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No.01 嫌いじゃ無いんだけどさ・・・元々ボクは魔法よりロボット(リアル系)に興味が有ったんだ♪


 眼を開いて焦点が定まって来ると、視界に入って来たのは髭面のオジ様だった・・・そうオジ様と言う表現がピッタリな渋い二枚目の外人男性である。

 ボクは痛む頭を振って意識をハッキリさせようとするが、むしろ頭痛が酷くなった。

 するとオジ様は木の器に白く濁った液体を注いでボクに差し出した。


「アリガトウ」


 ボクは御礼を言って器を取ると中の液体を飲む。

 しつこく無い甘さでスッキリした飲み心地の液体は、おそらく甘酒に近い物だろう。

 よく冷えてて美味しかった。


「私はグルースニクと言う・・・オマエ何所(どこ)から来たんだ?素っ裸で砂漠に転がってたんだぞ」


 どうやら日本語は通じる様だ。

 それも随分流暢な日本語で話す・・・ハーフかも知れない。

 ところで砂漠?鳥取砂丘の事かな・・・ドチラにしろ砂漠とは大袈裟な!

 だが素っ裸と言うのは聞き捨て成らず、自分の姿を確認すると毛布の下は全裸である。


「心配しなくてもオマエの様なチビスケに何もしていないよ。こんな砂漠の真ん中に裸で一体何をしてたのだ?」


 そう言われても・・・何をしてたのだろう?

 考えると治まっていた頭痛がブリ返した。


「奴隷商人にでも攫われて逃げ出したのか?」


「ハァ?」


 冗談にしても面白く無いなと思う。

 日本で奴隷狩りなんて有ったの、安土桃山位までの筈だ。

 もっともソレに近いモノは、近年まで存在していたらしいが、


「オマエ名前は?」


「ユウキ・・・夕樹(ユウキ)武神(たけがみ)


「ユキ?」


「ユウキだよ」


「ユウウキ?」


「ユウキッ!」


「ユーキ?」


「・・・・・ユーキで良いよ・・・・・」


 どうやら彼にはボクの固有名詞を発音するのが難しいらしい。

 だが・・・彼の背後にあるガラスもはまって無い窓を見て、それ処じゃ無い事に気が付いた。


「名前は正確に覚えないと駄目だ!オマエの家族を探すのに、正確な名前を伝えないと探す事も出来ない」


 その時グルースニクはユウキの眼が驚愕に見開かれてる事に気が付く。


「いや・・・ユーキで良いんだ。どうやらコノ世界には、ボクを知ってる関係者は居ないらしい」


 見開かれた()()()の眼が見ているのは、窓の向こうの空に浮かぶ巨大な二つの月だった。




    -------------------------


 ゲームやアニメの世界で表現される様な極端に大きな月が二つも浮いてるのには度肝を抜かれたが、この世界は月が四つも有り全ての月が夜空に揃う時も有るそうだ。


 まあソレは置いといて状況を確認する・・・先ずボクは武神ユウキ改めユーキ、これでも中学1年生で中々の美少女である。

 自分で言うな?

 ウルセイやい!

 これでもよく「顔だけならアイドルでも子役でも出来る」と言われてたんだ・・・「胸と女らしさが足りない」とも言われたけどな(怒)

 成長途中の中学生に何を求めてるんだ!

 まあ私服だと小学生低学年?と言われる事も多い・・・だが言った奴等(主に兄達やクラスメイト)には当然の権利として得意のプロレス技でタップさせるんだ、けど何で逆に喜んでるんだよオメェ等はっ!


 一人称が「ボク」なのは育った環境の所為、母さんは物心つく前に他界し兄4人と父に可愛がられ、オヤジの秘蔵コレクションであるリアルロボット系アニメのBDやDVDを見て育つ、すると絶滅危惧種どころか実際は存在しないと言われる幻想種「ボクッ娘」が出来上がって仕舞ったのだ。


 学校では陸上部の短距離と剣道部を掛け持ちし両方で全国大会優勝経験あり、さらに趣味である科学工学部も掛け持ちしていた。

 趣味はアニメとゲームにプラモデル制作それに読書、ジャンルに好みは無くラノベから一般小説はては図書館で工業系の入門書や工芸品の読み物を見るのも好きだった。

 つまり女らしさとは程遠い性格をしている・・・ウン自覚は有るんだよ(涙)



 多分ボクは❝死んで転生し、転生してから今日までの記憶を失ってる❞か、爆発か何かに巻き込まれて異世界へ転移したらしい。

 と言うのはニュースで特大の隕石が落ちて来ると騒いでいたのと、最後の記憶が眩しい光に包まれていた事を、頭痛が治まってから思い出したからだ。

 学者先生の見解では特大隕石は相模湾に落ちる筈だったが、計算が狂って陸地に居たボクの上に落ちて仕舞ったのだろう。

 まあ家にはボクしか居なかったのが不幸中の幸いだ。


 そしてボクは砂漠にある谷の中で倒れていた所を、ヨーロッパの伝承か神話に出て来る英雄か精霊に似た名前の彼に拾われたって訳だ。

 グルースニクいやグルースと呼べと言った彼は学者とか賢者とか錬金術師の様な人物で、谷の中に有る古びた城を改造した工房で日夜研究の日々を送っていた。

 ただしこの世界には神学とか錬金術と言う概念は無いそうだ。


 この世界で一般の化学や文化レベルはグルースの話から中世くらいに見えるが、彼の知識はそのレベルを明らかに凌駕している。

 先ず彼は電気を理解しており電灯・ラジオ(当然、無線機も)そして地球より遥かに強力なモーターに常識外れの蓄積量を持つ充電池、更に電気を流すと急激に伸縮する金属繊維や有線で意思を伝え動作するシステムを開発していた。

 これだけでも地球に持って行けばノーベル賞でドミノ倒しが出来るだろう!


