最終幕間『裏話』
「こうして、君と会うのもずいぶんと久しぶりだな」
テーブルの上に置かれた来客用のティーカップに口をつけながら、ちらりと視線を上げる。
背丈に合わない豪奢な椅子から足を垂らしながら、同じようにティーカップを美味しそうに飲んでいる合法ロリがいる。
白鷺女学園の理事長室である。
少女が不服そうにぷくうっと、おもちみたいに、ほおをふくらませる。
「わたくしも好きでこんな威厳のない姿をしているわけではなのですが……」
「そうか? 私は昔と変わらない姿のままのお前を羨ましいと思うがな」
「わたくしはあなたみたいなすらっとした大人になりたかったです」
「お互い相手が羨ましいということだな」
「そうみたいですね」
ふたりそろって苦笑すると。
「それで? 今回来たのはどういったご用件でしょう」
「なんだ、藪から棒に。私が今まで君に依頼をしたことがあったみたいな口ぶりだな」
「ええ、ありましたよ。つい最近、一人の男性を鷺沢女学院のコーチにしてほしいと」
「そんなこともあったな。だが、今回はそういうのじゃないんだ。単にお礼を言いたくてな」
そうして、私は深々と頭を下げる。
「渚のことを引き受けてくれてありがとう」
「いえ、気にしないでください」
鷺沢は涼しそうな顔でそう返す。
「わたくしも彼については個人的に興味がありますから」
思わず苦笑する。
「忘れていたよ。昔からお前も相当な穹戯バカだったな」
鷺沢は得意げに胸をそらす。
「有望な選手は全員チェックしてますので。今回の依頼金に関してもわたくし個人の感情も多分に含まれてますし。それに、わたくしも彼には穹戯の世界に戻ってきてほしいですから」
「それはまだ、少し先になりそうだがな……。これでようやく私も肩の荷がおりた気がするよ」
肩をすくめてみせる。
「ところで、あなたは穹戯の世界には戻らないのですか?」
私は首を振る。
「渚のことも私の弱さが生んだ罪の一つだ。私は渚を守ってやれなかったからな。それに、私は私の罪が消えるまで穹戯に戻ることはないさ。これで私もようやくスタートラインに立てた気がするよ」
「まったく……」
鷺沢がこれみよがしにため息を吐く。
「彼もそうですが、あなたのことも待っている人がいることは忘れないでくださいね」
ちらりとこちらを見上げる。
「まあ、わたくしはいつまでも待たせていただきます……。待つのは得意ですので」
「私の残りの罪が全て許された時はまた穹戯の世界へ戻ると約束するよ」
鷺沢は驚いたように見つめると、
「あなたは今も昔も誰かのためを思って動いている。まったく……誰かさんとそっくりですね」
そう言って笑いだす。
「言ってる意味が理解できんが。このあと時間はあるか? お礼に久しぶりに一緒に外食でもしないか?」
「それはいいですね。書類の整理がまだまだ残ってはいますが、そういうことでしたら爆速で終わらせます」
鷺沢は私から書類に視線を移すと淡々と書類整理に戻っていった。




