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怪物少女の無双奇譚《フォークロア》  作者: あかなす
第三章 衆合地獄篇

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衆合地獄 18

 酩帝街の北区は白い濃霧に全域が覆われており、最北端にある駅に近付けば近付くほど、盛者必衰の効果は大きくなる性質がある。それ故に北区の建築物の殆どは中央区との境界線付近に集中しており、北区内部には殆ど見当たら無い。その代わりと言ってはなんだが――北区内部の大地の上には、何千という人間が行き倒れていた。


 この街から脱出を試みようとして、北区を無理やりに突破しようとしたが最期――二度と覚めることのない眠りに誘われ、道半ばで倒れてしまった者達の抜け殻が、今でも北区には無数に転がっているのだ。

 北区は酩帝街においては数少ない危険区域と呼べる場所。ヒトによっては近付くだけで文字通り永眠のリスクを伴う。そんな所に敢えて居を構えようとする者は極めて少ない。個人の所有宅であるならまだしも、公共の施設となると地理の不利もあり建てるメリットは皆無であると言える。


 故にその建築物は北区において、否この酩帝街全体においても尚、一際異彩を放っていた。北区でたった一軒だけ存在する公共施設。当然、利用者は殆どいない。この建物がいつ、どういう目的で建てられたのか、そこを管理する者でさえ知らない。

 かくして。拠点ホテルを出た黄昏愛と一ノ瀬ちりは、酩帝街北区の大図書館にやってきたのである。


「すみませんお待たせしましたっ、いらっしゃいま……せ…………あ、あっ!?」


 壁も床も天井も、その全てが本とそれを収めた木製の棚によって占められた、本の海としか言い表せないその空間内で、か細くも透き通った声が響き渡る。

 本の山を掻き分けるようにして奥から現れたのは、単眼の女性。バックベアードの怪異。ふわりウェーブがかった紫の長髪を後ろに束ねた彼女は、図書館の出入り口に立っている黄昏愛の姿を遠くから確認すると、元より大きなその瞳を更に大きく見開かせて、慌てた様子で駆け寄ってくるのだった。


「あ、愛さん……っ! お、お久し振りです……っ!」


「べあ子さん。ご無沙汰しております」


 微笑を浮かべながら会釈する愛に、その後ろで控えていたちりは些か驚きの心境にあった。九十九ほどではないが、愛もまた表情に乏しく感情を表に出すような性格ではない。加えて九十九以上に警戒心の強い彼女が、こうして他人に気を許すような素振りを見せていることは、ちりにとってあまりに新鮮な光景だった。


「よ、よかったぁ……あれから姿が見えなかったので……なにかあったのかと心配で……」


「大丈夫です。ただ、少し気が緩んでしまって。二週間ほど眠っていました」


「ああ……なるほど。それは……無事に目覚めることが出来て何よりです……」


 酩酊に侵された者の末路は、この街では有名な話なのだろう。べあ子は合点がいったように頷いている。


「でも……あれから、二週間しか経っていなかったんですね。随分長い間、お顔を拝見していないと思い込んでいたのですが……」


 ずっとどこか不安げな表情を浮かべていたべあ子だったが、どうやら本当に、心底心配していたらしい。ようやくその表情から焦りの色が消え、柔らかく微笑む。


「……ふふっ。たった、たった二週間を長いと感じたのは……地獄に落ちて、怪異に成ってから……いつぶりでしょうか……」


 その様子を遠巻きに眺め、嗚呼なんだか、善いヒトっぽいな、と少しばかり警戒を解く一ノ瀬ちり。その赤い髪が揺れるのを視界に捉え、べあ子は再びわたわたと焦り始める。


「あっ……ええと、それで……そちらの方は……」


「ああ、紹介が遅れました。こちらの目付きが悪い赤いひとは……」


「ちりだ。オレのことは気にしなくていい。コイツとは目的が同じなだけのただの腐れ縁だ」


 赤髪の少女の名を聞いた途端、べあ子の元から大きかった眼が更に見開かれる。


「あっ……あなたが……! ()()()ちり、さん……!」


 そして、どこか納得するように。注意して聞かなければ気付け無い程小さく呟いた彼女のその一言に、ちりは眉をぴくりと動かす。


「この通り愛想の欠片も無いひとですが、急に噛みついたりはしないので安心してください」


「オマエが言うなオマエが。おいアンタ、気を付けろよ。何しでかすかわかんねーからなコイツ」


「は? べあ子さんに妙なことを吹き込まないでください殺しますよ」


「あ? やってみろ酔っ払いが」


「ひえぇ……」


 この煽り合いも今の愛とちりにとってはもはや軽い挨拶代わりのようなものだが――もちろん、いざという時はお互い殺す気満々ではあるのだが――これを初めて目にするべあ子は完全に怯えて切っていた。


