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No.02 取り合えずさ・・・先ずは戦力を整えようよ!


「壊滅的じゃないか、我が軍はっ!」


 国王ドドラグが怒鳴った。

 まあ1万8千の軍を送って4~5千しか戻って来なかったら当然だろう。


「しかも竜騎兵に至っては全滅だと?一体どう成っておるのだ!」


 すぐに❝とある陣営❞で使われ始めるが、この世界にはまだ「撃墜」と言う言葉は無かった。

 だが他に適切な表現は無いので使わせて貰うと・・・ユーキが撃墜した竜騎兵は153騎である。

 谷を攻めた竜騎兵は247騎だったので差し引き100近く生き延びてる筈だったが、ドラグールの力に恐怖し暴れ廻ったワイバーンは騎兵を振り落とし逃げ惑った。

 当然だが騎兵は墜落死それどころか狂乱したワイバーンに食い殺された兵も居り、結局谷を攻めた竜騎兵は殆ど残らず天に召され全滅した。


「おのれグルースニクめ・・・一体如何やって」


「逃げ延びた兵の証言では、身の丈が常人の3倍以上ある巨人が」


「そんな化け物染みた存在など、実在する筈が無いだろう!」


「しかし・・・」


「煩いっ!すぐに行方を捜索し・・・」


 言いかけてドドラグは止まった。

 この世界では海上に逃れた敵を探す方法は、周辺の港を探る位しか無いのだ。

 そしてグルースは痕跡を残すほど馬鹿では無かった・・・ドドラグが王位を簒奪出来たのは、周囲の貴族が我欲で協力したからだ。


 広大な海を船で探し回るのは非現実的、竜騎兵では飛行距離が足らず狭い範囲しか捜索出来ない。

 唯一の方法と言えば大型船を母船にして竜騎兵を積載し探す方法が有るが、実は今回の戦いで王国の竜騎兵が半分以上潰れて仕舞ったのだ。


「だ・・・大至急、竜騎兵を増やすのだ。多少の無理をしても構わぬ・・・そして周辺国や一帯の港を、虱潰しに捜索せよ」


 ドドラグは呻く様に言った。




   -------------------------


「ハ~~~イ失格、次っ♪」


 ユーキの声が響くと、男が溜息を吐きながらヘルメットを脱いだ。

 その前にはドラグールの頭部が置かれている・・・が、別にユーキのドラグールを分解した訳では無く、この頭部は試作品である。

 その頭部を数人の子供が、手に色違いの旗を持ち半円状に囲んでいる。


「よ~しっ!」


 気合いを入れた男がヘルメットをかぶった。


「じゃあスタートッ!」


 ユーキの宣言で子供達が旗を上げ下げする。


「赤っ、青っ、赤っ、黄色っ!」


「ハイ失格!正面しか見えて無いんだね・・・・・」


 男は悔しそうにヘルメットを脱いだ。


「じゃあ次は俺だっ!」


 さらに次の男がヘルメットを被った。

 だが試験が始まる前にフラフラし、結局バタンと倒れて仕舞った。

 ユーキが溜息と吐く。


「ハイ失格」


 ドラグールの頭部にある眼はメインカメラに成っていが、その映像を映し出すディスプレイはコクピットには無い。

 ドラグールのコクピットは胸部にあり前部装甲であるコクピットシールドを開閉して乗り降りするが、コクピットシールドはマジックミラーの様に内側から外が見える。

 ただし戦闘時にターゲットを索敵し認識してるのは、そこから得られる視界では無かった。


『そう言えば昆虫をモチーフにしたロボットが、そんな感じだったな・・・大きさも近いし、異世界に連れ去られるの設定も一緒だ』


 ユーキは父親秘蔵のDVDコレクションを思い出し、オヤジは元気でやってるだろうかと考えた。

 まあ多分大丈夫だと思いたい、自分が消えた悲しみを乗り越えてくれてたら良いのだが・・・・・


「失格次っ!」


 次の人物もロクに試験を始められずに倒れた。


 実はドラグールの眼は望遠・広角・赤外線・サーモグラフィ・暗視など、各種モードを使い分けられる高性能の多目的カメラに成っている。

 その映像はヘルメットから脳へ直接送り込まれるが、なにせ眼で見てる視界と同時に別の画像が強制的に見せられる。

