美少女幼女にTS転生した魔王と隣人の"元"落ちぶれ凶悪顔勇者
───かつての魔王がゴミ捨て場で捨てられてた。
これには少し誤解がある。
見た目は銀髪のロングに、その銀髪によく映える紅色の瞳と小中学生くらいのまだ未発達の小さく華奢な身体。
そして魔族の象徴でもある黒い角。
だが、だからだろうか。
その綺麗な白い身体には無数の殴られた跡や刃物で切られた跡が無数に残り、他にもガーゼや絆創膏などが身体中に貼られている。
片目は焼かれたのか、ひどい火傷の跡があり、ほとんど視力もなく、瞼もほぼ開いていない。
服装もこれをやった男の趣味だろうか、ベビードール姿でそのままこのゴミ捨て場に捨てられている。
これが前世では人々を殺し続け、自らの欲望のために命を弄んだ者の末路だった。
「また捨てられたのか」
「··········朝か。なぁ勇者、ピル持ってるか?」
「あぁ」
俺はポケットから配合経口避妊薬を取り出し、魔王に渡す。
これをやったのは、こいつの現世での父親であり、その父親の知り合い達だ。
こいつの親は魔王の前世ほどではないが、人間としてクズだ。
実の娘である魔王を知り合いと援交させ、風俗嬢のように扱い、その金は全てパチンコや競馬、ギャンブルに使われる。
魔王の飯は賞味期限の切れた腐った食い物か、親の食べかけの物ばかり。
父親にも性処理として使われ、最近では生理が来てもピルを買う事もせず当たり前のように中に出しまくる始末。
だが、同情の余地はないし、魔王も『まぁ我もやる事やったし』と言ってこの現実を受け入れている。
しかし妊娠は避けたいらしく『子供ができると色々面倒だから』という理由で俺からピルを毎日のようにたかっている。
たまに作りすぎだ飯を食わせてやると、無表情で表情が変わることがないが、雰囲気が嬉しそうにしている。
「貰う我が言うのもなんだが、いつも持ってるな。ピル」
「最近お前とよく会うせいでな」
「それは悪かった」
今のこいつはまるで抜け殻だ。
何もかもに諦めたような、何をするのも無駄だと、そう思ってるらしい。
今の環境だって『産まれた先が悪かった』と一言で済ませ、特に後悔も、かつて弄んだ人間に弄ばれることへの屈辱すら全く感じてないようにも見える。
俺と昔死闘を繰り広げた魔王はもっと表情豊かで、感情も豊かだった。
初めてあった時は、本当にこいつが魔王か疑ったが、俺がこいつと初めてあって、助けてやった時、第一声が『あ、勇者』と言っていたことから、こいつが魔王で間違いないだろう。
「逃げる気は無いのか」
「逃げても我は働けない。どうせ飢えて死ぬ。あの男に従っていればお零れくらいは貰えるからな」
「そうか···············」
魔王は平然と言ってのけた。
それがまるで当たり前みたいに、当然のことのように言ってのけた。
こんな事になって当然の奴。
当たり前で当然の結末。
こいつの罪が前世の末路だけで許されるはずのない悪行の数々。
老若男女問わず殺し続けた魔王。
だがたまに、本当にたまに思ってしまう。
本当にこれがこいつの、魔王の正しい末路なのだろうかと。
きっとそれはこいつが幼女の姿をしているからだ。
それしかあるまい。
何を考えてんだ俺は。
「俺のところに来るか」
「····················はっ?」
「え?」
あ、やべッ。
「脳みそが腐ったか?」
魔王がまじで心配そうな顔でそんなことを聞いてきた。
まぁそうっすよね。
俺は今まで魔王に最低限しか関わってこなかった。
心配の言葉も、こいつをと助けようともせず、ひたすら見て見ぬふりをして、これは仕方の無いことだと、こいつの自業自得だと言い聞かせ続けた。
それが正しいのだと、そう言い続けた。
だから今更そんなことを言えば、魔王もそんな顔になる。
今まで助けなかったくせに、突然助け舟を出すなど