 しかも彼が開発した「水素と酸素を水以外の形で化合させたモノ」である偽水とフローティング・クリスタル、これがトンデモ無い代物だった。


 偽水はどんなに大量に在ろうと一滴でも水が混じれば即座に全てが唯の水に変わるクセに、偽水の状態で火をつけると凄まじい爆発と大量の電気を放出しながら水蒸気に変わる、正に完全なるクリーンエネルギーだった。

 しかも効率は地球上の燃料と比べ物に成らないのは見てるだけで理解出来る。


 そしてフローティング・クリスタルは電気を流すとクリスタルを中心に反重力を発生させるモノ、重力と反重力で相殺された物体は重力下でもプカプカ浮かび上がる。

 そんな動きをするロボットで活躍するゲームを兄貴から借りたっけ?




「私はね・・・自由に空を飛んでみたかったんだよ。ただソレだけだったんだ・・・・・」


 グルースは寂しそうに言った。

 どこか貴族然として気品が滲む彼、この一言で砂漠の中の谷に隠れ住んでいる理由に見当が付く様な気がする。

 電気刺激で伸縮する金属はレシプトエンジンのプロペラ、偽水はジェットまたはロケットのエンジンの燃料として開発した技術らしい。


 そんな彼は今いかにも貴族と言った感じのゴージャスな服を着て、キレイに髭を剃り髪を整えてワイングラスを傾ける・・・ハッキリ言って「凄いイケメンのオジ様」にバージョンアップしていた。

 オヤジのロボットアニメコレクションに15少年漂流記をモチーフにしたものが有ったがソレのライバルキャラか、剣で戦う格闘ゲームでサーベルを使う悪役系のキャラに似ている気がする。

 先程までの愁いを帯びた表情は何処へやら、御機嫌でボクにも酒を進め子供に酒を飲ませて良いのかと聞いたところ・・・「駄目なのか?」と逆に聞き返された。


 コノ世界では未成年者の飲酒に対するタブーは「ガキのくせに生意気だ」と言う点のみ!

 保護者同伴なら飲酒も全く問題無い、ただ推奨はされては無く普通子供に飲ませない程度の良識は有るそうだ。


「今日は私の理論が正しかった事が、異世界からの小さな客人によって証明された!こんなに嬉しい事は無い・・・今日のは祝い酒だから最初の一杯くらい付き合ってくれ♪」


 と上機嫌で飲まされた。

 もっとも二杯目以降用に葡萄ジュースを用意してくれたから、乾杯くらい付き合って欲しかっただけの様だ。


「証明するだけで良いのか?」


「ユーキは言葉も態度も男の子の様だな・・・で、どう言う意味なんだい?」


 ボクの言葉にグルースは怪訝な顔をする。


「言葉遣いは母さんが早世しちゃって、男家族に囲まれて育った所為だよ。それは兎も角ボクは識者じゃ無いけど、それでもコノ知識が有れば飛躍的に研究が捗ると思うんだ」


 彼はニヤリと悪い笑い方をした。


「交渉しよう」


「要求は衣食住の保証と保護者役を引き受けてくれる事、それにグルースの研究を見てボクも作りたい物が出来たから、そっちの研究に支障が出ない範囲での協力だ」


 彼はグラスを差し出しボクも続く。

 グラスを打ち鳴らす美しい音色が響くと彼は笑顔で言った。


「交渉成立だ♪キミが元の世界に戻れるまで、面倒事を避ける為に親子と言う事にしよう。ユーキよろしくね♪」


「こちらこそヨロシク、グルース父様♪」


「今日から私は君の父親だが、今まで通りグルースで良いよ。ところで・・・」


 交渉が成立して気が抜けたのか、さっきからボクの腹から恥ずかしく音がした。


「君の座ってるソファーの後ろの木箱に食べ物が入ってる。ついでに肴になる様な物も取ってくれ」


「これかな?」


 ボクが後ろを向いてソファの背もたれに身体を預け箱の中を漁っていると、後ろから盛大に溜息が聞こえる。


「早速だが父親としての務めを果たすとしよう」


 そう言うと立ち上がり、ボクの尻をバシンと引っ叩く!


