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チーターの待ち人  作者: 春ヶ勢はせる
第一章〜思い出の剣〜
25/43

日常?と少年

四回行動とか、いいんですか!?

「ん? ここは?」


 陽衣は目が覚めた。

 どうやら眠っていたらしい。


(あれ? おれってどうなったんだっけ?)


 確か()()の声が聞こえて、声のする方に向かったらなにかがいて……。


「陽衣」


 急に女性の声。

 この声は一体誰の声だろう。


 声のする方に振り向く。

 そこには――。


「……!! か、母さん!?」

「陽衣。遅刻するわよ〜」


 そこには生前の母の姿が、いや、生前ってなんだ?

 そこには陽衣の母である、黒川(くろかわ)御空(みそら)がいた。


 いつの間にかそこは家のリビングに。

 陽衣は十五歳の姿に。


「陽衣? どうしたの?」


 急に尋ねられる。

 どうしたのだろう。


「あなた、泣いてるわよ」

「え?」


 いつの間にか頬を涙が伝っていた。


「あれ? おれ、どうしたんだろう?」


 涙が止まらない。

 流しても流しても溢れてくる。

 どうしたんだろう?


「もう、どうしたの?」

「いや、別にどうもしていないはずなん――」


 最後まで言えなかった。

 御空が陽衣を抱きしめたからだ。


「え? ちょっと、母さん?」

「いいの。自分でわからない事があってもそれが悲しいことなら、目の前に泣いている息子がいるなら抱きしめてあげたくなるのが母親なの」


 だから、と続ける。


「たまには甘えなさい」


 そのぬくもりとやわらな言葉に、陽衣は暖かさと同時になぜか、少しの懐かしさを感じた。








「ごめん。助かった。学校行ってくるよ」

「はい、行ってらっしゃい」


 玄関を出る前、陽衣は振り向く。


「ありがとう、母さん」


 御空は少し驚いた表情をしたあと、笑って一言。


「どういたしまして」









 学校に向かう途中、陽衣は親友を見つけた。


「よう、刀輝」

「陽衣、おはよう」


 幼少期からの親友、刀輝だ。

 子供の頃からずっと一緒に遊んできた。


「今日も爽やかだな。この爽やかイケメンが」

「そうでもないけどね」

「そんなことはない」


 否定する刀輝に、更に少女が否定した。

 彼女の名前は凛心。

 陽衣と刀輝の幼馴染であり、刀輝の恋人でもあるどこかミステリアスな雰囲気を醸し出した美少女。


「刀輝はイケメン。そこらへんの男子と比べ物にならない」

「だそうだ」

「これは嬉しいことを言ってくれるね」


 苦笑しながら刀輝がお礼を言う。

 なんてことはない。

 ただの刀輝大好きっ子だ。


 三人で学校に向かう。

 なんてことはない、普段の日常だ。

 なんてことはない、はず。

 なのに陽衣には妙に大切で守りたいもののように感じられた。


 学校につく。

 今日も教室内は賑わっている。

 そして、


「おはよう、陽衣」


 一人の美少女が陽衣に挨拶をする。

 桃色の髪に水色の瞳、どちらも生まれつきのものだ。


「っ!! おはよう……」


 今日は挨拶をするのに妙に勇気がいる。

 いつもは気軽に『おは』というだけなのに。


 一度深呼吸をしてからもう一度言う。


「おはよう、女奈」


 陽衣の最愛の人。

 百人中千人が美少女というような美少女。

 神崎女奈が、そこには立っていた。


 いつもと様子の違う陽衣を不思議に思ったのか、近くまで来て顔を近づけてきた。

 胸が高鳴り、心臓が急激に活発な運動を始める。


「どうしたの? どこか具合悪い?」


 女奈が聞いてくるがそんなことはもう、どうでも良かった。

 ここは教室とか、クラスの奴らが見ているとかもどうでも良かった。


「女奈!!」

「きゃあ!? どうしたの!?」


 陽衣は女奈に思いっきり抱きついた。

 胸の高まりのままに、目の前の少女の存在を確かめるかのように、優しく抱きしめた。


()()、離したくない)


 一生離したくない。

 いっしょにいたい。


 いつの間にか女奈が陽衣の頭を撫でている。


「ほら、落ち着いた?」

「あぁ、急にゴメンな。ありがとう」


 そう言って離れる。

 離れる前に、名残惜しそうに少し強く女奈が抱きしめた。

 そんなところも愛おしく思える。


 なんだろう、今日は大切だと実感するものばかりだ。


(全部大切だ)


 なくしたくない。

 一生この幸せをなくしたくない。


 大切なものを守りたい。

 ()()()()


 別に守る必要なんてないはずだ。

 これはなんてことはない、日常なんだから。


 ()()()()()()()()()なんだから。


(現実……だよな?)


 これは現実だ。

 これは幸せな日常。


 そのはずなのに、

 周りの景色が揺らぐ。


『本当にそうか?』


 ()()あの男の声。


(うるさいな。これが幸せな日常なんだよ)


『こんな現実逃避をしている間に本当の刀輝や凛心は戦っているぞ』


(おれが行っても勝てない)


『そんなのでいいのか?』


(事実、おれは負けたじゃないか)


『それを決めるのはそんな簡単でいいのか?)


(じゃあ、どうしろって言うんだよ、今が幸せなんだ)


『逃げるのはやめて前を見ろ。『奇跡』を信じるんじゃなかったのか?』





「『奇跡』」


 そうだ。


 『奇跡』、『奇跡』、『奇跡』。


 ()()()()()()()()()()()()


『それが叶ったら、それは『奇跡』だろ?』


『おれは『奇跡』を起こすよ』


 そうだ。

 前を向かなくては。

 彼女を。

 女奈を探すために。


 おれの幸せのために。

 みんなの幸せのために。


(前を見ろ、手を掴め、お前がそんなんじゃ、おれが何もできないだろ)


「うるさい」


 目の前に出てきた手を掴む。


「おれはおれ自身のためにお前の手を掴む!!」


 その瞬間、陽衣は日常(理想)からいなくなった。

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