剣が軋む。
「少しぐらい、大事なことを相談しろぉ!!!」
その言葉を受け、陽衣は無自覚に目力を強める。
「バカか」
陽衣の方も力を増す。
「おれたちは!」
真っ向から刀輝の目を見る。
「相棒だ!!!」
ふたりの気持ちがぶつかりあう。
陽衣と刀輝の力がどんどん増していき、
『パリン』
「「なっ!!」」
その力には、いくら陽衣が作った鉄の剣でも耐えられなかった。
とっさのことふたりは体制を崩す。
そして、
「お互い様だろ、ったく」
折れた鉄剣を刀輝の喉元に向けて陽衣が言う。
鉄剣が折れた後、陽衣は刀輝の踏み込み足に自分の足をかけ体勢を崩した。
そして、刀輝が体勢を直そうとする間に喉元に半ばから折れた鉄剣を構えていた。
「その言葉、そっくりそのまま返してやる」
陽衣は剣を下げると、刀輝に手を差し出す。
「勇者だからとか、自分たちの世界だからとか、そんな理由でおれを巻き込ないようにしなきゃとか考えるな」
刀輝の手を取って笑う。
そのまま刀輝を立ち上げると、その手を自分の肩に置く。
「おれがいるだけで少しでも役に立てるなら遠慮なくおれを呼べ」
いつの間にか虚空は消え、夜空に月が輝く。
「お前のしたいことのためなら遠慮なく隣にいるやつの肩叩け」
自分の行ったことに恥ずかしなったのか、刀輝から目をそらして月を見ながら言う。
「おれはチーターだからな」
さも当然かのように、でも少し恥ずかしがりながら陽衣は言った。
その言葉と様子に、
「……はは」
刀輝は笑い出す。
「あはははは」
陽衣の肩に置いていた手を自分の腹に当て、大声で笑った。
笑いながら陽衣を見る。
涙が出てきた。
かっこつけすぎなのに妙に頼りになるその顔は、今は刀輝の行動に戸惑っている。
そんなことすら面白くなるほどに刀輝は笑っていた。
「そうだね」
涙を拭い、まだこみ上げてくる笑いをこらえながら答える。
(お互いに遠慮する必要ない、のかな)
そして、唐突に話を変える。
「そういえばさ、どうしてコートの色、青色にしたんだい?」
「ん? あ、ああ」
相変わらず戸惑いながらも、陽衣は答える。
「もともとは黒にしたかったんだよ。配分間違えて瑠璃色になっただけで……」
「じゃあ、僕がコートの色決めてもいいかな?」
「ええ!?」
夜空の下、ふたりは話し始める。
たまには思いっきりの喧嘩も男子だけのバカ話もいいだろう。
きっと、それもわるくない。
こんなに遅れてしまって申し訳ありません。本来なら、ここでコートの色まで出す予定だったのですが……。
何色が似合いますかね。




