プロローグ-中
可愛い少女が映った水面を、私はちゃぷちゃぷと蹴っ飛ばす。
この水面に映ったままの少女に笑みを浮かべながらも、私は嬉しさのあまりジャンプをし続けた。
そして急に襲ってきた人間達と奪った要らないものを投げ捨てる。普通に滝の下に落ちていった。
可哀想に。
でも急に私の姿を見て襲ってきたのが悪いと思うのだ。あれは正当防衛であって過剰では無い筈。
「…」
滝の下では次の餌はまだかまだかと言わんばかりに大量の魚達が飛び上がる。
取り合えず滝の上まで来た奴は手掴みで取ってみたが一人じゃ何もできない様だ。取り合えず魚は頭を潰してからキャッチアンドリリース。ほーれ大きくなーれ。
…そしてあの人間達が色んな“きょくげい”を見せてくれたので私もいっぱい使えるようになってしまった。
まだ実践で使った事はないけど使えたら絶対楽しい気がする。
「ねぇリサー!合流する時間よー!…いないじゃない。まった……く?」
「…こんにちは♪」
「え、えぇこんにちは」
前に食べた男の様な喋り方から一転して可愛らしく声を出す。
私声優の才能あるのでは?しかも殺したのばれてないし…もしかしてこれは安全に帰れるのでは…?
そんな事を考えながら彼女を見ると、何故か少し怪しい目で見られる。……どうして?
「…参加者の名前や見た目は全員覚えてた筈だけど、貴女を見た事が無いわ。……どうして?」
「わ、私…えっと…はぐれなの!」
「はぐれ?…成程、それなら知らない理由としては分かるけど…でもそれならどうして参加した証を持っているの?」
「…参加した証?」
そう言って首を傾げると、彼女は自分の武器を見せてくる。
その刀についていたスイッチを一つ押すとそれは傘になり、私の持っていた傘とそっくりになる。
…あ、参加賞ってこれだったのね。殺した時に奪っちゃった。
「えっと。私を捕まえるって人が居たから、奪って…川に突き落としちゃったの」
「……あのマヌケ。はぐれに負けてるんじゃないわよ。…じゃなかった。その証は自分の物しか使えなくて、他の人には使えないものだから…返してくれると嬉しいなぁ…って」
「…?使えるよ?」
何言ってるんだこいつ。傘にそんな機能つける訳ないだろ。
でもその機能あったら確かに置き傘を奪う人も居なくなりそう。…間違えなく奪ってそのまま帰る人は居そうだけど。
…まぁでも流石にそんな機能付いてる訳なくて、ほらぽちっとボタン押せば傘の機能が…
「あっ間違えた。こっち機関銃のボタンだった……誰かちゃんと説明書付けてよ…」
「…嘘。『魔力同調症候群』?!稀少中の稀少…いやもしかしたら一点物じゃない…売った金で私達のホームを大きくできる程度には…いやもっと欲張っても…」
「…」
この森にはぶつぶつ呟く変人しかいないのだろうか?
…と言うかさっきから参加した証とかなんとか言ってるけど、本当にあいつら何に参加してるの…?
そんな事を考えながらも、私はゆっくりと口を開こうとして……彼女の真後ろに居る誰かに気が付いて首を傾げた。
凄い彼女狙われてるけど、一体何なんだろうか…?
「ねぇ。ほかに色々あるんじゃないの?隠してても自分の身にならないし、教えなさいよ……」
「……」
「…きかない?嘘でしょ?かなり高価な洗脳マイクだったのに…偽物掴んだのか」
「“ねぇ”」
「「はい」」
さっきから洗脳使い多くない?最近の中二病は黒い炎より洗脳なの?
しかも洗脳できないのマイクの所為にしないで上げて…マイク作ってた人だってそんな気持ちで作ってないんだから…まぁそれはいいとして。
取り合えず幾つか聞かなきゃいけないことを聞かないと。
「二人は何の為に此処に来たの?」
「…私は、大規模ゲーム『はぐれの捕獲』に参加しに来ました」
「私はそのはぐれを捕獲する奴隷商人の奴等を一斉に殺す為にゲームを仕掛けた張本人です。このゲームはホームの決定によるものです」
「……二人のホームの名前は?」
「ドリームランド」
「表の名前は『理想郷』、裏の名前は『失楽園』で通しています」
何こいつら、二人して中二病の設定を引き継いでいるの…?
…とかもう言えないよね。これ…どう考えても私転生したってお話でしょ?
しかも結構殺伐してるしどうあがいても無理じゃん!でも良かったよ捕まらないってわかって!
だって殺す為にゲーム開始してる時点で殺人なんてしても良いに決まってるもんね!
「…二人から見て私は?」
「滅茶苦茶美味しい奴隷。見た目も良い事から少々嬲って調教してから売ろうと思いました」
「後で証拠として押収して何時も通り壊れるまで弄ぶ予定でした」
「「はぐれに人権はないので」」
「じゃあ人権を得る方法は?」
「『失楽園』のメンバーから認識され、名前等を入力するとはぐれから未所属になります」
その言葉に私は思わず首を傾げてしまう。
未所属とはぐれの違いってなんだよ。というか何か違うの?
でもそんな事聞いても答えなさそうなんだよなぁ……まぁいいや。女は度胸と愛嬌!
「はぐれと未所属の違いって?」
「“はぐれ”は突然発生した生命体を分類するための言葉です。“はぐれ”には強姦、監禁、奴隷の如何なる事を行っても良いのです」
「逆に“未所属”はその全てを『理想郷』が保障します。『失楽園』のメンバーが必要な理由は後で不祥事があった際にその登録した『失楽園』のメンバーが殺す為です」
「…じゃあその登録したメンバーが引退したりしたら?」
「はい。自由の身になります」
「じゃあ私を登録して?」
その言葉と同時に彼女はふらふらと私の身体を触りだす。
少々擽ったいが登録の為ならしょうがないだろう。…やがて登録が終わったのか目の前の彼女は小さく頷いた後に自分の血を私に塗り付けた。
「これで登録は完了しました」
「…直ぐに傷が治ったけどそれは『失楽園』のメンバー全員そうなの?」
「これは私の『天恵』によるものです。超回復って言って如何なる傷もすぐに」
その言葉と同時に私は傘のボタンから出てきた機関銃を彼女にぶっ放す。
…それは二人に当たり片方は肉片へと変わるがもう片方はその超回復の名の通りすぐに回復していった。
……肉片になったのに生き返るってどういう事だよ。
「えい」
取り合えず生き残った少女を滝に突き落とし、どうにかして死なないか確かめたい。
…と言うか普通に欲しい能力なんだけど。なにあれ、超回復とかずるじゃん。
まぁでも取り合えずこれで私の人権は確保された…らしい。この血がなんか染みついたのは恐いけど、それでもなんとかなるだろう。
先行き明るいぞー!なんて考えながらも、私はゆっくりと死体から物を漁ろうとして…肉片になってる奴に期待しても無理だったと溜息を吐いた。
「いいや。いこっ」
取り合えず山降りれば何とかなる。そんな精神を持ちながら…私は上から下へと飛び降りる。
そして落ちる瞬間、自分の足と地面の間に空気の層が現れてそれを踏みつけ無事着地……やっぱり曲芸使いは格好良い物だ。
「現実でもこんな能力あれば家帰る時楽だったんだろうなぁ……」
そんな事を呟きながら、次の悲鳴が聞こえる方向に向かって歩き出した。