 さらにソレは人間の視野より圧倒的に広く、その他膨大な情報を無理矢理送り込まれるのだから、適性が無い人間には脳が追い付かずに眼を回して仕舞うのだ。


「これで全員終了か・・・合格者は20人ちょい、最終的には何人残る?」


 落ち着いたらドラグールの増産体制を整えるが、現在船に載っている資材とパーツで12機のドラグールを組む事が出来る。

 せめて全機に行き渡る搭乗員を用意したかった。


 船に乗っている戦闘員87名だけで無く、それを含んだ谷の住人307名の内18歳以上の志願者を試験した。

 この世界では16歳から成人として扱われるが、グルースが若過ぎる人間を戦わせる事に抵抗を感じてるのだ。


 さて不合格者も訓練次第ではモノに成るかも知れないが、現在は早急に戦える人間をある程度揃えておきたかった。

 ドラグールの眼で見る適性を、そして次はドラグールを操れるのかをテストする。

 ドラグールは主として思考波・・・ある種のテレパシーの様なモノで操るのだ。

 操縦桿も有るが緊急時の予備的なモノで簡単な移動くらいしか出来ず、そもそも操縦で人間の動きを再現するのは難しいだろう。


『グルースが思考を追従するシステムを作ってたからこそ、ドラグールを作れた様なモノだし・・・・・』


 そう思いながらユーキは合格者を引き連れ、次の試験に向かった。




 最終的に12人の搭乗員を揃える事が出来た・・・が大問題が発生して仕舞った。

 一次試験で「ドラグールの眼で見る事が出来るか?」二次試験で「ドラグールの手足を操る事が出来るか?」そして最終試験で「ドラグールで飛んだり跳ねたりした時にバランスを取る事が出来るか?」を試して12人の合格者が出たまでは良かったのだが、自分にテストを受けさせないのかと文句を言って来た人物が居たのだ。

 この世界の父であるグルースだ!


 余談だがユーキはグルースを義父とは表現しない・・・血が繋がって無くても、彼を本当の父親と思い定めているからだ。

 そして日本に居る父親を「オヤジ」(実際オヤジと呼んでいた)、グルースを「父」と呼ぶ様にしている。


 脱線したが話を戻そう。


 ユーキも忘れてた訳では無いが、盟主たるグルースが先頭に立って戦うとは思わなかった。

 だが言われた以上は仕方なく試験を受けさせると、受験者で一番高スコアを叩き出して仕舞ったのだ。

 合格者13人に対してドラグールは12機、もう1機組むパーツは如何考えても無かった。


「案ずるな、もう一機有るじゃ無いか♪」


 そう朗らかに笑うグルースの真意を組むと、ユーキはドラグールの脚に噛り付いて抵抗する。

 だが(くすぐ)られ力が抜けた拍子に引き剥がされ、何だかんだ説得されてドラグールを盗られて仕舞う。




「本音を言えば、お嬢様に戦って欲しく無いんですよ」


 お茶を注ぎながらメリッサが言った。

 初老の家政婦であるメリッサは、元々グルースの乳母だった女性だ。


 正直その事は最初から見当が付いていた。

 初戦闘の後、あの醜態を見られたのだ。


 だが二足歩行兵器を誰より上手く操縦する事が出来、そして()()()()()()()()()を叩き出したのは自分だ。

 グルースが自分のタメにしてくれてる事は解っているが、力を持ってるのに彼等だけ戦わせてるのは性に合わない。

 既に1万人以上の敵兵の命を奪った・・・それに対して後悔してないし罪悪感は無く、ただ可哀そうだと思うだけ、次に敵が来たらやはり殺すだろう。


 奴らの狙いは愛する父の命なのだから。


「兎に角ドラグールを組まなくては・・・格納庫に行って来る」


 そう言うとユーキは部屋を出る。




 船の格納庫にはグルースの工房スタッフもとい整備兵が揃っていて、彼等にはユーキがドラグールを作る際に書き上げた設計図などを提供してあった。

 そもそもドラグールは元々グルースと彼等で造り出した技術で組み上げられており、今後の整備や増産は彼等だけでも容易な筈だ。

 ユーキの指示でコンテナを開き中のパーツでドラグールを組み上げ始める・・・ここで某プラモデルの最上位グレードを作った経験がモノを言い、特に引き出し式の二重関節構造はそのままパクっている。