同情してるわけじゃない。
本当だ。
ただ魔王がこんな姿だから可哀想と、どうしてもそんな感情が出てきてしまうだけで、この魔王になど同情など一欠片だってしていない。
してないったらしてない。
「すまん、忘れろ」
「あ、あぁ、聞かなかったことにする」
それだけ言うと、俺は仕事に向かう。
魔王もだるそうにゴミ捨て場から身体を持ち上げてヨロヨロと今にも倒れてしまいそうな、そんな弱々しい身体で俺の住んでるアパートの隣の部屋に戻って行った。
▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽
仕事が終わればもう空は真っ暗だ。
日は沈み、変わりに月の光と電灯が道を照らす。
今日も一日鉄骨作業やらコンクリート運んだり、ダンプで砂運んだりで、身体中が痛い。
疲労で眠気もする。
体が普段より数倍重い。
俺は今年でも三十だ。
おじさんと言われても仕方ない歳だ。
結婚もしないで、狭い部屋でいつもひとりでコンビニ弁当食べながらビールを飲む毎日。
なんでもない、ただの日常。
あぁ、その日常が壊れたのは、あの魔王に会ってからか。
何食わぬ顔でゴミ捨て場に捨てられてて、まるで野良猫みたいなあいつを治療して、飯を食わせてやって、そしたら勝手にどっか行って、またゴミ捨て場に捨てられて、今度は風呂に入れてやって、飯を食わせてやって、そんなことを何度も繰り返した。
最初は魔王だと知らなかった。
それは驚いた。
かつて殺戮と悪逆を繰り返していたあの恐ろしき魔王が、今では可愛らしい女の子になっているのだから。
だが、魔王と知った今でも、あいつを拾って、飯を食わせてやって、風呂に入れてやったりしている。
だが、あいつを助けようとはしなかった。
それはアイツが助けを求め無かったからだろうか。
それとも俺はあいつの助けを求めているのだろうか。
そもそも俺はあいつが助けを呼んだ時、俺は助けるのだろうか。
···············何を今更考えているのだろうか。
「馬鹿馬鹿しい」
きっと疲れが溜まっているのだろう。
帰って早く寝よう。
そうだ、寝ればきっといつものように───
『あ゛ぎゃ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッッ!』
劈くような悲鳴のような断末魔がドアの向こうから響いた。
紛れもない、魔王の声だ。
突然の悲鳴に驚いたが、俺はすぐに無視しようと自分の部屋の扉に手をかける。
しかし、次の悲鳴が、それを許してくれなかった。
『いだいいだいいだいッ!あがあ゛ぁ゛ぁ゛ッ!やめでやめでッ!角い゛や゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッ!だずげでッ!だすげ、おげえ゛え゛え゛え゛ッ!ごえ゛ぇ゛ッ!お、おながいだい゛い゛ぃ゛ぃ゛!ッ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ!お゛れ゛る゛お゛れ゛る゛お゛れ゛る゛う゛う゛う゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛ッ!』
『大人しくしろ!手元が狂うだろうがッ!クッソ!無駄に硬い角しやがって、ノコギリだとやっぱ難しいな』
『ぐぎぃ゛ッッ!あ゛か゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッッ!』
これで本当に良いのか?
そんな問いが俺の心の中で呟いた。
確かに前世ではゴミ野郎だった。
大勢の罪のない人間を殺した。
赤ん坊も、子供も、大人も、女も、皆殺した。
村を焼き、街を壊し、国を火の海に変えた。
だが、その魔王は俺が殺した。
確かに俺が殺した。
それでいいんじゃないのか?
