月と男の子と男の子
家に帰ると、是千代が来ていた。
陽衣が学園に入ると言ってからは頻繁に来ることはなくなったのだが、
「是千代さん、いらっしゃい、っておれの家じゃないけど」
「どうも〜、陽衣さん」
にやにや笑いながら挨拶してくる。
「今日はどうしたんだ?」
「今日はおふたりのお話で」
話をしていると、凛心がお茶を持ってきた。
「私たちも正式に学園に入ることにして」
「へぇ、そりゃまた」
なんとも言い難い感じだ。
「お前たちが入ったら学園のバランス崩壊するんじゃないか?」
その問いに、ふたりはため息をつく。
呆れたように凛心が口を開いた。
「陽衣、それ、あなたが言う?」
「そうですよ。あなたが一番の崩壊者ですよ」
是千代も賛同する。
陽衣はなにも言えない。
「いや、でもさ、お前らはなんで」
「陽衣が入るって言ったからね」
まだ納得できない陽衣に、いつの間にか陽衣の隣に座っていた刀輝が答える。
「おい、刀輝。いつからそこにいたんだ?」
「平和ボケしすぎだよ」
このヤロー、と喰いつこうととする陽衣。
それをなだめる是千代。
「まあまあ、そういうことで今日、呼ばれたんすよ」
「なるほどな」
陽衣はふたりを見る。
「それじゃあ、入学するまでにいろいろ必要になるんじゃないか?」
「あぁ、まあね」
刀輝が答える。
「制服とか、一応教科書とか、あと、武器も」
その答えに、陽衣は思い出す。
「そう、それを聞こうと思ったんだ」
陽衣は刀輝を見る。
「お前、武器どうすんだよ」
「なかなか手に馴染むものがなくてね」
苦笑気味に答える。
凛心が真剣な顔をする。
「刀輝の相棒は聖剣だったから。もう、あれ以上の相棒は見つからない」
そこで、是千代が口を挟んだ。
「あの〜、当たり前のように言っていますが、私がいるの忘れてませんか?」
その問いに陽衣は呆れたような視線を向ける。
「白々しいから」
どうせだいたい事情なんて探られているのだ。
十中八九、時の神が味方についているのだ。
知らないはずがない。
よって、是千代のことは知っていることとして話をしていく。
「ということで、聖剣以上に使えるものがなくて」
「なるほどな〜」
それは大変だ。
「長年使ってきたんだろ?」
「うん」
「戦争の間だから……三年ぐらい」
「そんなにか」
そんなに最高級の剣に触れていれば、そりゃ他の剣も手になじまなくなってしまうだろう。
それならば、
「いっそのこと取りに行くか?」
「は!?」
聞き返したのは凛心。
刀輝はため息をつく。
「もう、陽衣がなに言っても驚かないよ」
「刀輝。いつの間にそんな上級者に?」
「人を化け物みたいに言うな」
心外だ。
刀輝が陽衣を見る。
「取りに行くってどうするの?」
「おれはチーターだからな。だいたいなんとかなる」
「なるほど」
納得したような納得していないような顔をするふたり……とひとり。
そのひとりに向かって陽衣は言う。
「ということで、しばらくいなくなるから。この街よろしくな。是千代さん」
「急に話をふるんすね〜」
苦笑しながら答える。
「お任せください。入学までには帰ってきてくださいね」
「あぁ、それまでには帰る」
ということで、トントン拍子で(?)話が進んだのであった。
夜になって。
陽衣は部屋であぐらをかき、ひとりで月を見ていた。
今日は月が雲で見え隠れしている。
そんな月をひとりで見ていた。
そんな中、陽衣は急に後ろを振り向いた。
「入ってきていいぞ」
「……まだノックしてないんだけど」
入ってきたのは刀輝だった。
そのまま陽衣の横に来る。
「椅子、座るか?」
「いや、隣に座るよ」
そういうと、陽衣の隣にあぐらをかく。
そのまましばらく無言の時間が続く。
先に話しだしたのは刀輝だった。
「ありがとう」
「……お前が本気を出せないとどうしようもないからな」
「それだけじゃないよ」
刀輝が陽衣を見る。
陽衣は月を見たままだ。
「あの世界に行くチャンスをくれて」
「なんのことだ?」
陽衣が尋ねる。
「君は僕たちが死んだあとの世界を見せてくれようともしてくれたんだよね?」
「……そんなわけないだろ」
偶然だと答える陽衣。
苦笑しながらそれでいいと返す刀輝。
「それにしてもさ……」
刀輝はまた月を見る。
「君はもう、なんでもできるだろ?」
月が隠れる。
「なんで彼女を」
影が濃くなり……黒に塗りつぶされる。
「女奈さんを探しに行かなかったんだい?」
刀輝の純粋な質問。
それは、陽衣を思っての質問でもあった。
見えなくなった月から陽衣が目をそむける。
今度は陽衣が刀輝を見る。
「……いや、正直、だいたいどこにいるかはわかっているんだ」
「じゃあ、なんで?」
刀輝が余計に疑問に思い首を傾げる。
「愛している人の居場所がわかっているのに会えない痛みは僕もわかるよ」
かつて愛していた人と敵同士だった刀輝が答える。
その問いに陽衣は苦笑いしながら答える。
「おれってさ、急に成長しただろ?」
「……?」
陽衣の急な話題に疑問が深まる刀輝。
「だから、その、さ」
言いづらそうに話し続ける陽衣。
「急にあったら、その、体が」
ここらへんで刀輝も何が言いたいのか察しがついてきた。
男の子ならではだ。
「好きな子に会えたら体が言うこと聞かなくなりそうで」
ようするに、自分の本能に抗えなくなりそうで怖い、ということだろう。
「そっか」
刀輝も短く返す。
それが本当の答えなのかは一旦置いておいて。
月がまた出てきた。
「三日後」
陽衣が口を開く。
目線は月に戻る。
「三日後に出る。それまでに準備しておいてくれ」
「わかった」
それだけ刀輝は答えた。
陽衣は月から目をそらさない。
それからしばらく男だけのバカ話をして。
刀輝は部屋を出ていった。
刀輝が部屋を出てしばらくして。
陽衣はもう一度月を見る。
今度はその手にエアインネルングを持って。
「まだ会えない。今のおれは」
刀身を撫でながら。
「記憶を戻してほしいのか、今のまま生きてほしいのか」
強大な魔力に多数のチート。
それを持ってしても人間の悩みがなくなることはない。
陽衣は悩んでいた。
記憶を取り戻してほしいのか、今のまま幸せな思い出を作ってほしいのか。
「中途半端な考えのおれには」
まだ会えない。
夜も夜なりの光が灯る。
外はもう静かだ。
窓を開ける。
涼しい風が吹く。
陽衣の髪がなびく。
どこかで誰かの桃色の髪も。
今回はかなり急いで書きました。多分後で直します。