「全機組み上がり次第、運用訓練を開始します。暫くは整備兵は忙しいですな」


 工場長は言った。


「9機分のパーツは出来上がってるから後は組み立てるだけ、残り3機もすぐに揃えよう」


 取り合えず格納庫班の整備兵にドラグールを組み上げ方を教え込む、工房でパーツを作り格納庫で組み上げる流れにするのだ。

 もっとも二足歩行兵器を作る様な突飛な発想が出来ないだけで、技師としては彼等の方が圧倒的に技量は高い。

 巨大なだけで中身が多少複雑なプラモデルを作るのと大差が無く、すぐに組み上げ方を覚えてくれた。


 一通り教え込むと、ボクは工場長と工房へ向かいパーツの製造過程を説明した。

 こちらは多少説明が難しい・・・だが技術自体は彼等の既存するモノである。

 すでに完成しているパーツ一機分を教材にすれば、彼らの理解は早かった。




 ドラグール基本構造は三重に成っている。

 先ず骨格に相当する❝フレーム❞筋肉や神経に当たる❝メカニズム❞そして外装と強度補強を担う❝ボディ❞で構成され、それに武装である❝ウエポン❞に追加装甲❝アーマー❞その他の❝オプション❞を装備する。

 ウエポン・アーマー・オプションのハードポイントは全身に用意されているが、特に重要なのは先の戦闘でも使った背面ハードポイントに装備したバックパック、作戦や用途で色々付け替えられる様に成っている。




 さてボクはカートで倉庫から、フレーム素材である球状結晶の集合体が入ったコンテナを引っ張り出す。

 この船やドラグールを作っているファンタジー素材で名前を❝氷鋼❞と呼び、おそらく地球に有ったどの金属よりも硬く強靭で、プラスティックの如く軽くそして無色透明である。

 これが無かったらドラグールは出来なかった。


 整備兵と氷鋼を溶鉱炉に入れながら考える。

 彼等は自分達で己の呼び名をスタッフから整備兵に変えた・・・グルースと共に戦う覚悟をした現われで、ドドラグとの戦いは避けられないだろう。

 なら戦う準備が必要だ。


 この世界でドラグールの様な二足歩行兵器は有効で、人間と同等以上の運動能力に莫大なエネルギーを内蔵し運用出来る。

 それに反し航空機の有効性が今一つだ。


 先ず第一に、この世界ではレーダーが全く機能しない。

 電波を完全に吸着出来る素材が幾つも見付かっているし、そもそも氷鋼自体が電波を反射しないのだ。

 現在レーダーの実用化は出来て無いが、出来たとしても大して役に立たないだろう。


 次にミサイルが役に立たない。

 燃料である偽水は爆発力の割に発熱量は低く、氷鋼の電波吸着性と相まってホーミングミサイルは追尾出来ないだろう。

 航空戦闘機の武装は機銃とミサイルだが如何考えてもメインはミサイル、それが役に立たないなら存在意義は大分薄くなり、対地攻撃や偵察などを主任務にせざるを得ない。


 更に操縦性が悪かった。

 実は航空機はバランスを取るのが非常に難しく、下手すると機体を傾けただけでスグ墜落して仕舞う。

 それに対して頭に思い描いただけで動くドラグールは、実は比較的簡単に操縦出来るし安定してるのだ。


「オヤジ様のBD・DVDコレクションで勉強させれば、凄いイメージトレーニングに成るだろ~な~~~っ♪」


 地球に居るだろう一人目の父親に思いを馳せながら、ユーキはパーツリストに眼を通した。

 メンテナンスやオーバーホール用のパーツを考慮しても2~3日で揃える事が出来、12機のドラグールは5日も有ればロールアウト出来るだろう。

 ユーキは悪い笑みを浮かべながら、フォークリフトに乗り込み倉庫奥へ向かう。

 そこには「ユーキ専用・手出し禁止」と書かれているコンテナがある。




   -------------------------


 運が悪くドラグールが揃う前に戦う必要が出て来た・・・グルースと懇意にしてる反ドドラグ派の貴族が窮地に立たされてるのだ。


「マザーシップには5000人以上は乗るキャパシティが有るが、現在乗っているのは殆ど民間人で300人余り、積載量も大分余裕が有る」


 グルースが言った。

 この船に空母を直接翻訳してマザーシップとボクが名付けた・・・ちなみに空母の英訳は本来キャリア(積載船)が正しい。

 もっともマザーシップは戦艦と強襲揚陸艦に空母の性質を併せ持っているが、実際は航空機より二足歩行兵器がメインに成る。

 だから「航空」を無視して「母艦」としてマザーシップと名付けた。


「そこで救援のついでだ!新天地に向かう前に、道連れの人材と開発資材を出来る限り乗せてきたい」


 騎士団長ジェイソンが地図を広げた。


「このシガイ半島はベス伯爵の領都だったが簒奪時に従わなかった為、現在ドドラグの軍に攻め寄せられている。現在残っている市民およそ3000に民間徴用を含めた守兵は500ほど」


