十六章『合宿編PART1』
「うーん。やっと着いたわね」
バスから降りてきた七海が軽く伸びをする。続いて凛も車内から降りてくる。
「にしても大きいわね」
「おっきいです!」
そうして二人揃ってぐいっと顔を上げる。
そこには『穹戯国内大会優勝』『穹戯地区大会優勝』『代表選抜決定』などと書かれた掛け軸がかけられた校舎がそびえ立っている。
「ここで合宿をするんですね」
「今日から三日間ここで穹戯漬け生活だな」
「だから嫌でも飛ぶことになるって言ってたのね」
合宿を行う白鷺高校は穹戯で知られる強豪校だ。学生には穹戯の絶対王者と呼び声高い佐藤 誠選手も在学している。
「それとなんだが、最終日にはーー」
合宿の日程について説明しようとしたらば、
「やっほー。凛ちゃんに渚ひさしぶりー」
後ろから声がかけられた。
両の髪をくくっている藍紫色のレースがついたリボンがトレードマークの岬である。その後ろにはまどかの姿も見える。
「お久しぶりです汐山さん。ショッピングモール以来ですね」
凛は折り目正しく身体の前に手を添えて頭を下げる。
「うわっ。さすが白鷺女学園の生徒だね」
凛の仕草に感心したような声を上げると、ちらりと凛の隣にいる七海へ値踏みするような視線を向ける。
「そういえば、あなたは初めましてだよね。あなたが渚が教えてるもう一人の子?」
「よろしく。コーチには色々とお世話になってるわ」
七海はスカートの裾をつまんで初々しくお辞儀をする。
そして髪を翼のように翻すと、挑発するような視線を岬に向ける。
「でも、別にあなた達とは馴れ合う気は無いのでお気遣いなく。先輩かどうかなんて関係なく全員が倒すべき敵だと思ってるので」
「あはは。血の気が多い子もいるみたいだね。うん、いいよ。一緒にばちばちしようか」
「望むところよ」
速くも一触即発しそうな雰囲気が流れ始めるていると、
「ファイター同士血の気が多いのは大変良いことですが、それは最終日の試合まで取っておくといいですわ」
いがみ合っている岬と七海の後ろから聞き馴染みのない声がかけられる。
異国を感じさせる金髪のツインテールに気が強そうな切れ長の瞳に筋の通った鼻。何より印象的なのはそのゆるい制服の上からでもわかるほどの胸だ。
俺はその人物に一歩前へ進むと頭を下げる。
「今日は合宿を引き受けてくださってありがとうございます。九条さん」
「頭を上げてください。うちの部長からの立っての願いですもの。お受けするのは当然ですわ」
九条玲。<水上にさく青薔薇>の異名を持つスカイウォーカー。絶対王者の佐藤選手と九条さんが白鷺高校のツートップと言っていい程の実力者だ。
「九条さんが部長じゃないの?」
岬が不思議そうに首を傾げる。
「そんな、私が部長だなんておこがましいですわ。この白鷺高校フライング部の名誉部長は佐藤誠部長をおいて他にいません」
「わたし、会ってみたいです!」
凛が興味津々といった様子で瞳を輝かせる。
「ですが今、佐藤部長は学生選抜の合宿に行っていますので、会えるとしたら最終日になると思います」
「……そうですか」
「まあそう落ちこまないでくださいな。最終日には白鷺女学園の皆さんと鳶沢、一ノ瀬高校の部員を交えた対抗試合も予定していますし、もしかしたからそこで戦えるかも知れません」
その声に凛は弾かれたように顔を上げる。
「そうですよね。わたし佐藤さんと戦えるようにこの合宿がんばります」
「その心意気よしですわ」
そう言うと九条さんは何かに気づいたように凛の制服に視線を向ける。
「あら? あなたその制服。鷺沢女学園の生徒かしら」
「そう、ですけど……」
「懐かしいですわね。私も昔は鷺沢女学園の生徒でしたの」
「そうなんですか」
「あら? 意外と驚かないんですのね」
「まあ意外とは思わないですかね。言葉遣いからして当然というか隠しきれてないというか滲み出ちゃってる感がありますんで」
「だねー。お嬢様言葉ってやつ」
「そうですか?」
九条さん以外が当然のごとく頷いている。
「それにしても相変わらず理事長は御息災みたいですわね」
九条さんの視線が俺を捉える。
「んっ、まあ……そうですね」
その視線から逃れるように俺は顔を背けた。
「っと、話がそれてしまいましたわね」
九条さんはこほん、っと咳払いをすると。
「ようこそ白鷺高校へ。私たち白鷺高校フライング部が歓迎いたしますわ」
満点の笑顔を浮かべて微笑むと、そのまま踵を返す。
「まずは皆さんが寝泊りする部屋へご案内します。それから合宿の日程の説明と、我が校が誇るトレーニングルームをご案内いたしますわ」
九条さんの背中を追いかけるように俺たちもその後ろについて行く。その途中で凛に控えめに背中を叩かれた。
「あの、合宿楽しみですね」
「そうだな。でも、楽しいばかりが合宿じゃないぞ。高校生とか同じメニューをこなすんだ練習は今までよりハードになるから覚悟しとけよ」
「が、ガンバリ……マス」
七海が呆れたようにため息を吐く。
「まったく……まだ練習が始まってもないのにそんなに緊張してたらもたないわよ。もうすこし力を抜きなさい」
「そうだよね。えへへ……」
凛は照れ臭そうに頰をかいた。




