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9 恋心の自覚


「はぁ……」


私はお風呂に入りながら、ため息をついた。

身体を洗ってくれているメイが、泣き腫らした目で心配そうに尋ねてくる。


突然行方不明になった私がジェイクと戻るなり、メイは大泣きしてしまったため目が腫れているのだ。



「リディア様、どうかされましたか?

それでため息つくの5度目ですよ?」


「えっ? 私、そんなにため息ついてた?」


「はい」



完全に無意識だったわ。

だからメイはまた泣きそうな顔してるのね。


私が監禁されていた別棟にいたと知って、メイはやけに私のことを心配しているのだ。



「大丈夫よ。

ちょっとジェイクのことで悩んでただけだから」


「ジェイク様のこと……ですか?」



メイは意外そうに目をパチッと見開いた。



ジェイクのこと、メイに相談してみようかな?



「あの、ね。ジェイクって優しすぎないかしら?」


「え?」


「さっき、何も言わずに行方不明になった私を怒らなかったわ!

それに、私のせいで階段から落ちそうになった時も怒らなかったし、私が落ちそうになった時もジェイクは庇ってくれたのに文句の1つも言わなかったの!

すぐに私のことを心配してくれて、笑顔まで見せて……!」



ばーーっと話し出した私に、メイが慌てている。

落ち着いて、というように手を前に出してきた。



「リ、リディア様……は、ジェイク様に怒られたかったのですか?」


「え?」



怒られたかった?

……な、なんかそれって、ちょっと変態みたいじゃない?



「いや、怒られたかったっていうか、えっと……」



さっきのジェイクの笑顔が頭に浮かぶ。

あの笑顔が作りものだとは思えないけど、私を心配させないために気を遣ってくれてるのがわかる。



気を遣ってもらってるのが……嫌?



「ジェイクが私に本音を見せてくれてない気がして、それで……」


「…………」



ん? ジェイクが本音を見せてくれないから、何?

自分が何を言いたいのかよくわからなくなってきたわ!



軽く頭の中がパニックになっている私とは違い、どんどん何か閃いたかのように顔を輝かせ始めるメイ。

キラキラとした目が、何故か少し怖い。



「リディア様……。それって、怒っても構わないからもっと本音を見せてほしいとか、そういうことですか?」


「う、うん? そう……なのかな?」


「優しくされるのも嬉しいけど、私の前では素でいてほしいとか、そういうことですか?」


「う、うん? そう……かも」



言葉にされてもよくわからない。

それに、もしその通りだったとしても『だから何?』って話だ。


なのに、メイはさらに顔を輝かせて頬を赤く染めている。



「リディア様。それは、ジェイク様のことが好きなのではないですか?」


「……は?」



好き? ジェイクのことが好き?

そりゃ、もちろんジェイクのことは好きですけど?


……って、そういう意味じゃないわよね。え!? ちょっと待って!?



「それって、もしかして……」


「恋じゃないですか!?」



メイは少し興奮した様子で言った。

まるで恋話の大好きな女子学生みたいな若さを感じる。



「恋!? 私がジェイクに!?」


「そうですよ! 最近ジェイク様の前でよくお顔が赤くなるとは思っていましたが、そうだったんですね……!」



えええ!?

ジェイクの前でよく顔が赤くなってたこと、気づかれてたの!?

恥ずかし!!



そのあとは、私がのぼせそうになってしまったためメイが急いでお風呂から上がらせてくれる。

メイが水を取りに行っている間、私はソファに座りボーーッと天井を眺めていた。



私がジェイクに恋……?

確かにジェイクといると楽しいとは思ったことあるけど、だからって……恋?



別棟でのことを思い出す。

階段から落ちそうになった私を、受け止めてくれたジェイク。



あの時、すごく強い力で引き寄せられたんだよね。

あんなヘラヘラしてても、ジェイクもやっぱり男……なのね。


そのあとは勢いよくジェイクの身体に……って、そうだよ!

私、ジェイクに抱きしめられたんだったわ!!



ジェイクに強く握られた腕の感触や、顔を埋めたジェイクの胸板の感触が生々しく思い出される。



うわああああああ!!

なんで今頃!!



「リディア様! 顔が真っ赤ですが、大丈夫ですか!?

のぼせちゃいましたか?」


「あ……メ、メイ。大丈夫よ」



いつの間にか戻ってきたメイに、本当のことは話さなかった。

まさかジェイクに抱きしめられていた時のことを思い出して、1人悶えていたなんて言えるわけない。



「はい、お水です」


「ありがとう」



水の入ったコップを渡されて、ゴクゴクと一気に飲み干す。



あああ。もう。

まだドキドキしてるわ……。



「あ。そういえば、ジェイク様がどこか怪我されたみたいですよ」


「えっ?」


「ジェイク様が包帯と薬を取りにきたってメイドが言ってました。

自分でやるから大丈夫と、どこを怪我しているのか見せてもらえなかったみたいですが……」



ジェイクが怪我!?

さっき会った時はそんな素振りなかったのに……あっ! まさか、私を庇った時に怪我したのかしら!?



バッとソファから立ち上がる。

私の髪をタオルで拭いていたメイがビクッと驚いていたが、今はそれどころではない。



「私のせいだと思う!

