【1】ああ、これから死ぬのか。
不思議な気持ちだった。
何もかもが上手くいくような高揚感。深い森にいるかのようなやすらぎ。古い友達に会ったときのような懐かしさ。
ああ、これから死ぬのか。
痛みは感じない。でも激しい雨の音が聞こえる。体から地面に流れる大量の血は、雨の力ですみやかに排水溝に吸い込まれている。
コンクリート一面を血の池地獄にする予定だったが、それは難しそうだ。自分の命が失われているというのに、酷く客観的。落ち着いている。
「保険入ってます?」
分からない。生命保険は入ってないと思う。
「あちゃ~、じゃあ死んだら大変だ」
そうかもしれない、でもどうだっていい。俺を生んだこと、俺をいじめてきたこと、俺を騙していたことを心の底から後悔すればいい。
「酷くお辛い人生を歩んできたんですね~、可愛そうに」
同情なんていらな、、ん?てかお前誰だよ。
「え、私ですか。何といいますか、、まあお約束のあれです」
お約束、、?あ、もしかして異世界転生的な?
「あ、そうですそうです!察しが良くて助かるなぁ」
え?まじ?めっちゃ嬉しいんだけど!
「そこまで喜んでくれるとこちらまで嬉しくなりますねぇ。色々と説明を省いてもいい感じですかね?」
うん!全然いいよ!早く転生したい!
「あれ、なんか最初の雰囲気と違いません?闇抱えた高校生的なポエム吐いてたじゃないですか」
いや普通に事故っちゃってさぁ。なんか脳内物質めっちゃ出て気持ちいいから浸ってたんよ。なにもせずに死ぬのもなんか勿体なくて。
「ああ、そうなんですね。でもちょっと困ったことになりました」
え、どうしたん?いやどうしたんですか?
「あなたには【ハズレスキル『ゴミの分別』を引いた俺は、追放されてしまう!裏切られた俺は、自分以外の人間を『ゴミ』だと思うよに!?〜悪役令嬢に転生した幼馴染を救いだし、悠々自適なスローライフを満喫します!〜】という題名で異世界転生してもらう予定だったのですが、こんなにファニーな性分だとは思っておらず、、」
なに、その検索に引っかかるために最近流行りのタグ全部ぶっこんだみたいな題名。100文字に収めるために若干変な文になってるし。
「返す言葉もありません。でも残念ですが、貴方には天国に行ってもらうということで、、」
いやいやちょっと待ってよ!なんで!
「我々としましても、題名の通りにあらすじが進まないと各方面に怒られてしまうのです。貴方と話している感じですと、何かこう、この題名に即していない性格といいますか、、」
え~
「ということですので、誠に申し訳ないのですが、、」
ちょっと待った!
「なんですか?」
なら俺があらすじを外しそうになったら、あんたが止めてくれよ。こうして俺にあんたが話しかけて来たのも何かの縁だろ?
「それはまあ、そうですね」
お願い!一生のお願い!頑張るから!
「う~ん、まあ分かりました」
こうして、俺の物語は始まった。
「勝手に進めないでもらっていいですか?」