少年とチーター
少し長いです。
「ふぅ、やっと来たか」
いつの間にか、陽衣は十歳ほどの体型に戻っていた。
陽衣が掴んだ手の先には、一人の少年がいた。
どこかの学校のブレザーのような服を着ている。
椅子に座ってパソコンを触っている。
場所もなにか前世の高校のような場所だ。
窓から夕日の光が入ってくる。
その光に少年と陽衣が照らされる。
その風景はまるで、青春の一ページのようだ。
少年がこちらを振り向いて微笑んだ。
その微笑みは、なにか懐かしむような顔だった。
「な〜に自分の理想に呑み込まれそうになってるんだ」
「余計なお世話だ」
よく考えたら初対面だが、つい反射的に反論する。
「まぁ、あんな理想に取り込まれたらしょうがない部分もあるけどな」
「いや」
きっと励ましてくれたのだろう。
だが、陽衣はその励ましは受け付けない。
「どんな理想でもおれが呑み込まれそうになったのは事実だ。おれはまだ弱い」
その言葉に、少年は苦笑した。
「めんどくさいやつだな」
「うるさい」
また反論してしまったが、たしかにはたから見ればめんどくさいやつだ。
「それにしてもこんな情景の中呼び出すとか、前世で青春したことないおれへの当てつけか?」
「いや、それは風評被害だよ」
苦笑いしながら冗談交じりに突っ込む陽衣を少年は否定する。
「ここはおれの思想の中の世界。おれがよく接続したり、創造したりする世界がたまたま学校だったんだ。おれだって不本意だよ」
気になる単語がかなり出てきたが、今は放って置くことにする。
「それで? なんでおれはお前の世界に飛ばされたんだ?」
「それはな〜」
少年の目が鋭くなった。
「君があの魔物にやられたからだ」
「なに!?」
陽衣が思っていたり斜め上の答えが返ってきた。
やられそうだったのならまだわかる。
だがこの少年は、やられたと言った。
つまり、
「おれは、あいつに負けたのか!?」
「まあ、そうなるな」
少年は至極当然のようにうなずいた。
「ちなみに、今は刀輝を凛心が必死にあいつを止めようとしているよ。でも、もう少しで限界が来るな」
「な!?」
更に、少年の口からとんでもない発言が出てきた。
少年が本当のこと言っている保証はない。
それでも、その言葉が本当ならこんなところでぼさっとしているわけにはいかない。
「何で死んだはずなのに生きているのかはわからない。きっとお前が助けてくれたんだろ? それは感謝している。でも、刀輝と凛心がやばいんだ。早くあの世界に帰してくれ」
「まあ、慌てるな」
「いや、落ち着いている場合じゃないだろ! 放って置いたらふたりともやられるんだろ!?」
早く帰ろうとする陽衣。
そんな陽衣を少年はなだめた。
「今、お前が突っ込んでいったところでなにか変わるのか?」
その問いに陽衣は、当たり前の事のように答えた。
「たとえ変わらなくても仲間を助けに行くだろ?」
その答えに対し少年は再び苦笑すると、
「そう言うと思ったよ。でも、もう少し待ってくれ。おれの話を聞くぐらいの時間はある」
そう言って少年は前の机に座るように合図する。
陽衣は渋々席に座る。
一応この少年は命の恩人らしいので、言うことは聞いておく。
「おれは一つ質問をしたいだけなんだ」
「つまらない質問だったら殴ってやる」
「見た目はおれのほうが歳上だけどな」
十歳の陽衣に十五歳以上の少年。
見た目の差は一目瞭然だ。
少年は一度咳払いをすると真剣な表情をした。
「まあ、気楽な質問だ。楽に答えてくれ」
「その割には表情が真剣だけどな」
少年は話し始めた。
「さっきまで君が見ていた世界は理想世界だ。死後にすべての人が見るその人の理想郷だ。走馬灯と言ってもいい」
「いや、ちょっと待てよ」
この時点ですこしおかしい。
「前世でおれが死んだとき、そんなもの見なかったぞ」
「お前は生命の女神から加護をもらうために女神の世界に飛ばされただろ? 今は生命の女神は転生していないからな」
なるほど。
本当だったら陽衣もあの理想郷を見る予定だったのか。