それ以上なぜ罪を求める。
俺は魔王を殺して、やつの野望を踏みにじった。
もし奴を生け捕りにしても、国が奴を処刑しただろう。
やつの罪はそれで終わったんだ。
どう転んでも殺される。
その罪はもう償われたのではないのか。
───やめろ
今更何を考えている。
そもそも俺とあいつは他人なんだ。
良くて知り合い、その程度の関係。
そもそも他人の家の事情になぜ俺が首を突っ込まなきゃいけないんだ。
無視しろ無視。
今までそうしてきただろう。
王が、国の奴らが、俺の手柄を予後たりした時だって、仲間が俺を裏切って国の側についた時だって、俺の家族が人間に殺された時だって、今まで何もしてなかったやつが、後から勇者と名乗り、俺は勇者の偽物という汚名を背負わされた時だって、『だからどうした』の一言で済ませてきただろう。
やめろ。
今更、今更何かをしようなどと考えるな。
無視をしろ。
全部無視して、自分には関係ないって、何もかも全部無視して生きろよ。
今更、勇者ぶってんじゃねぇよ。
頼むから、聞くな。
無視しろ。
無視を───
バキンッ
何か硬いものが折れる音がした。
『ぎゃあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛ッッ!!』
『お、折れた折れた』
俺は、どうすれば、どうすればいいんだ。
───俺は、どうしたい?
『·····ずげで··········、だれか··········やまと···············』
魔王が俺の名前を呼んだ時、俺の中で何かが切れた。
「オラァッッ!!!」
とりあえず扉を蹴破った。
それに驚いた魔王の父親らしき中年の男はこちらを見る。
横には右の角を折られ、口から血を吐き、腹に青い痣がいくつもつくられて気絶している魔王の姿だった。
それを見た俺は、腹の中が熱くなった。
マグマを口から注いだように、何か腹の奥がグツグツと煮えたぎるような熱を感じた。
俺を見た中年の男はなにやら怒鳴っている。
『何入ってきてる』だの『警察呼ぶぞ』だのと何かを怒鳴っている。
「おい聞いてんのかてめ───」
『べキャッ』
この中年の顔を見てると、余計に腹の奥が暑くなり、俺は中年の頭を潰した。
壁には潰れた中年の顔がこびりついていた。
脳みそと血がベチャベチャと音を立てながら床に落ち、体の方からは首より上から噴水のように血が吹き出し、天井にまで血が飛び散った後、二三歩後ろに下がってそのまま倒れた。
未だとめどなく溢れるちは、中年の男の体を覆うほどの大きな血溜まりとなった。
俺は人を殺した。
正確には魔族だが、それでも今は戦争とは違う。
この魔族にも人権があり、俺はその魔族を殺した。
殺人だ。
逃げなきゃ行けない、殺さない方法があったはず、もっとなにか別の方法があっただろう。
そう心の中で言い聞かせることは無かった。
俺は不思議と心の奥がスッとした。
俺は男の死体を、部屋に散らばるゴミを見る目と同じような目を向けながら、そのまま魔王の元へ歩いた。
息はしてる。
胸に耳を当て、心臓の鼓動音を調べる。
心臓も問題なく動いている。
俺は魔王を抱えて部屋を出ようとした時、後ろから何か落ちる音がした。
音のした方を見ると、玄関で腰を抜かして口を覆い隠す女がいた。
先程の音はバックを落とした音だった。
女はこの部屋で死んでる男の妻だ。
この女はどうやら人間らしい。
「きゃ───」
『ゴベチャッ』
俺は悲鳴をあげる前に飛び蹴りで女の顔を潰して殺した。
俺は今二人の人を殺した。
だが、それでも後悔することは無かったを
変わりに、ある思いにひたっていた。
───魔王もこんな気持ちだったのだろうか。
やってしまった、もうどうでもいい。
仕方ない、もういいや。
この、なんと言えばいいのかも分からない感情。
後悔でも、怒りでも、悲しみでもない。
俺はこの感情を知らない。
「···············とりあえずここから離れるか」
▲▽▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△
「···············寒い」
「やっと起きたか」
我が目を覚ました時、目の前には勇者こと大和と夜空かま広がっていた。
相変わらずどちらかま悪党か分からない程の凶悪顔だな。
だが我はそんな顔が結構好きなのだが。
そういえばなぜ外におる?
