お誘い
のんび~りと。
目を背けていたいものって誰でも存在すると思う。例えば可愛がってた愛犬が死んでしまったり、テストで悪い点を取ってしまったり、体重が増えてしまったり―――人それぞれ抱えている問題は大なり小なりあるはずだ。
俺の場合、好きな子と付き合えると喜んだ後に自分以外に劣情を抱いている姿を目撃してしまい、今すぐにでも倒れてしまいそうだ。
―――この一年間二葉さんをずっと見てきたんだ。自分の目に狂いはなかったと安堵する一方、知りたくなかった現実に面と向かいあってしまった。
なぜ、二葉さんは俺に告白したのか……。頭の中を駆け巡っては霧散する。本人に尋ねればすぐに望む答えは返ってくるだろう。でも、俺にとってハッピーな話しではない事くらい、容易に想像がつく。
「みーすみっ! 眉間に皺が寄ってるよー」
えいっという掛け声と共に額を人差し指でグリグリされる。急に現れたと思ったら過度なスキンシップ……ほんと止めて頂きたい。テレるから。
「ちょ、ちょっと考え事」
額を抑えながら後ろに椅子ごと後退る。二葉さんて距離感が狂ってるのか、近いんだよね。これがリア充所以なのか? 俺が照れていても一向に顔色一つ変えない。どっちかって言うと、雪矢と喋っている時の方が表情がコロコロ変わる。笑顔が印象的な二葉さんは、俺なんかにも笑顔で接してくれる。でも、雪矢に見せる表情とは全然違うんだ。
「今日さー、一緒にお昼食べない?」
「昼? うん、いいよ。あ、でも俺パン買いに行くから遅くなると思うし、昼はいつも雪矢と食べてるから……」
「ん? 遅くなっても全然いいよー。晴れてるしせっかくだから中庭で食べようよ。一条と一緒に席取っておくから」
「混んでて遅くなるだろうけど、急いで中庭に行くね」
「りょーかい」
ニッと笑って手を振りながら席へと戻る二葉さんを見送りながら、関心してしまった。流れるようなトークで雪矢の存在を肯定してしまったからだ。到底、俺には真似出来ない。
「やっぱり気のせいじゃない気がするんだよなー」
授業前のざわつく教室の片隅で、窓から空を眺めながらまたポツリと口に出す。喧騒にかき消えて俺の言葉なんて誰の耳にも届かない。ただ、口に出した本人の耳にはちゃんとこびりついて離れることはない。
やっぱり、試すような事を言ってはいけなかったのだ。付き合って初めての昼食タイムに、友達―――ましてや、本当の想い人だと疑っている人を招いてもいいか、なんて。
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