待ち人
「女、奈……」
そこにいるのはたしかに女奈だ。
いや、
「光の粒子が集まっているだけだ」
『せいかい』
言葉が返ってきた。
目の前の状況に理解が追いつかず、驚く陽衣。
そんな陽衣を放っておいて女奈は話し始める。
『たぶん、ベストタイミングのはず。とか言って合ってなかったら恥ずかしいな』
「いや、完璧すぎて怖えよ!!」
そして、そんなリスキーな賭けに出るな。
どうやらさっきの言葉は陽衣の言葉を先読みしただけらしい。
『たぶんきみは今、混乱していると思うから言っておくね』
そう言うと、女奈は剣の柄を撫でた。
『これは私の思い出の剣。そして、いま君が見ているのは過去の私。きみ風に言うと動画撮影ってやつかな?」
そう言って陽衣を見る。
陽衣は声を発することすらできない。
『もう少し説明をするね。これは私の思い出をもとに作った剣。名前はきみが決めてね』
その笑顔が懐かしい。
『この剣には、きみの思いに反応して強くなる効果があるんだ。『奇跡』とおんなじ』
その女神以上のほほえみが眩しい。
『君にこの剣を使ってほしい。私の思い出を君が預かって欲しい』
その銀鈴のように響く声が気持ちいい。
「そうか、わかった」
感慨に浸っていた陽衣は、一言つぶやくので精一杯だった。
それぐらい感動していた。
女奈の思い出とを預けられたことが嬉しかった。
大事なものを預けてもらえたようで嬉しかった。
そんな陽衣の感情が通じたのか、女奈は再度微笑んだ。
『時間がまだあるから少し思い出話をしようか』
「ああ」
どうやら思い出を振り返るらしい。
『初めて君が話した言葉は『ブック』だったよね」
「そんなところからかよ!?」
どうやらだいぶ前から振り返るようだ。
『ほんと、本の申し子みたいな子だった』
「覚えてねぇよ」
陽衣は苦笑いだ。
『三歳でさ〜、もう歩けたのにあえて歩かなかったんだよ。なんでだか分かる?』
「なんでだろうな」
きっと相槌を打ったって意味はないのだろう。
『君さ〜、お菓子を隠れてずっと漁ってたんだよ〜。悪知恵が身につくの早すぎでしょ』
「うぇ〜? おれ、そんなことしてたのかよ」
だから、これはただの自己満足だ。
『五歳の時、覚えてる?』
「あぁ〜」
だいぶあやふやだ。
『君、一回自殺しようとしたんだよ』
「!? そんなことあったのか!!」
覚えていなかった。
『私が止めなかったら君、死んでたんだよ』
「結局死んじまったけどな〜」
そんなことがあったなんて驚きだ。
『小学校では陽キャだったよね〜』
「おい!!、やめろ!!」
それは黒歴史だ。
『中学校では打って変わって陰キャになっちゃって』
「そのわかりやすい嘘泣きもやめろ」
あぁ、でも二年半こんな感じだったな〜。
『そして、十五歳で君は・・・・・・』
「そうだな〜」
死んだ。
『最初に会った時の君の無茶振りっぷりと言ったら』
「そのやれやれみたいな感じ、俺が目の前にいないからわざとやってるのか?」
さっきから煽り性能が異様に高くないだろうか。
『君は、私にいろいろ教えてくれたよね』
「いや、教わったのは俺のほうだ」
事実、わがままを言ったのも修行をつけてもらっていたのも陽衣のほうだ。
『能力的な話じゃないよ。 精神的な話』
「?」
余計意味がわからない。
『名前、つけてくれたでしょ?』
「無いと不便だっただけだよ」
それだけだ。
『一ヶ月記念パーティー、ふたりでやったよね』
「おれの自己満足だよ」
それだけ、だ。
『他にもたくさん、行事があるたびにふたりでお祝いしてさ〜』
「そのほうが楽しそうだったからだよ』
それだけ、のはず、なのに。
『そうこうしているうちに最後の日になったね』
「そうだな」
陽衣がむりやり女奈を連れ出した日。
『あの日ね』
「あぁ」
女奈の運命を変えてしまった日。
『君にいっしょにいて欲しいって言われた時、』
「あぁ」
相槌しか打てない。
『私ね〜』
「あぁ」
『実は嬉しかったんだよ』
「………」
『君にそう言ってもらえて嬉しかった』
「………」
『だからね』
「………」
『ありがとう』
「………っ!!」
『あなたのこと、ずっと待ってる』
そこでメッセージは途切れた。
陽衣はしばらく下を向いていた。
そのままどれくらいの時間が過ぎたのだろうか。
気がつけば空は暗くなり、月が顔を見せていた。
陽衣は顔を上げる。
目元が腫れているが、別に泣いていたわけではない。
顎の骨が痛いが、別に強く噛み締めていたわけじゃない。
だが、
「わるくないなぁ」
目の前の剣を手に取る。
きっとこの世界の理不尽も身勝手も、全部どうでも良くなるぐらいには、
「悪くない」
だから、
「待ってろ」
必ず迎えに行くから。