さっきまであのクソ野郎に『お前の角を高く買ってくれる奴がいるってよ』と言って我の右の角をノコギリで途中まで切った後、そのまま思いっきり折られて意識を失ったのだな。
角は脳と繋がっているせいか、強い作りになっており、普段は痛みに鈍いが、ノコギリや刃物で大きく傷つけられると脳に多大な負荷がかかる。
それを折れば、脳が壊れ、体の一部が動かなくなったり、記憶に異常をきたしたり、下手をすればその痛みでショック死もありえる。
今回魔王は角を折られて元々日で炙られてほとんど視力を失っていた右目の視力が完全気失われていた。
「··········なぜ助けた」
「お前が助けを求めたせいだよ」
「そうか、我がお前に助けを···············」
そう言えばそうだった。
我があまりの痛みに勇者に助けを求めたのだったな。
滑稽で、皮肉だな。
かつて我を殺した男に助けを求めるなど、滑稽すぎて笑いすら込み上げてくる。
「そういえば先程からぱとかーとやらがうるさいな。何かあったのか?」
「俺がお前の親二人を殺したからな」
「····················は?」
な、何を、殺した?
勇者が?
人を?
誰が、何を?
勇者が、人を殺した?
「バカものッッッ!!!」
「··········お前の親を殺したことに関しては謝るつもりは「違うわ!!このバカ!!」じゃぁなんだよ」
「あんなクズ共でも人間なんじゃぞ!元魔族と言えど人権があるのじゃぞ!!わかっているのか、お前は我と同じく殺人鬼になってしまったのじゃぞ!」
「だからなんだよ」
「お前がこちら側に来てどうする!このおおばかものッッ!!!」
「···············」
「うっ、うっ、ふぇっ、うえぇぇぇぇえええええええっ!」
あぁ、今の我は泣いている。
前が見えぬほど、今の見た目にそぐわぬ小さな子供のように、大粒の涙を零しながら惨めに、哀れに泣いている。
大和は勇者。
我は魔王。
大量虐殺をした最低最悪の魔王なのだ。
前世であんなに人を殺したのだ。
たった一度の死で償いきれないほどの人間や他種族を虐殺してきた。
その魔王を助けるために、人を殺すなど、ましてや勇者が我のために人を殺すなどあってはいけない。
この男は、我とは違い、好きに生きるべきだったのだ。
本当なら、我に出会うことも無く、自分の好きに生きるべきだったのだ。
魔王である我を殺せるほどの力を持ち、それが人類の驚異であるならば、今の勇者は、まるで魔王では無いか。
お前が魔王になってどうする。
お前は魔王を倒す勇者だろう。
我のために魔王に謎なって欲しくなかった。
お前のような優しく、強い男に、幸せになって欲しかった。
我に初めて優しくしてくれて、我のそばにいてくれたお前が好きだったから、だからお前には我のような穢れた命のために、お主まで穢れて欲しくなかった。
「うえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇッ!!!」
「····················」
勇者は我を優しく抱きしめてくれた。
我の知らぬ、とても暖かい、とても安心する感覚。
我はこの温もりがとても好きた。
▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽
△▲△▲△▲△▲△▲
少しだけ、昔話をしよう。
昔、かつての魔王は不治の病にかかり、自分の宿命を己の血を分けた子に託した。
───人間を
───その他の種族も
───勇者も
───一人残らず皆殺しにしろ。
───我はもうすぐ死ぬ。
───お前が、お前がやるんだ。
子は強く、強く育ち、かつての魔王より、どの魔族よりも強く、残忍で、冷酷で、非道な魔王となった。
己の父に産まれた時より植え付けられた魔族以外の種族を一人残らず虐殺するという使命を背負い、老若男女種族問わず殺し続けた。
そして出来たのは屍の玉座。
だが、魔王は、魔王になるには優しすぎた。
───ごめんなさい、ごめんなさいッ
膝をつき、まるで許しを乞うように手を握りながら、神に祈り続けた。
誰か自分を停めてくれ。
誰か自分を殺してくれと、神に頼み続けた。
背には自分の愛する、自分を尊敬する部下たち。
前には父に託された宿命の元、殺さなければいけない敵。
魔王は強く、恐ろしく、倒せる者はいなかった。
勇者を覗いて。
凶悪顔のそいつはいつの間にか目の前に1人で立っていた。
まるで自分のような宿命を背負い、その宿命に人生を捧げた、そんな者の目をしていた。
その日、我は死んだ。
男に、勇者に敗れ、死んだ。
やっと止まった。
やっと死ねる。
やっと解放される。
そう思った。
しかし、我のような穢れた魂が、そう易々と、一度死んだ程度で許されるはずがなかった。
───この貧乏神が!テメェのせいで今日も負けたじゃねぇかッッ!!!
