今、自分が思っていること
虚空の中の部屋を改造し、ベッドを四つ作った。
夜になり、もうみんな寝ている。
陽衣は外に出ると、夜空を見上げる。
「……世界は違うのに月はあるな」
この世界の月も、綺麗に輝いている。
光を陽衣たちに分けて、世界を照らしている。
そんな月を見て、陽衣は和やかな時間を過ごす。
もともとは女奈が見ているであろう月を陽衣も見ることで、どこか繋がりを持ちたいという醜い欲望から始まった日課だった。
しかし、気づけば月そのものに目を奪われるようになっていた。
まったく、月が綺麗ですねとはよく言ったものだ。
(オシャレな表現を作り出したもんだ)
苦笑いをしながら思い出す。
図書館で出会った少女のことを。
陽衣が間違ったていなければ、あの子は……。
そこで陽衣は思考を止める。
後ろを振り向くと、
「よ、刀輝」
「今回は前より気配消してたんだけどなぁ。それも陽衣かぁ」
「陽衣と書いてチートと読むの、辞めてもらえますか!?」
「悔しいからね。これが全弾ヘッショチートをされた最上位ゲーマーの気持ちかぁ」
「そのわかりにくい例えもやめて差し上げろ」
近づいてくる刀輝と笑いながら会話を始める。
そこには、さっきまでの考えるような真剣な表情はどこにもない。
瞬時に切り替えて、刀輝の話に気持ちを切り替える。
「男同士の話なら、ついこの間しただろ?」
陽衣が呆れ気味に聞く。
その問いに刀輝も笑いながら答える。
「親友とは、何回真面目な話をしてもいいんじゃない?」
また話したいことがあるらしい。
陽衣は顔を上げる。
今日は雲ひとつない良い天気だ。
「今日はこの前みたいに曇ってないな」
「そうだね」
月が静かに街を照らしている。
その光の優しさにふたりは目を奪われる。
「この世界の月も綺麗だな」
「まあね」
僕のってわけじゃないけど、と笑う刀輝。
「案外間違ってないだろ。お前らが救った世界だろ?」
「まだ平和になってないことを知った今言われても、耳が痛いだけだよ」
それでも陽衣はふたりはれっきとした勇者と魔王だと思っている。
この世界の平和を創った英雄。
刀輝と凛心が英雄であることに変わりはない。
「なんてったって世界を救ってるからな」
おれにはできないしやる気もない、と冗談めかして笑う陽衣。
純粋な尊敬のはずのその言葉に自嘲気味に笑う。
「陽衣は、」
刀輝が陽衣のほう見る。
「陽衣は僕たちに合わせてないかい?」
その言葉に、思わず陽衣は目を向ける。
真剣な目。
親友として、男友達として、刀輝が言ってくる。
遠慮をするなと。
「女奈さんや、凛心に遠慮するのは良い。でも、僕は男だ」
刀輝は陽衣に強い眼差しを向ける。
「もっと嬉しいことは自慢げに報告してくれて良い。もっと悩みも後悔も愚痴ってくれて良い」
刀輝のそれは、陽衣を思っての気遣いなんかではない。
「今回もそうだ。僕たちの方を見て決めて、陽衣の思考は一切入っていなかった」
刀輝なりのわがままだった。
「本当に君は僕たちに付き合って良かったのかい?」
もっとわがままを言えというわがまま。
「本当のことを言って?」
僕が君の親友でいたいから、と。
そう言っていた。
その姿は、あまりにも様になっていて、
(こんな感じで凛心を落としたのか)
とおもわず陽衣が思ってしまうぐらいにはかっこよかった。
陽衣は苦笑いすると、宝物庫の中に手を入れる。
「そんなつもりはなかったんだけどなぁ」
本当にそんなつもりは陽衣にはなかった。
だが、
「そう見えてたんだからな」
しょうがない。
なら、やることはひとつだろう。
どんなに『チーター』やら『勇者』やらの肩書きがあったって、陽衣たちは男の子なのだ
「目一杯当たって、お互いの感情を伝え合うしかないな」
急な謎の行動に刀輝は真剣な話の途中であったにも関わらず、きょとんとして頭にハテナを浮かべてしまう。
陽衣が手を抜き出すと、そこには一本の剣があった。
鉄製の強度が強いわけでもない、並の剣。
それを刀輝に差し出すと、もう一本同じものを出す。
「ほら」
「?」
その鉄剣をとりあえず受け取るも、意味がわからずそこに立ちすくんでいると、陽衣が虚空の空間を開く。
笑いながらその中に片足を突っ込むと、片頬を上げながら言う。
「論より証拠だ」
刀輝の手を引っ張って。
この世界に来て、一番男の子らしい活発な笑みを浮かべて。
今、自分が思っていることをぶつけてやるよ。
いまからやることは、この前のような力比べではない。
直接、お互いの思っていることをぶつけ合う、言うなれば。
「そうだな」
それこそ、この言葉がピッタリだろう。
「精一杯『喧嘩』しよう」
ふたりの男子は虚空の中に入っていく。
それはまるで、教室を抜け出すダメ男子のようで。
ろくに送れなかった学生の時代を振り返らながら笑う陽衣と、戸惑いながらもついていく刀輝。
学校の廊下を走っているかのように虚空の中に入っていく。
ふたりの精神は、高校生のまま止まっているので。