「瀕死の状態だね」


「それでも3年以上良く()ったモノだ・・・すでに当時の当主は倒れ、子が跡を継いでいる」


 ボクは正直な感想を言った。

 兵法など知らなくても解るほど、追い詰められていた。


「ユーキ・・・ドラグールは何機仕上がってる?」


 グルースが言った。


「グルースに取られたボクのドラグールを入れて4機、明日中に2機迄なら仕上げられる。でも・・・・・」


 嫌味を交えながら答えたが大きな問題が有る・・・兵士の訓練はマトモに済んで無く、実践に導入出来るレベルでは無い。

 それどころかマダ一度も射撃訓練を行って無いのだ。


「剣と盾は出来てるんだろ?それ持って振り回せば敵は近寄れない・・・その隙に市民と兵士、それに資材をマザーシップに運び込んで逃げ様と考えてるんだ」


「ユーキは如何思う?」


 ジェイソンとグルースが言った。

 馬に乗った騎兵に歩兵ではドラグールの相手は、竜騎兵に戦いを挑むより無謀だ。

 唯一とれる有効そうな作戦は脚に綱を掛けて引き倒す事くらい・・・いや馬の力では逆にドラグールに引き摺られるだろう。


「今後も使い続ける事は出来ない、けど今の段階で一度だけ使うなら良い作戦だ」


 ボクは素直に認める。




 2日後シガイ半島でドドラグ軍との戦闘が勃発した。

 ベス・・・エリザベス・グラマトン女伯爵は半島の根元でドドラス軍と対峙していたが半島の先端まで押し込まれ、正直その命は風前の何とやらである。


 午前0時、


「じゃあユーキ行って来るよ」


 火器は一切積んでないドラグールに乗りながら、甲板でグルースに言われた。


「まあ飛んだり跳ねたり暴れたりは、みんな十二分に出来るから大丈夫だよね。ただ調子に乗って突っ込んだり転ぶと、反重力システムが有っても意外と大怪我するからね。それと墜落にも気を付けて・・・・・」


 そう言って父の頬に接吻し、彼は苦笑しながら乗り込むとコクピットシールドを下ろす。

 戦闘機ならキャノピーだろうがドラグールは戦闘機じゃないし、外から見ても透き通って無いからシールドと呼んでも良いだろう。

 グルースとジェイソンに二人づつ部下が付き、計6機のドラグールがマザーシップの甲板からジャンプして行った。


 同時にローザが指揮する小型揚陸艇群が、ドックより発進し半島に向かう。

 小型揚陸艇は水陸両用車でもあり、そのまま人や資材を積んで来れるのだ。


 やがて街の端から火の手が上がる。

 グルースのクソ親父が、ボクから奪ったドラグールで暴れているのだろう。

 本格的な火器は与えて無かったが、偽水の詰まった樽を投げる為に持参して行ったのだ。


「随分派手に暴れてますね・・・あれは完全に楽しんでますよ。ここまで若様の楽しそうな笑い声が、聞こえて来そうです」


 ギルが言った。

 グルースを若様と呼ぶ彼は、グルースに長く仕えている執事だ。


「人から奪ったドラグールで楽しそうに・・・帰って来たら、蹴飛ばしてやるかな」


 そう言うボクの言葉を聞きながら相好を崩すギルが、海の方を見て指差すと多数の小型揚陸艇が向かって来ていた。


「お嬢様・・・」


「分ってる!ウェルドッグのハッチを開いて、誘導灯を付けろ」


 次々と揚陸艇が入って来る。

 この揚陸艇群は昨日遅くに上陸し、積み荷を積んで出航準備をして待ってたのだ。


「グルース王子のお嬢様ですか?」


 まだ二十歳に成って無い位の、鎧を着こんだ凛々しい女の人が言った。


「グルース父様の名代であるユーキです。グラマトン伯爵でよろしいですか?」


「ハイ、エリザベスいえベスと御呼び下さい。この度は救援感謝いたします・・・ドドラグの専横に抗えず、敗軍の将として情けない姿を晒しております」


「それはグルース父様も同じです。気にする必要は有りません」


 伯爵は複雑な顔をする。

 すると甲板が賑やかに成って、避難して来た市民が上がって来たのだ。

 市民を降ろした揚陸艇は再度陸へ向かう。


「避難状況を!」


「王子の指示で市民を優先しておりますが、後2往復はしなくては成らないでしょう。資材の方は船に積んで出航済み、どうしても積み切れなかった分は御支持の通りに・・・・・」


