表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
チーターの待ち人  作者: 春ヶ勢はせる
二章〜勇者世界〜
42/43

今、自分が思っていること

 虚空の中の部屋を改造し、ベッドを四つ作った。

 夜になり、もうみんな寝ている。

 陽衣は外に出ると、夜空を見上げる。


「……世界は違うのに月はあるな」


 この世界の月も、綺麗に輝いている。

 光を陽衣たちに分けて、世界を照らしている。

 そんな月を見て、陽衣は和やかな時間を過ごす。


 もともとは女奈が見ているであろう月を陽衣も見ることで、どこか繋がりを持ちたいという醜い欲望から始まった日課だった。

 しかし、気づけば月そのものに目を奪われるようになっていた。

 まったく、月が綺麗ですねとはよく言ったものだ。


(オシャレな表現を作り出したもんだ)


 苦笑いをしながら思い出す。

 図書館で出会った少女のことを。


 陽衣が間違ったていなければ、あの子は……。


 そこで陽衣は思考を止める。

 後ろを振り向くと、


「よ、刀輝」

「今回は前より気配消してたんだけどなぁ。それも陽衣(チート)かぁ」

「陽衣と書いてチートと読むの、辞めてもらえますか!?」

「悔しいからね。これが全弾ヘッショチートをされた最上位ゲーマーの気持ちかぁ」

「そのわかりにくい例えもやめて差し上げろ」


 近づいてくる刀輝と笑いながら会話を始める。

 そこには、さっきまでの考えるような真剣な表情はどこにもない。

 瞬時に切り替えて、刀輝の話に気持ちを切り替える。


「男同士の話なら、ついこの間しただろ?」


 陽衣が呆れ気味に聞く。

 その問いに刀輝も笑いながら答える。


「親友とは、何回真面目な話をしてもいいんじゃない?」


 また話したいことがあるらしい。

 陽衣は顔を上げる。

 今日は雲ひとつない良い天気だ。


「今日はこの前みたいに曇ってないな」

「そうだね」


 月が静かに街を照らしている。

 その光の優しさにふたりは目を奪われる。


「この世界の月も綺麗だな」

「まあね」


 僕のってわけじゃないけど、と笑う刀輝。


「案外間違ってないだろ。お前らが救った世界だろ?」

「まだ平和になってないことを知った今言われても、耳が痛いだけだよ」


 それでも陽衣はふたりはれっきとした勇者と魔王だと思っている。

 この世界の平和を創った英雄。

 刀輝と凛心が英雄であることに変わりはない。


「なんてったって世界を救ってるからな」


 おれにはできないしやる気もない、と冗談めかして笑う陽衣。

 純粋な尊敬のはずのその言葉に自嘲気味に笑う。


「陽衣は、」


 刀輝が陽衣のほう見る。


「陽衣は僕たちに合わせてないかい?」


 その言葉に、思わず陽衣は目を向ける。

 真剣な目。

 親友として、男友達として、刀輝が言ってくる。

 ()()()()()()と。


「女奈さんや、凛心に遠慮するのは良い。でも、僕は男だ」


 刀輝は陽衣に強い眼差しを向ける。


「もっと嬉しいことは自慢げに報告してくれて良い。もっと悩みも後悔も愚痴ってくれて良い」


 刀輝のそれは、陽衣を思っての気遣いなんかではない。


「今回もそうだ。僕たちの方を見て決めて、陽衣の思考は一切入っていなかった」


 刀輝なりのわがままだった。


「本当に君は僕たちに付き合って良かったのかい?」


 もっとわがままを言えというわがまま。


「本当のことを言って?」


 僕が君の親友でいたいから、と。

 そう言っていた。

 その姿は、あまりにも様になっていて、


(こんな感じで凛心を落としたのか)


 とおもわず陽衣が思ってしまうぐらいにはかっこよかった。

 陽衣は苦笑いすると、宝物庫の中に手を入れる。


「そんなつもりはなかったんだけどなぁ」


 本当にそんなつもりは陽衣にはなかった。

 だが、


「そう見えてたんだからな」


 しょうがない。

 なら、やることはひとつだろう。

 どんなに『チーター』やら『勇者』やらの肩書きがあったって、陽衣たちは男の子なのだ


「目一杯当たって、お互いの感情を伝え合うしかないな」


 急な謎の行動に刀輝は真剣な話の途中であったにも関わらず、きょとんとして頭にハテナを浮かべてしまう。


 陽衣が手を抜き出すと、そこには一本の剣があった。

 鉄製の強度が強いわけでもない、並の剣。

 それを刀輝に差し出すと、もう一本同じものを出す。


「ほら」

「?」


 その鉄剣をとりあえず受け取るも、意味がわからずそこに立ちすくんでいると、陽衣が虚空の空間を開く。

 笑いながらその中に片足を突っ込むと、片頬を上げながら言う。


「論より証拠だ」


 刀輝の手を引っ張って。


 この世界に来て、一番男の子らしい活発な笑みを浮かべて。

 今、自分が思っていることをぶつけてやるよ。


 いまからやることは、この前のような力比べではない。

 直接、お互いの思っていることをぶつけ合う、言うなれば。


「そうだな」


 それこそ、この言葉がピッタリだろう。


「精一杯『喧嘩』しよう」


 ふたりの男子は虚空の中に入っていく。

 それはまるで、教室を抜け出すダメ男子のようで。


 ろくに送れなかった学生の時代を振り返らながら笑う陽衣と、戸惑いながらもついていく刀輝。

 学校の廊下を走っているかのように虚空の中に入っていく。

ふたりの精神は、高校生のまま止まっているので。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