【5】成長
数ある追放系の中で、追放されずに焦っている作品などどれくらいあるだろうか。
その稀有な作品群の中に、これは入っている。
「とりあえず、今日の夜ごはんはとても豪華だから楽しみにしてなさい、アダ」
お父様はそう言って、俺の頭に手を置いた。
「お片づけは一緒にしましょうね」
俺の『ゴミの分別』をいじった言葉だろうか。お母様がいたずらっぽく笑う。
まあ当然と言えば当然か。この世界では当たりスキルを引くことの方が珍しい。
二人は今日の誕生日会の準備のために、屋敷に戻ろうとする。
これでいいじゃないか、俺の10年は楽しかった。
もしかしたら何もなくこのまま日常が続くかもしれないじゃないか。
追放されたとしても、上の人間?にこの世界を終わらされたとしても、俺のこの幸せな生活は終わってしまう。
それなら、少しでも今の状況を続けられる可能性がある方を選びたい。
「ねえ、アダ」
お母様が俺に話しかける。
「生まれてきてくれて、本当にありがとう」
「照れくさいですわ、急に」
「私たちは、貴方がここまで大きくなってくれて本当に嬉しいの」
「そうだぞ」
お父様も俺に笑いかける。
「それはそうと貴方、あとでお話があります」
「本当に俺、何かしたのか?」
俺は歩く速度が自然と遅くなった。
俺はこの人たちに助けられてばかりだ、何も恩返しできていない。
だけどこの人たちは、そんなものを俺に求めていない。
なら、成長し続けることだけが俺に出来る恩返しなんじゃないだろうか。
いつまでも子供のままじゃいられない。
俺はボルバルザークに目配せをする。
ボルバルザークは『何か企んでるんですか、協力しますよ』という風な顔をする。
頼りになるぜ。
「お父様、お母様」
俺は覚悟を決めて二人に声をかける。
二人は不思議そうに振り返る。
「私、ボルバルザークに襲われました」
「ん?」
ボルバルザークは鳩が豆鉄砲を食ったような顔をした。