「あの世界に呑み込まれてきっていたらいよいよ危なかった。ギリギリ退避できてよかったな」
そう言って笑いかけてくる。
どうやらかなり危なかったらしい。
「ちなみに、呑み込まれていたらどうなっていたんだ?」
「輪廻の準備か、下手したら魂の劣化で消滅していたかもな。実際、お前の死に様かなりぼろぼろだったし」
「なっ!?」
かなりやばかったらしい。
「なるほどな。助かったよ」
「別にいいさ。やりたいようにやっただけだからな」
当然のように答える少年。
だが、彼は命の理を無視して陽衣を助けてくれたのだ。
「それにしても、あの理想は良かったな」
良かった。
誰も傷つかない世界。
大切な人がだれもいなくなっていない世界。
そんな世界は存在しないとわかっていてもそこにいたくなる。
辛いことがあればあるほどその蜜を吸っていたくなる。
「じゃあ、あの理想にするかい?」
急に少年が話し始める。
その声の無機質さに驚いて少年の方に振り向くと、少年の目は陽衣のみを捉えていた。
「あぁ、これが本題なんだ」
そういって笑いかけてくる。
その笑みは先程までとは違って、そこか黒いような禍々しさがあった。
「ぶっちゃけて言う。おれはお前の世界をあの理想郷に変えることができる」
その発言に陽衣は驚く。
世界そのものを変えてしまう。
それは禁忌なんて軽く超えた化け物じみた提案だった。
「この世界を君色に変えない?」
その言葉に、陽衣はというと……。
「信用できるかよ」
至極一般的な意見で返した。
そんなことができるわけがない。
この世の禁忌みたいなことを言われたところでそんなこと急に言われても信用できない。
「まあ、そうだよな」
その返答を少年も予想していたようだ。
「お前はそういうと思ったさ。だから試しに、あの化け物を倒すのを手伝ってやる」
「なに!?」
急に陽衣の表面化の問題に戻った。
さっきから色々なところに飛ばされまくりだ。
「今のままお前が戻っても三人とも死ぬ。だから、お前は覚醒しろ。すべてのチートを使える体にもどれ」
「そんなこと言われてもどうしようもないだろ」
それができたら陽衣だって苦労しない。
でも、できないのだ。
できないものはしょうがない。
「大丈夫。いまからお前をどうにかしてくれるやつのところに飛ばしてやるから」
「!? 本当か!?」
そう言うやいなや、陽衣の体が急に淡く光りだした。
まるで転生したときのような光り方だ。
「さあ、行って来い」
少年が笑って見送ってくる。
さっきのような禍々しさはもう、どこにもない。
その瞳は純粋に陽衣を応援していた。
だからこそ、
「あぁ、いろいろとありがとう」
陽衣は素直に感謝の気持ちを伝えられた。
目の前が暗くなったとき、陽衣はふと思った。
(そういえば名前、聞いてなかったな)
〜?視点〜
今、ボクは混乱している。
是千代の話を聞いて思った。
面白いものが見れそうだと。
そう思って森に向かう途中、急にすべての世界の時間が止まった。
おかしい。
こんな大規模な時間停止魔法、使えるのはボクぐらいだ。
他の人がこんな大きさで使えるわけがない。
ただでさえ時間停止魔法を使える人は少ないのだから。
「う〜ん。誰の仕業だ〜?」
時の女神として、この所業は許せない。
ただでさえ仕事が多いのに仕事を増やさないでほしい。
世界の時間は全て等しく回らないといけない。
なのにこれじゃあ時間がずれまくりだ。
これじゃあ当分サボれないじゃないか。
「懲らしめてあげるから」
そう思って誰の仕業か探ろうとしたとき。
「うわぁああ〜!?!?」
上から誰かが降ってきた。
いや、何で時間がとまっている中で動けるの?、とか、何で上から降ってきたの?、とか聞きたいことはたくさんあったが、その顔を見たらそんな質問は吹っ飛んだ。
「あの子の……」
そこにいたのは、生命の女神だったあの子のお気に入りだった。
ということで、謎の少年との会話が終わりました。いやぁ、ここまで昨日出したかったんですけどね〜。