「まったく……あなたとじゃれてる暇は無いんですよ。そんなことより……べあ子さん」


 愛が改めて、べあ子の方に向き直る。先程までちりに向けていた眉間の皺は消え失せ、柔らかい微笑を浮かべる愛の様子に、べあ子は表情を明るくするが――


「私にまだなにか、隠し事……してませんかぁ?」


 ――愛の背後に蠢く八本の蛸の触手に、べあ子の表情は再び青ざめていくのだった。


「え……えっ!? な、なんの話ですか!? とっ、というか、その触手はなんですかぁ!?」


 戸惑うべあ子に、愛の背中から生えている触手は容赦なく襲いかかる。


「ひええええええええええええええええええっ!?」


 四本の触手がべあ子の四肢を掴み、平均より少し小柄なその体を宙に浮かせる。そしてもう四本の触手が、てらてらと粘液を纏いながら、べあ子の体に這い寄るように近付いてくる。


「座標はこの図書館を示しているんです……管理人のあなたが何も知らないはずがない……さあ正直に白状してください……!」


 そう言って怪しげな笑みを浮かべる愛の頬は紅潮し、すっかり酩酊していた。とんでもない悪酔いである。


「な、な、なんのことですかぁ!? そ、それよりこれは……ま、まさか……その触手で、私に酷いことをするつもりですかぁ……!? 官能小説みたいに……官能小説みたいにっ!」


「ふふふ……さあさあ……隠しても良いことはありませんよ……! ああいえ、イイ思いはするかもしれませんがね……ふふふふ……」


「……何やってんだコイツら……」


 これはひどい。


 というわけで。酔っ払いをべあ子から引き剥がし、ちりはべあ子に事の顛末と今の状況を詳しく説明した。べあ子から貰った暗号を解読したこと。四つの暗号はそれぞれ座標を示しており、その内の一つがこの図書館を示していたこと……


「な、なるほど……緯度と経度……! うう……全然気付けませんでした……ずっと手元にあったのに……」


 ちりから暗号の真実を聞いたべあ子は悔しそうに表情を歪ませていた。最初にこの暗号を『雇い主』から渡された彼女は、彼女なりに暗号に挑戦してきたのだろう。

 しかし酩酊に侵された思考では真実に辿り着けず、そして彼女は諦めた。図書館の管理人という役目に甘んじていた。


 しかし自分でも諦めたとばかり思っていた探究心が、今日まで燻り続けていたのだろう。まるでそれが開放されたかのように、べあ子の周囲に漂う酩酊の霧が濃くなっていくのが見て取れた。


「でも……愛さんに渡してよかったです。愛さんならきっと解けるって信じていましたから……」


「その節は本当にありがとうございます……助かりました」


 ちりに諌められ冷静さを幾分か取り戻した愛。先程まで触手を使い官能小説みたいなことをしようとしていたとは思えないほど、べあ子に対し慎ましくお辞儀をしている。


「あはは……雇い主の命令を違反した甲斐がありました。今のところ特にお咎めは無さそうですが……あとが怖いですね……」


 苦笑を浮かべるべあ子。どうやら雇い主には普段から尻に敷かれているのか、さながらブラック企業の従業員のように虚ろな目が中空を捉えていた。


「それで、暗号を解読した結果……この場所が示されたというわけですか……」


「この図書館に脱出の手掛かりが隠されている可能性があるんです。何か心当たりはありませんか? どんな些細なことでもいいので、気が付いたことは?」


「うーん……そもそも私は青い紙の暗号を解くことすら出来なかったので……他の利用者さんからも、手掛かりを見つけたなんて話は聞いたことが無いですし……」


「……何も隠してませんよねぇ~?」


「こ、これ以上何も隠してないですよぉ! だからその触手をうねうねさせるのはやめてください~!」


 べあ子の大きな一ツ目が涙で潤む。その様子に嗜虐心が駆られたのか、不敵な笑みを浮かべながら自分の体から触手を出し入れする愛に、ちりはその小脇を強めに小突くのだった。


「で、でもそういうことなら……わざわざ図書館を指定しているわけですから、図書館にある物……やはり、本の中に手掛かりが隠されているのではないでしょうか……?」


「うっ……本の中、ですか……」


 元々この図書館に脱出の手掛かりがあるのではないかと踏んで黄昏愛は最初の二週間、ここに引きこもり本を読み漁る毎日を過ごしていた。その苦痛の日々を思い出したのか、愛は露骨に表情を歪ませる。


「他に手掛かりらしい物といえば……Cicada3301やヴォイニッチ手稿などの暗号文書でしょうか。複製の展示品ですけど。そもそも解読出来るのかも怪しい代物ですが……」