「何するんだよ、Hっ!」


「いくら何でも(はした)ない!もう少し慎みと言うモノを持ちなさいっ」


 言われてみたら確かにその通りだった。

 着る物が無いボクはグルースのシャツ(Tシャツっぽいもの)を一枚借りて着てるだけ、この姿でソファに身体を預けたら背後の人物に対しオシリ丸出しに成って仕舞う。

 呆れる様に見てたグルースの貌も、エヘヘと言う感じで舌を出すボクを見て笑顔に成った。




    -------------------------


 翌日ボクは飲み過ぎて中々起きないグルースをベッドから引っ張り出すと、彼に顔を洗わせ朝食を食べさせる。

 要らないと言った彼に朝食の大切さを延々と語りながら・・・ボクは男の子の様な趣味と言動をしているが案外家庭的で料理上手なのだ・・・まあ原因は父と兄達の家事処理能力が壊滅的でメシマズだったから、伯母によって強制的に仕込まれたのだった。

 伯母は「スマナイねぇ」と言ってたが、食中毒や栄養失調の危険がある以上仕方が無い。


 さて二人でグルースの工房へ赴くと、意外とグルースは大勢のスタッフを抱えてる事を知った。

 そこで彼の試作機見せて貰うと、その問題を指摘した。

 先ずは翼が全く成って無い・・・主翼と尾翼を装備して安定させてるのは中々だが、鳥のように羽を連ねさせた代物だったのだ。

 これは再現出来たとしても羽ばたく鳥に最適な翼で航空機には向かない、なんで素晴らしい動力を開発出来たのにコッチがからっきし何だろう?


 ボクはグルースに揚力など航空力学の基礎(実際ボクも翼の面積が下面より上面の方が多くなる必要がある程度の基礎知識しか知らないけど)を教え込むと、飛ぶだけで前進と緩やかな上昇のみしか出来ない電動レシプトエンジンのプロペラ実験機一号を一週間で造り出した。

 これは電気を流すと伸縮する金属繊維をピストンにしてシリンダーに収め動力としたモノで、ロープで繋がれており実験後は飛んでる機体を手繰り寄せ強引に動力を切る程度のオモチャである。


 さらに遅れる事一週間で偽水を直接爆発させピストンを動かす内燃機関のエンジンも開発した。

 熱処理と燃費それと安定性に難が有るが同じ大きさなら金属繊維より高回転が得られ、感覚から言って内燃機関が2ストローク金属繊維は4ストローク的な特性を更に強くした感じだった。

 なんでそんなに詳しいのかって?ボクの家は牧場で、私有地の中でオヤジ様のバイクRGV250やNinja750を乗り回してたからさ。


 同時に航空機に必要なヨー・ピッチ・ロールが出来る機能を、そして地上から有線式リモートコントロール出来る機体も開発した。

 その大きさを徐々にスケールアップさせながら、2か月後には試作の搭乗型複葉機を完成させた。

 テストパイロットはボクがやると言ったが、グルースは一歩も引かずに乗り込んで見事に世界初飛行を完遂する。




「だから股間下にハンドルを設置して、緊急時にはソレを引くとフローティング・クリスタルに電気を流れる様にするんだ!そうすれば地上と激突して死ぬ事を防げし、これを墜落死と言って結構頻発する事故だったんだよ」


「ユーキが言っていた脱出装置とパラシュートは、理論として理解出来るが開発の目途が立って居ない。炸薬でパイロットを射出するよりフローティング・クリスタルで機体ごと浮かべ、ユックリ地上に下ろす方が安全だろう」


「だったら機体に消火機能も付けた方が良いね?出来れば自動の方が良いけど、たとえ手動でも安全性が増すと思うんだ」


 晩飯のカレーライスを食べながらグルースと話し合う。

 この谷に隠されたグルースの工房には皆で食べられる大きな食堂も在る。

 だが出入りの商人に材料を揃えさせて地球の料理を再現したら、グルースが夢中に成って彼の晩ご飯の支度はボクの仕事に成った。


「ところで工房を船の中に移す事に対して、何も聞かないのかい?」


 グルースから質問される。


 実は今居る谷は片方は砂漠もう片方は海に繋がっていて、海の方はフィヨルドの様に急に深く成っていた。

 そこに多分だけど空母かタンカー並の規模を持つ巨大な船が浮かんでる、が本物を間近で見たり乗った事は無いから断言は出来ない。


「航空機なんか軍事利用目的に狙われるだろうし、見付かったら技術を独り占めしようとした権力者に殺されかねないからだろ?こんな辺鄙な場所にグルースが隠れ住んでるのだって、ソレが理由なんじゃないのか」


 ボクは特製カレーライスを掻き込みながら言った。

 もうすぐ付き合って半年、彼の事も朧気ながら解って来た様な気がする。


「それだけじゃ無い・・・ユーキと協力して作り上げた内燃機関も、大変危険な代物だ」


「ボクが手を貸すまでも無く、ほとんど完成してたじゃ無いか」


「電動伸縮金属繊維では内燃機関ほど高出力は出せない」


「出力の定義によるけど電動伸縮金属繊維にも利点は有るさ♪ところで電動伸縮金属繊維って長過ぎて言い難いね・・・電筋繊維いやマッスルメタルなんて如何だろう?」


「いいね!」


 言いながらグルースは船の設計図を広げる。


「ユーキが作業用車両を作ってくれたから、たった半年で船の完成に目途が付いた。他の技術も軒並みに進んでいる・・・異世界の知識とは素晴らしいモノだね」


 今の船は彼が造っていた船を解体し、それを材料にボクの協力の元一から造り直したモノである。

 船体は安定性を重視しての双胴船で強度を保つために一体化構造、左右の船体には底部に筒状スペースを設け中に大型二重スクリューを装備した水中ジェットエンジンに、更に側面には開閉扉付きジェット排出口を設けて横方向スライド移動を可能にした。

