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怪物少女の無双奇譚《フォークロア》  作者: あかなす
第三章 衆合地獄篇

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衆合地獄 14

「ヒト呼んで『パンデモニウム』――そのタワーマンションには堕天王が棲んでいる、という噂があります」


 少し前、図書館にて。


 酩帝街西区は地獄の住民の居住区である。そこには現世の九龍城さながら、法律の上では違法とされるであろう数多の建築物が所狭しと並んでいる。その一画にパンデモニウムと呼ばれる一棟のマンションがひっそり聳え立つ。


「実はこのマンション、入居希望が後を絶たない人気の隠れ家的な物件でして。曰く、()()()()()()()()()()()()()()()のだとか」


 赤い地図に記された黒点――パンデモニウムの場所を指さしながら、バックベアードのべあ子は語る。


「特筆すべきは――このマンションには()()()()()()が設置されている、という点ですね」


 エレベーター。地獄ではもはや聞き慣れない単語の一つだろう。それを耳にした愛も思わず首を捻っていた。基本的に、地獄にはそのような物を造る資源は無いと考えていい。そんな環境でそんな物が在るということは、つまり。


「私、実際に行って乗ってみたんですけど、ちゃんと動いたんです――電気が通っていないのに」


「つまり……そのエレベーターは異能で造られている、あるいは異能そのもの、ということですね?」


 頷くべあ子。今の彼女は普段の自信なさげな態度とは打って変わって、どこか活き活きとしているように映る。


「最初に言いましたよね。このマンションはセキュリティがしっかりしていると。そのカラクリは、このエレベーターにあったんです」


 無い眼鏡をくいくいと上げるような仕草をしてみせて。


「このマンションは十階建てなんですけど。以前――もう何百年も前の話ですが――このマンションの住民の方に聞き込みを行なったところですね……その住民の方は()()()に住んでいると言ったんです」


 十階建てなのに、十三階が存在する。存在しないはずの階数に行けるエレベーター。ここまで聞いて、黄昏愛には思い当たる節があった。正確には、それによく似た話を、図書館にある蔵書の中から読んだことがあったのを愛は思い出していた。


「私、生前から都市伝説とか結構好きでして。その話を聞いて、とある噂を思い出したんです――」


 ――まず、エレベーターに乗る。乗るときは必ず一人で。次にエレベーターに乗ったまま、四階、二階、六階、二階、十階と移動する。この際、誰かが乗ってきたら成功しない。十階についたら、降りずに五階を押す。五階に着いたら若い女が乗ってくる。その人には話しかけてはならない。乗ってきたら、一階を押す。押したらエレベーターは一階に降りず、十階に上がっていく。上がっている途中に、違う階を押すと失敗する。ただしやめるなら、ここが最後のチャンス。九階を通り過ぎたら、ほぼ成功したといってもいい――


「『エレベーターで異世界に行く方法』――」


「あ、ご存知でしたか。そうですね、恐らくこのエレベーターを造った怪異の依代モチーフは、そのお話を由来にしているんだと思います」


 図書館で過ごした時間も、愛にとっては全くの無駄というわけではなかった。特に記憶の一部が欠損している愛にとって、怪異の依代モチーフとなる都市伝説、その有名どころを知識としていくつか仕入れることが出来たのは、上々の成果であると言えよう。


「この方法を使えばパンデモニウムの隠された階層、十三階、四十四階、そして――真の最上階、六百六十六階に行くことが出来る。そこに堕天王の棲んでいる部屋がある……らしいですよ」


「ちなみに、その噂の出処は……」


「雇い主です」


「……なるほど」


 べあ子に図書館の管理を任せたという、通称雇い主。名前を呼ぼうとするだけで酩酊してしまう謎の人物。いい加減その正体も気になってきたところだが、ひとまず呑み込んで。


「あ、あの……行くなら、ほんと、気をつけてくださいね……! 特に……途中で乗り込んでくる、黒い髪の女には……!」


 聞くところによると、それはまさに都市伝説の通り。この方法を試している途中、エレベーターに乗り込んできた黒い髪の女にべあ子は話しかけられ、つい返事をしてしまったばかりに――恐らく異能による効果で、その場に卒倒。気付けば外に放り出されてしまっていたという。


