エアインネルング
陽衣は森を出てゆっくりと歩いていた。
その手には一本の剣。
陽衣が剣だと認識した瞬間に、『修正』で手紙を修正したが、間に合っただろうか。
(まぁ、どっちにしろ一番伝えたいことは伝わっているだろうからな)
来年から是千代にお世話になること。
それは変わらない。
最悪、直接本人に言えばいい。
今はとりあえず帰ろう。
帰りの途中、今日あったことを振り返る。
化け物が出現。
退治にほぼ丸一日かかった。
他にも一度死んだり、謎の少年に会ったり、時の神に力を借りたりした。
要するに、かなりの高密度体験だった。
(なぁ?)
そう言って刀身を撫でる。
傍から見たら、鞘のない剣の刀身を撫でているやばいやつだ。
それでも、陽衣は返事をもらえた気がした。
いや、きっと気のせいだろう。
「そういえば、名前をつけないとなぁ」
大変ありがたいことに、この剣の命名権を女奈に与えられたのだった。
「と言ってもなぁ」
陽衣は自分のネーミングセンスに自信がない。
昔から本を読んできた厨二病患者に名前と言われてもなぁ。
とりあえず、ネーミングセンスとか考えずに自分の頭脳の中から良さそうなのを探してみる。
「思い出……『エアインネルング』、とかかな」
さすがオタク。
一瞬で名前が決まった。
それがかっこいいのかは……チーターのみぞ知る。
さて、名前も決まったところであらためてエアインネルングをよく見てみる。
「……素材がわからない」
なにで作られているのかわからない。
『観察眼』と『千里眼』で見たのだ。
それでわからないならだれもわからないだろう。
それだけではない。
能力『思いを力に変える』
「なんだよ、これ」
能力まであやふやだ。
一つ言えるとすれば、
「おれには最高の剣……だな」
強さや能力は関係ない。
陽衣はこの先この剣をずっと使っていくのだろう。
「鞘がいるな」
鞘を作ってもらってベルトに掛けないと。
というか、新しい服を買わないといけない。
いま陽衣が着ている服は、成長した時になぜか現れた服だ。
この服がなかったらかなり丈の短い小さな服で戦う羽目になっていただろう。
もしかしたら、成長して服が破けてしまって……。
「待て、これ以上考えるな」
ダメージしか受けない。
とにかく服を買わなければいけない。
「まあ、こんだけ働いて無償とかありえないけどな」
まじでありえない。
そんな話は置いておいて。
これからもやることはいっぱいある。
いや、できた。
チートが使えるようになった陽衣にはできないことの方が少ない。
ということでとりあえずは、
「刀輝と凛心の武器をどうにかしないとな」
作るにしろ、取りに行くにしろ。
学校に通う前にどうにかしたい。
ふたりはどうするかわからないが、陽衣は学校に通い始めたら時間がなくなってしまう。
それまでにはどうにかしなければならない。
「取りに行くか〜」
きっと刀輝も凛心も使い慣れたものの方がいいだろう。
「ぎりぎり間に合う、か?」
学校が始まるまであと半年。
順調にいけば三日ぐらいふたりが元いた世界に旅行すればいいだけなのだが。
「勇者と魔王だからな」
きっと巻き込まれ体質みたいなものがあるだろう、と自分のことを棚に上げて考える陽衣。
「ま、いいか」
きっとそれも運命だ。
命がそこに運ばれているならどうしようもない。
陽衣にできるのはただ、目の前の理不尽を潰すだけだ。
まだ手に取って一時間も経ってないのにもう癖になっているかのように剣の刀身を撫でる。
久しぶりに女奈の声も聞けたし、何より今日は疲れた。
たったの二日間なのに半年分の体力を使った気分だ。
さっさと帰ろう。
空を見上げてると、今日は三日月だった。
今日も月は綺麗だ。
とある高校のとある教室。
ひとりの少年が独り言を続ける。
「他の人より読書欲と知識欲が高い少年は少女を庇って死んだ」
「死んだ少年は、チートに惹かれ、女神に惹かれ、転生し、勇者と魔王と出会う」
「こんなことは、きっとこれから起こる『奇跡』までのプロローグでしかないのだろう」
「これは、最愛の人と離れ離れになったチーターが待ち人である女神を見つける物語である」
「あらかじめ言っておくがハッピーエンドは決定事項だ」
「なぜなら、少年はチーターだから」
これにて一章終了となります。途中、何度も改変したのに、それでも呼んでくださった皆様には本当に頭が上がりません。
これからも『チーターの待ち人』を何卒よろしくお願いします。




