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EgoiStars:RⅡ‐3379‐  作者: EgoiStars
帝国暦 3379年 <帝国標準日時 8月16日>
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第29話『Only those who chase two rabbits get two rabbits』

【神栄教民主共和国 衛星ザルディアン ザイアン隊基地前】


≪PM19:07≫


 ザイアン隊基地から火の手が上がる。まるで花火のように華やかな爆発に近隣の住民は何か祝い事かと勘違いして歓声を上げていた。

 ドーム内の上空に今宵何度目かの華が咲く。しかしそれに見向きもせず、逃げるように走る二つの影があった。その一つであるリオは背後から届く光を感じながら、少し鼻息を荒らげて隣を走るアークのケツを蹴り上げた。


「このギガバカ! 何であんな所で爆発させてんの!」


「ナイスキック! でも今の俺にその程度のパンチラは効かないのよ! 久し振りにイイ思いしたんだなこれが!」


蹴られながら笑うアークを見てリオは益々不愉快そうな表情でジト目を作る。説教をして尚且つ蹴りまでいれているのに笑われればムカつくのは人間な本能だろう。

 人気のない路地に差し掛かったところで二人はようやく走るから歩くに切り替える。そしてほくそ笑む雰囲気を隠しきれていないアークにリオは渋々尋ねることにした。


「さっきからニヤニヤしてメガ気持ち悪い……何かあったわけ?」


「ンフフ? 聞いちゃう? それ聞いちゃう? でもこれはね~……ぬふふふふ! 聞きたい? 聞きたい?」


下品な笑い方にリオは更に顔を顰める。しかし彼女の変な母性がそれにノッてあげることを選択した。


「ハイハイ。聞きたい聞きたい。……で? 何があったの?」


「それがねぇ? 実はねぇ? にょふふ! これがねぇ? あ~んやっぱり言えな~い!」


まるで乙女のように顔を隠すアークを見ていたリオの頭の中で「プチっ」と音が鳴る。その瞬間に彼女は無意識にアークに飛び掛かると、後ろから羽交い絞めにして首を締めあげた!


「あのね! こっちも別にそんなに興味もねーのよ!!」


「あぐッ! や、やめ! 俺にそっちのケはないぞよ!」


何故か右腕だけで抵抗するアークにリオはようやく離れる。すると咳き込む彼に再びジト目を向けた。


「んで? 何があったの?」


「んんッ! いや別に。昔の友達に会ったってだけ」


「友達? あんな所で?」


「そ! 友達は友達でも俺の童貞を奪った娘だけどね~ぬふふ!」


下品な言葉で下品に笑うアークを見てリオは不愉快というよりも汚物を見るような目で見つめる。そして彼の陽気な意味を理解し、少しムッとしながら苦言を呈した。


「ふーん。元カノってわけ。それで()()()してきたってわけだ。……仕事中に」


「いやー最高ですよ! 本番は出来なかったけどね~久し振りにイイおっぱいでしたね。これが……」


まるで美しい思い出を思い返すように天を見上げる彼を見てリオは妙な感覚に囚われる。その雰囲気を察したのかアークは訝しげな表情で尋ねてきた。


「? どしたの?」


「……ねえ。アーク君。その子ってもしかして……片方の角が折れたアイゴティヤ星人で可愛い子?」


「お? 何で知ってんの?」


にこやかなまま尋ねて来るアークを見て、リオは自身の中に沸いた新たな怒りの理由を自覚する。気付けば彼女は目を吊り上げて彼の胸ぐらを掴んでいた。


「何で連れてこなかったの! あの子は……!」


「何急に? あ、怪僧の正体だったって話?」


戸惑いながらもケロッと答えるアークを見てリオは益々憤った。


「知ってたんなら何で連れ帰んないの!」


リオの怒りとは反比例してアークはケロッとした様子で首をかしげる。そんな彼に彼女は益々怒りを滲ませるが、アークはようやくリオの意図を理解したのか「ああ」と言ってから口を開いた。


「これから敵同士になっちゃうよって話? しょーがないでしょ。向こうが帝国には帰りたくないって言ってんだから」


「はぁ!? だからって置いてくるって何!? このまま戦争が起きればアーク君が彼女を殺さなきゃいけないかもしれないし、彼女が私たちの誰かを殺すことになるかもしれないんだよ!?」


「あのね。そんな事はお互い分かってんのよ。それも踏まえて俺たちは」


「このギガボケナス!!」


リオはアークを突き放すと、体を捻らせて後ろ回し蹴りを放った!