 今にして思えば、その女は門番のような役割だったのかもしれない。それ以来、べあ子はパンデモニウムに近付こうとしただけで気分が悪くなり、二度とエレベーターに乗れなくなってしまったのだとか。そういう異能であると考えれば、成程確かに強固なセキュリティと呼んで差し支えないのかもしれなかった。


「なるほど……ありがとうございます。では――行って参ります」


 べあ子の忠告を胸に刻み、早速、愛は図書館から飛び出した。赤い地図の指し示す方角へ――腕を蛸の触手に変え、足を蜘蛛の脚に変え、酩帝街の雑踏を駆け抜けていったのである。


 ◆


 マンション・パンデモニウム。それ自体は一見何の変哲も無い、鉄筋コンクリートのような材質で造られた至って平凡な建造物にしか見えない。押し扉を潜った先、小ぢんまりとした一階ロビーのその空間に人影は無く、更に言えば階段すら見当たらず、一面灰色の壁に埋め込まれたエレベーターの自動ドアだけがそこには在った。


 それ自体も現世では散々見慣れたただのエレベーターにしか見えない。が、これが地獄に在るということ自体が異常であることの証左に他ならない。壁に備え付けられた上矢印のマーク描かれたボタンを、愛は躊躇いなく人差し指で押し込む。一秒と待たず、それは軽快な音を鳴らしながら開かれた。


 乗り込んだエレベーターの中は、やはり想像の域を出ない至って普通の造りだった。小ぢんまりとした正方形のその密室には、マンションの階数を示すボタンが、全部で十個。壁に縦一列、散りばめられている。


 更にご丁寧にも、今自分が居る階数が何階なのかを示す電子パネルが天井付近の壁に備え付けられていた。これだけ見ると人工的に電気が供給されているように映るが、べあ子曰く実際には電気は通っていないのだそう。


 自動ドアが閉まり切ったのを見届けて、愛は早速噂通りの順番で、階数ボタンを次々と押し込んでいった。四階、二階、六階、二階、十階、そして五階――


「…………」


 五階に到着したエレベーターのドアが開いた。噂通りであればここから女が乗り込んでくる。その女とは一言も話してはいけない。ここで失敗するわけにはいかない。愛の表情にも薄っすら緊張の色が見える――が。


「……………………?」


 女が、乗り込んで来ない。いくら待っても、やってこない。恐らくこのマンションのセキュリティを一任されている門番、噂の黒い髪の女は、一分経っても、五分経っても、乗り込んでくることは無かった。


「(……何か、失敗した……?)」


 悪い予感が愛の脳裏を過る。しかし、ボタンの順番を押し間違えた――なんてことは、絶対に無い。

 であれば、そもそもこの方法自体が間違っているのか。それとも。もしかして、もしかすると、べあ子に騙されて――


「…………っ」


 ――否。いいや、と首を横に振る。酩酊の霧に侵されかけた思考を振り払う。

 確かに不気味な状況であることこの上無いが――今更立ち止まってなどいられない。自分を落ち着かせるように、息を吐いて――そしてゆっくりと、愛は一階のボタンを押した。

 ごうん、と深い振動を伴いながら。その小さな箱舟は――上昇していく。


「……!」


 七階、八階、そして九階を過ぎて――電子パネルはついに十階を超え、数字の十三を指し示したところで、停止したのだった。

 自動ドアがゆっくりと開く。十三階。建物の中だというのに霧の立ち込めるその廊下は、エレベーターの中からではその奥の様子を覗き見ることは出来ない。

 そしてふと、気が付く。愛が目を瞬きしたその直後、壁に散りばめられていたボタンの数が増えていることに、愛は気が付いた。

 増えたボタンにはそれぞれ、十三、四十四、そして六百六十六と、数字が刻まれている。それは暗に、エレベーターで異世界に行く方法が成功したことを示していた。


 それまでどこか不安げだった愛の表情がぱあっと明るくなる。突然壁から生えてきたようにボタンが現れたという状況に恐怖を覚えるよりもまず嬉しさが勝っているのか、愛は躊躇いなく六百六十六の階数ボタンを押したのだった。