ジェイクのところへ行ってくるわ!」


「えっ? リディア様!?」



メイの呼ぶ声に振り向くことなく、私は自室を飛び出してジェイクの部屋へ向かった。



コンコンコン



「はい?」


「あの、リディアです」


「えっ? リディ?」



部屋の中からは、驚いた様子のジェイクの声が聞こえる。

そしてすぐに部屋のドアが開き、目を丸くしたジェイクが顔を出す。



「こんな時間にどうしたんだい?」


「ジェイク、怪我したって本当なの?」


「……あれ、バレちゃった?」



どう答えようか少し迷ったようだったが、ジェイクはニコッと笑いながら正直に答えた。

こんな時にも私に気を遣って笑顔を見せるジェイクに、胸がチクッと痛む。



「……見せて」


「大丈夫だよ。ちょっと腫れてるだけだから」


「薬はもう塗ったの?」


「まだこれからだけど……」


「じゃあ私が塗るわ」


「えっ? ちょっ……リディ?」



勝手に部屋に入ると、テーブルの上に薬と包帯が置いてあるのが見えた。

その薬を手に取ると、椅子に座るよう促す。

ジェイクは仕方なさそうに椅子に腰掛けた。



「どこを痛めたの?」


「右手首だよ」



そう言って差し出された手を見ると、赤く腫れていた。

階段の手すりに掴まって、2人分の体重を支えていた方の手だ。



あの時にはもう痛かったのかしら……。

そんなこと感じさせないように振る舞っていたのは、きっと私に気にさせないように……。



ジェイクの優しさに、目頭が熱くなる。

私は目に涙をためながら、腫れた部分に薬を塗っていく。



「私のせいで……ごめんなさい……」


「いや。別にリディのせいじゃ……って、えっ!?

泣いてる!? えっ!? な、なんで!?」



めずらしく動揺しているジェイク。



「大丈夫だよ!? こんな怪我、仕事柄よくしてるし!

赤くなってるだけで、痛みだってないから!」



いつも余裕そうなジェイクが、なんとか私を泣き止ませようと必死にフォローしてくれている。

でも、そんな優しさに余計に涙が止まらなくなる。



「うーー……。もう、なんでそんなに優しいのーー」


「ええ!? なんでそれで泣くの!?」



涙を流しながらも、ジェイクの手首にクルクルと包帯を巻いていく私。

そんな私を戸惑った顔で見ていたジェイクは、「ふぅ……」と一息ついてからポンポンと頭を撫でてきた。



「ねぇ、リディ。

僕は君の泣き顔が見たくて助けたわけじゃないんだよ」


「うん……ごめんなさ……」


「もちろん、謝ってほしいわけでもない」


「…………」



顔を上げてジェイクを見ると、少し悲しそうな赤い瞳と目が合う。

初めて見る表情に、罪悪感で胸がズキッと痛んだ。



「君が怪我するくらいなら、自分が怪我した方が僕は嬉しいんだ。

だからこれは何も悲しいことじゃない。

泣いて謝られるよりも、笑顔で『ありがとう』って言われたいな」


「ジェイク……」



ジェイクは悲しそうな顔から一転、ニコッといつもの笑顔に変わった。



「まぁ、リディの泣き顔もそれはそれでいいんだけどねぇ〜!

思わず抱きしめたくなっちゃうほど可愛いし?」


「抱き……!?」


「あっ! 冗談冗談! 怖いお兄様には言わないでね?」


「…………」



もう! そういう冗談、今の私には心臓に悪いから!!



ヘラヘラしているジェイクに少し怒りを感じながらも、心の中は癒されている。

結局また気を遣わせてしまった。



でも、あんなに申し訳なかった気持ちが軽くなってる……!

やっぱりジェイクはすごいわ。

こんなにも簡単に、私の気持ちを晴れやかにさせることができるんだから。



薄っすらと感じていながらも、認めたくなかった気持ち。

もう、認めるしかないみたい。



私、ジェイクのことが好きなのね。



「リディ、なんか顔が少し赤いけど大丈夫?

髪も濡れてるし、君、お風呂上がりだろ?」


「あっ、そういえばそうだったわ」


「寒くなって熱でも出ちゃった?

ほら、僕が温めてあげるから、こっちにおいで?」


「…………」



ジェイクは冗談めいた笑顔で立ち上がると、バッと両腕を広げた。

まるで抱きついてこい、と言っているようだ。


絶対に私が行くわけないってわかってるからこその行動だろうけど、たまには私だってジェイクを動揺させる側になってみたい。



本当に抱きついたら、ビックリするかしら?



私は素直にジェイクの胸に飛び込んで、彼をぎゅっと抱きしめた。



「!?」



ジェイクの手がそっと私の肩に置かれる。

抱きしめ返してはくれないみたいだ。でもその分、動揺しているのが伝わってくる。



「え、えーーと、リディアさん?」


「なに?」


「あの。何して……」


「ジェイクがおいでって言ったから来ただけだけど?」


「そ、それはそうだけど」



平静を装うようにがんばってみるけど、内心私だって心臓がバクバクだ。

限界を迎えた私はゆっくりとジェイクから離れる。



ここでいっぱいいっぱいだったとバレたら恥ずかしいわ!

もう少しだけ我慢よリディア!!



「ジェイク、今日は色々とありがとう」



私はニコッと笑顔を見せてそう言うと、すぐに振り返って部屋から出た。

ジェイクが「おやすみ!」と言っている声が聞こえたが、もう一度振り返ることはできなかった。



絶対に今の私は顔が真っ赤になってるはず……!!



ドキドキする胸を手でおさえながら、私は自分の部屋へと戻っていった。



いいねやブクマ、評価してくださり、ありがとうございます。


明日はジェイク視点です✩︎⡱

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