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怪物少女の無双奇譚《フォークロア》  作者: あかなす
第二章 黒縄地獄篇
56/188

黒縄地獄 32

 ぽんぽん。ぽんぽん。

 お腹を優しく叩いてみせて。

 蠢くものを、優しく起こす。


「出番だよ、()()ちゃん」


 彼女がいたずらっぽくそう唱えた瞬間、それは溢れ出した。


 歪神楽ゆらぎの腹を食い破り、中から溢れ出したのは――真っ黒なはらわたならぬ、八頭の黒蛇。その黒蛇は一度溢れ出すと、目前まで迫ってきていた黄昏愛の翼を食い千切り、手足を食い千切り、首に喰らい付いたのだった。


 目を見開いたまま硬直する愛。自分の首に噛み付いたそれを確かめようと視線を落とす。それはやはり、蛇のようだった。黒い蛇。否、重要なのはそこじゃない。

 その蛇は確かに、歪神楽ゆらぎの腹部を食い破って現れた。蛇の頭は八つ。真っ黒な八頭の蛇はまるで否まさに腸のような長い胴体を臍の緒のように歪神楽ゆらぎの肉体からどこまでも伸ばしていた。

 果たして黒蛇が腸なのか腸が黒蛇なのか、愛には判別がつかない。しかしそれは事実として歪神楽ゆらぎの体内から溢れ出して、愛に喰らい付き、四肢と翼をいでいったのだ。


 喰らい付いた蛇がそのまま愛の首の骨を折った。口から空気の漏れる音と共に夥しい量の血を噴き出す。一瞬の出来事だった。ほんの一瞬で、形勢逆転の一手が覆されていた。


「――――ぷふっ」


 どうしてこんなことになったのか、混乱する愛の目の前で。


「アッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッ! 引っかかった引っかかったぁ! このッ、ブぁァァァァァァァァァァァアアアアアアアアアアアアアアかッ! くっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃあっ!!」


 真っ黒な腸を自ら引きずり出したその少女は、白い無垢な見た目とは裏腹な、狂気に満ちた下品な嗤い声を上げるのだった。

 どうしてこんなことになったのか? そりゃそうさ。だって『ひみつおもちゃ』が白鯨しろちゃんだけだなんて一言も言っていないでしょう?


「ひひ、はー、おもしろかった。じゃ、いただきまーす」


 歪神楽ゆらぎが体内で飼っている『ひみつおもちゃ』、八岐大蛇ヤマタノオロチのくろちゃん。ゆらぎの腸と直接繋がっているその八頭の怪物は、五メートルは悠にあるであろうその全長をしならせ、一斉に開いたその大口で、手足を失った愛をそのまま一息に――ぱくり。


 ◆


 地獄で永く在れば在るほど、異能の扱いには雲泥の差が出る。一万年を地獄で在り続けた怪物、歪神楽ゆらぎに対して、黄昏愛の地獄歴と言えば精々が一ヶ月程度のもの。異能を手足のように直感で操れるゆらぎと違って、愛はまだ異能の使用に思考を経由する必要があった。そこで一手、差が出てしまう。


 この差を埋めるには――あの時、芥川九十九との戦闘においてもそうだったように――今、ここで。今、すぐに。黄昏愛は、成長する必要がある。


「…………考えろ」


 愛の思考回路が高速で回転を始める。時間は決して埋まらない。だから黄昏愛は考える。考えることを止めてはならない。必要なのは、やはりイメージなのだ。頭を使っても勝てない相手には、今よりもっと頭を使う。それが彼女の狂い方の方向性ベクトルだった。


 結局、相手より強い何かに変身すれば勝てるのだ。変身先の引き出しが多ければ多いほど、ぬえという怪異は強くなる。問題は――その何かが、思いつかないこと。

 いくら考えても思いつかない。どれだけ頭を捻ったところで、いつも同じ結論に至ってしまう。歪神楽ゆらぎには、どんな動物に変身したところで、勝ち目はない。という結論。


「……………………考えろ」


 黄昏愛は考える。その結論が、何を意味するのか。結論が出ても尚、黄昏愛は考えることを止めない。疑うことを止めない。自分が知らないだけで、考えが及んでいないだけで、きっとあるはずなのだ。自分の中に答えはあるはずなのだ。今の自分には思い付かないというだけで……!


「…………考えろ…………!」


 今の自分には思い付かないことを思い付かなければならない。自分でもおかしなことを言っている自覚はある。けれど、そうでもしなければアレには太刀打ち出来ない。

 疑え。疑え。疑え。自分自身という存在すらも疑って、答えを捻り出せ。お前は既に知っているはずだ。解っているはずだ。考えろ。考えろ。考えろ。お前は誰だ。お前は――!


