焦り
冒険者ギルドを受ける時は三人で受けるようにしている。Uは後衛、ジェーンとレナスが前衛だ。最近になってジェーンが焦っているように見える。使える魔法の種類が風魔法だけだからだ。回復魔法でも覚えていたら、戦いの幅を広げることもできるのだが。一方のレナスは光魔法と闇魔法を習得している。稀有な魔法故、重宝される。学園都市アカデミアですぐ覚えられる魔法のメニューを見させてもらうと、回復魔法ウィトリート白金貨20枚、聖属性魔法シャイニングイレイザー白金貨10枚、火属性初期魔法ファイヤボール白金貨1枚、氷属性初級魔法アイスキット白金貨5枚、風魔法初級魔法ゾイル白金貨7枚、思い切って、Uにお願いをして、回復魔法ウィトリートと聖属性魔法シャイニングイレイザーを覚えたいと頼み込んだ。Uは了承してくれた。聖属性の攻撃魔法は誰も持っていない。それがジェーンにはある。回復もできる。レナスが攻撃に集中していても回復に徹することだって出来る。ようやく自分の居場所が見つかったようだった。
家に戻り、石碑、石板の依頼が無いか見てみる。相変わらずどっさり手紙だけはたくさん入っている。手紙にエメラルドが入っているものを見つけ、抵抗なく食べてしまった。呪いが施されていたのにも気づかずに、焦ったUはジェーンを逝かせ、エメラルドを吐かせた。ジェーンの様子を見ておくようにレナスに言いつけて、マンモースを狩り始めた。三十頭狩って、解体作業を行い、下拵えを念入りにする。宝石を求めて、ジント王国へ向かった。あのエメラルドの呪いもジント王国からの手紙であったので、見定めておく必要がある。ローエング氏に会う必要が出てきた。鉄板台×2を用意し、空間にしまった。
敵はすぐ待ち構えていたエルフの里を横切る途中でリンダとエルベムが凄い形相で此方を睨んでいる。「なぜ、ダークエルフになった。生きてエルフの里へ帰ると約束したのは、嘘だったのか?」とリンダが。「帰ることは帰った。その後どうしようと勝手でしょ。エルフの森から旅立った時から森を離れたのだから」あまりの正論ぶりにぐうの音も出ない。二人はなぜ、ダークエルフになったのかを知らない。だから起こっているのか。「実は、ジェーンもレナスも肉を食べたのさ。だからダークエルフとなった。俺と一緒に食事をしていく為には、肉なし生活は耐えきれないんだよ。分かってくれとは言わない。だが、邪魔はしないでくれ。」頭が怒れてしまったのか、アックスを持つリンダがジェーンにダメージを負わせようとする。「氷属性上級防御魔法六花」雪の結晶がジェーンを守る。堅い守りに武器が壊される。「ダークエルフにしたU様をエルフの里へ入れるわけにはまいりません。星屑で皆が苦しんでいても」「エルベム、君の考えも一緒か?リンダを助けたくないのか?」「助けたいに決まっています。ならば、手を貸せ。今すぐ、SRを作る。」エルベムがエルフの里へ戻ると、「Uが迅速にSRを作ったおかげでリンダが星屑から治ったわ、私たちにはU様が必要なの。みんな考え直して。悲劇を繰り返さないで。」その間にSRの材料をかき集める氷の石板にしたSRのレシピを取り出して、上から順に集めだす。籠を出して、ジェーンとレナスにも手伝ってもらう。三十分後大量のSRの素材が集まり、アイスユニコーンでエルフの里へ入っていく。ジェーンとレナスが苦しみだした。これが呪いなのかSRを与えると治った。急ぎSRを作りまくる。ようやく落ち着いたところで、話し合いになった。エルフの里にダークエルフを受け入れるのかという問題を。肉を食べたいエルフは大勢いるはずだと主張し、そのためにダークエルフになってしまったのなら仕方がないのではないか?食文化が日々進化していることと肉を食べなければ危うい時に飢え死にしなければならないのは悲しいなど意見が出た。