 上部甲板は起伏の無い一枚板で勿論だが滑走路として使用可能、艦橋は右甲板後部に設置される予定である。


「来月にはジェットエンジンの実験も始まるし、船の方は大方配下に任せられる所まで進んだ。そろそろユーキの方の造りたい物に、手を付けても良いんじゃ無いか?」


 グルースの言葉に思わず笑みを浮かべて仕舞う。


「ボクの造りたい物はボクの世界でも実用化されていない、物語の中での創作物に過ぎないんだ。でもグルースが力を貸してくれたら、実用化が可能かも知れない!ところで・・・・・」


 そっとボクは立ち上がり、足音を忍ばせて扉に移動すると行き成り開いた。

 アニメの表現の様な雪崩で室内の転がり込んだグルースのスタッフ達、でも多分グルースを「御館様」ボクも「お嬢様」と呼ぶ彼等は貴族であるグルースの家臣なのだろう。

 もっともソレにしては行儀が悪いが、グルースが咎めないのなら何も問題無い。


「オマエ達は何してるんだ・・・・・」


 流石に呆れる様に咎めるグルースに、先頭かつ最下層で埋もれてた女性が大きな声で訴えた。


「だってこんな美味しそうな匂い漂わせて、御館様達だけ食べてるなんてズルイにも程が有りますよっ!私達だって食べたい、お零れに預かれないんですか?」


 本当に半泣きに成って訴えるスタッフ達、皆が手に皿とスプーンを持って来ていた。


「だって皆にも食べられる様に、作るか作り方を教えようかってボク言ったんだよ!でもシェフ長が厨房は男のとか、女子供は入って来るなとか・・・・・」


 すると漫画的に積み重なっている家臣の皆様、その背後からスゴスゴとシェフ長が現われる。

 ならず者にしか見えない彼が、帽子を取ると頭はキレイにボウズに成っていた。


「先日は大変失礼いたしました。どうかレシピを伝授して下さい・・・さもないと皆に、特に女房に撲殺されます!」


 彼の背後には鈍器いやフライパンを持った奥さんが立って居る。


「ここでNOって言ったら面白いだろな」


「狙ってやってたんだろうが、あまり虐めてやるなよ」


 グルースが言う通りシェフ長に冷たくされてから、ワザと香りの強いメニューを作り続けてました♪

 取り合えず皆で食べられるほど作ってないし、明日はコロッケの作り方を教えるって事で引き下がって貰った。

 だがカレーライスが食べられるまで、シェフ長の立場は無いんだろな・・・・・


「オカワリしても良いかね?」


 皆が引き下がったのを確認し、細マッチョな健啖家であるグルースは言った。

 大盛りで用意しながらボクは彼に希望する。


「特にボクが必要としてるのはマッスルメタルとジェット推進機そしてパワーモーター、他にも貴男が開発した技術を全て盛り込まないと、実現は難しいと思います」


 彼は楽しそうにボクを見返すと、頭を撫でながら言った。


「何度も私を驚かしてくれる小さなレディーは、今度はどんな楽しみを与えてくれるのだろうね」


「これは一人で造り上げたいんだ。でも助言を求めても良いですか?その代わり完成したなら大いに脅かし、そして楽しませて差し上げますから期待して下さい父様っ♪」




 翌日・・・全く女の子らしくないなあと苦笑しながらも、ボクは自分の夢に向かって一歩踏み出す。

 与えられた一棟の工房の壁に、設計図を張り付けながら・・・・・




    -------------------------


 この世界にボクが来て一年近く経ち、向こうで無事に生き続けてたら中学2年生に成ってた筈だ。

 ここへ来たとき向こうは冬だったが、こちらは逆に春だったらしい。

 だが一年中熱い砂漠じゃ実感は無かった。


「意思や感覚を伝え動作するシステムは、微弱な電気信号で稼働している。ならコクピットとシステムは絶縁体で覆わないと、外部から干渉されてしまうな」


「強度も必要だね。このシステムはボクの作品には必須だ・・・操縦桿などで動かすのは不可能、あくまでソレは補足に過ぎない」


「ところでアノ小さな容器は何に使うんだい?随分大量に作らせていたが・・・・・」


 ボクは笑って誤魔化した。

 グルースの工房でジェット機の話をしてた筈なのに、いつの間にかボクは自分の研究の相談をしていた。

 ボクの知らない絶縁素材に関して御教授して頂いてると、休憩から戻った工房スタッフがグルースに声をかける。


「御館様、副騎士団ちょ・・・失礼しました。ローザが御館様を探してましたよ」


 グルースは貴族らしく呼び出す事はせず、自分の脚でローザの元へ向かった。

 ローザが副騎士団長・・・ならジェイソンが騎士団長なのか?

 彼等が騎士団って事なら、それが従うグルースは王族か何かなのだろうか?