 自動ドアは閉じ、そしてまたゆっくりと上昇を始める。その間ほとんど振動も無く、緩やかに昇っているようだったが、しかし電子パネルが示す数字はもの凄い速さで上昇していた。

 十秒経った頃にはもう既に百階にまで到達しており、この調子なら六百六十六階まであと一分も掛からないだろう。


 ……しかし、なぜ噂の通り、女が途中で乗り込んでこなかったのか。こういう日もあるのだろうか。もしかして非番だったとか? などと考えながら、愛は少しほっとしたように溜息を吐きつつ天井を見上げると、女がいた。


「……………………」


 ()()()()


 女は乗り込んできていた。既に。エレベーターの天井、黄昏愛の頭上に、ずっと張り付いていたのだ。白装束のその女は、真っ黒な長髪を垂らして、真っ赤な唇を弧のように引きつらせて、血走ったその眼で、愛のことを見下ろしていたのである。


 ◆


 ――自動ドアが開け放たれた瞬間、愛は全速力で飛び出していた。


 六百六十六階。赤い絨毯踏みしめて、霧の立ち込める廊下を一心不乱に駆け抜けて、気が付けば行き止まり。目の前には黒い塗装の鉄扉――六六六号室。


「……っ、はぁ……!」


 汗を拭い、後ろを振り返る。誰もいない。廊下は静まり返っていて、聴こえてくるのは自分の吐く息と心臓の音だけ。


「……びっくりした……」


 ここにきて、初めて愛は言葉を口にした。エレベーター内で女を見つけた後、一分もの間女とその場に居合わせたわけだが、愛は声を上げることなくここまで耐え切ったのだ。

 べあ子から聴いた体験話とはやはり些か異なる状況だったが、セキュリティにもパターンのようなものがあるのかもしれない。


「ふう……っ、よし……」


 いずれにせよ、辿り着いた。ここまで走ってきた道中、他に部屋の扉らしきものは見当たらなかった。ここに堕天王の棲む部屋があるのだとしたら、つまり今目の前にある扉がくだんの部屋ということになる。

 走ってきたから髪はぐしゃぐしゃ、息も荒い――それを整える時間すら惜しいとでも言わんばかりに、愛の手は吸い込まれるようにして扉をノックする――


「もーっ、そのまま入ってきてくれていいのに★ ()()()()よ――……あ、あれれっ?★」


「…………やっと……見つけましたよ……!」


「あれあれっ、愛ちゃんっ!? わあっ、久し振りぃ~っ!★ よくここが分かったねっ!?★」


 開け放たれた扉の向こうから現れたのは――毛先の朱い蒼髪ツインテール、白とピンクのボーダーライン走るジェラピケ着込んだ、オッドアイの美少女。衆合地獄を統べる王、ヒト呼んで堕天王――スーパーアイドル、あきらっきーである。


 ◆


「どうぞどうぞっ★ 中にお入りください★」


「え、あ……お邪魔します……」


 促されるがまま、愛は堕天王の自室に侵入する。靴を脱いだ石畳の玄関から短い廊下を奥に進んですぐ辿り着いた二十畳ほどのリビングは、彼女の趣味か一面淡い桃色の壁紙に包まれていた。

 その中央には羊毛のような素材で出来た直径ニメートル程の中々に大きなクッションがどかりと置かれてある。先程までその上に座っていたのか、クッションの形は少し崩れ凹んでいる。


「待っててねっ、すぐお茶淹れてくるからっ★ あ、そのクッション座り心地抜群だよ! おすすめ★」


 壁に立てかけていた、円状の白い折りたたみテーブルを床に設置して。堕天王は忙しなく、ぱたぱたとスリッパを鳴らしながら奥の部屋へと引っ込んでいく。


「お、お構いなく……」


 勧められたからといって流石にそこまで厚かましくはなれないか、愛はテーブルを挟んでクッションと向かい合うように座った。

 そもそもお茶をしに来たわけではない。酩帝街を脱出する手掛かりを探るため、はるばるこんな所までやってきたのだ。悠長に茶など飲んでいる場合ではない――


「おまたせ~っ★ 最近ねぇ、良い茶葉が入ってねぇ★ 風味はダージリンに近い感じかなっ? お口に合えばいいんだけどっ★」


 ――ではない、のだが。しかし、これである。


 銀のトレイ両手に持って、満面の笑みの堕天王。あまりの能天気ぶり、無邪気ぶりと相対して、黄昏愛は此処に来てほんの数秒足らずの内にすっかり彼女のペースに呑まれつつあった。

