焦熱地獄 7
ばけもの共が、四足で地を這い、無翼で空を舞う。色とりどり、奇々怪々なる物怪達。そんな百鬼夜行に天地を挟まれて――芥川九十九は今、厄災の獣と向かい合う。
人造怪異。ヒトの手によって造られたそれはやはり、普通の怪異と比べて明らかに異質な存在だった。
不思議なもので、それがどれほど精巧に造られたヒトガタであったとしても、その正体が人造怪異であることは誰でも一目見れば必ず解る。ある者は臭いで解ると云い、ある者を目を見れば解ると云う。
如何に人間性を高い水準で再現していようと、所詮は贋作。とにかく直感的に、怪異はそれが怪異ならざる似非者であると解ってしまう。人造怪異とはそういうものなのだ。
しかし中にはごく稀に、本物の怪異と見分けがつかない程、怪異以上に怪異らしい怪物が――真作を超える贋作が、造り出されてしまうことがある。
今まさに対峙している『白面金毛九尾の狐』こそがそれだった。絵で例えるならそれは、まるで今にも動き出しそうな生命の息吹を感じられる、類稀なる色彩。誰かに与えられた役割ではなく自らの意思で行動する、およそ魂と呼べるものを持って生まれた存在。
殊にこの獣は、他者の破滅を心の底から望んでいた。口の端が耳まで裂けたその嗤いは最初からデザインされたものではなく、息衝いているが故に自然と出た形であった。
そんな悪辣の化身が稲妻のような咆哮を轟かせると、それに感化された有象無象もまたその様相を歪ませていく。嗤わないはずの人造怪異が、およそ表情と呼べるものを自ら形作っていく。
まるで絞首台に立たされた無辜なる咎人を嘲笑う観客のように、笑顔の獣達は芥川九十九を取り囲む。その首を手ずから吊るし上げんと、空から大地から押し迫る。
その只中に居る芥川九十九、しかし彼女もまた――その貌に薄く笑みを貼り付かせて。
「――――――――ッ!!」
その身を軸に回転し、拳と尾を大きく振るって、一蹴。近付くもの全て、瞬く間に肉片と磨り潰していた。
それが開戦の合図であった。空気の層を引き裂き音を置き去りにして、悪魔の翅が一直線、厄災の獣へ目掛けて羽ばたくと、百鬼夜行は自らその直線上に割り込み次々、肉壁となっていく。
そしてその程度で芥川九十九が当然止まる訳も無く、肉壁の群れに躊躇いなく突貫した彼女の弾丸が如き直進に有象無象は木っ端微塵に蹴散らされていった。
一瞬で間合いが詰まり、悪魔の拳を目前とした厄災の獣――しかし彼奴もまた攻撃の体勢を既に整えている。大きく開かれた獣の口から途端に溢れ出したのは――火炎。
厄災が齎す炎は一直線、レーザーのように放たれる。九十九の振るった左の拳はそれと真正面から激突した。炎と拳、鍔迫り合うように拮抗する。
「ッ――――ォ、オオオ――――!!!」
その最中、九十九の全身から黒い瘴気が溢れ出した。そして黒い肌の左腕が、筋肉が一気に膨張を始め、やがて巨大な悪魔そのものの怪腕となる。
こうなると厄災の炎は徐々に押し負けていった。出力を上げた九十九の拳に対応しようと、獣は炎の勢いを更に強くするが――しかしそれでも、僅かに九十九のほうが上回る。じりじりと、拳が獣の顔に近付いてく。
「貰ったァァァァアアアアアアッ!!!」
そこへ横槍を入れるように、黒いバルバラが雄叫びを上げて――鳥獣の背に跨り、九十九の背後目掛けて突進を仕掛けていた。それに連れ立って他の有象無象も、九十九の無防備な背中に牙を突き立てようと迫ってくる。
しかし芥川九十九には尻尾がある。それは近付いてくるものを自動的に薙ぎ払い、細切れに変えていく。その渦中に突進するということは、ミキサーに身を投じるような無謀と等しい。通常近付くことさえ叶わない。