 だがグルースが言おうとしないなら、ボクから聞く事はしない積りだ。


 ボクは席を立つと自分の工房に向かった。




 ボクの工房へは普段から誰も入って来なかった。

 グルースが気を利かせ、皆に一言言ってくれてるのだろう。

 ふと机の上にグルースがくれて飛行機の模型に気が付くいた。


 この世界にはファンタジーな素材や技術に溢れているが魔法や超能力は存在せず、ただし余談だがワイバーンなど魔獣に近い存在は居てドコかの国では戦闘用に飼い馴らしているそうだ。

 それに乗れば飛ぶ事が出来るがワイバーンは簡単な命令しか聞かず、それに気性が荒く闘争本能に忠実で飛ぶより何かを襲う事を優先させるらしい。

 つまりワイバーンでは「自由に空を飛ぶ」と言う感じでは無いのだそうだ。


 まあ自分の話に戻すか・・・グルースがボクの希望に合わせて作成・調整してくれたオーダーメイド品のパーツ、それを再度加工・調整しそれ等を組み上げてバランスを取る。

 そんな作業を繰り返し、一応ボクの作品は形に成っていた。

 そろそろ御披露目しても良いだろう。


 この一年で地球の工作機械を色々と再現し、今では車両だけでなくウインチやクレーン、それに作業用パワーアームや可動式作業台も開発した。

 それ等の設備をグルースの工房へ提供し量産している。

 だから一人でも大概の事が出来るし、ボクの作品も一人で組み上げられたのだ。


「ユーキが来てくれた御蔭で10年分の研究が一年で片付くよ」


 少し大袈裟かも知れないがグルースはそう言って感謝してくれる。

 ボクは少し感慨深い思いになっていた。


 すると工房のシャッターを誰かが叩く、出て見ると鎧姿のローザが血相を変えていた。


「お嬢様、大切なモノを大至急、船に移動させて下さい!開発中の物も全てです」


 必死の形相で訴えた。


「何が有った!一体如何したの?」


 説明の時間が無いと言われたら素直に従う気だが一応聞いて見る。


「御館様から・・・御身分や出自に関して、何か聞いてましたか?」


 ボクは首を横に振る。


「この国の王は御館様の弟、本来その玉座は御館様のモノでした。御館様は王位を簒奪され、追われた王族なのです!」


 王族かも知れないとは思っていたが、想像を斜め上に突き破った返答が帰って来た。


「しかも現王は憂いを断つため御館様の命を・・・そして研究成果を奪おうと軍を差し向けて来ました。御館様と騎士団長が谷の入り口にある砦で対抗する手筈ですが、落ちるのは時間の問題です。御館様は我等が洋上に逃れる為の、時間稼ぎをする積りなのです」


「グルースいや父様は如何成るのっ!?」


 短い沈黙、


「砦に向かい・・・死ぬ御覚悟です!お嬢様には御館様より言伝が御座います」


 言葉に詰まる。


「結婚すらした事のない私だが最後に本当の娘が出来て楽しかったよ・・・と、血が繋がって無くともユーキは私の最高に可愛い本当の娘だった。如何か無事逃げ伸びて、幸せになってくれ・・・・・」


「断るっ!」


 ボクの即断にローザの貌が間抜けな表情で凍り付いた。


「来いっ、ローザァ!」


 ボクは怒鳴ると工房の奥へ走る。

 一瞬遅れ慌ててローザが続いた。

 作業台の階段を駆け上がると、簡易型バーニア・バックパックをパワーアームで持ち上げ装備する。


「お嬢様、一体何を?」


 ローザの問いに答えず、ボクはローザに詰問する。


「敵の規模は?」


「えっ?」


「敵の規模だっ!」


 狼狽えながらもローザは答えた。


「およそながら総兵力は1万8千、そのうち騎兵は5千ただし・・・・・」


 ローザは一瞬置いて、


「竜騎兵が250程」


 航空戦力か・・・ボクは考え、装備を変更する。

 竜騎兵とは前に少し名前が出たワイバーンに騎乗する兵である。

 兵はボウガンとランスを手にするが、そんなモノより脅威なのはワイバーンの力であった。


 ワイバーンに腕は無いが器用で強靭な脚を持ち、その鋭い爪なあらゆる装甲を切り裂くそうだ。

 そして何より高度から吐き出す強酸性の胃液は鎧をも溶かし、さらに胃液は強撚性で歯牙を火打石の様に使って火炎放射器の様に火を吐く事も出来る。

 この世界では最強の単体戦闘戦力と言える。


「ただし昨日までは・・・だ!ローザッ、手伝って」


 ボクは下まで駆け降りると、自分の作品を覆っているシートを引っ張った。

 まさか試運転が実戦とは夢にも思わなかった。


「お嬢様、お逃げ下さいっ!お願いですから・・・・・」


 ボクの肩を持って説得しようとするローザ、物語などでは意識を刈り取って逃がそうとする事も有る。

 警戒しながらローザを睨み付ける。


「ローザが100人いれば、何匹位の竜騎兵と戦える?」


 ローザは言葉に詰まったが、すぐに持ち直し答えた。


「私も団長も竜騎兵でした・・・竜さえ居れば私なら3騎、団長なら5騎以上とも互角に戦えるでしょう。でも我等は逃げる時、竜を持ち出す事が出来なかった。歩兵や馬に乗る騎兵では、何百人揃えようと竜騎兵の敵には成り得ません」


 悲しそうに返答するローザ、そんな彼女に・・・ボクは不敵に笑って宣言する。


「ボクなら互角に戦える!250まで倒せるか自信無いけど、竜騎兵ごとき新生グルースニク軍の相手には成らない事に成る!そしてローザにも、そう成って貰うからな」


 ボクは力一杯引くと、シートがボクの作品から落ちた。

 そこに現れたのは甲冑を着た鉄の巨人だった。




「技術の流出を最低限に抑えるため、この工房に有るモノは例えネジ一本でも絶対に残すな!多少壊れても構わないから、全て船に放り込んで出航の準備を進めるんだ。この作業台もクレーンも下は車輌だから、積める物は全て積み込んで車ごと船に乗り込めっ!」