『頼ってよ』


 ――ふと、辺りを見渡す。


 答えはいつだって、自分の外にあった。生き方を知らない自分を、『あの人』が導いてくれたように――いつだってことわりの外に、答えはあったのだ。


「…………そうだ。()()()()()…………」


 あの時、全身全霊で立ち向かって、それでも敵わなかった。届かなかった。黄昏愛に、そしてあの歪神楽ゆらぎに、ただひとり――規格外ありえないを見せつけた()()が、すぐ傍にいるではないか。


 視野を広げる。ありえないと早々に切り捨てた可能性をもう一度掬い上げる。考えが至ってなお、信じたくない。他人のことなんて信じられない。そのはずなのに――今はもう、これしか思い付かなかった。


「でも……ああ、本当に……腹が立つ……」


 だってこの期に及んで、他人を信じるしかないなんて。そんなもの、やはり自分の性には合わない。まったく、とんだ大博打を踏まされたものだ――


 ◆


 大蛇に丸呑みにされた黄昏愛は、やがて腸の中で溶かされる。どんな動物も酸に耐性は無い。ましてや異能によって変質し異常分泌された大蛇の胃酸である。黄昏愛の高速再生でさえ直った端から溶かされる。

 怪異としての特性上、糞として排泄されればいずれそこからでも復元する。しかしその状態から元の形に戻るまで気が遠くなる程の年月が掛かるだろう。事実、黄昏愛はそれを恐れて、白鯨に対し芥川九十九をけしかけたのだ。しかしその懸命な努力も今、歪神楽ゆらぎの黒蛇によって無に帰した。


 愛を呑み込んだ八頭のうち一頭の大蛇は、役割を終えたのを悟ったように飼い主のゆらぎの下にゆっくりと戻っていく。自分の腸と繋がったその黒い胴体を撫でながら、今も尚落下し続けているこの状況をさてどうしたものかと、ゆらぎが思案に耽ろうとした――その時だった。


「……ん〜?」


 ゆらぎの元へ還ろうとした一頭が、不意に動きを止める。丸呑みにし膨れ上がった腹は蠢いているのがゆらぎからも見て取れた。


「まだ抵抗してるのかな? しぶといねー」


 やれやれと肩を竦めてみせるゆらぎ。彼女はすっかり油断していた。すっかり慢心していた。だってこれ以上抗いようがないのだから。黄昏愛の異能がどの程度の代物なのか、その限界値をゆらぎは対峙して理解した。その上で打った一手だ。計算し尽くされた一手だ。突破出来るはずもない。


『――――――――――――――――』


 しかし。文字通り腹の底から震えるような重い音が、黒蛇の胴体から聞こえてきて――次の瞬間、それは爆ぜた。


『――――――――ッ、ォ、ォ、オ、オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!』


 それは、産声。黒蛇の胴体を突き破り、現れたのは――

 酸にすら耐え切る、規格外の体躯。それを包む黒い毛皮。灼熱の業火が如き赤い瞳。山羊のように歪曲した双角。蝙蝠に似て非なる黒い翼と、鞭のようにしなる黒い尻尾。

 その異様を、一言で表すのなら。


「あはっ……………………え? なにこれ。()()じゃん」


 やはり、それ以外無いのだろう。

 悪魔。それは現世には存在しない、架空の生物である。


 ◆


 黄昏愛――ぬえの怪異である彼女は、これまで現世に既存する生物の姿に変身してきた。地獄に落ちて怪異に成った時、自分の異能はそういうものなのだと直感的に解った。だから疑うことなく、愛は自身の異能を使ってきた。


 しかしこの時点で、愛は思い違いをしていたのだ。本当に全く、架空の生物に変身出来ないというのなら――高速再生能力なんて、そもそも愛に使えるはずがない。だってそんな能力を持っている生物なんて、現世には存在しないのだから。


 ぬえの異能に必要なのは知識と想像力。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。それでも足りない部分、知らない情報は、想像力によって()()()補っている。

 つまり開闢王の言う通り、黄昏愛の『ぬえ』は自分にとって都合の良い解釈を変身先に反映させることが可能なのである。


 だから、()()()はあった。知識は無くとも、想像力で補うことさえ出来れば――理論上、悪魔にだって成れるはずなのだ。

 そして、架空の存在であるはずの悪魔を、愛は現実のものとして観察する機会がここ最近、常にあった。その機会はこれまでずっと、すぐ傍に在った。

 芥川九十九。彼女との出会いが、愛に悪魔という生物の明確なイメージを可能にさせたのだ。


 あるいはそれを、ヒトは成長と呼ぶのかもしれない。


『ォォォォォォォォオオオオオオオオオオオオオオオオッッッッ!!!!!!!!』


 悪魔と成った愛が吼える。その巨腕が八岐大蛇の胴体を振り解き、大きな黒い掌がゆらぎに向かって一直線、伸びていく!


