バイト
続きまーす!
「秋人、5番テーブルにこれ持って行って。で、そのまま2番テーブルのオーダー聞いてきて」
「はい!」
「お待たせ致しました。ご注文はお決まりでしょうか?」
「本日のオススメは当店一番人気のイチゴのタルトとブレンド珈琲のセットでございます」
「お客様、お帰りでーす! ありがとうございましたー!! またのご来店お待ちしております!」
怒涛の15時どきである。ホールはてんやわんや。各テーブルからスタッフの声が響き渡り俺の指導係の水穂さんも指示を飛ばしつつ、お客様を捌いている。俺は今、生まれて初めてのバイトを経験中。
以前、触れたように水穂さんの口利きでカフェでバイトをさせてもらっている。夏休みといえば学校がないので、バイト三昧だ。週に5日。約8時間労働だ。時々時間が変わる。えっ、ヤバくない? この年で社会人並の働き量。
俺だって花の高校生。もっと青春をしたい! だが、資金源がないと駄目なのだ。どんなに遊びたくてもお金がないと遊べない……ちっ! 3万なんて課金するんじゃなかった!! 今さら後悔しても時遅し。
あれって不思議だよね……最初は千円だけって始めたのに、お目当てのやつが出るまで課金してしまうのだから。おかげさまで有り金全部使い果たしてしまった。8月も始まったばかりなのに。知ってる? 今日の日付、8月2日。はい、詰みゲー。オワッタって思ったよね。
前借りなんて望めないので、こうして懸命にバイトをしている次第にあります。まあ、給料日25日だから後20日以上この困窮した生活を続けないといけないんだけど。でも良かった。まだ学生の身分なので、遊ぶ金はないが家に帰れば衣食住が揃っているのだから。社会人なら死んでたね。さっき同列に並べてしまい申し訳ありませんでした! 皆様は立派です!! わたくしがカスでした!
「秋人! 休んでる暇ないんだから、さっさと動く! 7月からやってんでしょ。わかるわよね?!」
「はい!! ただ今!」
水穂さんが俺に厳しい。人生で初めてじゃないだろうか。俺の両親は雪矢を甘やかすが、水穂さんは雪矢に厳しく俺に甘い……優しいの方が合ってる気がする。なので、こんな風な注意でさえ、新鮮に感じてしまう自分がいる。が、注文取って、料理運んでレジもしなくちゃ! カフェの実入りは開店10時から17時まで続く。そんな時に油を売ってる時間はないのだ。
居酒屋よりマシな気もする。酔っぱらい相手しなくても済むし。ただ、女性が多い! 特にこの店はオシャレな事も相まって女性のお客様が大集合する。目の保養にはなるので、いつまでも居てください。
カラン、カラン!
「いらっしゃいませー!!」
ホールの至るところから挨拶が飛び交う。一番扉に近かった俺がすぐさま対応に向かう。すると、そこには。
「三隅っ! お疲れー」
「え、二葉さん? どうしてここに?」
「一条に聞いて来たんだー。ちなみに今日は一人だよ」
「そっか。あ、ここではなんだからカウンターの席に。いいかな?」
「ん! 大丈夫」
「一名様ご来店でーす!」
「はい、いらっしゃいませー!!」
「へぇ。すごいね。みんな対応が丁寧だし」
辺りをキョロキョロと見渡す二葉さん。カウンターの席の椅子を引いて座るように促すと二葉さんは呆けながら「ありがとう」と席についた。
「オススメってある?」
「うーん。珈琲好きだったら、この店長イチオシブレンドがオススメだよ。香りが芳醇で酷があって美味しいし」
「へぇ。飲んではみたい……けど、珈琲得意じゃなくて。ごめんね、せっかく教えてくれたのに」
「ううん。大丈夫。だったら、こっちの甘さたっぷりの蜂蜜入りミルクティーがオススメだよ」
「え? 紅茶なのに蜂蜜入れるんだ……意外」
「そう思うよね。だけど、蜂蜜も紅茶に合うやつをセレクトしてるし、深みが増して美味しいよ」
「そうなんだ……じゃあ、それにする!」
「かしこまりました。少々お待ち下さいませ」
オーダーを取り、厨房に注文表を持っていく。程なくして出来上がり、溢さないように。熱いうちにお客様の元へお届けする。簡単そうに見えて最初は簡単じゃなかった。何度お盆の上で溢したか! 今でこそ、様になったがいつ失敗してもおかしくない。無事、二葉さんに届けて内心でホッと溜め息をつく。
