うわぁ〜
「一歩も動かなくていいなら相手してやるよ」
その言葉に是千代はというと、
「これはこれは」
なんだか楽しそうだ。
「そこまで弱く見えますか?」
「見えないけど」
その言葉に刀輝と凛心は驚いたような顔をした。
しかし、是千代はますます楽しそうだ。
「じゃあ、どうして枷になるようなことを?」
その問に陽衣は頭をかきながら答えた。
「目の前のうさんくさいやついわゆる食後の運動らしいしな。それに、」
「それに、? なんですか?」
その問に陽衣は頭をかくのをやめた。
その瞬間だった。
急に溢れ出したオーラに刀輝と凛心は驚き、是千代は目の奥を深ませた。
「勝敗の決まっている戦いほどつまらないものはないからな」
顔は先程までと同じめんどくさそうなものでありながら、陽衣からものすごい密度の殺気が溢れ出た。
変化はそれだけではなく、目の色が水色になった。
「言っとくけどまだ本気じゃないからな」
「それは末恐ろしいもので」
雰囲気はすっかり強者のそれになり、しかし本人はめんどくさそうな顔をしている。
「これはギャップ萌えってやつっすかね〜」
「男に萌えられても困るけどな」
それほどまでに、殺気の密度が段違いだった。
(これはかなりやばいっすね〜)
「大したものじゃないですか〜。その殺気でめんどくさいとか言ってたんすか」
「よく言うよ、まったく」
確かに、陽衣の殺気はかなりきついものだった。
だが、この場にいる刀輝も、凛心も、是千代も、自我を失わなかった。
(普通のやつなら自我を失うか、別次元過ぎて感じ取れないっていうのになぁ)
これは事実だ。
陽衣は女奈と約二年半も一緒に修行したのだ。
そのおかげで加護をコントロールするだけでなく、基礎的な身体能力や武術、魔法の使用方法などもチート級になった。
もちろん殺気を出すだけでもとてつもないものになる。
まあまあな密度の殺気で圧をかけているつもりだが、三人ともしっかりと耐えていた。
まぁ、それでも陽衣は本気を出したいないのだが。
「刀輝と凛心はまだわかる。けど、あんたはおれが見る限りしっかりこの世界の人間だ。よく耐えられるな」
「年下に舐められたら面目ないですからね〜。それに、あなたたちは、後に私の学園に入ってもらいますからね〜。生徒に舐められたらせ教師失格っていうでしょ」
「なんだよ。おれも勧誘することにしたのか」
「そりゃぁ、目の前でこんな物見せられちゃいましたらねぇ?」
「はぁ、やっぱやるんじゃなかった」
「まあまあ。そう言わずに」
「んじゃ、場所変えるぞ」
そう言うと、陽衣は『瞬間転移』を使った。
次の瞬間、四人は陽衣と刀輝たちが最初に出会った森の中にいた。
「そんなこともできるんすね〜」
是千代が関心したような声をだしているが、陽衣はそれどころではなかった。
(ん? なんだ?)
『瞬間転移』を使うときに変な感じになった。
加護を使っただけなのに体が重くなった。
最初は是千代の能力かと思ったが、これは陽衣自身の問題のようだ。
しばらく内心で混乱していると、是千代が口を開いた。
「便利っすね〜」
「まあな」
そう言った次の瞬間、是千代は陽衣の首にナイフを突きつけていた。
その先端の部分を陽衣が抑えている。
申し訳ないが、身体能力が変わっていないのは実験済みだ。
「話している最中に始めるか?普通」
「楽々あしらってくれた後に言うセリフじゃないっすね〜」
「てか、どっからナイフ出したんだよ」
「ポケットっす」
「その人は、常日頃からナイフを隠して持ち歩いている変な人だから」
「そりゃ辛辣っすよ、刀輝サン」
そこまで話したところで、是千代はナイフをしまった。
「満足したのか?」
「えぇ、大満足っす」
そう言うやいなや、四人は刀輝と凛心の家に戻っていた。
「すごい高レベルだったね。二人ともお疲れさま」
「ん。二人ともすごかった。特に陽衣。ひょっとしてにせもの? にせチビ?」
「まだ会って一日もたって無いのによくそんなこと言えるな」
そうなのだ。
かなり密度の濃い一日だが、まだこの世界に来て一日もたってないのだ。
しかも、この三人にはまだ事情を話せていない。
つまり、自分たちの力で陽衣の実力をそれなりに見抜いたのだ。
(勇者や魔王ならともかく一般人がこれだけ力をつけるってすげえな)
それは置いといて。
陽衣は刀輝と凛心の二人には自分の事情を話すことに決めていた。
この男が帰ったら、シリアスなお話タイムに移行するとしよう。
だというのにこの男がいると一向に話ができない。
なので、
「二人と話ができない。帰れ」
「うわぁ〜。初対面なのに辛辣っすね〜」
テンプレは世界を制す。