黒いバルバラもまた悪魔の尻尾に鳥獣ごと八つ裂きにされ、全身を瞬く間に分解されたのだった。
「……ク、クッ……ハハ……!」
しかし。細切れになり既に液状化が始まっている状態で尚、残った眼球と歯だけで彼女は嗤う。
千切れながらも辛うじて形の残っていた右腕を前方に伸ばし――彼女はその手に握り締めていた手鏡を、九十九に向かって掲げてみせた。
「人造怪異…………『雲外鏡』…………ッ!!」
雲外鏡。映し出したものの正体を見破る照魔鏡とは似て非なる存在であり、鏡の中に棲み着くもの、あるいは鏡そのものに化けたものとも称される妖怪である。
それをモチーフとして描かれたこの人造怪異は、鏡に映した怪異の姿を己のものとする能力が備わっていた。
バルバラの掲げた雲外鏡は、芥川九十九ではなくその向こう、火炎を放つ白面金毛九尾の狐を映し出していた。するとやがて鏡の中が歪み始め――そこから姿形を模倣したもう一体の狐が顔だけを覗かせてくる。
後ろでそんな状況になっているとは露知らず、目の前の敵に集中していた九十九は、自身の背後で大きな口を開くもう一体の厄災に気が付けないまま――
「ッぐ……!?」
背後から放たれた火炎の閃光を、九十九はその背中でまともに食らってしまうのだった。一瞬でその身を焼き尽くすような痛みに襲われ、流石の九十九も息を詰まらせる。
双つの炎に挟まれその身を焦がす九十九。痛みで動きが鈍り、拳の威力が落ち、前方の炎にも押し負け始める。これを好機と見たか、厄災の獣はにたりと笑みを溢し、更に大きく口を開いて炎の出力を増大させる。
「ォォォ…………オオオオオオオオオッ!!」
九十九は右腕を即座に完全な怪物へと変貌させ、背後の炎を振り払うように身を捻った。それによって雲外鏡の放つ炎はあらぬ方向へ軌道が逸れ、九十九はその隙を突き悪魔の尻尾の鋭く尖った先端を雲外鏡へ目掛けて放つ。
槍と化した悪魔の尾は雲外鏡が模倣した狐の顔を貫き、その瞬間、雲外鏡は音を立てて崩れ落ちた。
これで危機を脱したかに見えたがしかし、動きを鈍らせた獲物に周囲の百鬼夜行も黙ってはおらず、一斉に飛び掛かる。
空を飛ぶものは頭を啄もうと嘴を伸ばし、地を這うものは脚を喰らおうと飛びついて――ばけものの群れが雪崩のように、再び九十九の身体をその大群で呑み込んでいった。
「クハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!!!」
そして百鬼夜行の中に紛れ込んでいた赤いバルバラもまた、巨大な螺子を振りかざし九十九の頭を穿ちに掛かっていた。
「ちッ……!」
忌々しそうに舌を鳴らし、螺子の一刺しを右手で受け止める九十九。その間も百鬼夜行の群れが九十九の身体にその爪を、牙を突き立てる。
いずれも九十九にダメージを与えることは無いがしかし、意識を逸らしバランスを崩す役割としては充分で――
直後、厄災の獣が放つ炎はまるで散弾のように、突如として拡散したのだった。
「(軌道が変わった……ッ!?)」
九十九が目を見張り、その反応を見た厄災の獣がにたりとした笑みを溢す。
一直線に放たれるだけだと思われていた炎の閃光は突如として変形し、炎の勢いを押し留めていた九十九の拳を迂回するように四方へ飛び散った。そして再び、炎は九十九目掛けて収束していく。
百鬼夜行に至近距離から囲まれ動きを鈍らされていた九十九は、四方より迫る炎の弾を避けることが出来ず――厄災の炎は百鬼夜行やバルバラをも巻き込んで、九十九の全身を呑み込み灼き尽くす。