つまり、何も変わらないということ。今まで通りエルフはエルフ。ダークエルフだろうがエルフ。そう決まった。リンダがジェーンに謝る時が来た。事の発端はUを取られたのが悔しかったかららしい。それが懇意になって行く様がだんだん苛立ちを覚え始め、弾けちゃったらしい。ウルが「女の嫉妬って、ほんと怖いね。」「安心したら、お腹がすいちゃったよ。なんか食べよっか。たまには市場のものを食べ歩くのもいいね。」「そうですね」と腕を組みアピールするジェーン。胸が当たって良い。レナスも負けじと胸が当たって心が燃える。一人の時間も大切にする。Uは荷車を持っていき、マンモースの肉で一儲けして、宝石を買う予定だ。ダイヤモンドでつかんだ植物が何の薬に効く植物なのか知れたらいいなと思っている。マンモースの焼ける香りを漂わせ、鉄板できれいに切っていく、宝石商の隣でわざとやり、客の入りを自慢げに食べたいと思わせる。「隣の宝石商にマンモースの肉を食べさせたものは特売にさせてあげます。協力してもよし」宝石商の売り場をアイスガードで固めた。「ごちそうさまでした。おいしゅうございました。」「ダイヤモンドを譲ってはもらえないだろうか?お金は払う。」「今手元にあるのは、ダイヤモンドは2つしかない。他だったら何でも言ってくれ。ダイヤモンドがいいんだなあ。自分の医療スキルを上げたいのさ。」「それならもってけ。ダイヤモンドを飲んだら、特殊上級魔法消毒を無詠唱習得した。その代わり、膝を悪くしている。治してはくれないだろうか?」「いいぜ、だがここだけの秘密だ。俺は高度な医療をする。なので、正直言うと、宝石を数十個積まないとやらない。それと、いちいち驚かないこと。声を出すと周りが集まって来るから。」局所麻酔で膝から下を痛まないようにする。どうして痛いのかを聞くと、軟骨がずれている可能性があるかすり減っている可能性がある。すり減っている場合はマンモースの軟骨を代用するしかない。開いてみると、軟骨がなくなっていた。マンモースの軟骨を氷のメスで変形させて、消毒し入れるそして縫合して、終了だ。抜歯すると傷がなくなった。試しに歩いてもらう。屈伸してもらう。ありがとうという言葉にUもジーンときた。知り合いの宝石商を紹介され、ダイヤモンドとブラックダイヤモンドを手術代でしてくれるそうだと言ったら、快く応じてくれた。ダイヤモンドを8個、ブラックダイヤモンドを6個差し出した。彼の治してほしいところは腕で左手が神経麻痺している。ダイヤモンドを食べることで、特殊上級魔法通電を無詠唱習得した。左手の神経麻痺を通電で動くようにコントロールする。なかなか根気のいる施術だが。毎日毎日少しずつ良くなっている。五日目の朝、遂にぴくッと感じ始め、左手が自由に効くようになった。彼の目から涙が零れ落ちる。そんな彼を抱きしめ、「よく頑張りました。」と褒める。困っている宝石商がいると言って、案内された。「その腕はどうした。確か動かなくなっていたはずではなかったか?」と家来たちに担がれて、登場した宝石商は巨万の富を有するのではないかという男だった。「もしかしたら、おぬしも自分の足で歩けるようになるかもしれんぞ。」「何をばかなことを言っている、儂は諦めとる…とらん。早く紹介せい。」「こちらは流浪の医師の先生だ。わけあって、名を出せぬ。ただし、腕は本物だ。」「それはお主を見れば分かること、幾らじゃ?」「先生はお金では引き受けてはくださらん。ダイヤモンドの宝石を御消耗だ」「先生、幾つならやってくれる。」「100個ほど、あなた様の傷がいかほどのものかはわかりませんが、完全に治しきるには、必要です。」