 浮く素材に括りつけ海に浮かべて貰った・・・ローザが向かったのは住民の避難誘導の後、それを曳航して来て貰う為だ。


「了解しました。それはローザに誘導して貰い、こちらで曳航しますので御心配無く」


 すると甲板にサイレンが流れる。

 ただし敵に聞こえない様、音量は抑えられている。

 陸地が近いのだ。


「甲板を空けろっ!」


 作業員が叫ぶとセスナ程度の小型複葉機が斜め上から着陸して来る・・・プロペラ機なのにフローティング・クリスタルの御蔭で、ほぼ垂直離着陸機と成っており、その動作は飛行機より飛行船に近い。

 現在ジェット機は未だ実用出来て無く、ヘリコプターの開発をしていない・・・今の所プロペラ機が唯一の実用航空機だ。

 すぐに偽水の給油と整備が始まり、搭乗員はオフィーサーと打ち合わせをしていた。


 やがて準備が整うと、プロペラ偵察機は再び飛び立っていった。


「偵察機は何機出てる?」


「7機全て飛んでます」


 この巨大な船に二足歩行兵器と小型複葉機が7機づつ、そして揚陸艇12艇しか積んでない・・・随分無駄な使い方だ。

 もっとも現在は避難船・輸送船として使ってるから、スペースは無駄と言う訳では無いかも知れない。


「入電~~~っ!入電~~~っ!」


 叫びながら通信兵が走って来た。

 何か有ったらしい。

 入電は通信を受信したと言う意味だ。


「3番偵察機より入電!北より竜騎兵多数、その数およそ30」


 ボクは甲板に設置してある電話の受話器を取った。

 トランシーバーやヘッドセットも、まだ実用出来ていない。


「敵増援の詳細は?」


「街の北北西より竜騎兵34距離80キロ、紋章は虎のアップフェイス」


「王国軍じゃ無い・・・ズーメン子爵の私設軍です」


 電話から漏れた声を聴き、ベル伯爵が答えた。


「街まで15分っ!」


 まだ揚陸艇は街に着いて無く、揚陸艇を待っている市民は港や浜で待っている。

 そこへ竜騎兵が襲い掛かったら大惨事だ。


「父様に連絡っ!救援に・・・・・」


「無理です!御館様が離れれば、騎兵と歩兵が街に雪崩込みます」


 王国軍の竜騎兵は来ないだろうと、タカを括っていたのは不味かった。


「北北西からなら船着き場も・・・そちらから先に襲われます」


 船着き場からは、資材を満載した船が出港してる最中だった。

 この世界の船は木造で、マザーシップのみが異質な存在だ。

 竜騎兵のワイバーンが火を噴けば、さぞ景気良く燃え上がるだろう。

 その後は市民に襲い掛かる筈だ。


「追い詰められ余裕が無かった・・・考えが甘過ぎたか?」


 ベス伯爵が悔しそうに呟いた。

 確かに王国軍以外が増援に来ると思って無かった。

 竜騎兵が来る可能性も少ないと思っていた。


「だが残念ながらな・・・敵の増援を想定しないほど、ボクは甘くは無いんだ」


 ボクは作業兵に怒鳴る。


「第二エレベーターをレベル2まで下ろせ」


 そう言って階段を駆け下りる。

 甲板を0として1階層下のレベル1は格納庫、レベル2にはソレと倉庫と工房がある。


 増援が来ない事に賭け、グルース達は救出作戦を強行した。

 だがボクは増援が有った場合、自分で出撃する積りだった。


「全くボクが新しい機体を組むと、初起動が実戦に成る呪いでも掛けられてるのかな?テスト飛行も済んで無いのに・・・まあ仕方ない、オマエに命を預けるよ」


 ボクは工房に駆け込むと、シャッタの開閉レバーを倒す。

 そのまま奥に走ると、転がってるコンテナや余剰部品の中で片膝を突く新しい愛機に語り掛けた。


「頼むぞファルケン!」




 エレベーターが純白の機体を乗せて上がって来る。

 その機体はドラグールに比べてスリムで華奢なイメージを受けるが、鎧を纏った騎士の様に見えるデザインは共通していた。

 固定武装は全て外し、右腕に機銃と左肩に照明弾ディスチャージャーのみ装備する。


「いくら何でも、テスト無しで出るなんて無茶ですよ!」


 工場長の怒声が響く。

 パーツ毎・部品毎のテストはしたが、全体を組み上げてからテストはしていない。


「仕方ないだろ?このままじゃ市民と一緒にローザも危ない」


 甲板に出ると通信兵が飛んで来る。


