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三章『出張と負担』

「ただいま。今日も仕事だったのか?」

 リビングに行くと休日だというのに父親はスーツ姿だった。

「急に部下が風邪で来れなくなったみたいでな。その分の仕事を片付けに行ってたんだ。にしてもなんどうしたんだ? 今日は妙に遅かったじゃないか。朝から出かけてたみたいだし何か予定でもあったのか?」

「いや、ちょっとな……」

 俺は首を振る。

 母親が亡くなって以来、父親はいくぶんか明るくなった気がする。仕事で疲れているだろうに。余計な気を回してしまっているのかもしれない。

 こんなことを言ったら『お前はまだ子供なんだから子供の内はもっと親に甘えとけ』と言ってくるだろう。

「あのな、ちょっといいか?」

 そんなことを考えていると父親がテーブルの方へと手招いていた。何かあるのだろうか。

 テーブルにはすでに料理が並んでいるというのに、手をつける素振りはない。

「あのだな……」

 俺がテーブルにつくと噛んで含めるように言葉を続ける。

「すまん、渚。父さん、会社の出張でちょっとばかり千葉の方まで行かないといけなくなった」

 そうして謝るように両手を合わせる。

「出張ってどれくらいなんだ?」

 まさか、半年、一年、それとも……もっとだろうか?

 父親の表情に深刻そうな影が落ちる。そうして、生憎そうに声を沈めると。

「い、一ヶ月だ……」

「……いや、それぐらいなら大丈夫だから行ってこいよ……」

 もっと長期間だと思っていた分、拍子抜けしてしまう。

「一ヶ月とはいえ、しばらく一人になるんだぞ!? 本当に大丈夫なのか?」

「大丈夫だって、だからさっさと行ってこい」

 ーーにしても、しばらく一人暮らしになるのか。

「すまんな」

 父親は申し訳なさそうに頭を下げる。

「生活費とかはちゃんと振り込むから心配してくれなくていいが、身の回りのことは大丈夫か」

「まあ、そこは大丈夫だと思う」

 今まで二人で生活して来たのだ家事ぐらいはできる。

 俺はなるべく心配をかけないように出来るだけ明るい口調で答えたが、心の中ではまた余計な負担をかけてしまっているのではないかという後ろめたさもあった。

「ほら、夕飯冷めちゃうだろうし、先に食べようぜ」

 そうして、空気を紛らわすように話を逸らす。

「あぁ、そうだな」

 そんなこんなで食器を動かす音が二つ増え、いつも通りの食卓に戻る。

 父親はああ言っていたが、これから少し生活がキツくなるなと思った。

 出張となるとそれなりに費用も重なるだろう。男手ひとつで育てている身にとってはかなりの痛手のはずだ。

 食器を動かしていた手を止める。

 俺が出来ることは何かないのだろうか……。

 そんな思いが俺の中で渦巻いていた。


 飯を食べ終わって風呂に入るとそのままベッドに倒れ込んだ。

 風呂に浸かりながら、なにか出来ることがないか考えていたのだが……。

 天井へ伸ばされた手に握られている封筒を見る。

「ははっ。やっぱり、これしかないよなぁ」

 今俺が出来る負担を軽減させる最大限の方法。

 薄く苦笑いを浮かべながら俺はその封筒の中身に手を伸ばした。

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