まるで煮え滾る地獄の釜にブチ込まれたような灼熱。規格外の頑健を誇る芥川九十九の肉体でさえ、その炎は黒く焼き焦がす。
「ク、ハハ……」
そしてそんな地獄の業火に巻き込まれた赤いバルバラは、全身を灼かれながら尚も嗤っていた。
その時、液状化していく彼女の身体の中から、不意に溢れ落としたのは――大量の薬莢。
「クハハハハハハハハハハハハハハハハッッ!!!!」
その火薬が炎によって引火して――九十九の目の前で炸裂する。稲妻の如き光が瞬き、凄まじい爆発が巻き起こる。周辺に有象無象の肉片が飛び散り、黒煙が広がっていった。
「無意味な抵抗は止せ、だったか?」
その様子を気怠げに、地上から眺めているのは白衣を纏った白髪のバルバラ。その口振りは他人の神経を逆撫でするようで。
「貴様こそいい加減学習したらどうだ。まさか、その程度で俺を殺し切れると本気で思っているのか? 無意味な抵抗は止せよ」
やがて黒煙が晴れ、現れたのは全身が黒く焼け焦げた芥川九十九の悲痛な姿だった。両腕の変化は元に戻り、首はだらりと俯いて表情が見えない。
九十九のそんな姿が視界に入った途端、厄災の獣はまるで無邪気な子供のように嗤い声を上げていた。勝ちを誇ったような下賎な笑み。縦に割れた獣の瞳孔は、獲物を品定めするような愉悦にすっかり蕩けている。
そして百鬼夜行もまた、死骸に群れるハイエナの如く、九十九の周りに再び集まり始めていた。そこにはやはり赤いバルバラと黒いバルバラの姿も紛れ込んでいる。
まるで終わりの見えない責め苦。何度も立ち上がり、無視出来ない痛みを着実に蓄積させていく、嫌がらせに特化した戦法。心が折れても仕方がない――
「…………お前こそ、何か勘違いしてないか」
――しかし、さて。等活地獄という終わらない戦争の最前線で、二百年もの間を孤独に闘い続けた彼女が、この程度で心が折れるだろうか?
「まさか、私にお前を殺すすべが無いと本気で思っているのか?」
芥川九十九はその黒く焦げた顔をゆっくりと上げ、首を後ろに傾けて――地上を見下ろす。
その赤い瞳に射抜かれたバルバラは一瞬、呼吸することを忘れた。黒く焦げた顔に浮かび上がるその赤い眼光は、まるで――否まさに、悪魔の容貌。呼吸を忘れる程の恐ろしさ。
「……そうだな、確かに私は間違っていた。正直……私はお前のことを、脅しに屈して簡単に情報を吐く雑魚だとばかり思っていた。でも、どうやら違う。お前は雑魚じゃない。お前が脅しに屈することは絶対に無いだろう。悪かったな、侮って」
芥川九十九の、所謂『本気』の姿を実際に見た者は、等活地獄の住人達でさえ極僅か。彼女に闘いを挑み、その姿を引き出させた者はそういない。
だからそれは、ある種の栄誉でもあった。シスター・バルバラは見事、引き出してみせたのである。芥川九十九から、完全なる悪魔の本性を。
「嗚呼よく解った……お前はもう用済みだ。たとえどんな情報を持っていたとしても、口を割らないなら意味は無い。これ以上引き延ばしても仕方ない」
――肉体が、膨張を始める。悪魔の筋肉が迫り上がってきて、人間の名残を余すことなく覆い尽くしていく。
死と隣り合わせに立たされる代償を支払うことで、取り払われる制約と限界。その強さをして、幻すらも葬ると謳われた怪物王。
「私がどうして『幻葬王』と呼ばれていたのか――身を以て教えてやる」
本物の悪魔が今此処に、顕現した。
『――――――――――――――――ォォォォォォォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!』
