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相合傘

のんび~りと。

恋愛イベントというものはイケてる奴だけにあるものだと俺自身思う。俺の身近な人間でいうと、雪矢が一番当てはまる……決して、友達が少ないわけではないから! と、言い訳してみる。うん。よりほんとっぽくなるから言わなければ良かった。


なので、今回俺の身に起こっている事は恋愛イベントとして処理しても良いのだろうか?


「ほら、もっとこっちに寄らないと肩濡れるよ?」


「あ、うん。ありがと……」


「どういたしまして」


ふふふと笑う彼女―――二葉さんにぶっきらぼうに返答する俺。え……なんで俺は二葉さんと相合傘をしてるんだっけ? 確か雪矢と帰ろうとした所まではいつも通りだったんだよ。いつも通りじゃなくなったのは、その後だったよな?


「毎日雨ばっかで気が滅入りそうだな」


「そうだね。降るか降らないかを見極めるのも結構大変だよね。結局、毎日傘持ってきてるよ」


はあ、と重い溜め息をつく。


「マジで? 毎日って結構だりーな。早く梅雨終わって、夏になんねーかな? 海行きたくね?」


「いいね、海! 砂のお城作りたいなー。今度は要塞風に」


「またかよ……秋人、海には砂の城を作りに行くんじゃなくて、泳ぎに行くんだせ?」


「わかってるよ。ただ、俺泳ぐのあんまり得意じゃないから―――あれ? ない……」


雪矢と夏休みの予定を喋りながら昇降口まで来ると、2-3の傘立てに俺の傘がないことに気付く。外が黒くて中が青空がプリントされたお気に入りの傘が!!! 他のクラスの傘立てを入念に見て回ったが見つからなかった。まさか……。


「これは借りパクされたな、秋人」


「マジかよ!」


「あんなに中派手なやつを間違えるって事はまずないだろうからな」


「俺の傘がないのはもういいよ。後は返ってくるのを願うだけだ」


お気に入りの傘がないのは辛いが誰かが濡れずに済むなら良しとするか……一つも良くないが、返ってくれば許してやらなくもない。


「雪矢、傘入れて」


「あ? いいけどよ……ほんとにいいのか?」


「は? なんで聞いてくんの?」


問いかけをしたのは俺なのに雪矢まで俺に尋ねたら本末転倒だ。呆れた目で雪矢を見ると、どうも視点が合わない。どういう事だろう? と後ろを振り向くと、そこには二葉さんが立っていた。納得した。前半は俺に言った言葉だったけど、後半は二葉さんに投げ掛けたのだと。


「三隅傘無いの? じゃあ、一緒に帰ろ? 入れてあげる」


「いや……雪矢に入れてもらおうかと―――」


「え? 嫌なの?」


「全然!! むしろ嬉しいです!」


「良かった」


二葉さんが傘を取りに傘立てに向かう。それを見送りながら内心冷や汗を掻いていた。目が! 目が「何言ってるの? 入るよね?」って無言の圧力をかけてた! 怖かった!


「よし! 用意できたよー。じゃ、帰ろっか? じゃねー、一条」


「おう! 仲良く帰れよー」


「じゃあ、俺も帰るね。また明日」


「おうよ! また明日な」


何故雪矢はいつも俺と二葉さんのやり取りをニヤニヤして見ているのだろう。二葉さんも二葉さんだ。雪矢を本当は好きなくせに、見せびらかすように俺の腕に抱きついてくる。はっ! そうか! アピールだね! 雪矢に気にかけてもらう為の。それなら協力も惜しまない……って言えたらいいんだろうけど、今の間だけでもこの幸福に浸かっててもいいだろうか。


二葉さんが傘を差すのを俺がそれとなく制して、代わりに持つ。入れてもらうからには俺が持たないと駄目だと思う。


甘い香りとか近さとか全部が気になって近付けない。一生懸命二葉さんの方へ傘を傾ける。それが気に入らなかったのか、二葉さんに指摘されてしまう―――濡れるでしょ、と。こうして冒頭の会話に繋がっていく。


「雨やまないねー」


「そうだね。梅雨は仕方ないってわかってても憂鬱だよね」


「んー、私はそういう意味で言ったわけじゃないよ?」


「え?」


「だって雨が続けばこうやって三隅と相合傘で帰れるから私は降っててほしいなー」


「そ、そうですか……」


―――そういう所! そういう所が可愛いんだよ! 俺が悶々としていると、急に腕ごと引っ張られる。何事かと、目を白黒させていると背中に軽く衝撃が走る。心配そうな声が俺の耳を撫でる。


「もう! どんどん車道側に出てたよ! 危うく車に引かれるかもしれなかったじゃん……気をつけて?」


この状況はなんだ? この状態はなんなんだ?! 雨で壁が濡れてるから軽い衝撃しかしなかったけど、これ壁ドンされてますね。はい、女の子に。あれ? カッコつけて車道側歩いてたはずなのに。苦言とか耳に入らず、まず思ったのは近い!


顔と顔の距離がめっちゃ近い。ちょっと前屈みになったらキス出来そうな距離。理解が追い付いたら早かった。


「お、俺家あっちだから!! 傘ありがと!」


「え? 最後まで送るよ?」


「いいや! ここで大丈夫! また明日!!」


まだ二葉さんが何か言ってたけど、構わず走り出す。無理だ!! なんだ? あの距離。近くで見たらより破壊力を感じてしまった。急いで心頭滅却しないと!


家に帰り濡れた体を更にシャワーで冷やす。頭が熱い。冷やさないと……濡れて冷えているにも関わらず冷水を浴びてしまったので、後日風邪を引いてしまったのは言うまでもない。

日常って難しいですね。シチュエーションが……。こんなのが見たいとかあったら、言って下さい! 日常の一幕だったら使える題材となるので。

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