幕間『もう一度……』
鷺沢女学園。
わたし。白波凛は七海ちゃんから「話がある」と校門前まで呼び出されていました。
「来てくれたようでよかったわ」
声とともに門の影がゆらめいたかと思うと。
そこからニュッと七海ちゃんが姿を表します。
「あなたに話があるの」
七海ちゃんはそう言うとわたしに一歩分、身体を近づけました。
「今日の練習に秋月さんが来たことどう思ってる?」
「どう……って、秋月先生は夕凪さんが風邪を引いたから代わりに来たって言ってたじゃないですか」
七海ちゃんが訝しげに視線を細めます。
「あなた……本気でそれ、信じてるわけ?」
「ふぇ……? だって、先生がそう言ってたし……」
先生が言ってるなら本当なのではないでしょうか。
七海ちゃんは呆れたようにため息を吐きます。
「まぁいいわ……。それより、なんで。あいつが私たちのコーチになったか、知ってる?」
「あいつ、って……夕凪さんのこと?」
「そう、不思議に思わなかった? 私たちみたいな小学生には普通、大人のコーチが付くはずでしょう? いくらここの学園長の方針だとしても、一学生に過ぎない彼が私たちのコーチに就くなんておかしいと思わない?」
「そう、かな……」
「だって、学生の本文は勉強のはずでしょ? それなら余計、私たちのコーチをするなんておかしいわよ。それに、今日。あいつが風邪で休んだってのも嘘だと思ってる」
「なんで、そう思うの?」
わたしは首を傾げます。
「だって、他人の健康について気を使ってとやかく言うあいつが、自分の健康をおろそかにするとでも思う?」
そういえば、夕凪さんはわたちたちの健康に気を使って特製の栄養ドリンクを作ってくれたり、練習後にしておいた方がいいことなども色々教えてくれました。
「じゃあ、夕凪さんはどうして来ないんでしょう?」
七海ちゃんは首を振ります。
「さぁね。私にもわからないわ。けど、合宿の最終日にあいつの様子がおかしかったことと関係あるかもしれない。まぁ、これは私の勘だけどね」
七海ちゃんは苦笑します。
「だからね、私。あいつのことを色々と調べて見たのよ」
「調べたって……どうしたの?」
「私の家の力を使えば簡単なことよ」
七海ちゃんは胸を晒して得意げに言うとカバンから折りたたみ式ノートパソコンを取り出しました。
「これね」
七海ちゃんはカーソルを操作してあるファイルを開きます。
そこには夕凪さんの昔についてのことが詳細に書かれていました。
「調べてみてわかったわ。どうりでおかしいと思ったのよ。なんで、あいつが私たちのコーチになったか」
七海ちゃんは資料の一部をアップにしてみせます。
「どうやら、私たちと同じくらいの頃に大会で優勝してるみたいね。調べてみたけど、そこから中二まで大会を総なめしてたみたい。周りからも期待の天才としてもてはやされてたみたいね」
わたしはある部分に引っかかります。
「中学二年生までって、その後はどうしたの?」
わたしの質問に七海ちゃんの画面をスクロールしていた手が止まります。
「中三で一度、優勝を逃してから。それ以降、大会に出た記録はないわね。完全に表舞台から姿を消してるわ。たぶん、合宿の最終日に様子がおかしかったのもこれが原因ね」
「でも、合宿とこのことは関係ないんじゃ……」
「関係がないとも言い切れないみたいだけどね」
そう言うと七海ちゃんはさきほど、大会で優勝した選手の名前を指差します。
「さとう、まこと?」
「そう。白鷺高校の部長ね」
「でも、夕凪さんは合宿のことを了承してましたよね」
「たぶん、あいつ自身も知らなかったじゃないかしら。穹戯の世界から身を引いてたみたいだし、白鷺高校に自分の因縁の相手がいるなんて」
「夕凪さん。どうしちゃったんですか……」
「さあね。それこそ知らないわよ。でもーー」
七海ちゃんはそこで一旦言葉を切ると。
「自分が今、すごく怒ってるってことは分かるわ」
いらだたしげに言いました。
下校中の周りの生徒が驚いたようにこちらに視線を向けます、門の付近にいた警備員さんも怪訝そうに瞳を細めました。
だけど、七海ちゃんは周りの視線など気にしていないかのように。
「だから、私。今からあいつの家に乗り込んでやろうと思ってるの」
そうして、わたしの気持ちを探るように瞳を覗き込みます。
「あなたは、どうなの?」
「わ、わたしは……」
「あなたは、あいつにどうしてやりたい?」
「め、迷惑かもしれないですし……」
七海ちゃんは心底呆れたように肩をすくめました。
そうして、わたしの肩をがっしりと両手で掴むと、真っ直ぐにわたしの瞳を見ます。
「言い方を変えるわ。あなたは、あいつにどうしてほしいの?」
その言葉にわたしはきゅっと、唇を噛みしめます。
そうして思っていた言葉を願いをつむぎます。
「わ、わたしは……。夕凪さんにもう一度、わたしたちのコーチをしてほしい!!」
七海ちゃんはわたしの言葉に苦笑をもらします。
「なんだ……決まってるんじゃない。それなら、二人であいつの頰を引っ叩きにいくわよ!」
そうして七海ちゃんは挑戦的な笑みを浮かべます。
「待ってなさい。絶対、あなたをこっちの世界にまた引きずり込んでやるんだから」