黒山羊が如き悪魔の化身へと変貌を遂げた芥川九十九。その咆哮は、音が質量を伴う程の衝撃だった。
爆撃にも似た悪魔の咆哮、その震動波は、物質を分子レベルで崩壊させる。それに曝された周囲一帯の全てが塵すら残さず無へ還る。空間が歪む程の震動が、壁を吹き飛ばし、床を更地へと変えていく。巻き込まれた百鬼夜行は勿論のこと、三体のバルバラも液状化すらしないまま跡形もなく消滅していった。
『――――――――ア゜、アア、アアアア、ア゜アアアアアアアアアアアアアアアアアアア』
しかしこの場において唯一、悪魔の咆哮を耐え切った怪物がいた。白面金毛九尾の狐である。
流石、伊達に厄災の怪異ではないと言ったところだが――しかし、先程までの愉悦に満ちた笑みは完全に消え、その剥き出した牙の隙間からは憎悪に満ちた甲高い叫喚を轟かせていた。
駅だったという名残すら窺い知れない剥き出しの大地、壁だった物の残骸に囲まれた、崩壊した空間。その虚空で向かい合う両獣。
先に動いたのは厄災の獣だった。傷付いた金色の巨体震わせ、九つの尾が逆立たせた次の瞬間、炎の閃光を再び前方の悪魔目掛けて放射する。
炎は更に九つに分かれ、あらゆる角度から悪魔を襲う。並の生物ならば触れただけで灰になるまで焼き尽くされる厄災の炎――それら全てを真正面から受け止めた上で、悪魔は涼しげな顔で悠々と空を翔け出した。
そのたった一度の羽ばたきで、一瞬の間に肉薄した悪魔の巨拳が、獣の喉元を容赦なく抉る。極大の左腕に貫かれた獣の喉から炎と共に血が溢れ出す。
獣は苦痛の絶叫を漏らしながらも、前足の鈎爪でどうにか悪魔に掴み掛かろうとする――
『アアアアア――――――――ア、アア――――――――ア゜――――』
――がしかし、悪魔の右手が獣の鈎爪を纏めて鷲掴み圧し折ると、まるで容易いことかのようにそのまま獣の両腕を片手で引き千切ってみせた。獣は堪えたように悲鳴にも似た咆哮を上げる。
それで終わらない。悪魔は千切った獣の腕を握り締めたままその巨大な拳を、獣の土手っ腹へ目掛け掬い上げるように一撃、ブチ込んだ。悪魔の右腕は獣の背中まで貫通し、噴き出した血が雨となって降り注ぐ。
『ォォォォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!!!』
そして極めつけ、悪魔は獣の肉体に突き立てた両腕を無理矢理に引き抜いて――その上半身と下半身を真っ二つに引き裂いたのだった。
圧倒的。そう呼ぶ他無い、完全な決着。白面金毛九尾の狐は間違いなく死んだ。悪魔の両腕に貫かれたままぶら下がっているその屍体は、徐々に黒く綻んでいく。
問題のバルバラは悪魔の咆哮によって跡形もなく消滅した。肉片すら残っていない状態では、流石のバルバラでも即復活は出来ないようである。
怪異は時間さえ掛ければ、たとえ無からでもいずれその肉体は再生する。しかし無からの完全蘇生となると途方もない時間が掛かる。数年そこらで再会出来るなんてことはまず無いと言っていい。
ちなみに悪魔の咆哮は敵諸共巻き込んで駅や線路までも破壊してしまったが、それについては問題無い。
地獄の一部であるが故か、猿夢列車を含む地獄の駅は怪異と同じく破壊されても時間経過で元に戻っていく。むしろ怪異の自然治癒よりも早く再生するため、数時間と待つ必要すら無い。
九十九もそれは常識として当然知っていた為、遠慮なくその力を振るうことが出来た。どのみち愛との合流を待つつもりだったのだから関係ない。
