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チーターの待ち人  作者: 春ヶ勢はせる
二章〜勇者世界〜
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雨の無いひは月がひかる。〜時の神をそえて〜

 聖剣を取りに行く前日。

 陽衣は今日も月を見ながら武器の手入れをしていた。


「月が綺麗ですね、か」


 夏目漱石が英語の『I love you』を日本語に表したもの。

 とんだロマンチストが前世にもいたものだ。


「おかげで毎日、月鑑賞だな」


 今日の月は雲に見え隠れしている。

 この世界にある月も、前世の月のようにきれいだ。


 陽衣はぼぉっと月を眺める。

 窓から風が吹く。


「いい風が吹いているな」


 学園入学まであと三ヶ月だ。

 三ヶ月……間に合うだろうか。


「間に合うと良いけど」


 初日から欠席とかまっぴらごめんだ。

 なまじ学校に言っていたぶん、欠席への謎の罪悪感が生まれてしまう。


 月が雲に隠れる。

 明日から遠征だ。


「しばらく帰ってこれないかもしないし」


 レッヒェルンを置く。

 今日はもう寝ることにしよう。

 窓を閉めようとする。


「閉めないでよ」


 陽衣が改造して作ったベランダ。

 そこから声が聞こえる。


 陽衣はそこにいた少女を見て苦笑する。


「入れて欲しいなら言えよ」

「よく言うよ。わかってたくせにさ」


 月の光を浴びているかのように輝く白髪。

 低い背のわりにきれいなプロポーション。

 そして、女奈や凛心とはまた違った美貌。


 そこには月の光に照らされた時の神が立っていた。


「わかってるわけないだろ。お前、神だぞ」

「神をお前呼ばわりするのもどうかと思うけど」


 そう言いながら部屋に入ってくる。

 机に座る彼女に陽衣はため息をつく。


「久しぶりだね」

「そんなでもないだろ」


 陽衣の体を成長してもらって以来だ。

 相変わらず属性てんこ盛りの見た目だ。


「第一、おれとお前は知り合いって言うほどの仲じゃないだろ」

「うーん。確かにそれはそうだけど」


 そう言いながらこちらを見てくる。

 月の光で表情に影ができる。


「君はボクたちにとって有名だから、そこまで他人って感じがないんだよね」

「それ、この前も言ってたな」


 きっと、女奈を転生させてしまったからだろう。

 神の間でも有名とか勘弁してほしい。


「ということで、君とも仲良くなっておこうと思って」

「どういうことだよ」


 話が繋がらない。

 一番読みたくないタイプの小説だ。

 まぁ、読みたくなくても小説は読むが、


「お前は小説じゃないからな」

「はい? 君も大概じゃない?」


 いきなりおかしなことを言われてハテナマークを作る神様。

 女奈とはまた違ったかわいさだ。

 陽衣の目線に気づいた時の神が茶化してくる。


「惚れないでよ」

「残念だが、心に決めている人がいるんでな」


 惚れる可能性はゼロだ。

 申し訳ないが。

 いや、申し訳なくもない。


 そんな陽衣の心情を知ってか知らずか、時の神は苦笑しながら訪ねてくる。


「でも、昨日もお楽しみだったんでしょ?」


(なんだこいつ、なにが言いたい?)


 急に意味深な発言をしてくるものだ。

 どうせごまかすこともできないのだろう。


「そんなたいしたもんじゃねえよ。少し話しただけだ」


 なぜ昨日のことを知っているか、なんて聞かない。

 神がなんでもありなのは、二年半で痛いほどわかっている。


「それで? 女奈とはどうだったの?」

「そうだなぁ」


 陽衣は月に目線を向ける。

 月は雲から顔を出す。


「よかったよ。幸せそうで」

「そう」


 陽衣の返答に時の神も短く応える。


「きみはそれでいいの?」

「さあな」


 そんなことはわからない。


「恋愛経験皆無のおれにそんなこときくな」


 かなしくなるだろ?と陽衣。

 時の神もなにも言わない。


 月が雲に隠れる。

 お互いに黙ったまま時間が過ぎていく。


 そのまましばらく静寂の時が流れていった。


「ボクも名前がほしいんだけど」


 先に静寂を断ち切ったのは神様の方だった。

 しかし、その内容は謎内容だった。


「なんだよ、それ」

「いや、だってさ〜」


 時の神が言う。


「女奈には女奈って名前があるじゃん。あの名前、ボクも欲しかったんだよね」

「だったら、誰かに名前つけてもらえよ」

「あの名前、つけたの君でしょ?」


 昔を懐かしむように神は続ける。


「あの時の女奈、すっごいにこにこしてたからね。名前つけてくれた、って」

「お、おう。そうか」


 正直、そんなに喜んでくれているとは思っていなかった。

 陽衣としては、名前がないと面倒だと思っただけなのだが。


 自然と口角が上がる。

 そんな陽衣が帰ってくるのを待たずに時の神は話を続ける。


「ということで、ボクにも名前を―――」

神無月(かんなづき)


 神様の話を遮って陽衣は言う。


神無月(かんなづき)時雨(しぐれ)、でどうだ?」


 たしかにいい名前だろう。

 だが、


「すぐに出すぎじゃない? そんなに考えてないでしょ。てか、そんなに早く出るなら何で渋ったの?」

「落ち着け。そうじゃないんだよ」


 陽衣は苦笑いしながら答える。


「女奈がプライベート,って言って良いのかはわからないけど、唯一話題に出した神がお前なんだよ。だから、もとからふたりのときはそう読んでたんだ。たぶん、お前と会うときは、嫌がられると思って名前で読んでなかったんだろ」

「……読んでくれても良かったのにな」

「下手なことして嫌われたくなかったんだろ?」


 月がまた顔をのぞかせる。

 ふたりの会話を盗み聞くように。


「友達だって、言ってたぞ」


 女奈が彼女を話題に出したときはいつも楽しそうだった。

 陽衣も男ながら、少し嫉妬したものだ。

 

「あんまり嫉妬して百合の間に入ると過激派に殺されるからな」

「なにそれ」


 笑っているのその顔に、きらめきが見えたのは気のせいだろうか。

 いや、女奈もよくないていたから気のせいではないだろう。


 時雨はほんわりと笑う。

 それまでとは違う和やかな笑みに、陽衣は女奈を重ねてしまった。

 それほどに雰囲気が似た笑みを浮かべた時雨は言った。


「ありがとうって言っといて」


 その言葉に対し、


「自分で言え。唯一、世界に個体として干渉できる神様」






 時雨が帰ったあと。


「あいつ、結局なにしに来たんだ?」

だいぶ遅れた気もしますが、気の所為です。嘘です。本当に申し訳ないです。

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