視えない
「グッとよく目を凝らしてみる。
視えない。
目薬をさして、もっと目を細くして、グッとよく目を凝らしてみる。
どうしても視えない。どうして視えないんだろう。
目が悪いから?
でも、この間の視力検査は2.0だったよ。
じゃあ、対象物が悪いのさ。小さいか、遠いのか。
そんなことは無いよ。半径十センチメートル程の楕円形 だよ。
うーん、じゃあ分からないな、君が目をつぶっているんじゃないのかい。
そうか!その可能性は忘れていた。でも、僕が目を開けているかつぶっているか、なんてどうやって確かめるんだい?
そうだなあ、俺が持ってるものの名前が分かるかい?
えっ!?何も持ってないじゃないか。そもそもキミは何も持てないじゃないか。
言い当てられた!きっと君は、目を開けているね。それとも、推理で当てちゃった?
いやいや、僕みたいに頭の悪いのが、推理で当てるなんて無理だよ。
そうかな、意外と君は勘がいいから。
もう分かった。眼科に行く。
眼科に行ったところで意味なんてないさ。
なんで分かるのさ。やっぱり何か知っているんだね。
いいや俺は何も知らないよ。知っているのは君だろ。
全くキミの言うことは分からない。眼科に行くからね。
好きにしなよ。君の勝手だろ。」
眼科に行ったあと
「なんなんだあの医者は、僕に対して蔑むような目を向けてきた。僕が馬鹿だからか。しかも、精神科なんか紹介してきて。許さない!!
君、本当は視えてるんだろ。
視えてなんかないさ。だって、視えていたらこんなにも悩まない筈だもの。視えてないからこんなに苦労しているんじゃないか。
そうだね、君は本当に視えていない。
だからそう言ってるじゃないか。
じゃあ、何が視えないのか言ってごらん。
キミの顔だよ。僕は、キミの顔が視えないんだ。
俺の名前は?
『現実』だろ?今更当たり前のこと聞いて、どうするんだい?」
[おわり]