「用意しろ、200個だ」200個食べ終えると、特殊上級魔法血液浄化、特殊帝王級魔法骨髄治療、特殊帝王級魔法補助具、特殊帝王級魔法パワースーツ、特殊帝王級魔法MRIを無詠唱習得した。足の力がほとんどないことから、パワースーツを履かせ、体を支えるようにし、普段歩いている人と変わらないようにした。着脱可能で、パワースーツを呼びも含めて十着用意した。ブラックパールを8個食べると、本(SRの氷版)を見ながら歩けるようになった。大商人と握手をするU、「俺はリゲールって、言う。よろしくな、Uのあんちゃん。」腕を組みなおし、考える素振りを見せるリゲール、下を向いて、上を向いて、カット目を開いて、「Uのあんちゃん、すまねえ。俺を治してくれて、本当にありがとう。誰にも禁句だっていうのも分かっている。だが、もう一人助けてくれちゃいけねえか。ばれた時には責任を取る。この通りだ。頼む。」「せっかく治った患者に死なれては困ります。因みに誰ですか、頭を下げるくらいだから、相当な人なのでしょうね」箒をお尻に敷き、肘をついて、ジト目で見る。「愛犬だ。最近、おかしな行動をとるようになり、いつも懐いていたのに牙をむき出しになった。原因が分からないんじゃ。大事な家族なんじゃ。」「折から出してもらえますか?」「ご主人、この獣から嫌な空気を感じるよ、気を付けて」ウルの様子がおかしくなった。牙をむき出しにして、警戒している。こんなウル初めて見る。とりあえず、麻酔で眠らせた。特殊帝王級魔法MRIで見てみることにした。何か入っている…。石、石板!「リゲールさん、落ち着いて聞いてください。この獣には石板が埋め込められています。摘出の許可を!」「それで治るなら、許可する!」「わかりました。助手はリゲールさんに任せます。知るものが少ないに越したことはないので…。」二時間かけて、全摘出手術が終わった。リゲールのパワースーツも限界を超えていた。TPを飲み、リゲールを飛行で休ませると、「やりましたね、手術は成功です。あとは麻酔が切れれば、元通りになるでしょう」石碑を空間にしまった。元に戻った姿は仔馬だった。大きくならないらしい。犬とさほど変わらない大きさだ。送ってきた相手を確認しなければ、失敗したとなるとなりふり構わず、襲ってくる…来た。浮浪者まがいの男がリゲール目掛けて刃物を突き刺した。間一髪でアイスガードで防御される。男を浄化し、言い分を聞く。「リゲール、貴様は俺をだしにして、一儲けし、出世したな。俺は地の底に追いやられた。三十年間、浮浪者生活だ。この気持ちわかるか?」「もしや、貴様はトリステミア。生きていたのか?全くあの時、殺し損ねたのがおめおめと。」「あ~もしもし、トリステミアさん。浮浪者から浄化させた借金返してくれねえか?まともに喋るのさえできない状態のところを話させてやったのを忘れるな。」「誰が頼んでやってくれと言った。」「そうかよ、残念だ。自分でチャンスを棒に振るとはそこが知れているぜ。」と言って、氷漬けにした。「リゲール、あんたには聞きたいことが山ほどあるが、これは俺の仕事じゃねえ。」商業ギルドマスターが現れ、リゲールの処刑は免れたものの資材の多くを失った。それでも、生き生きしている。仔馬とともにまたゼロからのスタートだと思って、多くのものを失ったが、またこうしてやれるのだから良いものだ。問題はトリステミアの処遇だ。危険な石碑を持ち出した件、氷の魔導士、石碑・石板の研究者Uの名のもとにおいて断罪する。極刑。執行は商業ギルドが執り行うことにしてもらった。石板に聖属性魔法シャイニングイレイザーをかけ、呪いを解く。そして、リゲールの手を繋ぎ、触ってみる。リゲールとトリステミアが手を組み、二人で立ち上げた商業の日々が描かれていた。これを見たリゲールは膝から倒れ落ち、泣き続けた。商人として、大きく成長しようと焦った結果が悲劇を生んだ。