「また開闢王を捕まえて解かせましょうか」


「それ聞いてびっくりしたんですけど……愛さん、あの開闢王様ともお知り合いなんですね……」


「知り合いというか何というか……」


 殺し合った仲である、とは流石にべあ子には言えない愛である。


「しかも、堕天王様の部屋で偶然鉢合わせたって……冷静に考えて、ものすごい状況では……?」


「それについてはオレも同感だが……開闢王と遭ったのだって二週間も前の話だろ。流石にもうこの街には居ないんじゃねえか」


「それもそうですね……いえ、あるいは私達のように、どこかのホテルに泊まっているのかもしれませんが……」


 しかし西区の居住区はヒトの数だけ建物がある。開闢王がまだこの街に滞在しているかどうかも不明のまま居住区を手当たり次第に探すとなると、それこそ本の海から手掛かりを探すのにも等しく、本末転倒だろう。


「ちなみにべあ子さん、開闢王が身を潜めそうな施設に何か具体的な心当たりはありませんか? あるいはそういった噂を耳にした覚えは?」


「残念ながら……この街での開闢王様についての噂は聞いたことがないですね。そもそも私、西区の居住区には滅多に立ち寄らないので……というか、外自体あまり出ることが無い引き籠もりですので……地理には詳しくないんです。ごめんなさい……」


「……ん? アンタ、西区に住んでないのか?」


 べあ子が何気なく口にした言葉に、ちりが一瞬顔を上げる。


「あ、はい。私、この図書館に住み込みで働いているんです」


「……なるほど。アンタがこの図書館に勤めてどれくらいになる?」


「ええと……二千年ほどでしょうか。この図書館自体は五千年以上前に建てられたものだと聞いていますが……公共の施設として一般客を迎えるようになったのが二千年前で、そのタイミングに私が雇われた形になりますね」


「……えっ。べあ子さん二千歳だったんですか。見えないですね……」


「あ、あはは……肉体もそうですけど、きっと精神年齢も生前の頃からあまり変わってないんでしょうね……」


「ちなみに、死んだ時の年齢はおいくつだったんですか?」


「そ、そっちの歳の話はちょっと……」


 愛とべあ子が談笑しているその傍ら、ちりが静かに思考を巡らせる。この街に居て尚、酔うことが許されないその脳細胞が駆動している。


「おや、赤いひと。何か思いつきましたか?」


「……ん、ああ」


 その眉間に皺を寄せたちりの表情に気が付いて、愛が声を掛ける。口を開けば啀み合う二人だが、何だかんだでそれなりの期間、共に行動をしてきたのも事実。その些細な変化に気付くのも道理である。


「恐らく、本の中に手掛かりは無い。だから本は読まなくていい」


 しかしちりの放ったその言葉は愛の予想の斜め上を行っていたようで、今度は愛がその眉間に皺を寄せることになるのだった。


「本の中に手掛かりは無い……? どういう意味ですか?」


「おまえはどうして本の中に手掛かりが隠されていると思った?」


「そりゃあ……先程べあ子さんも仰ったように、わざわざ図書館を指定してきたんですから、図書館に関係のある物、つまり本の中に手掛かりが隠されていると考えるのは自然なことでは?」


「そうだな。その考え自体は不自然なものじゃない。誰だってそう考えるはずだ」


 図書館と呼ばれるこの施設は、酩帝街でも有数の規模を誇る巨大建築物の一つである。天井は遥か遠く、そして地上には所狭しと並べられた木製の机に、四方の壁は一面が本棚によって覆われている。

 壁の本棚に至っては天井近くにまで積み上げられており、ハシゴを使って昇降する必要があった。それでも本棚に収まりきらない量の本が、床や机に散らばっているという有様だ。

 まさに本の海と呼んで差し支えないそんな場所なのだから、手掛かりはきっと本の中に眠っている――誰もがそう考え、そして誰もが諦めていった。此処はそういう場所だった。


「じゃあ、仮に本の中に手掛かりが隠されているとしてだ。ならむしろ、今日まで手掛かりが誰にも見つかっていない事の方が不自然じゃないか? 此処の蔵書は確かに数こそ多いが、無限じゃない。時間さえ掛ければ誰でも必ず読破は出来るし、今日までに誰かが手掛かりを見つけていたとしてもおかしくないはずだ」


 この図書館が旅人達を迎え入れるようになって、少なくとも二千年の歳月が経っている。にも拘わらず今日に至るまで、酩帝街から第四階層に進んだ者はいない。そこがちりにはどうにも引っかかっていた。


「だから、まずはその先入観を捨ててみる。敢えて図書館とは全く関係のない、ありふれた物……例えば、天井のシミ、机の裏、壁の傷……そういった一見ありふれた物の中に手掛かりが隠されている……かもしれない」