「は……!? おいおいマジかよこのクソババアァッ!?」


 猟奇的な笑みを浮かべるゆらぎだったが、その頬には汗が滲んでいた。向かってきた悪魔の手を、ゆらぎは四頭の黒蛇を操り、それは白鯨にも匹敵する分厚い肉壁として悪魔の攻撃を阻む。

 しかし。愛が変身コピーしているのは、あの芥川九十九の『悪魔』である。規格外のその力までも、今の愛は模倣してしまっている。

 肉壁に向かって繰り出される悪魔の拳。その連撃は蛇の胴体を、その肉を瞬く間に削り、穿ち、弾き飛ばす。それを食い止めるべく、背後から回り込んだ残り三頭の黒蛇が悪魔の肉体に喰らいつく。異常に発達した顎の力が、頑健を誇る悪魔の肉体すらも噛み千切る。


『ッ、ッ、ォ、オオ、オオオオオオオオ!』


 左肩と右脇腹、右翼を食い千切られ、悪魔に変身したといえど流石の愛も苦悶に表情が歪む。それでも、止まらない。痛みを振り払うように咆哮し、目の前の黒蛇の処理を優先する。

 四頭の黒蛇は根っこから引き千切られ、地上に向かって一足先に落ちていく。解剖されたようにぱっくりと開かれたゆらぎの腹部からは血飛沫が宙を舞う。


「…………く、…………は、ははっ!」


 地上まで残り五メートルを切った。腸を引き千切られ、爪が目の前まで迫ってきているその状況で、ゆらぎは依然、嗤う。


「なんだそれ! なんだそれ! あっはっはっはっはっ! なんだよ、おまえ、やっと面白くなってきたじゃんッ! あっはっはっはっはっハッハッハッハッハッハッハッハッ!」


 牙を、舌を、虹色の瞳孔を、何もかも剥き出しにして、歪神楽ゆらぎは嗤っている。三頭の黒蛇が悪魔の肉体に絡みつき、異常な力で肉を潰し骨を砕かんとする。それを規格外の膂力で押し返そうとする愛。一匹、また一匹と、腕の力だけで押し返され、胴体がぶちりぶちり引き千切れていく。

 そうして八頭全ての黒蛇を破壊した頃には――愛とゆらぎの、永遠にも思えた自由落下の時間は、終わりを迎えるのだ。


 ◆


「――――う、げっ、ぇ」


 地上に勢いよく叩きつけられ、潰された蛙のような呻き声を上げたゆらぎは、その衝撃で四肢を吹き飛ばしながら地面を転がった。


『あ、ガ……ッ!』


 愛もまた落下の衝撃で地面を転がる。黒蛇の拘束に加え落下の衝撃で全身の骨が粉砕し、もはや変身を維持することも困難になって、その姿は元の少女のそれへと戻っていった。

 全身が血だらけの傷だらけ。黒蛇に食われた箇所は治りきらず風穴を開けたまま。しばらく蹲ったままだった愛は、


「…………ち、ィ…………ッ!」


 荒々しく舌打ちをしてみせながら、それでも、立ち上がる。痛みで膝が震える。それでもその足で、血溜まりの大地に立つ。


「ハハ……」


 愛が前方に視線を向けると、血溜まりの中で歪神楽ゆらぎは嗤っていた。ゆらぎは愛のような高速再生を持っていない。四肢を失った今、立ち上がることもままならない。そんな状況でさえ気にも留めていない様子で、自分の血で出来たプールでぷかぷか浮かんでいる。


「……あー、ちょっと待っててね。すぐ起きるから……さ」


 嗤うゆらぎの元へ、一匹の獣人が近寄っていく。ゆらぎによって狂わされ意思を失った獣と成り果てた、黒縄地獄の元住人。全身の毛が抜けた蒼白のヒトガタは、四つん這いでゆらぎにすり寄る。


「おまえ。それ、()()()()


 ゆらぎが命じるや否や――獣人は突如として、自らの右腕を自らの左手で、まるで雑草でも引き千切るような呆気なさで引き千切ってみせたのだった。そして千切られた右腕を、獣人はそのままゆらぎの右肩の切り口に押し付け始めた。


「……ふー」


 傷口にひっつけただけの右腕が、その五本の指がばきばきと奇怪な音を立てながら蜘蛛のように蠢くと、それはすっかりゆらぎ自身と同化したのだった。

 そうして右足、左足と獣人が千切った部位をゆらぎは自分の身体にくっつけていき、最後左腕だけが残った獣人を、今度はゆらぎ自身が引き千切り、左肩の先にハメ込んだ。

 四肢を失った獣人は動かなくなり、代わりに四肢を挿げ替えたゆらぎはゆっくりと起き上がる。自分の血で真っ赤に染まった身体を、ゆらゆら、左右に揺らしながら。


「ほいお待たせ。じゃあしよっか。続き」


 意趣返しのように、今度はゆらぎが催促する。満身創痍の愛に対して、同じ落下の衝撃をモロに受けたにも拘わらず、ゆらぎは笑みを浮かべる余裕すらあった。

 あるいは、やはり狂っているのだろう。自分自身の肉体も、その痛みすらも、彼女にとっては『おもちゃ』でしかないような。どこまでも他人事のように、歪神楽ゆらぎは愉しんでいるようだった。


