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十九章『合宿編PART4』

「夜の海……か」

 二日目の練習メニューが終わり、その後の食事も終えて自室に戻った俺は、今日の凛たちの様子を振り返るため一人でビーチに出ていた。

 時刻は午後八時を回っている。

 今日の練習を凛と七海は最後の方は(安定した姿勢で飛べていたかどうかは怪しいが)何とかすがり付きながらもやり通すことができた。

 このことは彼女たちにとって自信になったはずだ。

 だから俺はそれを踏まえて明日の模擬戦に向けて彼女たちの戦略を立てる。

 誰と当たろうと相手は格上なのは確実だが、一部を除いて勝算が無いわけではない。

「まっ、さすがに白鷺高校の佐藤(さとう)さんや九条さんとは当たらないだろうけど」

 いくら対戦カードがクジで決まるとはいえ白鷺高校の一位と二位の大会屈指の実力者と当たってしまったらさすがに凛と七海ではどうしたって勝てない。

「最悪、当たったら胸を借りる気持ちでぶつかってこいとしか言えないわな」

 自分で言いながら苦笑する。

 夜の海を眺めながら、明日の試合について思考を巡らせていると、

「練習試合のシュミレーションかな?」

 後ろから声がかけられた。

「はい、そうですけど」

 振り返るとそこには細身で人当たりの良さそうな顔の男性が立っている。白鷺の制服を身につけてるってことはここの生徒だろうか。でも、合宿中には見たことのない生徒だ。

「はは。そりゃあ、二年も経ってたら顔は憶えてないか……」

 困ったように笑いながら右手を差し出してくる。

「白鷺高校フライング部部長、佐藤誠(さとう まこと)。よろしく」

「一ノ瀬高校の夕凪渚です。よろしくお願いします。九条さんからは帰りは明日になると聞いていたんですけど」

「学生選抜の練習には行くつもりはなかったんだけどね。どうしても顔を出せって言われてね」

 佐藤さんはまた人が良さそうに笑う。だがその笑顔の裏に何かが隠されているようで底を知れない怖さを感じる。

「練習の方はどうだい? 一ノ瀬高校と鷺沢女学園の役に立ってるかな」

「はい。おかげでかなりレベルアップできました。けどーー」

「けど?」

「正直、うちとはレベルが違いすぎて白鷺にメリットがあると思えません。どうして、この合宿を受けてくださったんですか?」

「まあ、秋月先生の頼みってのもあるけどーー」

 そこで言葉を区切ると、佐藤さんは暗闇に包まれた海岸を眺めながる。

「少し昔話をしてもいいかな?」

「別に構いませんが」

「僕はかつて。ある一人の選手にあこがれていたんだ。僕はその選手を目指して穹戯を始めた。しかし彼は姿を消した。その前に一度だけ彼と戦ったことがあったんだけどね、その時の彼は足に怪我を負っていてお世辞にも万全の状態とは言えなかった。全力の彼と戦って勝つのが僕の夢だった」

 その瞳が俺を捉える。

「だから僕は、この合宿を受けた」

 胸の中にドス黒い何かがうごめくのを感じる。

 そうして追い討ちをかけるように佐藤さんは言葉を紡ぐ。

「夕凪くん。僕と勝負してくれないか」

 俺は首を振る。

「俺はもう穹戯の選手じゃないです。だから勝負を受けることはできません」

「じゃあ、選手をやめた君がなぜ穹戯の世界に戻って来たんだい」

 全てを見透かすような瞳が俺を見つめる。

「…………」

「君が今、鷺沢女学園で教えているっていう子たちに関係があるのかな」

「それは……」

「まぁいい。明日、確かめさせてもらうよ」

 そう言い残すと佐藤さんは合宿所の方へと闇の中へ消えて行く。

 俺は呆然とその後ろ姿を見送ることしかできなかった。

 蓋をしていたはずの嫌な記憶が、今になって俺の前へと蘇ってくる。

 いや、思い出さないように無理やり見えていない風を装っていただけなのかもしれない。

 だが、今の俺にはそれと正面から向かい合う気力が残っていない。

 腐ったみかんの伝染は少しずつ気付かなうちに俺の心を蝕んでいく。

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