本日二度目
「うわぁ〜〜〜!!!!!」
目の前の魔物の群れに悲鳴を上げる自分とどこか冷静な自分が同居している。
嘘だ、冷静な部分なんて無い。
後ろには目を開けない同年代の魔族の女の子。
それと……川。
「どうしよう!?」
少年――ソルは恐怖に支配された回らない頭で必死に考える。
後ろの女の子はまだ目を開ける気配はない。
そして、目の前の魔物たちは、
「グルルッ!!!!」
引いてくれる気配もない。
「うわぁぁ!!!、どうしようどうしよう!!!」
焦りまくっている。
だいぶ焦っている。
とりあえずは、
「女の子を守らなきゃ!!」
不思議とひとりで逃げようとは思わなかった。
女の子を守ることを最優先に考えていた。
ソルが手を開いた時、
「よく言った。勇気あるな」
聞いているものを落ち着かせるような声。
続いて銃声。
魔物の悲鳴が森に響き渡る。
今、まさにふたりに向かってきた一匹の魔物が倒れる。
「刀輝。こいつらは格上相手になるとすぐに仲間を呼ぶんだ」
「だから、気を抜いちゃいけない」
他にも、男女の声が聞こえる。
それと、次々と魔物の悲鳴がなる。
そんな、魔物が次々となぎ倒されていく非現実感を味わっていると、ひとりの少年がこちらに歩いて来た。
青っぽいコートにヘッドホンをしている。
そんな少年に一匹の魔物が後ろから襲う。
ソルは危ない!!という事もできなかった。
襲ってきた魔物を見た目は十歳中盤ぐらいの少年が振り向きもせずに、目にも見えないような早打ちであしらったからだ。
その少年は、ソルと未だに目を開けない女の子を抱える。
「え!? ちょ!!?」
「我慢してくれ」
相変わらず落ち着き払った声でそう言うと、未だに魔物の相手をしているふたりに声をかける。
「行くぞ〜」
「はいはい」
「ん」
すると、ふたりはこちらに来る。
すると、少年は何気ない感じで背中の剣を抜き、そこら一体の魔物のみを消滅させる。
「呼び出す暇も与えない」
そこに残ったのは、何事もなかったかのような静かな森林だった。
そんなものすごいことをしておきながら、まるで当然かのような素振りで二人の手を取り、
「『瞬間転移』」
次の瞬間、五人は普段ソルが暮らしている街にいた
そこで少年はふたりを下ろすと、
「ここであってるか?」
ソルは頷く。
少年は続けてソルの体を見ながら聞いてくる。
「怪我はなさそうだけど、大丈夫か?」
「特にない、けど……」
戸惑いながら答える。
その答えに安堵したかのように胸をなでおろし、ついで未だ目を覚まさない女の子の方を見る。
「この子は?」
「知らない子。森で倒れてた」
「知らない子を助けるためにあそこまで危険な中逃げなかったのか?」
「そうだけど……」
一瞬怒られるかと思った。
だが、少年はソルの顔に手をポンっと乗せると、
「偉いな。さすが男の子だ」
そこで、ソルは初めて自分が助かったことを実感したのだった。
一段落ついたところで少年の記憶を借りて少年の暮らす街に飛んできたは良いが、これからどうするか。
陽衣は少し考える。
まぁ、ひとまずは、
「僕は勇日刀輝」
「私は魔月凛心」
「そんで、おれは黒川陽衣」
とりあえず自己紹介だ。
目の前の少年も落ち着いたようだし、名前を知らないと不便だ。
「それで? 君の名前は?」
「僕はソル」
「カタカナ? ひらがな?」
「?」
「こら、陽衣。日本人にしか通じないボケを突っ込まない」
刀輝に怒られてしまった。
そんなわけでお互いに自己紹介をしたあと、魔族の女の子を見る。
ソルが不安そうに尋ねてくる。
「この子、助かる?」
「あぁ、任せろ」
そう言うと、陽衣は女の子に手のひらを向ける。
その手から、金色の粒子が出てくる。
「普通に気を失っているだけだな。多分魔物に襲われて気を失ったかな」
そう言うと、『回復魔法』を使う。
しばらくして、
「……ん。……魔物は?」
「大丈夫だ」
陽衣はそういうと、宝物庫から水を取り出し差し出す。
それを飲ませると、ソルに向き直る。
「ほらな。お前が救った命だ」
「いや、陽衣さんたちが」
「いや、おれたちもお前の声を聞いて駆けつけたんだ」
そう言い、もう一度頭ポンをする。
「やるな。さすが勇者と魔王が平和をもたらした世界だな」
「え?」
そう言い、二人を見る。
不思議そうな顔をするソルの頭をくしゃくしゃっとする。
そのまま、二人が無事そうなのを確認すると、
「じゃあ、おれらも行くか?」
聖剣のあるはずの場所に向かおうとする。
今回の目的はあくまで聖剣を取り戻すことだ。
「ちょっと待ってください」
あれ?
陽衣たちは振り向く。
すると、魔族の女の子がソルの肩を借り、よろよろと立ち上がりながら三人を呼んでいた。
「あの力、気は失っていましたが、御三方はとてつもない力を持っているはずです」
「まぁ、否定はしない」
「陽衣、そこは否定するとこだよ」
「刀輝、陽衣は本当のこと言っているだけ」
「ほら見ろ、魔王がこう言ってるぞ、勇者」
「君もそっち側か」
「勇者様と魔王様!?」
意図せずコントが始まるが、そこで少女から突っ込みが入る。
いや、突っ込みというより驚きと戸惑いというべきか。
「おい、ガセネタかもしれないだろ。そんな簡単に魔に受けるんじゃねえよ」
「陽衣さん。あの力を見せておいてそれは無理があるんじゃないかな」
子供に純粋な突っ込みを入れられる。
改めて少女のほうを見ると、こちらに懇願するような眼差しを見せていた。
「私の名前は魔月ノアと申します。もしよろしければ、戦争を止めるために力を貸してください」
その言葉に陽衣はため息をついて刀輝と凛心を見る。
「お前らの巻き込まれ体質、いい加減にしてくれよ」
デジャブだ。
本日二度目のセリフは、弱々しく消えていった。