「うん。美味しい! 甘いけど自然の甘みでフローラルな香りもして爽やか! すごく飲みやすいね!」
「お褒めに預かり光栄です。なーんて、俺が煎れたわけじゃないんだけどね」
「ううん。オススメされなかったら飲む事なかったから出会えてすごく良かった。ありがとね、三隅」
「い、いや。それほどでも」
「三隅! 立ち話は後にして! 時間ないよ!」
他の先輩から小声で注意される。ヤバッと二葉さんに焦り顔で視線を送る。二葉さんはクスリと笑い、
「ほら、早く行かないとみんな待ってるよ?」
俺に仕事に戻るように促してくれた。
「う、うん。ごめん! もうちょっとしたら混む時間終わるから!」
「じゃあ、ゆっくり紅茶楽しんでおくねー」
ヒラヒラと手を振られ、気持ちを即座に切り替え急いで仕事に戻る。それから1時間。今日は普段より実入りが多く、中々捌くのに苦戦した。
「二葉さんって派手な化粧だけど、あまり手加えてないでしょ?」
「あ、わかりますか? そうなんです。メイクが派手だって思われがちなんですけど、そんなに濃くはしてないんですよね」
「わかる、わかる! それにしても―――肌がきめ細かいわね。なんの化粧水使ってるの?」
「えっ! 別にこれと言って良いのではないですよ。すごく手頃で買える値段ですし」
「なるほどね……これが若さの違いか!」
「いやいや。水穂さんとそんなに年の差ありませんよね!?」
「二葉さん」
「は、はい」
「三歳って近いようでかなり差があるのよ。分かったら二度と言わない事ね。敵を作るわ」
「は、はい!」
二葉さんはごくりと生唾を飲みこんだ。熱く語る水穂さんだったが、閉店までのシフトなので、すぐさまバックヤードに引っ込む事になった。名残惜しそうに去っていく姿が痛々しい。思わず、飴食べる? と、言ってあげたくなる。去り際、俺をみとめて「あ、おつかれー」と去って行ったのが印象的だったけど。なんて軽い。これが幼なじみへの態度?
「すごい力説されてたね」
「あ、三隅。あれ? 仕事終わったの?」
「うん。今日は早めに上がらせてもらったから」
「そうなんだ」
「送るよ。帰ろう」
「え! いいの?」
「うん」
二葉さんの喜びようはすごくて。付き合っていた時より感情豊かな気がする。カフェを後にし、駅の方へ暫く歩いていると、とあるマンションの方へと二葉さんが足を向ける。え……いやいや。ここ、タワーマンションじゃん。54階建ての。え、嘘でしょ? ははっ。入るわけないよね? ねっ?
「何してんの、三隅? あ、ここがうちだから!」
「……うん。とてもご立派で」
「上がってく? お茶くらい出すよ?」
「いやいやいや! 大丈夫! ここで! 俺、帰る!」
「え、なんで片言?」
じゃあ、と踵を返すと手を掴まれる。なんだ? と振り向くと二葉さんの膨れっ面。
「いいじゃん。上がってこーよ?」
「もう夜も遅いし―――」
「まだ、18時半だよ?」
「晴香? あら、どちら様?」
「あ、お母さん!」
「ええ!? お母さん!?」
お母さん若!! お姉さんでも通用するんじゃないか?
「お母さん、こちら三隅秋人君。同じクラスで、さっきまで三隅の働いてるカフェで紅茶飲んでたんだー」
「あら、そうなの。それは晴香がお世話になってます。あ、そうだわ」
ボーッとしていると、俺をお母さんに紹介してお母さんが俺に挨拶してきて、ヤバいと思って会釈して。ロボットになった俺を二葉さんのお母さんが追い討ちを掛けた。
「今度三隅君うちに遊びにいらっしゃい。異性連れて来たことないから張り切っておもてなしするわ」
「―――へ?」
呆けた声を上げる俺にニコリと微笑む二葉さんのお母さん。何故か顔を赤くしている二葉さん。うん、これはあれだね。家に乗り込むなんて俺を殺しにかかっているんだ! とうとう死刑宣告されたと呆然とする俺なのだった。
次回はお家へ上がるそうです。着実に外堀を埋められている気もします。秋人、頑張れー。
『仕事中は恐いけどお仕事以外は甘いんです。』も宜しくお願いします!