「畏まりましたっ!」


 ボクの指示に駆け付けた工場長が敬礼しながら答える。


「ローザは資材や食料を余す事無く積み込みながら避難誘導!父上は必ず連れ帰るから、いつでも出航出来る様にしておけっ!どうせココの存在が王国に露見した以上、留まる事は出来ない」


 ボクはコクピットのシートに座りベルトを締めた。

 ベルトと言っても上半身を全てシートに押し付ける様な物々しい代物で、身長5mクラスのロボットに乗り込むのだから当然の装備だった。

 シート下にはフローティング・クリスタルが仕込まれた反重力ユニットが設置されており、戦闘時のG軽減や墜落・衝突時の衝撃緩和に役立っている。


「頼むぞ・・・って名前が無いと締まらないな?」


 ボクは暫し考える。

 黒い鉄の巨人はファンタジー的は外見だが、何となく鎧姿と言うだけで中世の騎士らしく見えた。


「その者は後世、小説の中で魔物のモチーフにされた悲劇の王・・・だが彼は間違いなく強大な敵国から故郷を守り、戦い抜いた真の英雄だった。真に厚かましいが、その英雄の名前を拝借させて頂こう。オマエの名前は❝ドラグール❞竜の子ドラグール、亜竜(ワイバーン)でなく真の(ドラゴン)の息子だ!」


 重々しい足音を立て、ドラグールは一歩一歩前に進んだ。

 工房を出たところでローザや工場長に微笑み、背面バーニアの出力を上げるとユックリと機体が前に進む。

 簡易型バーニアパックでは飛ぶ事は出来ないが、かなりの長距離をジャンプする事が出来る。


「黒騎士ドラグール、出撃する!」


 そう宣言するとボクはコクピットシールドを閉鎖した。

 脚底を擦りながら前進し続けたドラグールは、やがて僅かに浮かぶと次の瞬間には轟音を残して飛び去った。




 この谷の入り口にある砦には、何度かユーキを連れて来た事が有る。

 砦と言っても谷を塞ぐ様な大きなモノでは無く、谷底に突出した岩山を要塞化した程度の代物だった。

 これを見たユーキは「真田丸(さなだまる)の様だ」と言ってたが、サナダマルとは一体何なのだろうか?

 聞こう聞こうと思ってたが会えば研究の話に、結局最後まで聞く事が出来なかったな。

 そしてもう聞く事も有るまい・・・・・


 弓や弩を警戒して範囲外から投石機(カタパルト)で攻撃して来るが、こちらもカタパルトやバリスタで反撃する。

 暫くは一進一退の状況が続いたが兵が騒ぎ始め、空を見上げると覆いつくす様な黒い影に包まれていた。

 大袈裟な表現に聞こえるかも知れないが250匹のワイバーンと対峙すれば、またその戦闘能力を知っているなら・・・空を覆い隠されたように感じても仕方ないだろう。


「ここまでか・・・・・」


 私の肩から力が抜ける。

 大分時間は稼げたが、竜騎兵が来た以上時間の問題だろう。

 ワイバーンは長距離を飛び続ける事は出来ない。

 近くの街に竜騎兵の部隊が来た段階で、内通者からの知らせを受け取れただけマシであった。


「さあもう一頑張りしよう!子供が、妻が、家族が、友が、逃げ出せるだけの時間を稼ぐんだ」


 異母弟でもあり玉座を奪ったドドラグは陰湿で執念深い・・・谷の住人は最後まで私に忠誠を誓った家臣とその家族、間違いなく全員殺す積りだろう。


 私は馬に騎乗すると剣を片手に打って出る。


 敗北が決まった以上やる事は敵の数を減らすのみ、それは家族の生存率を上げる手助けにもなる筈だ。

 そう家族の・・・・・


「ユーキ・・・無事に生き延びて、幸せに成ってくれ」


 最後の望みを神に祈り、敵に向かって部下と共に突き進んだ。

 だが私達の手前でワイバーンが上昇して留まった。


 火を吐く積りだ!


 せめて敵に突っ込むまで持たないだろうか?

 甘い考えか?

 何人生き残れるだろう・・・・・かっ?!


 突撃を敢行している私達の馬が脅え、その場で止まって仕舞った。

 だがワイバーンの攻撃は無い・・・彼等もソレ所では無いのだ。


 先程・・・赤い光の尾を引く発行体が飛翔し、ワイバーンより更に上空で弾けた。

 そして降り注ぐのは赤く燃える火球、弱点である羽の被膜に穴を開けたり燃やされながら、次々とワイバーン達は落下して行く。

 軍団の先頭を飛んでいた100匹ほどのワイバーンが一瞬で堕とされた。


「一体何が・・・・・」


 私は赤く発光する飛翔体が飛んで来た背後を振り返り仰ぎ見ると・・・私達が死を覚悟して飛び出した砦が在る岩山、その頂に黒い巨人が直立し佇んでいた。




 広域焼夷榴弾一発で100匹の羽虫を堕とす事が出来た・・・やはり真の竜の前では亜竜など物の数では無いのだ!

