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七章『素直じゃない』

「お疲れさん」

 浜辺に降りてきた凛に声をかける。

「疲れましたぁ」

「ほら。水分補給」

「ありがとうございます」

 スポーツドリンクを投げてよこすと凛はそのままこくこくと飲み始める。

「初めての試合はどうだった?」

「大変でしたけど、楽しかったです」

「そうか」

 俺は頷いて綾瀬の方に視線を送る。

「な、なによ……」

「綾瀬もよく頑張ったな。お疲れさん」

「慰めならけっこうよ」

 ふんっとそっぽを向いてしまう。

 相変わらずだな。

 肩をすくめていると俺たちのもとに秋月先生もやってくる。

「どうだ? 一人の力だけで勝てるほど穹戯は甘くないということが少しは分かっただろう?」

「はい……」

 秋月先生に言われて綾瀬は反省したようにしゅんと俯く。

「今回のことでよく分かったわ。セコンドの存在がどれだけ大切かってこともね……」

「じゃあ、約束のことなんだが……」

声をかけると、綾瀬は観念したように手を挙げる。

「はいはい。分かってるわよ。負けよ、負け。私の負けだわ」

 そうして、胸の前でもじもじと手をこすり合わせる。

 気恥ずかしそうに視線を横に逸らすと、

「あなたのことをバカにしてごめんなさい。これからはあなたのことをコーチとして認めるわ」

「そうか。なら、よろしくな」

 俺はうなずくと手を差し出す。

「……よろしく」

 少し躊躇う様子を見せたが、そろそろとこちらの手を握ってくる。

「それじゃあ、今日は帰るか」

 踵を返そうとすると、秋月先生が声をかけてくる。

「そういえば、お前たち。競技用のフライングシューズは持ってないのか?」

「あっ、そういえば」

 思い出したように凛と綾瀬の足元に目を向ける。

 確かに凛と綾瀬は試合用のフライングシューズをまだ持っていない。

 秋月先生が提案するように声を上げる。

「それなら明日にでも一緒に買いに行ってきたらどうだ」

「でも明日は学校があるでしょ……」

「なに、部活の都合で休むんだ。公欠届でも出しとけばいい。他の教師には私から話を通しておくから渚。明日一日、付き合ってやれ」

 秋月先生はしれっと答える。

 あんた、まがいなりにも教師だろ……。

「大体、明日は鷺沢女学園の生徒も授業があるでしょうに」

 ため息を吐きながら凛と綾瀬の方を見やるが、二人とも首を振る。

「別に、私たちのところは明日、授業はないわよ」

「そうですね。ですからわたし、夕凪さんと一緒に見に行きたいです!」

 凛の後ろで、はちきれんばかりに尻尾がふられているのが幻視できる。

「まあ、別に私も行ってあげなくはないけど」

 綾瀬は素っ気なく答える。

 その反応を確認すると、秋月先生は満足そうに頷く。

「それじゃあ決まりだな。渚、明日はこいつらの買い物に付き添ってこい」

「まったく……分かりましたよ」

 俺は肩をすくめると、しぶしぶ了承したのだった。

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