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幕間『お風呂回』

「おっきい露天風呂ですね」

 脱衣所のとびらを開けるとわたしは目の前に広がる光景に思わず声を上げました。

 おっきな石で囲われた。六人ぐらいで入ってもまだまだゆとりがありそうなおおきな露天風呂です。わたしの家のお風呂はそんなに大きくはないのでテンションが上がってきます。

「七海ちゃん! 見てください。おっきいお風呂ですよ!」

「うるさいわね……。こんな程度の風呂で騒いでるんじゃないわよ。まったく……」

 この感情を共有しようと振り返ってまだ脱衣所で服を脱いでいる七海ちゃんに声をかけますが、七海ちゃんはあきれたようにため息を吐きます。

「むーっ」

 わたしは不機嫌に頰をふくらませます。

「悪かったわよ。それならお詫びに今度、私の実家のお風呂でも入りに来る?」

「七海ちゃんの実家?」

 わたしはきょとんと首を傾げます。

 そういえば七海ちゃんは神戸の一等地のお嬢様だと夕凪さんから聞いたことがあります。夕凪さんは終始胃が痛かったと言っていましたが……。わたしも一緒にご飯を食べたかったです。

 ということはやはりおっきなお風呂もあるんでしょうか?

「ここよりはちょっぴり大きいだけだけどね」

「それじゃあ。合宿が終わったらお泊りしに行ってもいいですか?」

「別に良いわよ。部屋なら来客用が余っているし。合宿が終わったら来なさいな」

「七海ちゃんの家にお泊まり。楽しみです!」

「ちょっと、そんなところで飛び跳ねたら滑るわよ」

 しょうがないと言うようにそっと息を吐きながらタオルを身体に巻いた七海ちゃんが脱衣所の扉を開けて、露天風呂へと入ってきます。

 わたしは七海ちゃんの手を取ると、

「七海ちゃんも一緒に入りましょう!」

「ちょっ、手を引っ張らないでよ危ないじゃない」

 ぺたぺた走ってそのままお湯の中へじゃぶじゃぶ入って行きます。

 七海ちゃんもしょうがないというふうに引っ張られるがまま後ろから着いてきました。



 それから十分ぐらい経った頃でしょうか。

 ガラガラと脱衣所の扉が開かれる音がしました。誰か入ってきたみたいです。

「いやー、露天風呂まで完備されてるとか白鷺高校の生徒が羨ましいよ」

 声の方へ顔を向けると汐山さんが入って来るところでした。

 わたしは思わずその姿に見惚れてしまいます。

 やはり高校生だからでしょうか。汐山さんのお胸はわたしなんかより遥かに大きくまるで山のようです。

 わたしも大きくなったらあんな風になれるでしょうか……。

 思わず期待と願いを込めてすっとんとんなわたしの胸に手をそえます。

 いえ、わたしは決して小さい方ではないはずです。

 そう思って隣の七海ちゃんに視線を向けると、

「なによ? そんなにじろじろ見られると同じ女の子でも恥ずかしいんだけど」

 そう言って恥ずかしそうに肩を抱きました。

 しかし、わたしの目は見逃しませんでした。七海ちゃんの少し膨らんでいるお胸を!

 初めて世の中の理不尽に絶望を覚えつつ、そっと自分の胸に視線を落とします。しかし希望はあります。

 今度お母さんに胸について聞いてみましょう。

 遺伝子的に大丈夫なはずです。まだ成長期の途中なだけで!!

 未来にかすかな希望を託していると。

「凛ちゃんたちも来てたんだ。一緒してもいいかな」

 汐山さんがわたしの横に入ってきました。

 二人に挟まれて、またわたしはかるい理不尽さを覚えていると。

「許可した覚えはないんだけど?」

「そんな冷たいことは言わずにさ。いいじゃん別に仲良くしてこうよ。ね、凛ちゃんはいいよね?」

「あっ、はい。大丈夫です」

 突然声をかけられて少しびっくりします。

「凛が別にいいならいいけど……」

「なら決まりだね」

 七海ちゃんはそっぽを向くと、

 汐山のことが苦手なんでしょうか? いい人なのに……。

「それじゃあ、私は身体洗ってくるから」

 そう残してお湯から出ると洗い場に行ってしまいます。

「あれは、嫌われちゃってるかな?」

 汐山さんが洗い場に視線を流しながら苦笑しました。

「なにかやっちゃったんですか?」

「うーん。何にもやってないはずなんだけどな」

 不思議そうに首をひねります。

 そういえば、合流した時から当たりが強かったような気がします。夕凪さんの時も初めはそうでしたし、もしかしたら大人の人が少し苦手なのかもしれません。

 でも、最近は夕凪さんには懐いているような気がします。

「じゃあ、精進あるのみだね!」

 汐山さんは対して落ち込んだ様子もないみたいです。

 そうして、汐山さんと話していると。

 脱衣所へと続く扉がまた勢いよく開かれました。

 高らかな声が夜空に響きます。

「みなさんのお背中を九条玲がお流しに参りましたわ!」

 その右手には事前に泡立てられた、あわあわのスポンジが握られています。

 そう言って入ってくるや否や。

 脱衣所へと続く扉の横で身体を洗っていた七海ちゃんにロックオン。

「ちょ、ちょっと、こっちに近づいてこないで!」

 七海ちゃんは一歩後ずさりますが、九条さんは三歩あゆみよってきます。

「遠慮なんてしなくていいんですのよ? 後輩の背中を流すのも先輩の務めですわ」

「や、やめなさいって言ってるでしょ!? べつにそんなの頼んでない!」

「抵抗は無駄ですわ。早く投降することをおすすめ致します」

「や、やめて! 近づかないで!」

「て・い・こ・う・は無駄ですわ!!」

 九条さんはそう言うとガバッと七海ちゃんに飛び付きました。

「ぴっ、ぴにゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


「なるほど、強引な方がいいのか……」

 洗い場に視線をやっている汐山さんが感心したような声をあげます。

 わたしはその光景を見て身の危険を感じました。

 バスタオルで全容は隠されていますが、九条さんのお胸はその薄い布切れの上からでもわかるほどとにかくおっきいのです。

 七海ちゃんがお山、汐山さんが富士山なら九条さんのお胸はモンブランと言ったところでしょうか。

 それならわたしは無に等しいです。

 こんなところに居ればわたしは胸の圧で死んでしまうかもしれません。

 なので、七海ちゃんが犠牲になってくれている間にわたしはそそくさと脱衣所の方へと退散しました。

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