「現在ローザ副団長の指揮の下、市民を揚陸艇に乗せ出航する所です。ですが未だ全ての市民を運ぶには、最低もう一往復する必要が有ります。竜騎兵、港まで5分っ!」


「滑走離陸する・・・前を開けてっ!」


 甲板作業兵が前を払う。

 離陸用カタパルトは無いが、この機体なら十分跳べる。


「悪いけどギルは指揮を執って、ここは任せる」


 バックパック両サイドのウイングを伸ばし、同時にフローティング・クリスタルへ電力を供給しながらメインバーニアを噴かした。

 半重力ユニットが起動して機体が数十センチ浮き上がる。


「白騎士ファルケン出撃する!」


 500mもある滑走路を徐々に加速しながら、轟音を上げてファルケンが飛び立った。




 ファルケンの背負ってるのは簡易型では無い❝飛行用バーニアバックパック❞だった。

 左右に広がった翼の翼下には、それぞれ一台づつエンジンがぶら下っている。

 モノの3分で港の上空へ差し掛かると北北西の方向を睨んだ・・・満天の星空に月まで出ている。


「あれか・・・」


 夜空に黒い影が幾つも浮いていた。


「まだボク達の事を知らないのか?それとも自分の失態を広めたく無くて、ドドラグは公表して無いのか?まあイイや、どの道ドドラグの尻馬に乗った腰巾着なんだろ!」


 ワイバーンは火を噴く事が出来る。

 船は全て港から出航済みだが、まだ港の外で固まっていた。

 資材満載で遅い木造船、そこを燃やされてはタマらない。


「行くぞ」


 ユーキは竜騎兵に向かって飛翔しながら、腰だめに機銃を構え同時に照明弾を発射した。




 35mm単砲身機銃、ファルケンの標準装備である巨大なアサルトライフルだ。

 簡単な切り替えで左右何方にも装備出来る大型ボックスマガジンには150発の弾薬が装填され、ベルト給弾方式で次々弾丸を吐き出して行く。

 その威力たるや数秒の掃射でMBTを鉄屑に変える事が出来た。

 その他オプションとして銃身下にグレネードランチャーが装備されている。




「なんだっ!」


 空に小さな太陽が上がった様に、辺り一帯が明るく照らされる。

 昼間ほどの明るさとは言えないが、自分達の姿が照らされて浮かび上がっていた。


「団長っ!正面・・・・・」


 配下の竜騎兵が叫ぶと自分達の進行方向に、青い燐光を放つ人影が浮かんでいた・・・ただし人影にしては矢鱈と大きいかった。


『ズーメン子爵軍の竜騎兵隊に告ぐっ!』


 辺り一面に大きな声が響いた。

 ただし人の声にしては感じがおかしい。


『貴君等はグラマトン伯爵領を領空侵犯している。至急反転しないなら攻撃するし、簒奪者の諂って攻めて来るなら皆殺しだっ!』




 この世界で領空侵犯なんて言葉は通用しないかな・・・なんて言ってから気が付いた。

 だが何となくでも意味は通じた様で、彼等は急上昇し始める・・・戦う積りだった。


 ワイバーンの火炎放射は射程距離が短い。

 ただしソレは遠くまで吐き出せないだけで、強燃性で強酸性の胃液は粘度が高く何時までも燃え続ける。

 高い所から吐き出して飛距離を稼ぐのが常套手段・・・解ってるがバッチイ攻撃だ。


 すぐに炎のシャワーが降り注ぎ、ボクは右へ左へと避ける。

 ダメージ云々より汚いし、第一折角の磨き上げたパールホワイトの機体を汚されたくなかった。

 ボクは腰だめにした機銃のからグレネードを射出する。


「なんだ?ウワァーーーーーッ!」


 先頭の竜騎兵が数匹落下する。

 偶然かも知れないが、照明弾が上がった途端に散開していたのだ。

 王国の竜騎兵よりは頭を使ってるのか?


「と・・・突げ・・・・・」


 収音マイクが遠くの敵の声を拾う。

 うん偶然だったんだね・・・キミは愚か者だ。

 ボクは機銃を掃射し、バラバラと竜騎兵が落下していった。


「な・・・なんだアレは?」


「魔法だっ!グラマトン伯爵は伝説の魔法を復活させたのだっ!!!」


「冗談じゃ無いっ!俺は逃げるぞ」


「フザケルなっ!我ら竜騎兵の誇、ほべっ!!!」


 戦意を失わなかった竜騎兵を機銃で撃ち落とした。

 うんキミは勇敢なんだろうけどね・・・未知の相手に突っ込む様じゃ長生き出来無いよ?

