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チーターの待ち人  作者: 春ヶ勢はせる
第一章〜思い出の剣〜
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過程と結果

「っ! なんだよそれ」

「まだまだ甘いっすね〜」


 森の木々が揺れる。

 今日の陽衣は是千代に修行をつけてもらったいた。


「そうじゃないです。まだ、魔法だよりになっている部分がありますよ」

「クッ!」


 今の陽衣は魔法が使えない。

 加護も使えるものが限られている。

 つまり、圧倒的に手札が少ない。


 陽衣はそれに悩んでいた。


 そこをついてきた、いやどうにかするために手伝ってくれているのが、いま目の前にいる男だ。

 まあ、一応信頼できる部類ではあるし、刀輝や凛心と修行をやろうするとどうしても力比べになってしまうので、しょうがない部分ではあるのだが。


 というわけで、修行をつけてもらっている。

 それにしてもこの男は、


(いやらしい攻撃してくるな)


 攻撃が早いわけではない。

 むしろ、この前より遅い。


 だが、攻撃をしてくるタイミングがいやらしい。

 攻撃のリズムを当たる瞬間に半テンポずらしたり、攻撃を弾いてもその勢いのまま二段攻撃してきたり。


 やはりこの前は実力を隠していたようだ。


 初めてあったとき、陽衣はこの男と戦うのが嫌だった。

 何かと理由をつけて戦うのを断ろうとした。

 それは、この男が敵になる可能性があったからだ。

 この男は、陽衣の所作を隅々まで観察していた。

 なんとなく、この男と戦ったら自分の技を見切られるような気がしたのだ。


 まあ、それでも単純な身体能力は陽衣のほうが上だ。

 戦えば、実力的に陽衣が勝つだろう。

 というか、この男にだけは負けたくない。


「ここ」

「!! さすがですね」


 ここで是千代の隙きをついて陽衣が一本入れた。


 たぶん、この人は人にものごとを教えるのが上手い。

 それでいて、こちらのやりたいことに合わせてくる。


「なんですか? 陽衣サン」

「いやぁ、あんたってちゃんと教師だったんだな」

「そうっすよ〜。信用してなかったんすか〜」


 たぶんこの男が普通に教育を行えば、それなりの強者を出すことはできるのだろう。

 学園長じゃなくて普通の教師やればいいのに。

 まあ、立場的に無理なんだろうが。


「たまに授業に顔だしてますよ〜」

「急にどうした」


 こわ。エスパーかよ。


 それにしても、


「その年でそれほどの実力ですか。すごいですね」


 この男、何も聞いてこない。

 普通、これだけのちからを持っていればなにか聞いてくるはずだ。

 自分の実力を謙遜してもしょうがない。

 今の陽衣のちからは常人が手に入るちからではない。

 刀輝や凛心のように、事情を聞いてくるほうが当たり前だ。

 それがない。つまり、


(おれが何者か分かっている?)


 いや、そんなはずはない。

 陽衣の事情を知っているのは刀輝と凛心だけだ。

 女奈が記憶を持っていて是千代に話したという線もなくはないが、女奈の性格上それはない気がする。

 これは、二年半ずっと一緒にいた陽衣の勘だ。


 というわけでその線は消えていく。


 しかしそうなると、どうして是千代が陽衣のことを聞いてこないのかという最初の疑問に戻ってくる。


(そうやって考えさせられている事自体、この人の策略の気がするけど)


 結局のところ、この人はうさんくさいのだ。

 全くもって油断できない。


「さて、続きを始めましょうか」

「ああ、よろしく頼むよ」


 まあ、そんなことは一先ず置いておこう。

 今は修行だ。


「それじゃ、また組み手をしましょうか」

「わかった」


 そう言うと、二人は動き始めた。


 まずは、陽衣がみぞおちを殴ろうとする。

 是千代がそれを軽く弾く。

 陽衣は素早く離れると、また攻撃を繰り出す。

 是千代がまたそれを弾く。


 ヒットアンドアウェイの陽衣とそれをすべて弾く是千代。


 二人はひたすらそれを繰り返す。


 陽衣のスタミナがなくなるのが先か。

 是千代が速さに追いつけなくなるのが先か。


 結果は是千代の粘り勝ちだった。


「クソ〜。固すぎだろ」

「一応、今日の自分は教師なんで」


 全力を出したわけではないが、本気は出していた。

 その上で陽衣は負けた。

 これで一勝一敗。


「まだまだだ」

「いいですね。若い若い」


 そのまま二人は修行を続けた。







 かなりの量の組み手をしたあと。


「やっぱ、強いじゃないか」

「いやぁ、陽衣サンが魔法を使うようになったらボロ負け確定っすよ。それに、お互いに全力を出したってわけでもなさそうですし」

「うさんくせぇ」


 このうさんくささが是千代のアイデンティティなのだろう。

 実際かなりの技術を持っていた。


 それだけのちからがあるのに。


「なぜ、学園長という立場にいる? あんたなら冒険者とかでも活躍できただろうに」


 これは素朴な疑問だった。

 他になんの他意もない質問だった。


 冒険者。魔物を狩ることで魔石を手に入れ、それを売ることで収入を得る職業。

 この男には、並の魔物なら瞬殺できるぐらいの力があった。


 ちからがある。

 なぜそれを最大限生かせる職業につかないのか。


 返ってきたのは意外な返答だった。


「陽衣サンはなぜ図書館に通ってまで本を読むんですか?」

「なんでそんな事知ってるんだよ」


 質問に質問で返された。

 しばらく考えてみたが、答えは出なかった。


「わからない。読みたいから読んでいる。それだけだと思う」


 答えになっていない答え。

 しかし、是千代は大きくうなずくと、


「それが答えです。いつの間にか足を運んでいる。教育活動を行っている。その過程で自分も強くなっていく。そこに思考なんてないんすよ。結果的にそうなっている。それが結果です」


 それが彼のこれまでの生き方だったのだろう。


「だからね、陽衣サン。過程なんてどうだっていいんですよ。結果だけを信じてください。どれだけ自分のいる現実に絶望しても未来はわからない。結果的に幸せならそれでいいんです」


 その言葉は、教師から生徒への言葉だった。


「初めてあんたが教師に見えたよ」


 そう言うと、陽衣は夕暮れの空を見る。

 いつの間にか日は暮れて、太陽と月が主張を繰り返している。


「終わりよければ全てよし、だ。おれはこれからもご都合主義を信じて『奇跡』を起こすよ」


 その言葉に是千代は苦笑する。

 今日はよく眠れそうだ。

修行回でした。陽衣と是千代の会話はずっと入れたいと思っていました。

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