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幕間『まちがった大人への一歩』

 お風呂から上がったわたしたちは大広間に集まっていました。

「散々な目にあったわ……」

 七海ちゃんはゲンナリした調子で大広間に敷かれた布団に顔を沈めます。

「ごめんね。わたしだけ逃げちゃって」

「別にあなたが悪いわけじゃないんだから謝らなくていいわよ。悪いのはあの白鷺の副部長なんだから」

 そう言うと七海ちゃんはもぞもぞと布団に潜り込みます。

「もう寝ちゃうの?」

「明日に備えて早めに寝といた方がいいでしょう」

「うん、それもそうだね」

 そうして布団に入ろうとすると。

「ええー。もう寝ちゃうの?」

 部屋の中央から抗議の声が上がりました。

「汐山さんはまだ寝ないんですか?」

「そりゃそうだよ。夜はまだ始まったばかりなんだよ!?」

「うるさいわね。あなたも明日に備えて早く寝た方がいいと思うけど」

「私も綾瀬さんの仰るとおりだと思いますが」

「まったく。合宿の楽しみってのをわかってないね」

 そんな九条さんと七海ちゃんに汐山さんはやれやれと肩をすくめます。

「合宿の楽しみですか?」

 わたしは首を傾げました。

 もしかして、トランプにきもだめしや恋話といったものでしょうか?

 だとしたらわたしは余りその手のことには自信がありません。

 トランプはいつも一番最後だし、きもだめしはお化けが出ると怖いですし、ましてや恋の経験なんてありません。

「トランプや肝試しや恋話なんていつでもできるじゃん」

「いえ、いつでもはできないと思いますけれど」

 九条さんの非難するような視線を無視して汐山さんはちっちっちっ、と指を振ります。

「わかってないなー。これだからお嬢様は。私が庶民の一般的な夜というのを教えてあげる」

 そう言うと汐山さんは大広間から出て行ってしまいます。

「なんなんでしょうか?」

「まったく何なのかしらね?」

 汐山さんが消えて行った廊下の先を見つめながら。わたしと七海ちゃんは不思議そうに顔を見合わせました。



 それから数分後……。

「お待たせ。それじゃあ始めようか」

 戻って来た汐山さんの手にはコンビニ袋が握られています。

「なんなのよその袋は?」

「やっぱり合宿の夜といえばこれでしょ」

 そう言って袋を下に向けるとドサドサといくつか容器に入った麺が床に落ちました。

「カップ麺、ですか?」

「そそ」

 軽く相槌を打つとさっそくカップ麺にお湯を注ぎ始めます。

「これが合宿となんの関係があるわけ?」

「親御さんに怒られますわ」

 ちっちっち、とまたぞろ汐山さんは指を振ります。

「ここでは叱る大人はいないんだよ。いわば私たちが法律なんだよ! つまり夜食を食べても怒られない!」

「夜食なんて身体に悪いわよ」

「夜中にそんなカロリーの高いものを食べては太りますわよ。第一、そんなもの私が認めませんわ」

 九条さんはびしっと汐山さんに指を突きつけます。

「それにいつ食べようとも味は変わらないと思いますが」

「まあまあ、そんなこと言わずにさ。食べてみれば分かるって。それに明日、たくさん動くんだから今食べてもプラマイゼロカロリーだよ。」

 ガバガバカロリー理論をとなえながら食べてみろと言わんばかりに九条さんにカップ麺を勧めます。

「で、では……。いただきます」

 ためらいながらもスルスルと麺をすすっていきます。

 しばらく咀嚼(そしゃく)していると。九条さんは驚いたように目を見開きました。

「お、美味しい……ですわ」

「カップ麺は小腹が空いた時に食べるのが一番美味しいんだよね。それに夜中に食べるという背徳感も相まっていっそう美味しくなるんだよ!」

 まるで悪魔の誘いのように汐山さんの視線がこちらに向けられます。

 ごくり……。

 わたしと七海ちゃんは生唾を飲み込みます。

 とんこつスープの沼へとわたしたちは足を踏み入れようとしているのです。一度入ってしまっては戻ることは不可能でしょう。

「七海ちゃんも一緒に食べようよ」

 わたしはそろそろと七海ちゃんの顔を見上げます。

 旅は道連れという言葉があります。

 その言葉を今こそ体現すべき時ではないでしょうか。

 そんなわたしに七海ちゃんは呆れたようにため息を吐くと。ビニール横にあるカップ麺を指差します。

「断ったら私だけ空気が読めないみたいじゃない。それじゃあ、そこのちっこいやつをもらうわ」

「あっ、わたしはその別種類のやつをお願いします」

 カップ麺を受け取るとお湯を入れて三分待ちます。それからわたしは七海ちゃんの肩へ身体をよせました。

「わたしのカップ麺と七海ちゃんのカップ麺。半分こしませんか?」

「ん、別にいいわよ」

 そう言うと七海ちゃんはわたしの前へカップを差し出してくれます。わたしも自分のカップを七海ちゃんへ差し出しました。

「んっ! 七海ちゃんのもおいしいです」

「気に入ったならもう少し食べてもいいわよ」

 七海ちゃんがわたしを見て苦笑しました。

「それじゃあ、いただきます」

 二口目に食べた味は初めより少し大人の味がしました。

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