 ホラ簡単に撃ち殺されちゃったじゃ無いか♪


 ボクは竜騎兵隊の上方へ一掃射する。

 すると竜騎兵は算を乱して撤退した。


「良かったね・・・帰らなかったら皆殺しだったよ」


 ボクは機体を翻し街へ向かった。




 半島の先に作られた街が防壁に囲まれてるのは、なにも身内から身を護る為に作った訳では無いのだろう。

 明らかに諸外国からの侵略に備えられた筈の防壁は、投石器(カタパルト)で穴だらけにされていた。

 皆でやれば怖くないって言葉が有った・・・身長5メートル程度の巨人じゃ威圧感が足りなかったか?

 だがこれ以上大きくしては実用性が失われる・・・兵器はコンパクトな方が良い。


 やったのはグルースだろう・・・防壁に近い所でカタパルトが何基か潰されていた。

 それより離れ矢を打ち尽くしたバリスタで投石をしている。

 ボクは上空から機銃掃射して5基のバリスタを粉砕した。


 3機のドラグールが、コチラを見上げている。

 ドラグールと偵察機それに揚陸艇には無線機が積んであるが、ファルケンには積んでいなかった。

 ボクはドラグールの近くに着陸するとシールドを開いた。


「ユーキお嬢様ですか?」


 ジェイソンだった。


「父上はっ!」


「この山の向こうで防戦中です。崖沿いですが、けっこう広い道が有ります」


 軍議の時見ていたが、それほど広い道には見えなかった。

 だが本当に広いなら、進軍も容易い事だろう。


「敵の指令はドコから出てる?」


「あの丘の向こうに陣取ってるんじゃ無いかの?」


 ジェイソンではなく防壁に居た守兵のお爺さんが言った。


「本当?」


「多分の・・・この度の出征は、ズーメン子爵が指揮してるらしいしの。あの男は鍛錬とか訓練が大嫌いでの、間違いなく楽な場所で踏ん反り返っている筈じゃ。この戦いでベス様の御身と領地を狙ってるんじゃ」


 呆れた感じで老兵は溜息を吐いている。


「もともとベス様に懸想してたんだが・・・ベス様の好みは鍛えられた武人で、スマートなタイプなんじゃ。しつこいモンじゃから好みじゃ無いと手酷く振られ、逆恨みしてるんじゃよ」


 そう言ってボクに問い掛ける。


「お嬢様の父上がベス様の好みじゃ・・・気を付けるんじゃな?」


「何を?そんな事よりズーメン子爵って、どんな奴なの?」


「一言で言えば・・・ブタじゃの」


「それなら身体を鍛えて痩せれば良いのに」


「いや体格は肥満では有るが、それ程でも無いの・・・ブタなのは性格と、それが滲み出た顔じゃの」


 ボクは心の中で思った。


 ❝OUT❞




 ドラグールは3機しか居ないのでプレッシャーが足らず、敵は取り囲むだけで城壁まで来ない。

 ドラグールが前に出ると蜘蛛の子を散らすように散開し、見えなくなるとまた集まる限が無い状態だった。

 このままでは対峙している兵が逃げられないから、何とか撤退させなければ・・・・・


 ふとボクは彼等が背負っている樽が目に留まりる・・・そんな物背負ってるから舐められてるんじゃ無いか?


「お爺ちゃん、ズーメンが陣取ってそうな場所って正確な位置が解る?」


「あの三本杉が並んでる丘が有るじゃろ?ここから三本杉を真っ直ぐ飛び越え、次の丘を乗り越えた辺りじゃ。臆病者のズーメンは自分が大群で囲まれて無いと不安がる奴じゃ・・・この辺にはそんな平地はアソコにしかない」


 なんだ簡単じゃ無いか?


「ジェイソン、残ってる偽水の樽を集めてっ!幾つ残ってる?」


「エ~と私が2で部下が1樽づつ有ったかな?」


「大至急2個づつ結わえて、持ち運べるようにしてっ!」




 左右の手に樽を二個づつ持つと、ボクのファルケンは夜空に飛び立った。

 空は漆黒の闇、雲が出て来て星空を覆ったのだ。

 ターゲットを見付けるのは難しいかと思ったが、丘を一つ越えると二つ目の丘には後光が射してる様に見えた。


 こんなに煌々と篝火を焚いて、ここに大将居ますって教えてる様なモノだった。

 この世界はそんなモノなのか?せめてグルースはマトモだと思いたいな・・・・・そう思いながら敵陣の上空1500メートルまで上昇した。


 偽水に水を一滴垂らすと、連鎖反応を起こして全ての偽水が水に変わる。

 しかし湿気に晒される程度なら余程長い間晒さないと劣化しないし、逆に気化した偽水は空気中の水気を弾く。


 敵陣上空1500メートルでボクは左手の樽を上に投げ、続いて右手の樽を両手に持ち直し構えると落ちて来た樽に叩き付けた。

 ぶつかり合って弾けた樽は、上空に偽水を気化させながら撒き散らした。

 ゆっくりと霧状の偽水が敵陣に降り注ぎ、そこへ照明弾を一発撃ち込んだ。


 ゴパァッ!