父は毎日のように我の顔と腹を殴り、我に関係の無い事を、何かと我のせいにして怒り、殴り続けた。
母は我のことをよくバットで殴って、金が無くなると男を何人か連れてきて、まだ十も行かぬ我を輪姦した。
避けるような痛みと、吐き気と不快感に何度も吐き続け、子宮に残る液体の不快感に、何度も気分が悪くなった。
男もよく我を犯したり、首を吊るしてサンドバッグにした。
あまり反応がないと、父はばーなーで我の右目を炙った。
男達も、よく反応がないと、指を親指から小指まで、何度も折られた。
我が痛みに悲鳴をあげる姿を見て、皆とても満足そうにしていた。
それが今の我の日常だった。
我はそれを受け入れた。
我は生き返る度に、きっとこの人生を味わい続けなければならんのだろう。
我が殺し続けた数だけ、この人生が待っている。
死んだ程度で逃げられる程の軽い罪などではなかったのだ。
仕方ない。
仕方ない。
仕方ない。
そういいきかせ続けた。
そんな時、勇者に出会った。
出会ってしまった。
『なんで俺が勇者って知ってんだよ』
我は無視しようと思った。
関わっては行けない。
我が関わっていい相手ではない。
我のようなものが、近ずいていい、話しかけていい相手では無いのだ。
我が逃げようとした時、勇者は既に我の目の前にたっていた。
逃げられないよう方も掴まれていた。
今の弱い少女の姿では、勇者に逃げることも、抵抗もできるはずがなかったのだ。
『··········お前、魔王なのか?その傷·····』
不思議なものを見る目で見られた。
まるで有り得ないものを見る目で、勇者は我を見ていた。
『···············とりあえずこい』
我は言われるがまま手を引かれ、そのままゆうしゃのへやにつれていかれた。
これから我はどうなるのだろうか。
拷問されて殺されるのだろうか。
あの時のように心臓を件で貫き殺すのか。
どちらにせよ、今死んだところで、新しい人生がまっているだけだった。
『まぁ食えや』
言われるがまま飯を食べた。
初めての暖かい、腐っていない飯は、少し焦げて苦かったが、とても美味しかった。
『臭い、風呂入れ』
風呂はとても気持ちが良くて、つい長く入ってしまった。
初めての風呂は傷が染みて痛かったが、とても気持ちが良くてのぼせてしまった。
『薬塗るから上着脱げ』
薬を塗ってもらった。
すごく痛かったが、親が我に与える痛みとは、少し違った。
『寝ろ』
初めて暖かい布団で寝た。
こんなふうに暖かい布団で寝たのはいつぶりだろう。
魔王だった頃も、ろくに寝たこともなかったからな。
とても、嬉しかった。
だが、それを親は許してくれなかった。
───テメェ!疫病神の分際で生意気なんだよッ!!
我が帰った後、我はすぐにごるふくらぶというもので何度も殴られた。
一日帰ってこないで、しかも小綺麗になった我が相当気に食わなかったようだったらしい。
気絶したあとは、何度か犯されて、そのままゴミ捨て場に捨てられた。
魔族に産まれたからか、前世が魔王だから、半端なことではそうそうに我は死ななかった。
そして再び勇者に拾われた。
我の日常に勇者が加わった。
勇者は優しく、愚かだった。
我とは深く関わろうとせず、かと言って完全に突き放すわけでもなく、ただ捨てられた我を家に招き、飯を食わせてくれる。
そんな奇妙な関係だった。
生理が来たと言った時、我に性行為をやめろという訳ではなく、変わりにピルをくれた。
勇者は助けてくれない。
我は助けを求めない。
もし我が助けを求めたら、勇者は助けてくれるだろうか?
