またまたお誘い
のんびり頑張ります!
パン販売は戦争だ。誰しも学生と呼ばれていた時代があると思う。部活に勤しむ者、委員会活動に精を出す者、帰宅部を謳歌する者。何に尽力するかはその人次第。俺の場合学生生活の中で、特に重要視するのは食だ。
学食も賑わい過ぎて、席の確保と食券の行列に並ぶだけで随分と骨が折れる。―――そこで、俺は学食と人気を二分するパン販売の方を選んだ。パンさえ購入してしまえば、学食と違って席の確保にも熱を入れる必要がないからだ。
パンはすごく素敵だよね。立ち食いもできるから。時間がなくても掻き込むのに容易だ。そんなわけで、今日も今日とてパン販売の列の先頭争奪戦に気合を入れて挑む!
「まあ、わかってたけどね―――」
大きく肩を落としながら戦利品を抱え込む。そう、意気込みだけはいいんだ。結果が伴わないだけで。要するに、先頭にも並べなかったし、お目当ての焼きそばパンは売り切れだったし、結局20分近く時間がかかってしまった。
二葉さんとの約束の中庭へ小走りで向かう。そこでまた思いがけない姿を目撃してしまう。咄嗟に木の陰に隠れる。
「ほんと……なんで二葉さんは俺なんかに告白したんだろう」
目にしたのは、またもや仲睦まじそうな雪矢と二葉さんの姿だった。談笑している姿は恋人関係を疑ってしまう程、距離感が近い。顔を突き合わせて笑う姿など到底見ていたいものではなかった。
踵を返そうとしたその時、注意不足で足元の小枝を踏んでしまう。小さいが確かにパキリと音がした。
「秋人?」
ドキリとしたが、無理矢理に口角を上げる。動揺を感じさせないように、ゆっくりと振り返った。
「遅くなってごめんね。二葉さん、雪矢」
「いや? パン販売大変だったろ? だから、毎朝コンビニ寄ればいいのに」
「大丈夫だよー。一条と話してたら結構時間経ってたし。そんなところに立ってないで、ほら、座って?」
いちいち反応しなければいいのに、二葉さんの一言に肩がビクリと波打つ。落ち着け、二葉さんは俺に気を遣ってくれただけだ。雪矢といるから時間の経過が早く感じたわけじゃないよね?
チラリと二人を見る。二葉さんは俺を見つめながら、頭をコテンと右に倒す。たったそれだけの仕草にキュンとときめいてしまう自分にまた辟易とした。
二葉さんが左隣のベンチをポンポンと叩く。そこに座ればいいのだろうか? 4人掛けのベンチだから座るのはなんら問題はない。あるとすれば、何故俺が二人の間―――つまり、ど真ん中に鎮座しなければならないのか。
「え? そこに座るの?」
「うん、そうだよ? ほら、早く」
「あ、うん」
言われるがまま、真ん中に腰を下ろす。居心地が悪いってもんじゃない。何故かご機嫌な二葉さんとニヤニヤしてこっちを見る雪矢に挟まれて、苦労してせしめたパンがあまり美味しくもなく、昼休みが終わった。
予鈴が鳴ったので、さあ、教室に戻ろうとする俺に向かって、またもや二葉さんが言い放つ。
「ねえ、放課後デート行こっか、三隅」
語尾の後ろがいつも上がるのは彼女の特徴なのだろうか。そんな風に機嫌良く言われたらこう答えるしかない。
「うん、いいよ」
ああ! なんで俺はこうも単純なんだ! すぐに乗っかってしまう! 一人頭を抱え、自分の単純さに悪態を吐く。だから俺を見てクスクスと笑う二葉さんなんて知る由もなかった。
案外、読まれているのかわからないものですね。まあ、自分の読みたいものを書いているのでしょうがないですね。少しでも興味を持った方が見てくださっているだけで、とても嬉しいです。