クラウドイーター
「データは、クラウドと呼ばれる場所へ保管され、管理することができます」
顧客データを暗号化して大量にクラウドに置いた。データ収集にはクラウドソーシングで人を雇い、とても便利な世の中だと思った。
「真中くん、例のあれはどうなっとるかね?」
部長から呼び出し。
「3日前に完了しました」
「おお、よくやった」
しかし、部長にデータの取り扱いに関して説明していたら、がくん、とシステムダウンした。
「どうした?」
「システムに不具合です。多分短時間で復旧すると思います」
内心焦りながら、平静を装う。
「大変です!M社のクラウドがクラウドイーターに乗っ取られました」
女性社員が大慌てで室内に飛び込んできた。
お昼休みの休憩室でテレビを見ていたら臨時ニュースが入ったのだという。
「どういう状況かね?」
部長がイライラとして聞いてくる。
想定外のことで、あたふたするしかない。
「最悪の場合、顧客データが流出して大騒ぎになります」
「なんとか食い止めろ!」
「はい」
M社に電話。しかし回線が混み合っていて繋がらない。メールも何回か送ったものの、他の会社でも同じ事をしているだろうことは予想できるし、いたずらに混乱を招くだけだ。
「M社まで出向いて来ます」
そう言って真中は灼熱の昼間の雑踏に飛び出して行った。
☆
M社に勤める鈴木は、原因追求に追われていた。
「なあ、クラウドイーターだけどさ」
「うん?」
「データを奪って利用するとするなら、データ自体は消えることはないわけだ」
「そうだな」
「一時的に保管する別の場所が必要ってことだろ?」
「新しくクラウドを作ったのかな?」
「いや、それだと足がつく」
「既存の別のクラウドにそっくりそのまま移行したのか!」
「そう考えるのが妥当だろう」
他のクラウド保有会社に、大量に移行した怪しいデータがないか確認作業に徹した。
☆
「そのう、その後クラウドイーター対策はどうなっていますか?」
つめかけた人々がM社の代表に質問を浴びせていた。
「データを奪って別のクラウドに保管した犯人を特定中です。保存日時とアクセスの痕跡でじきに特定できるでしょう。なんとしてもみなさんの大事なデータをお守りします」
真中は滝のように流れる汗をハンカチで拭いながら、ことの成り行きを見守っていた。
「昔はこんなことで困ることはなかった」
老人がボソボソと言った。
「全て人の手で作成し、人の手で管理しておった。今のように便利になっても、今回のような場合にはパニックになる」
時代、ということだろうか?
真中は会社に電話して、なんとかおさまりそうだと伝えた。
発生から僅か数時間で犯人が特定され、パトカーに連れていかれた。
二十代の平凡な男で、最近プログラミングを覚えたばかりだという。クラウドイーターは、誰にでも可能な犯行だった。