そんなくだらない事が最近の我の悩みだった。
勇者が我を助けてくれるわけがないのに。
───お前の角を高く買ってくれる奴がいるってよ。
我の頭の中は痛みでいっぱいだった。
生娘のように泣きわめき、ひたすら許しを乞い続け、その度に無防備な腹を殴り続けられた。
大声で叫べば顔を殴られ、抵抗すれば足で腹を思いっきり潰された。
助けて助けて助けて助けてと、ひたすら願い続け、結局誰も助けてくれない。
助けてくれるわけが無い。
バキンッ、と角が折れた瞬間、我の頭の中で何かが壊れる音と共に、右目が完全に見えなくなった。
父が我の角に手をかけた時、再びあの痛みに耐えなければいけないと思うだけで、我の頭の中は恐怖一色に塗りつぶされた。
そんな時、我の頭の中にあったのは勇者の顔だった。
我は既に声を出し尽くしたせいで上手く大きな声が出せず、体力もほとんど失っていた。
我の小さな、本当に小さくか細い声で、勇者に助けを求めた。
『オラァッッ!!!』
玄関の扉を、勇者が蹴破っていた。
われ日それを見た直後、痛みに耐えきれなくなり、気絶した。
▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼
⚀
▲△▲△▲△▲△▲△△
穢れた魂。
我の魂は穢れ、汚れ、汚物よりも薄汚いものとなった。
魂を奪い続けたものの末路が今の我だった。
我の殺戮は戦争や、誰かを守るためのものではない。
ただの殺人、殺戮、虐殺に他ならない。
そんな大罪が、許されていいはずがない。
だから今の我がいる。
死してなお許されざる罪を償い続けるために。
「お前まで穢れてしまうだろうッ!」
勇者は幸せに生きなければならい。
自分の好きなことをして、好きなように生きる。
その資格が勇者にはあった。
大和はそれほどの正義をしたのだ。
大虐殺を繰り返す我を、たった一人で倒し、最後まで我の死を隣で見ていた。
あの最低最悪な我を、一人寂しく死にゆく我を、こいつはただ座って見続けた。
後悔はしていない。
他に選択肢があったかもしれないとは言わない。
それでも、死にゆく時くらい、誰か見ててやらねぇと、あんまりじゃねぇか。
一人寂しく死ぬなんて、あんまりじゃねぇか。
部下にしたわれていた我を、勇者は我を、本当の悪とは異なると、そう言っていた。
だから、後悔しないよう、今の自分の選択に後悔して、別の決断があったかもしれないと思わないよう、ただの自己満足の為に、ただ最悪の魔王の最後を見届け続けたと言う。
そんな優しい男が、我のために、我のような穢れた魔族のために
「我のために、我の薄汚い命なんかのために、お前の魂まで穢したくなかったッ!」
「···············あ゛?」
△▲△▲△▲△▲△▲△
⚃
▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼
モヤモヤした、イライラした、腹の奥のグツグツとした熱い感情が止まらない。
あいつらを殺してから、俺の頭の中がどうもおかしくなっちまってる。
何より、目の前で俺に縋りながら瞳から大粒の涙を流して泣きじゃくるこの魔王の姿に、胸が締め付けられて。
俺はこいつをどうしたい?