かくして荒廃した空間の中、悪魔は黒翼をはためかせ、ゆっくりと大地に下降していった。その全身から黒い瘴気を吐き出して、元の芥川九十九の姿へと少しずつ戻っていく。
勝ちを確信しつつも念の為、殺り残しは無いか周囲を見渡し確認しながら――
「『融解』」
その時だった。肉の焼け焦げた臭いが、不意に鼻を突いて――九十九の視線は咄嗟、自身の右腕に向けられていた。
「信じていたよ、幻葬王。貴様ならきっと、厄災の獣すら容易く葬るだろうとな」
まだ変身が完全に解け切っていない悪魔の右腕、そこにへばり付く白面金毛九尾の狐の残骸。
金色の獣毛は黒く変色して、その肉は腐ったように溶け出していて――
「俺に勝ち目が無い? 当然だろう。負けるのは想定内だ。俺は必ず貴様に負ける。貴様も自分の勝ちを確信していただろう。貴様は確かに俺を侮っていたが、俺もまた俺自身を侮っていたんだ」
九十九はその現象を人造怪異特有のものだと思い込んでいた。人造怪異は再生機能を持たない。怪異とは違って、死ぬと自然消滅する。それが常識――だから見過ごしてしまった。
まさか、人造怪異の体内に――肉の中に溶け込んで、その身を潜めていたとは。
「俺は俺の弱さを信じた――だからこうして、触れられた」
九十九の腕に付着した獣の肉に混じり、半ば液状化した状態で顔と腕だけを伸ばして、それは這い出てくる。
小麦のような茶色い髪をだらしなく伸ばした、病的に痩せ細ったその女は間違いなく、シスター・バルバラ――四体目の蝋人形だったのだ。
茶髪のバルバラは九十九の右腕をその細い両腕でしがみつき、がっちりとホールドしていたのである。
「ッ、な……!?」
その怨めしそうな灰色の瞳と視線が交差した瞬間、九十九は咄嗟に悲鳴に近い呻き声を上げ、バルバラを振り払うように右腕を大きく振るう。バルバラはそれで呆気なく九十九から引き剥がされ、べしゃりと大地に投げ棄てられた。
地面に落ちた黒い体液が蠢き、やがてヒトの形となる。茶髪のバルバラはその身に一枚の薄汚れたガウンを羽織っているだけで、他には何も身に着けていない。武器のようなものも持っていない。ただ病的に痩せ細った彼女は妖しげにその場に立ち尽くすだけで――
「…………あっ…………え…………?」
――否。彼女は何かを手に持っていた。ただそれがあまりにも異質で、現実離れしていて、脳がそれだとすぐに識別出来なかっただけ。
茶髪のバルバラが手に持っていたそれは、腕だった。どこかで見覚えのあるその千切れた右腕は、バルバラが触れた端から次第に溶解を始めていく。
それはバルバラの手元でどろどろに溶け出し、やがて吸い込まれるようにバルバラの皮膚と一体化していった。
その異様な光景に目が離せないまま――九十九は恐る恐る、左手で自分の右肩に触れる。
「触れたものを融解して誘拐する。それが俺の異能だ」
やはり、無い。本来あるはずの右腕は、右肩より先が引き千切られたように綺麗さっぱり無くなっている。しかし肩には傷口のようなものはなく、痛みも無ければ出血も無い。
そこにはただつるつるとした、溶接された跡のような奇妙な感触があるだけで――
「手始めにその右腕、確かに貰い受けたぞ」
対してバルバラの右腕は突如、黒い瘴気を吐き出しながら――変貌を遂げていく。
黒い筋肉が迫り上がり、膨張していくその腕は、見間違えるはずも無い――悪魔の怪腕。
それは最早、疑いようもなく――芥川九十九の右腕があろうことか奪われたのだという事実を、如実に物語っていた。
「さて――材料としての自覚はそろそろ芽生えてきたか?」
であるならば、嗚呼どうやら――
この闘いはまだ、終わりそうもない。