八章『待ち合わせ』
そして当日。
「お待たせしました」
「待たせたわね」
駅前にある柱の陰で腕時計を見ていた俺の背中越しに声がかけられる。
振り返ると、私服姿の凛と綾瀬が人混みの間を縫うようにしながらこちらに向かって歩いて来くるのが見えた。が、しかしながら少しばかりの遅刻である。
「十五分遅れだぞ。時間はちゃんと守れ」
気温がもっとも高くなる昼のそれも炎天下の中、待たされたのだ文句の一つも言いたい。
「女の子は何をするにも、準備に時間がかかるの。それに、小さな子を待つのはロリコンにとってはご褒美なんじゃないの?」
相変わらず辛辣な口調の綾瀬に視線をくれると。
「ふむ」
綾瀬の発言はなかなか的を射ているなと思った。
いや、俺がロリコンということではなくてだな。
凛はふんわりボリュームのチュールスカートを履いている。上品で愛らしく、きめ細やかな子供服。その隙間から幼い柔肌を少しばかり覗かせて細い脚がすらりと伸びている。
それとは対照的に綾瀬は黒を基調としたシックなワンピースドレスを身に纏っている。
異国のお姫様がお忍びでこっそりと友達と下町を散歩しているかのような叙情的な風景だ。
そんな二人に歩いている人たちも思わず目を奪われている。
もちろん俺も例外ではないわけで。
二人の姿をじーっと見続けてしまっていたのだが、
「どうしたんですか? 首を傾げて」
不思議そうに俺を見上げる凛と、
「で? 私たちに何か言うことがあるんじゃない」
そんな綾瀬の声に現実へ引き戻される。
「そ、そうだな……」
努めて見惚れていたとは気付かせまいと、なるべく冷静を装う。
そうしてがりがりと頭をかく。
「まあ、その……なんだ。二人ともよく似合ってると思う」
そんな俺の賛辞に、
「ありがとうございます」
「まっ、あなたに言われてもなんとも思わないけどありがたく受け取っておくわ。ロリコンにしては良かったんじゃない?」
凛は恥ずかしそうにもじもじしながら、綾瀬は相変わらず辛辣な口調でそう返す。
「それにーー」
綾瀬はそう言って俺の服に視線を流す。
「最低限のドレスコードは守ってるみたいだしね。及第点ってところかしら」
「そうか? あまり考えてなかったんだが」
言われて自分の服装に視線をむけるが、無難な白のシャツにその上から薄い黒のジャケットを着込んで、下には普通のジーパンを履いているだけだ。
綾瀬は首を振る。
「何も取り繕う必要なんてないのよ。別に無難でも相手に不快感を与えなければそれでいいんだから」
「そういうもんか?」
「そういうものよ」
「それならいいんだが」
綾瀬の言葉に納得していると、くいくいっと、俺の袖を凛が遠慮がちに引っ張る。
「で、これからどこに向かうんですか?」
「そういえば、まだどこに行くか言ってなかったな」
そうして俺は駅とは反対方向に歩き始める。
綾瀬が後ろを指差しながら怪訝そうに声をかけてくる。
「どこへ行くのよ? 電車に乗るなら駅の入り口はあっちでしょ?」
「いいんだよこっちで」
それだけ言うと俺は再び歩き始める。
「まっ、待ってください」
「ちょっと! 待ちなさいよ。どこに向かってるかくらい教えなさい」
「今のお前たちに必要なとこだよ」
後ろから慌てたように二つの足音が追いかけて来た。