 これこそが『酒呑童子』という怪異の異能、相手を強制的に酩酊させることであらゆる能力を低下させる盛者必衰――というわけでもなく。

 それはただ単に、彼女の人となりによるものか。一万年に一人と謳われた美貌によるものか。あるいはその両方によって――異能など関係なく、誰もが彼女に惹かれてしまう。そういう星の下に彼女は産まれ堕ちたのである。


「……あ、美味しいですねこれ……」


「でっしょ~★ お菓子もあるよ★」


 にこやかな笑顔を崩さぬまま、堕天王はトレイの上の代物をテーブルに置いていく。白い小皿の上には茶色のクッキーらしき焼物が三枚ずつ。堕天王はそれをひょいっと摘んで、口の中に放り込みながらクッションの上にその身をふわり委ねた。


「……これ、自分で作ったんですか?」


「そうだよ~★ 生前は料理なんてしたことなかったんだけどねぇ、地獄で一万年も過ごしてたら流石に暇すぎてねぇ、自然と覚えちゃったよね~★」


 最近は多少マシにはなったものの、他人に対して特に警戒心の強いあの黄昏愛が、なんの躊躇いも無く差し出されたクッキーをぽいぽい口に運んでいる始末である。あるいは食い意地が張っているだけなのかもしれないけれど――


「…………はっ」


 リラックスしたことで酩酊に侵されていた思考が僅かにクリアになったのか、三枚目のクッキーをちょうど咀嚼し終わってからようやく愛は本来の目的を思い出した。


「す、すみません……私、貴女に聞きたいことがあってここに来たんです」


「え……あっ! ごめんなさいっ! そっか、そうだよね……わたし、愛ちゃんが来てくれたのが嬉しくて、ちょっと張り切りすぎちゃったかも……困らせたよねっ、ごめんねっ?★」