 右手のランチャーには広域焼夷榴弾の残弾4発、ボクは算を乱して逃げ惑う竜騎兵の後方へ爆裂距離を設定して射出する。

 数十の竜騎兵がバラバラと落下して行く。


「この火力を見て、退いてくれれば良かったのだが・・・・・」


 残念ながら敵司令官は功を焦ったのか、それとも理解する頭脳が無かったのか?

 全軍を持って総攻撃を仕掛けて来た。


 出来るなら殺す人数は少ない方が良い。

 だがボクは偽善に酔って、仲間に被害を及ばすほど甘ちゃんでも無い。

 覚悟し自覚してランチャーを構えるボクは、彼等の命を奪う死神だ!




 155mm無反動射出砲(ランチャー)・・・口径が大きいので便宜上「射出砲」と記載したが、その外見も概要もリアル系ロボットアニメのバズーカに近い弾倉付きの砲である。

 装弾数は5発で規格さえ合えばミサイル・ロケット・グレネード何でも射出出来、推進機構を持たないモノも付属の推進ユニットと組み合わせた上で規格に合えば使用可能だ。


 今回使用した「広域焼夷榴弾」は弾頭尾底部に設定用の目盛があり、ランチャー装填後も操作して炸裂距離を設定出来た。

 設定距離で炸裂した弾頭は鉄並みに硬い球体を超高速で周辺にバラ撒き物理的なダメージを与える。

 更に固形燃料である球体が高熱を発しながら、二次的被害をもたらすのだ。




 ボクは敵軍が密集する地点を三つ選び、その上空500mへ広域焼夷榴弾を3発射出し炸裂させた。

 有効炸裂範囲は広域と言うだけあって1000m以上あり、その下で敵兵は球弾で射抜かれるか高温に焼き殺されるか二つに一つの運命を辿る。


 更に残った竜騎兵が、グルースを狙って突撃する!

 後で知った事だが、何としても彼だけは殺すよう厳命されてるのだ。

 ボクはバックパックのバーニアを吹かせて飛び上がると、グルースの前に着地して仁王立ちになる。

 加速時や着地の衝撃は殆どない・・・反重力ユニットが良い仕事をしている。


 ランチャーを投げ捨てバックパックに付属しているユニット・ホールディング・アームを伸ばすと、アームに保持されていたファイアアームズ・ユニット「30mm6連・多砲身機関砲」が脇の下から差し出された。




 30mm6連・多砲身機関砲・・・外見はM134ミニガンの砲身を長くしてグリップとトリガーを付けた様な姿だ。

 M134は某マッチョなハリウッドスターのエイリアン物アクション映画などで仲間が使用していたが、その電源とモーターの重量がネックとなり「現実に携行して使用など出来る筈が無い」と言う代物である。

 ただし今現在30mm6連・多砲身機関砲を装備してるのはドラグールで、更にグルースの造り出したコンパクトでハイパワーなモーターは銃身側面にチョコンとユニットが乗る程度、しかも電源のジェネレーターはドラーグール本体内に標準装備である。

 むしろグルースが地球に行ったら、兵士一人でM134を運用する様に改造出来るだろう。




 メイン・マニピュレータで機関砲を受け取り構える。

 アームで保持したまま肩越しに射撃する事も可能だが、マニピュレータつまり腕で持って撃った方が命中率が高いのは試射で確認済みだった。

 バックパック左側面に設置されていた給弾箱(ボックス・マガジン)から金属製分離式弾帯を引き出し、給弾口に差し込んで初弾を発射位置に合せる。

 内臓モーターで砲身を低速で回転させ、照準を上空に合せる。


「墜ちろよ蚊蜻蛉どもめっ!」


 バリバリバリッ!と言う様な形容不可能な轟音を立て、30mm機関砲が文字通り火を噴いた!

 羽を撃ち抜かれ、偶には本体を撃ち抜き、次々とワイバーンが落下していった。

 そのうち戦況に変化が訪れ、竜騎兵が・・・いや騎獣であるワイバーンが、騎兵の指示に逆らい逃げ出し始めたのだ。

 中には騎兵を振り落として逃げるワイバーンもいる・・・彼等ワイバーンの方が騎兵より頭が良い様だ。


 空中のワイバーンが疎らに成ると、今度は地上の敵兵を掃討する・・・と思ったのだが、騎兵と歩兵は既に尻尾を撒いて逃げ出していた。

 ただし望遠カメラと収音マイクで敵に中を探ったところ、指示を出してる司令官らしき騎兵を数人発見した。

 そのうち一人は会話から最高司令官である事が判明する、ボクはコクピット側面の13mmアンチマテリアルライフルで頭部を狙撃した・・・いや上半身を吹っ飛ばして消滅させた。


 予想以上の破壊力に一瞬茫然とする・・・が、指揮官を残すと軍を再編成して再攻撃を企むかも知れない。

 ボクは他の指揮官らしき者も数名狙撃する。

 苦しまない様にヘッドショットを狙ったのだが、全てのターゲットは頭で無く上半身を霧散させて死んだので成功したのかは分からない。

 まあ苦しませない事には成功したと思う。


 それを望遠鏡で見ていたグルースや騎士団長が、残念なモノを見る様な眼でボクを見詰める。

 その眼は明らかに「オマエ何ヤラかしてるんだ」とか「そこまで()ラんでも良いだろう」と語っているが解る。

 オイ止めろ・・・そんな眼でボクを見るんじゃない!