「···············今更」
こいつは俺の魂が小綺麗で清い心だと思っていたのか。
こいつは俺の事を正義の英雄や勇者だと勘違いしてんのか。
馬鹿なヤツだ。
俺は、俺の魂が穢れたと泣きじゃくる魔王を見て、口角が三日月のように吊り上がった。
哀れで、可哀想で、無知で無垢なこの少女は、俺の事を何も知らない。
俺はもっと残忍で、残虐で、お前と何も変わらない。
人々の為と焚き付けられ、魔族の子供も、大人も、女も、老人も、目に入った魔族は一人残らず殺してきた俺とお前と何がちがおうか。
とっくの昔に俺の心も魂も穢れきってしまった。
「君、ちょっといいかな。こんな時間に何やってるか聞いても────」
────グシャ
俺の心はもう、腐って虫の湧いたりんごのように腐りきっているというのに。
懐中電灯をもって俺たちの方に駆け寄る警察の顔を、俺は潰した。
深夜の公園で、まだ中学生くらいのの女が大泣きしてる中、その目の前に大男が立っていたら警察も声をかけるのは当然だ。
そんな警察としての義務を果たす男を、俺はただ殺したいから殺した。
見つかったらやばいとか、そんな気持ちは一切なかった。
ただそこにいたから殺した。
ただそれだけの理由だ。
「何、やって··········おま、おまえ、また人を···············」
「魔王、俺の魂はお前を殺した時からずっと穢れてたんだよ」
「な、何を··········」
あぁ、本当に少女みたいに身体を震わせやがって。
やめろよな。
また殺したくなっちまう。
俺はお前を殺した時、ゆっくりゆっくり死んでくお前に同情したんだ。
1人寂しく死ぬなんて、あんまりだ。
こんな部下に慕われてるやつが、一人寂しく死ぬなんて、あんまりじゃねぇか。
そんなことを思う俺と、死にゆく可哀想な魔王。
ただ魔族を助けるために戦い続けた、自分の意思ではなく他人の意思で動き続けた魔王と、自分の意思で殺戮の道を選んだ勇者。
俺は、お前を殺した時
すげー気分が良かったんだよ。
最っ高の気分だった。
まるでヤクを脳に直接キメてるような、そんな気分だった。
甘くクラクラしてしまうほどの最幸の気分。
俺は俺の為に、魔王を殺したんだ。
清き勇者?優しき勇者?強い正義の勇者?
馬鹿だな、お前。
俺は今だって俺の立場を奪って裏切った国も、仲間も、親も、皆許せない。
勇者だからっつうに理由で色々自分に 嘘をついて生きてきたがよォ、中身はお前より腐ったゴミ野郎なんだぜ。
俺は俺を殺そうとしたヤツらを俺は今もぶっ殺してやりたい。
なぁ魔王。
俺の童貞を奪ったのはお前なんだぜ。
「魔王が俺を狂わせた。」
「わ、我のせいなのか···············?」
「あぁ、ずっと我慢してたんだ。人と関わらなきゃ、全部無視すりゃァこの感情だって我慢できたのに、お前が俺の前に立った時から、俺の頭も心も狂っちまった。責任、とってくれよ」
「責任··········、ど、どうすればいい?」
「教えてくれよ。もうどうでもいい、お前が決めろ」
俺はその小さく細い首に手をかける。
少し力を入れれば折れてしまいそうな程細い首。
このまま殺したらきっとさぞ気持ちいいだろう。
何もかも忘れて、今ならぶっ殺せる。
みんなみんな、俺を裏切って、幸せに暮らしてるヤツらをみんな、今なら皆殺しにできる気がする。
なぁ魔王、お前がいなけりゃ俺もこんなふうに狂っちまうことは無かったんだぜ?