「えっ、あ、いや、そんなつもりは……こちらこそ急に押しかけてしまって……」


 星のように輝く大きな瞳を潤ませて、わたわたと慌て始める堕天王。つられて愛の方まであわあわ焦り始めてしまう。

 二人してひとしきり慌てた後。やがて堕天王は困ったように眉を下げ、微かな笑みを浮かべた。


「えっと……やっぱり、この街から出ていく方法が知りたい……のかな?★」


「……はい。この街から出て、私は『あの人』に会わないといけないんです。大切な『あの人』に……」


 愛は頷き、語り始める。情熱を言葉に乗せて。脳裏に思い描くは真っ白いお花畑に佇む『あの人』の後ろ姿。


「この先に居るかどうかは分かりません。ですが、少なくとも……無間地獄に行けば、願いは叶う。だから私は、先に進むしかないのです」


「事情はある程度、ロアちゃんから聞いてたけど……そっか……本当に、大切なひとなんだね……★」


 それを受けた堕天王、やはり困り果てたように眉を下げている。


「でも……ごめんね。本当に、知らないんだ……」


 唇をちょんと尖らせながら、申し訳無さそうに呟くのだった。


「……いえ。それについては疑っていません。ただ、私もここで諦めるつもりはないんです」


 部屋の中に漂う酩酊の霧が僅かに濃くなっていく。愛の頬は微かな朱を帯び始めていた。


「ここから出る手段は自力で探します。ただ、その為にはもっと情報が欲しいんです。この街の王である貴女にしか知り得ない情報が」


「うーん……そっか……なるほどね……」


 腕を組み唸る堕天王。しばし考えるような素振りを見せて――


「……わかった! 力になれるか解らないけど……わたしに答えられることなら何でも聴いてっ★」


 意を決したように、きゅっと口を結んで。その身を乗り出す。


「それじゃあ……まずは私の推理を聴いていただいてもよろしいですか?」


「どうぞ★」


 酒気が徐々に濃くなりつつある空気を肌で感じながらも、真実へと近付くため、愛は躊躇うことなく言葉を紡ぎ始めた。


「この街から脱出する方法は無い……けど、根本的な解決方法はありますよね? それは……貴女自身がこの階層から他の階層へ移動すること」


 酩酊しつつも、愛の紡ぐ言葉は至って流暢に聞き取れている。愛の強い意思が酩酊に抗えているのか、あるいは――その推理が誤りであるか。


「貴女自身が階層を移動するという行為は、盛者必衰の対象にはならない。でなければ貴女が第三階層に居るわけがない……そうですよね?」


「うん、そうだね、その通り! 流石に気付くよね★」


「ですが……この方法は、正解ではない」


「うん……そうだね」


 答えは後者であった。


「わたしが他の階層へ移れば確かに、愛ちゃんにとってはこの街から脱出する方法になり得るけれど、それは不可能なんだ」


 愛は逸る気持ちを落ち着かせるように、ティーカップを手に取り中身を口の中へと流し込む。


「不可能というか……愛ちゃんには本当に申し訳ないんだけど……わたし、この階層くにから移動するつもりが無いんだよね。そもそもね」


 そう呟く堕天王は、やはり申し訳なさそうにその表情へ影を落とすのだった。


「だって、もしわたしが衆合地獄から離れたら……衆合地獄の酩帝街は消失する。そうすると……酩酊で維持出来ていた秩序が、崩壊してしまう。わたしは王様として、この街を……この階層くにを守らないといけないから。此処に棲む国民みんなのためにね。だから……本当に、ごめんね?」


 堕天王と呼ばれるより遥か昔、あきらっきーが衆合地獄を拠点に定めてから幾星霜。もはや『酒天童子』の異能無しでは成り立たない程に、衆合地獄は栄え過ぎていた。

 地獄においては唯一の法律と呼んでいい酩酊というシステムは、ほんの一瞬でも効果を失うだけで大混乱を引き起こしかねない。

 現世で例えるのならば、ある日突然、世界中の信号機が一斉に色を失うのと同義である。たとえそれがほんの一秒の出来事だったとしても、その瞬間、その一秒でどれだけの被害を齎すだろうか――


「……そうですか。それは……仕方のないことですね。ええ、仕方ないです。仕方ない仕方ない……」


「わ、わあ~……★ そう言いながらめちゃめちゃ、酒気きり、濃くなってきてるけど……わたしのこと殺す気満々じゃなあい……?★」


「ハハハ……ちなみにあきらっきーさんが死んだら盛者必衰の異能は解除されますか?」


「う、うん……多分、そうなんじゃないかな……?★ 死んだ事ないからわかんないけどね……?★ だからって殺そうとしないでね……?★ あはは……」


「ハッハッハ」


 乾いた笑みを浮かべる両者であった。


「わかりました。では次に……お尋ねしたいことがひとつ。開闢王についてです」


 気を取り直して。ある意味、ここからが本題であると言えよう。愛達が今抱いている最も大きな疑問、謎について、いよいよ切り出すのだった。


「開闢王はこの街を自由に出入りしていますよね?」


「あ、うん。そうだね★」


「……流石にご存知でしたか。では、開闢王はどうやってこの街を出入りしているのか、心当たりはありませんか?」


「あぁ~……★ えっと、それはね――」


「――それは質問でしょうか。ならば答えねばなりません」


 怖気が走る。悪寒が走る。およそ考えうるあらゆる凶兆が、黄昏愛の背を這うように忍び寄る。それは、音も無くそこにいた。


「あ~っ!? ()()()()()()()っ!★ もうっ、()()()()んだよ~っ!?★ 先にお茶会始めちゃってるんだからねっ★」


 それは、黒縄地獄を統べる王。不吉の黒い影。ペストマスクの怪人。正体不明、理解不能の黒い魔女――神秘貪る開闢王。

 そう呼ばれる黒き王は、この場に突然現れた。大地に根を下ろす古樹のような、静謐伴う佇まいで……振り返った黄昏愛の貌に、暗い影を落とすのだった。

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