「ただの糞女クソビッチだと思ってたのになかなかやるじゃん。ちょっと楽しくなってきちゃったから、そろそろ本気で遊んであげるね?」


 虹色の瞳が星屑のようにキラキラ光る。新しいおもちゃを見つけた子供のような無邪気さと残酷さを併せ持つその蛇眼に睨まれた者全てがえものへと成り下がる。そんな絶望的なまでの、凶器じみた狂気。


 愛はこの時生まれて初めて、肝が冷えるという感覚を味わっていた。歪神楽ゆらぎは、最凶を謳われるこの怪異は、ここまでやってもまだ本気を出していないというのだから。きっと真面目に戦ってすらいなかったのだろう。その絶望が、愛の表情に暗い影を落とす。


「次はどの『おもちゃ』がいい? 『()()』ちゃん? 『()()()』ちゃん? あたしのおすすめはねえ、トカゲの――」


「――――もう、いいです」


 嬉々として紡がれるゆらぎの言葉を、しかし、愛は声を上げ制止した。


「あ? なにが?」


 満面の笑み浮かべるゆらぎとは対照的に、愛の表情は疲弊し切っている。それでも、愛は意を唱えた。このまま真っ向からぶつかっても勝てる見込みが無いことは解っているだろうに。それがゆらぎにとっては予想外の反応で。


「まさかやめるなんて言わないよねえ? そっちが突っかかってきたんだから。ちゃんと決着つくまでやるよねえ? ねえっ?」


 不服そうに頬をぷっくり膨らませながら、その場でぴょんぴょん跳ねて抗議するゆらぎの姿は、まるで親に駄々をこねる幼児のようだった。


「……ええ。そうですね」


 疲れを乗せた、重い息を吐く愛。おもむろに、天を仰いで。


「だから、もういいと言ったんです」


「はぁ? 何言って――」


 次の瞬間、ゆらぎの身体は膝から崩れ落ちていた。


「……………………?」


 不思議そうに視線を落とすゆらぎ。両足に力が入らない。よく観察してみると、自分でも気付かないうちに全身が小刻みに震えているのが解った。


「ああ……()()()()()。ようやく回ってきたようですね。まったく……」


 突然動かなくなったゆらぎの一方で、愛は一歩ずつ着実に、前へ向かって進んでいく。


「助かりましたよ……わざわざ自分から()()を曝け出してくれるなんて……」


 右の拳が変容を遂げていく。掌が黒い毛皮に包まれる。


「おかげで直接打ち込めました……()()()()()()()()。知っていますか? ()()()です」


 全身の感覚が麻痺していく。視界がぼやける。呻くことさえ出来ない。こんな経験は、歪神楽ゆらぎにとって()()()のことだった。


「ああ……やはりそうでしたか。貴女の異能……きっと私にはたまたま耐性があって、本来なら戦いにすらならなかった。今までがそうだったんでしょう。だから想定していなかった。経験が無かった。自分が敵から毒を打ち込まれるなんて状況を……貴女は()()()()()()


 神経毒に侵されながら、しかしゆらぎは辛うじてその場に立ち続けていた。頭の中で、動け、動けと、自分の体に必死に命令を下し続ける。


「だからもういいと言いました。これで終わり。私の勝ちです」


 せめてもう少し、あと数秒の猶予があれば、異能を応用して解毒が出来たかもしれない。しかしそれも間に合わず、こうして目の前にまで黄昏愛が迫ってきても尚、ゆらぎはとうとう身動きを取ることが出来ずにいるのだった。


「これ以上貴女には付き合ってられません。これ以上は……困る人達が、いるみたいですので」


 握りしめた拳がみしりと音を立てる。腕の筋肉が肥大化していく。ヒトを殴り殺す為のカタチに成っていく。


「だから――もういい。さようなら――――歯を食いしばれ」


 右足を軸に、左足を踏み込んで、そして、放たれる。もはや前を阻むものは無い。愛の拳がゆらぎの鼻頭を潰し、顔面を見事吹っ飛ばした。


 ちかちか、目の奥で星屑が瞬く。

 殴り飛ばされた小さな身体は簡単に宙を舞った。衝撃が脳を揺らし、意識が強制的に閉じようとする、その間際。

 少女は、夢を見ていた。

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