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十四章『もう一つの問題』

 今日も俺は境内でストップウォッチを握り締めていた。

「よんじゅうはちーーよんじゅうきゅう……」

「はぁ……はぁ」

 息を切らしながら七海が石段を駆け上がるとそのまま境内に転がるように仰向けになる。

「よし、お疲れ様。本数をこなしてもタイムが落ちないようになってきてるな。だいぶ体力が付いてきたんじゃないか」

 水分補給のために境内にある自販機からポカリを購入。

「おらよ」

 七海に投げて寄越す。

「ありがと」

 ボトルはそのまま七海の口に押しつけられる。

 あの件以来、七海の上達っぷりは日の目を見るよりも明らかになっていた。

 父親に穹戯を続けるための条件を出されたというのもあるだろうが、明確な目標ができたからというのが大きい。

 俺が抱えている問題は別のところにある。

「はぁはぁ……やっと、着きました」

 七海から遅れること十五秒。

 凛がやっと境内の石段を登り切る。

 額には玉のような汗が浮き上がっていた。

「どうした。タイムが落ちてきてるみたいだけど」

「ごめんなさい。ダメダメですよね」

「いや、怒ってるわけじゃないんだが」

 記録用紙を確認すると二往復した辺りから七海との差が開き始めている。いくらなんでもこれは早すぎる。

 もともと、七海と凛の走る速度にはそれほど差はないはずだ、それに体力が付いてきている分序盤から離されるのは不可解だ。だとすると、他に原因があるはずなのだ。

 ふと、凛へ視線を戻すとふくらはぎを気にするようにさすっている。筋肉痛だろうか?

「凛。お前、部活が無い日は何してるんだ?」

「えっと、この前の休日は朝ご飯を食べる前にランニングをして、そのあとは昼に穹戯の練習をしてました」

 凛の言葉を聞いて俺は盛大にため息を吐く。

 凛のタイムが落ちてきている原因がはっきりとわかったからだ。

「凛。部活が無い日は身体を休めろって言ったはずだろ。いや、今まで気付かなかった俺も悪いんだが」

「でも、コーチは適度に身体を動かすのも良いって言ってましたよね」

「お前のはやり過ぎなんだよ。完全にオーバーワークだ。それじゃあ身体を休めるどころか酷使しちまってるんだよ」

「でも、わたし……最近始めたばかりですしもっと頑張らないと」

「凛に必要なのは、がむしゃらな練習じゃない。練習をしない日が必要なんだ。休むことで傷ついた筋肉が修復を始めようとする。だから、休むことも大事な事なんだよ」

「……でも、わたし」

 凛が困惑した表情で口を動かす。

「休日の過ごし方がわかりません」

「え?」

「それじゃあ、コーチが休日の過ごし方を教えてあげればいいんじゃないかしら?」

 俺たちの様子を見ていた七海が提案する。

「休日の過ごし方か……」

 教えろと言われても女の子が休日に何をしているのかなんて何も思い付かない。

「まったく、気の利かないロリコンね」

 七海に盛大なため息を吐かれる。

「それじゃあ二人でショッピングにでも行ってきなさいな」

「七海も一緒に行くか?」

 買い物に行くなら人数は多い方がいいと思って聞いたのだが。

 七海はまたぞろ盛大なため息を吐くと、

「あんたってほんと馬鹿よね。凛のためのショッピングなのに私が付いて行ってどうすんのよ? それに明日は予定があるから私はパス」

 手をひらひらさせて断られる。

「…………」

「…………」

 凛と二人で顔を見合わせる。

「それじゃあ、明日。昼の一時に、駅前に集合ってことで」

「はい。それじゃあ、今日のところはこれで失礼します」

 踵を返すと凛はパタパタと小走りで去って行った。


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