 それほどまでに『ありふれた物』であるならば。ともすれば、この場所に二千年もの間住み続けた管理人でさえ気付けないのも頷けるだろう。


「勿論、本の中に手掛かりが隠されている可能性も無いとは言い切れない。だが可能性を潰すという意味では、まず本以外の物や場所から手を付ける方が効率がいい。今からこの大量の本を読み漁るより、いずれにせよ早く済む」


「……そういうことですか。確かに、一理ありますね」


 ちりという個人のことは気に入らないにしても、認めるべきところは認めているのだろう。ちりの推理に愛は素直に頷いてみせた。


「そう考えると……床に手掛かりが隠されていた場合、この散らばった本が邪魔ですね。片付ける必要があります」


「本棚に積もった埃や壁の汚れなんかも、手掛かりを隠してしまっている可能性があるな」


「つまり……大掃除の時間ですね!」



 かくして方針は決まり。手掛かりを探すついで、この図書館の大掃除が始まったのだった。


「というか、べあ子さん……掃除はこまめにしたほうがいいですよ」


「う、うぅ……だらしなくてすみません……」


 天井付近の掃除は、異能で翼を生やし空中飛行が出来る黄昏愛が担当することになった。床と机の掃除はそれぞれ一ノ瀬ちりとべあ子が担当する。鳥の羽箒と蚕の糸で編んだ雑巾を人数分、愛が異能で生成する。それを持って各位、早速掃除に取り掛かった。


 愛は鳩のような白い翼を生やし、更に背中から八本の触手を生やして、器用に埃や汚れを落としていく。それと並行して、天井に文字や記号など手掛かりに繋がりそうなものが書き込まれていないかチェックしていく。

 ちなみに天井に照明類は設置されておらず、壁に掛けられたランタンのみがこの図書館内を淡く照らしている。故に天井付近は日中でも薄暗いが、夜目の利く動物に変化した愛ならばそこの探索も難なく行えていた。


 その様子をべあ子は地上から見上げていた。大きな瞳に憧憬の輝きが宿っている。


「やっぱり愛さんは凄いなぁ……」


 べあ子はやがて視線を落とし、引き続き床に落ちている本を拾い上げ机の上に積み上げていく。そうして露出した床や机の裏を、ちりがその目で隈なく確認していく。


「私も、あんな風に……自由でいられたらな……」


「……自由過ぎるのも考えもんだけどな」


 恐らく独り言だったのだろうべあ子のその言葉に、ちりが反応を示す。べあ子は少し驚いたようにその視線をちりの方へと移す。対するちりはその視線を床に落としたまま、べあ子に一瞥もくれず作業を続けている様子だった。


「ええと……ちりさんは……愛さんとは長いお付き合いなんですか?」


「……精々が二ヶ月経ってないくらいなもんだ。アイツのことは何も知らないし、知ろうとも思わねェな」


「そ、そうですか……」


 ちりの返答に、どこか落胆したような暗い声を漏らすべあ子。机の裏を覗き込んでいたちりが確認を終えて立ち上がる。その赤い瞳が、ようやくべあ子の方へと向けられた。


「アイツに興味があるのか」


「……そう、ですね。なんでしょう、とても不思議な方で……もっと知りたいと思ってしまうような……」


 確かに黄昏愛には独特な雰囲気があった。誰もが見惚れる絶世の美貌を持ち、しかしその振る舞いは傍若無人、唯我独尊。まるで山の天気のように激しく移り変わる感情の波。太陽のように微笑むこともあれば、天災のように荒れ狂うこともある――


 その神秘に、このバックベアードの少女も、あの開闢王も、そして――芥川九十九でさえも、魅入られてしまった。

 だからこそ、一ノ瀬ちりは黄昏愛を知ろうとしない。知ってしまったが最期、自分はどうなってしまうのか。予想もつかないから――


「……アンタも気を付けろよ。アレは悪魔よりタチが悪い」


「え……?」


 吐き捨てるように呟くちりの心中を察することも出来ず、べあ子は困惑の表情を浮かべるばかりだった。


「いや……それよりアンタに訊きたいことがあるんだが」


「えっ。あ、はい。なんでしょう?」


 気を取り直すように、咳払いを一つしてみせて。ちりが作業を止め、べあ子の方に向き直る。釣られてべあ子も作業を一旦中断し、改めてちりと視線を交わした。


 ちりの赤い瞳が鋭く光る。血のように濁ったその紅い眼は、事実、幾多の血を目の当たりにしてきた。平凡な怪異の二千年よりも濃い二百年を彼女は過ごしてきた。その経験が、執念が、まるで滲み出るような眼光。その眼で見据えられたべあ子は無意識の内に息を呑んでいた。


「赤い紙と青い紙の暗号……アレは()()、誰に渡すつもりだった?」


 つまり一ノ瀬ちりにとっては、ここからが本題だったのだ。

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