二十四章『俺には眩しすぎた』
理事長にコーチを辞めると伝えてから数日後。
夏休み中の一ノ瀬高校に来ていた。
「やっほー。渚、久しぶり。って、そうでもないか……合宿以来だね」
「岬か……どうしたんだ。もしかして、補習でも受けに来たのか?」
岬は首を振る。
「まさか、私じゃないよ。まどかの補習を手伝いに来ただけ。マネージャーがいないと何かと大変だからね」
岬はむっ、と唇をとがらせる。
「にしても、ほんとに私が補習受けにきたと思ったの? 私が成績悪くないの知ってるでしょ」
「いやでも、岬ってそんな穹戯に一生懸命だったっけ? 岬って良くも悪くも飽きやすい性格だったろ」
「いやー。そうだったんだけどね」
岬は苦笑を浮かべる。
「合宿で凛ちゃんや七海ちゃんの姿を見て、もう少し頑張ってみるのも悪くないかなって思ってね」
そして、岬はひとりげに頷く。
「うん、もしかしたら私。穹戯が好きなのかもしれない?」
「なんで疑問形なんだよ」
「いや、自分でもよく分かってないんだけどね。でも、頑張ろうってそう思うんだ」
岬はそう言うと。
「それはそうと、渚はどうしたの? まさか、補習って訳でもないでしょ?」
「ああ。ちょっと秋月先生に呼ばれててな」
「まさか、またコーチのこと?」
「いや、コーチは……」
そう言うと岬はバツが悪そうに視線を逸らした。
「そういえば、コーチ。辞めたんだったね」
「うん、まあ……。色々あってな」
「でも、秋月先生が渚を穹戯以外のことで呼び出すのってめずらしいね」
「それもそうだな」
思い返せば、秋月先生が俺を呼ぶ時はいつも穹戯に関することばかりだった。
お嬢様学校に通う小学生のコーチを頼まれたり。一緒に買い物して来いと言われたり。急な合宿の日程を知らされたり。
今思えば、秋月先生はこんな俺のことを気にかけてくれていたのだろうか。
今回のことも一方的に頼まれたこととはいえ相談もせずに勝手に辞めたことは悪いと思う。
そんなことを考えていると、
「あのさ……」
岬が寂しげに視線を落としながら口を開く。
「私は昔の渚のことも知ってるから、重荷になるような事は何も言わないけどさ。もう少し、周りに目を向けてみてもいいんじゃないかな……」
「それって、どういうことだ?」
「ううん、わからないなら今は無理に考えなくていいんじゃない。でも、これだけは覚えておいて。渚は自分で思ってるよりも周りから慕われてるってこと」
岬はそれだけ言うと。
「それじゃあ、もうちょっとで補習も終わるだろうし。私はまどかの様子でも見に行ってくるよ」
廊下を出て隣の教室に向かう。
今しがた、岬が出ていった廊下へ視線を向ける。
「俺には、彼女たちの姿は眩しすぎたんだよ……。岬」




