チーターの親友として
「――という感じだよ」
「なるほど」
刀輝たちは家に帰ったあと、自分の家に是千代を呼んだ。
事後報告のために初めて刀輝側から家に呼んだ。
まあ、こっちは必死な思いしたんだからそちらが足を運んで聞きに来るぐらいしてくれたっていいだろう。
というわけで凛心が家全体の掃除をしている間、刀輝は今回のことについて報告をしていた。
「ようするに、お三方相手で苦戦するようなかなりやばいやつでしたが、陽衣さんが覚醒して倒したと」
「まあ、そういうことだね」
陽衣の覚醒。
それがなかったら今回の戦いで三人とも死んでいただろう。
(本当に危なかった)
もう、聖剣がないとか言ってられないのかもしれない。
聖剣が相棒だったのはもう過去の話だ。
新しい相棒を探さないといけないのかもしれない。
(でもなぁ)
どうしても刀輝には聖剣と戦っている姿しか想像できないのだ。
(あの剣は最高の相棒だったからなぁ)
とはいえ、贅沢も言ってられないのかもしれない。
今回の戦いは本当に死ぬところだったのだから。
(もう、失いたくない)
勇者として戦っていた世界では、味方も敵もたくさん死んだ。
意味のない戦いでたくさんの命がなくなった。
今世では守りたいものもある。
(凛心に陽衣、まだ見ぬ女奈さん)
他にも今後増えていくかもしれない。
そんな守りたい者たちのために。
(強くならないといけない)
体も。心も。
「ところで」
刀輝の思考が終わったところで是千代が声をかけてきた。
もしかしたら、刀輝の考えがまとまるまで待っていてくれていたのかもしれない。
(ここらへんは本当に先生、だな)
高校生で精神年齢が止まっている刀輝にはお手上げだ。
「陽衣サンはいまどこへ?」
「あぁ、陽衣なら森にいるよ。何か用事があるって言ってたけど」
まぁ、今の陽衣ならひとりでも大丈夫だろう。
「そういえば」
刀輝はふとなにか思い出したかのような声を出した。
「陽衣から」
ポケットから手紙を取り出す。
「是千代さんに渡してくれって」
「ほう」
是千代も興味深げに手紙を見る。
「何か罠とか無いですね」
「いや、さすがに」
ないとは言い切れない。
陽衣に絶対はないことをいっしょに暮らしているうちに刀輝は教わっていた。
是千代が慎重に封を開ける。
幸いなことに何もなかった。
是千代が手紙を読み始める。
しばらく無言の時間が続いた。
時間的には十分ぐらい経っただろうか。
手紙を読み終えた是千代は顔を上げた。
「!!」
刀輝は驚いてしまった。
是千代がいままでで一番読めない表情をしていた。
戸惑っているような、笑っているような、驚いているような。
いろいろな感情が入り混じったような顔をしている。
「その顔、なんだい?」
「いや〜、あまりにも予想外な手紙でして」
そう言って、刀輝に手紙を見せてくる。
そこには事後報告などが詳細に書いてあった。
『今回の化け物は、たぶんバランスを取るためだ』
その手紙によると、あのあまりにも強い化け物は一本の剣が原因で出現した可能性が高いらしい。
この世界にはなかったとてつもない力を持った剣がいきなり現れた。
その剣を野放しにしておくと救われない命も救われることになり、結果的に世界のバランスが崩れる。
そのことを世界が感知し、今回の化け物が現れたそうだ。
「なるほど」
それなら納得できる。
前、陽衣が言っていた。
(世界はバランスを大事にしている)
人の数、時間、土地。
ありとあらゆるものは基準をもとにバランスよくなるように常に調整されていると。
今回その調整が影響したのだろう。
だが、それだけなら是千代はあんな顔をしないはず。
そう思って続きを読んでいくと、最後の一文にその理由があった。
『来年から、是千代さんの学校でお世話になるからよろしく』
思わず刀輝も首を傾げてしまう。
あんなに行かないと言っていたのにどういう風の吹き回しだろうか。
「いや、嬉しいことなのはたしかなんですが」
「たしかに、これは驚くね」
たぶん、陽衣も目指すところを見つけたのだろう。
なら、自分も目標を見つけないといけない。
(置いていかれないようにしないと)
隣にいたはずの存在はいつの間にかかなり遠くに行ってしまいそうだ。
しばらくは追いかけることに必死になるだろう。
(陽衣、君はすごいな)
自分たちがふたりがかりでも倒せなかった化け物。
そいつを圧倒した親友。
きっと今の陽衣は仲間なんていなくても生きていけるのだろう。
それでも、
勇者は前を向く。
追いつくために。
(これはチーターの親友として僕の仕事だ)
チーターが背負いすぎないように。
弱音を吐けるように。
刀輝は高校生で勇者として異世界転移しました。そのため、基本的な精神は高校生のままです。




