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二十一章『七海VS岬』

「くっ……」

「まだまだいくよー!」

 七海と岬の試合は基本的なファイター同士の殴り合うドッグファイトとなった。

 戦況は一対三で岬の優勢で試合は進んでいた。

 七海がファーストブイをタッチして先制してからは、相手の上を取り合う形となり、七海は岬の技術と経験に茫然一方の展開になってしまっていた。

 ファイター同士の戦いは相手の背中をタッチすることで得点を取るため攻撃をしやすい相手の上空の取り合いになる。

 そのため相手の背中を取るべく、ぐんぐんと高度を上げていくことになるのだが。

 高度が上がれば上がるほど必然的に酸素濃度は薄くなり、選手の体力を通常の倍の速度で奪っていく。

「まだまだ……」

 それに焦った七海が無理な攻めをして、

「ほいっ、もういっちょ!」

「くっ……」

 さらに得点差を広げられてしまう。

 今のところ七海は初めのブイタッチ以外で得点は稼げていない。

 どうしたものか。初めから厳しい戦いになるとは思ってはいたが、予想以上に岬のレベルが高い。

 これなら、あいつ。白鷺高校に入れたんじゃないのか……。

 そんなことを考えているとインカムから声が聞こえてくる。

「私、悔しい……」

 いつになく弱々しい声だ。

「せっかく、ここまで頑張ってきたのに。何の成果も得られず終わるだなんて」

 七海のこんな声は初めて聞いた。

 いつもの自信に溢れた生意気な声とは違う不安にまみれた今にも自分の弱さに埋れて掻き消えてしまいそうな震えた声。

「はぁ……おまえな」

 俺はため息を吐く。

「元よりこの試合は勝てなくて当たり前、自分よりも明らかに格上の相手と戦うんだ。勝利に貪欲になることは良いことだが、飛ぶことを楽しむ心だけは忘れるな」

 言っていて、どの口がそう言っているんだと思う。

 それを忘れてしまったから周囲からの期待や不安に押しつぶされたから俺は選手を辞めたのだ。

 けど。今の彼女にはこの言葉が必要だと思った。

 それに、七海は一つ勘違いをしている。

 開始から十分。本当ならもっと大差が付いていてもおかしくないと思っていた。なのに、今の点差はたったの三。

 それだけ七海も成長しているということだ。

 今なら大会に出ても良いところまで行けるはずだろう。

 俺はなるべく優しい声で七海に言い聞かすようにインカムに口を近づける。

「おまえはちゃんと成長してるよ。それはだれよりもおまえを見てきた俺が保証する。だから、この試合、相手の胸を借りるつもりで全力でぶつかっていけ」

「それって、ただの責任放棄じゃない……」

 インカムから七海が口を尖らせたような声が聞こえて来る。

「すまん」

「でもーーあなたがそういうならそうなんでしょうね。分かったわ。それにあんなの私のキャラじゃないしね」

 七海はそう言うと、

「だから、あの女に一矢報いるためにも、あなたも全力で私のサポートをしなさい」

「あぁ……。分かったよ」

 俺はまたぞろため息を吐くと。

「やっぱり、そっちの方がおまえらしいよ」

 そう言って思わず苦笑した。



 そうして、試合は一歩及ばず三対四で岬の勝利となった。

 だが、俺はこの結果に満足していた。

 この経験をバネにしてもっと七海は強く羽ばたいていけるだろう。そうして、いつかは自分だけの翼を見つけることができるはずだ。

 七海も悔しく思ってるだろうが、きっと俺と同じ気持ちだろう。

 なぜならーー

「負けちゃったわね」

 浜辺に戻ってきた七海の表情は、

「でも、次は負けないんだから!!」

 とても晴々とした笑顔だったから。

 そして、次の試合が始まろうとしていた。

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