 下の草原が火球に包まれ、全ての敵兵が薙ぎ倒される。

 燃えたと言うより吹き飛ばされた様な感じだが、幾人かの火達磨も転がり捲っている。


 収音マイクで下の音を拾うが、真面な指示が出ている様子は無かった。

 むしろ爆風に吹き飛ばされ、殆どの敵兵は動けないらしい。

 ファルケンは身を翻し、半島を貫く山脈の向こうへと消える。




 被害も考えずに押し寄せて来る敵兵は正に人海戦術と呼ぶに相応しい・・・しかも敵司令官は後方で部下に猪突猛進を強要してる様だ。

 しかも此方(こちら)から向かうと、すぐに退却する。


「防壁で戦ってる時はマシだったが、コッチはチョッと感心出来ん戦い方だ・・・ロクな指揮官じゃないな」


 押し寄せる敵兵に対しグルースは言ったが、そうは言っても互いに戦争をしている。

 グルースは黙って剣を振るい敵兵を薙ぎ倒して行くと、敵の後方で騒ぎが始まった。


「な・・・なんだアレは?」


 カタパルトから何かが・・・いや樽が飛んで来る。

 そして落下すると同時に、辺り一面が燃え広がった。


「油か・・・仕方ない、橋まで後退しよう」


 偽水程の破壊力は無いが良く燃える油だった。

 私達はバリゲードを放棄して後退する。


 すると次弾を飛ばそうとするカタパルトが、行き成り火花を散らして崩れ落ちる。

 と同時に敵兵の中心に白いドラグール・・・の様な巨人が舞い降りた。


「ユーキ?ユーキだろう?」


 コクピットシールドを上げて怒鳴ると、白い巨人・・・ファルケンが飛んで来てドラグールを蹴飛ばした。

 そのまま砦の壁に突っ込んで引っ繰り返ったドラグールに、ファルケンからの怒声が刺さる。


『馬鹿野郎っ!戦闘中にシールド上げるんじゃネェ!!!』


 くぐもった感じだが間違いない、ユーキの声だ。


『表側の敵兵は、敵の本隊ごと蹴散らしたよっ!後は逃げるだけだっ』


 ユーキの声に皆が歓声を上げる。


「みんな後退しろっ!」


 グルースが叫んだ。

 ドラグールで敵を牽制しながら、友軍は雪崩を打って退却する。


「ユーキ、橋を落とせっ!」


 ファルケンは上空へ飛び上がると眼下の橋に機銃を掃射し、その後手荒く橋に飛び降りて踏み躙った。

 木造の橋がガラガラと崩れ落ちるが、巻き込まれる前にファルケンが飛び上がった。

 そしてカタパルトの残骸近くに積まれた、樽の山に銃弾を打ち込んだ。


 ゴォ~~~~~ッ!


 凄まじい轟音を立て辺り一面が炎に包まれる。

 眼の前に立ち塞がる炎の壁を見て、敵軍は追跡を断念するのであった。




   -------------------------


 穏やかな洋上を巨大な船が進み、その甲板は笑いに包まれていた。

 渋い二枚目な中年男性と幼い少女が、睨み合いながら互いの両頬を抓り上げ左右に引っ張ってるのだ。


「あんなカッコイイの隠してる何て狡いぞ~~~っ!アレはパパに使わせなさいっ!」


「ザケンナよ~~~っ!ドラグールだって奪ったくせに、ファルケンは絶対渡さないからなっ」


「ほ~~~ぅ♪アレはファルケンと言う名前か良い名前じゃ無いか」


「良い名前だろう?ヤラナイからなっ!」


「チビの内から戦争に出たがるんじゃない!」


「どの道この世界で生きるなら、慣れるしか無いと抜かしただろ?」


「いくら何でも早過ぎないか?」


「早いか遅いかの違いだっ!」


「渡せっ!」


「渡さんっ!」


「チョーだいっ!」


「駄目っ!」


「お願いっ!」


「嫌だっ!」


 このレベルの低い争いは、ベス伯爵が仲裁するまで続いたと言う。

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