 見事な旋回を見せた蹴りだが、その打撃がアークの頬をとらえることはなかった。彼はリオの蹴りをガッチリ防ぎ切りながら、彼女の脚線を見下ろしていた。


「おーおー開いちゃってまぁ」


鼻の下を伸ばすアークを見てリオの怒りは頂点に達する。すると、リオの足を掴むアークの腕を別の手が握りしめた。


「二人とも何をしているんだい?」


現れた目も眩むほどの美青年にリオは思わず叫んだ。


「エルディン君! 聞いてよ! このギガ変態クソボケ野郎が!」


「罵りの言葉は幼稚だが全て的を射ているね。だが少し落ち着いてくれ。奇麗な顔が台無しだ。アーク。君もさっさと手を放して品の無いことはやめろ」


エルディンの言葉にアークは名残惜しそうな表情で手を放す。

 ようやく二足歩行に戻ったリオは鼻息を荒げながらアークを指さした。


「コイツ! 友達をあの基地に置いてきたんだよ!」


憤慨するリオにアークは呆れたような表情を浮かべた。


「あのねぇお姉ちゃん。俺だって別に黙っておいて来たわけじゃないのよ? 一緒に行こうって言ったのに向こうが行かないって言うんだからしょーがないでしょ?」


アークの反論にリオはまだまだ憤慨するが、状況を読めないエルディンが割って入った。


「話が見えないな。一から説明をしてくれないかい?」


「あ、エル吉、ハンナが生きてたよ。あの基地にいた異端者ってクジャじゃなくてアイツだったわ」


アークの言葉にエルディンは珍しく目を見開く。しかしすぐにいつもの表情に切り替わると、顎に手を添えながら考え込むような体勢を取った。


「……どういうことだ……彼女はあの時……」


「あぁ。完全に死んだと思った。でも神栄教の船に拾われたんだってよ」


「なぜ僕らに連絡をしなかった?」


「アイツ、帝国にはもう関わりたくねぇらしいよ。まぁ俺も同意見だけどね。神栄教(こんなとこ)じゃなきゃ一緒に残りたかったくらいですよ」


帝国に対して一切の愛国心を見せないアークの言葉よりもリオは彼の行動に怒りを抱かずにいられなかった。


「アンタは自分がいたくない場所にその子を置いてきたんでしょ!」


「だ、か、ら! アイツが嫌っていうならしょーがねーでしょーが! 何? 拉致でもして来いっちゅーの?」


アークの言葉にリオは歯を食いしばる。しかしエルディンはいつも通りの冷静な表情のまま掴んでいたアークの腕をそっと放した。


「アーク」


「何よエル吉? お前まで文句言うの? 俺たちは縛られねーで自由に生きるって約束したじゃん」


「確かにそうだね。だが、僕が言いたいのはハンナではなく君がそれでいいのかという話だ」


エルディンの言葉にアークは初めて口ごもる。しかし彼は自分を言い聞かせるように目をそらした。


「いや、だからアイツが……」


「らしくないな。相手のことなど考えずに自分の快楽やエゴを優先する。僕の友人はそう言う男だったはずだ」


「メガクソ野郎じゃん」


諭す筈が貶すような言葉の羅列にリオは思わず顔を顰める。しかしエルディンは眩しくなるような美しい素顔で小さく微笑んだ。


「そのおかげで、僕はここにいるんだよ。……アーク。ハンナの事はどうでもいい。君はどうしたい?」


エルディンが優しくも促すような視線をアークに向ける。するとアークは腰に手を当てながら俯いた。


「そりゃあ……でもなー……アイツを説得すんのって難しそーだよな……」


煮え切らない態度のアークにリオは再び怒りが吹きあがり、再びアークの胸倉を掴んだ。


「アンタね! まずやるだけやってみなさいよ!」


「いや、だからね。一般的に考えて敵を説得するのって厳しいもんがあるでしょ?」


「アンタさ! 「趣味は仕事にできない」って言葉があるけどそれどう思う!?」


唐突な問いにアークは豆鉄砲を食らったような表情を浮かべる。リオは胸倉から手を放すと話を続けた。


「それっていうのは出来なかった連中の言い訳なの! そいつが出来ない無能だったってだけで、その意見を自分に押し付けられるのってムカつかない!? 私は違う! 私の出来る事、出来ない事、それを決めていいのは私だけなの! それはアーク君にだって言えるでしょ!?」


「いやあの、話ズレてね?」


「じゃかましい! つまり! 出来る出来ないはまず試すもんでしょ!?」


「俺に出来るかね~……」


「今のアンタじゃ無理でしょ! でも私が聞いてるのは今までのアーク君じゃない! これからのアークだよ!」


思いの丈をぶちまけたところでリオはスッキリしたように深呼吸をする。

 彼女の言葉を黙って聞いていたアークとエルディンは少しあっけにとられていたが、しばらくしてアークがそのボサボサ頭をボリボリと掻きむしった。


「分かった。一回やってみるか……エル吉」


「いいよ。僕も力を貸そう。もう一度潜入するしかないな」


二人の言葉にリオは打って変わって笑顔を作り上げると二人に詰め寄った。


「よし! 絶対にハンナちゃんを助けようね! あ、メアリーちゃんにはどうやって連絡する?」


「恐らく抜き取ったデータでハンナの事も知っているはずだ。となれば、彼女もこのアーク(バカ)の意図を理解するだろう」


「息を吐くように罵ったなお前」


ジト目を向けるアークにエルディンは肩を竦める。

 本来の作戦はもうとうに終了している。ここからは個人的な戦いになるのだが、帝国兵であるリオは自分もそれに協力することに何の疑いも持っていなかった。

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