 ボクが悪いのか?

 いやボクが悪い訳じゃない!

 ボクじゃ無いだろう?

 運だ!

 巡り合わせだ!

 星の巡りが悪かったんだ!


 そもそも今ドラグールに搭載されている武装の中で、コクピット両サイドに装備された13mmアンチマテリアルライフルが一番小口径だったんだ。

 アレより小さな武器は無かった・・・偶々だがアレより小さい銃器は無かったんだ。


 そして偶々だが・・・・・アレの中には炸裂弾が入ってたんだ。


 ・・・

 ・・・・・・

 ・・・・・・・・・


 ハイ・・・明らかにオーバーキルでした。

 ウン・・・解ってたんだよ。

 悪いのは全てボクです。




    -------------------------


 洋上を進む船の甲板、此度の戦いも何とか命拾いをした。

 谷の全ての住人と財産そして我等の誇りを乗せ、この新しい名も無い船は新天地を目指して進んで行く。

 この船にも名前を付けなくては成らないだろう。


 だがそんな事より今問題なのは、怒ったユーキお嬢様が御館様に騎士団長の私を加え、死を覚悟して砦に向かった面々を正座させて説教をかましているトコロだ。


 普段の様にユーキが怒り狂って怒鳴り散らすなら、神妙な顔をして嵐が過ぎるのを待っていれば良い。

 だが今日のユーキは泣きながら怒鳴り散らしており、さすがの御館様も反論も出来ず済まなそうな貌をしている。

 ユーキお嬢様の説教は一時間近く続いた。




    -------------------------


 その夜・・・広い甲板上には所々に荷物を積み上げシートが被せられた小山が出来ており、そんな上で横に成ったボクは酒瓶をラッパ呑みしていた。


「この不良娘っ、チビの内から酒なんか飲んだくれていると背が伸びないぞっ!」


 グルースが声をかけてくれた。


「まだ黙って死にに行った事を怒ってるのか?」


 ボクは黙って首を横に振る。


「ところで避難先に心当たり有るの?どこか協力者でも居るの?」


 グルースはポケットから海図を出す。


「この地図の・・・イヤどの国の地図にも乗って無いが、ここに危険な海流が有り海の難所と言われている。その中には大きな島が隠されてて、この情報は私がまだ王子だった時に私財を投げ売って冒険家から買ったんだ」


 グルースが地図の上に汚れた手帳の切れ端を重ねた。

 その切れ端に書かれている事が確かなら、北海道ほど有る巨大な島が存在する。

 簡単に計算して見たが王国の半割ほどの広さが有り、島と言うには少々大きい様な気がする。


「ドドラグが善政を敷くなら、何も言わず消えてやっても良かったんだ。だが・・・あの愚か者ではマトモな政治が出来ないだろうし、それに私を殺す事を諦めるとは思えない。最後には戦う事に成るかも知れないが、取り合えず力を蓄えなくてはな」


 目的地は遠く、暫く海上での生活が続くだろう。

 ドラグールを何機か量産する必要がある・・・あと適性を調べてパイロットも育成しないと成らない。

 本来なら自分が先頭に立って指揮するべきだが、正直対人戦闘を続ける自信は全く無かった。


 そもそもドラグールの武装もノリで作ったら偶然対人戦に有効だっただけで、本来ドラグールも戦闘に導入する気は無かったんだ。

 グルースの危機に激高し、つい本気で戦いに赴いた。

 だがドラグールは、ただ本当にノリだけで作った・・・夢を実現させ様と作っただけの代物だったんだ。


「何を悩んでいるんだ?私では相談するに役不足なのか?」


 暫く考えてから誤魔化せないだろうなと考えて、正直に白状する事にした。


「人を殺したのは初めてなんだ・・・今更に成って膝がガクガク震えて止まらないんだ。酒の力を借りれば眠っちゃえるかなって思ったんだけど」


 グルースが優しくボクの背中を撫でる。


「ユーキには残酷かも知れないが・・・この世界で生きていくなら慣れるしかないな。この世界では人の命は非常に安く、簡単に奪いに来る外道は多い・・・・・」


 地球だって中世頃は、そんな感じだっただろう。

 だが・・・


「ボクの居た国は暫く戦争が無くってね・・・だから死なんて自然死か事故くらいしか周りに無くて、まあ頭が壊れた馬鹿が偶に殺人事件を起こすけどね」


 ボクは月と星に照らされた海面が、波をキラキラと光を反射して、意外なほど明るい海を眺めていた。

 グルースは隣に座ると、ボクの肩を優しく抱いた。


「私にも呑ませてくれ、ユーキが眠れるまで付き合おう」


 ボクは黙って酒瓶を差突き出すと、グルースは一口飲んで言った。


「これは随分旨いな・・・チョッと待てユーキ、これはドコから持って来た?」


「グルースの私物から、飲んじゃ拙かった?」


「ユーキこれはな・・・いや何でもない」


 グルースは酒瓶を差し出し、ボク達は交互にソレを流し込む。

 やがて漸く眠りに落ちたボクは、随分と安らかで気持ち良く眠れた。

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