優しい優しい普通の勇者になれたのによォ。
いや、どっち選んでも国や仲間や家族が俺を裏切っちまうから意味ねぇか。
でも、どうでもいい。
今はなんでもいいから壊したい。
めちゃくちゃにぶっ壊したい。
なぁ、お前を壊させてくれよ。
「えっと、わ、我はまだ死にたくない··········です?」
「あ?なんで疑問形なんだよ」
「だ、だから勇者の性処理役としてが、頑張るので、助けてください」
「おい、さすがに笑えねぇぞ」
「わ、我は本気だ」
こんなちっこい身体で、他になんかあんだろ。
なんだ性処理役って。
「···············あー、そういやお前あの野郎達のオナホにされてたんだっけ?」
「···············」
無言で頷く魔王。
要は、"それ"には自信があるって事か。
ギャハハッ。
なんだそれ。
魔王の命乞いがまさかの、自分を性処理役にしてくれとか、ほんとに前世魔王かよ。
「いいぜ、使ってやるよ。俺も最近欲求不満だったしな」
俺はおかしくておかしくて、殺す気が少し失せちまった。
俺はあの野郎たちから魔王を助けたのはきっとこいつを殺させたくなかったんだろうな。
殺すのは俺だ。
こいつは俺のもんだ。
その魂も、心も、身体も、全部今から俺のもんだ。
殺すのも、玩具にするのも、全部俺の自由だ。
「お言葉に甘えて今日からいっぱい使わせて貰うぜ、奴隷ちゃんよォ」
俺はこいつの身体を抱き寄せた。
俺の身体にすっぽりと隠れてしまうほど小さな小さな、まだまだ未発達の未熟で華奢な身体。
俺の身体の中で震えるその姿が、俺の欲求より刺激した。
───あぁ、骨の髄までぐちゃぐちゃにしてやるよ
▼▲▼▲▼▲⚅▽△▽△▽△
───緊急ニュースです。
───■■県△△△市▽▽▽ー▽⚃⚃⚃⚃⚃⚃⚃の※※※号室で連続殺人事件が起き、▲▲▲▲▲さんとその妻△△△△△が死亡。
───その近くの公園で見回りをしていた警察官一人が死亡。
───警察官を殺したのは夫婦二人を殺した殺人鬼と同じ犯行と思われ、ただいま警察が捜索中。
───夫婦と警察官を殺して逃走したと思われるのは隣住む社会人の⚀⚀⚀⚀⚀社に務める□□歳男性の※※大和と思われ、今も逃走中。
───見た目はガタイが良く、身長180cmと長身で凶悪顔。
───他にもまだ中学生の※※※※※※ちゃんを拐って逃走しているということ。
───※※※※※※ちゃんは銀髪と紅い瞳が特徴の女の子です。
───高身長の男とこのような見た目の少女を見かけたら直ぐに警察に連絡してください。
───殺人犯は未だ逃走中です。
───危険ですので周辺に住む住人は戸締りをしっかりとしてください。
───今夜は絶対に家に出ないよう気おつけてください。
───以上、緊急ニュースでした。
■▲■▲■▲✟▽□▽□▽□
「おーおー、早速俺のことがニュースで流れてるぜ」
「これで勇者はお尋ね者だな」
「つかお前が虐待されてたところには全く触れてねぇな」
「多分明日にでも報道されるんじゃないか?」
俺たちは廃ビルの中で、スマホでニュースを見ていた。
俺が元勇者ってところもしっかり伏せられてる。
国のお偉いさんたちは本腰入れて俺の事殺しにくるだろうなぁ。
本物の勇者なんて元々目の上のたんこぶ、自分たちの作った自分たちに都合のいい偽の勇者がいるんだ。
俺の存在が本当に邪魔なんだろう。
この前も殺し屋三人くらい送り込まれたし。
まぁ、次からは皆殺しにするから構わねぇか。
鴨がネギしょってあっちからやってきてくれんだ。
俺の楽しみが増える。
「おい、お前今日から俺の世話係な」
「別に構わんが」
「しっかり俺の事楽しませねぇと昔みてぇに殺しちまうかもな」
「···············その時は、死ぬまで我の傍にいてくれ」
「あー、まぁ考えといてやる」
「そうか、ありがとう」
「おい、俺はいいなんて一言も言ってねぇぞ。何笑ってんだ、今すぐ殺されてぇか」
お互い穢れた魂。
もう、何もかもどうでもいい。
たとえここが地獄でも、どこでも、本当にどうでもいい。
勇者が傍にいるならどうでもいい。
たおえ我を性処理にしか思ってなくても、世話係としてしか見てなくても、前に、その前にも住んでた所よりも、随分とマシだ。
「なぁ勇者、これからどうするんだ?」
「そりゃぁ逃げるしかねぇだろ。嫌だぜ俺は、牢獄で腐った飯食うなんぞ」
「それもそうだ」
「くだらねぇ事聞いてんじゃねぇよ。ほら、とっとと行くぞ」
「うん」
そう言って二人は夜の暗闇に消えていった。
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