海の家
続きまーす!
皆さんは鼻血を最後に出したのはいつですか? 俺の記憶では小学6年生の時、病院でインフルエンザを疑われて綿棒を鼻の穴に刺されたあの瞬間、粘膜が崩壊し両鼻から鼻血が出たのを今でも鮮明に覚えてる。あの時は看護師さんがすごく慌ててたっけ。こんな事病院始まって以来初めてだ、と。ハハッ。マジ奇遇。俺もだよ。
まあ、昔話は捨て置き鼻血なんて粘膜強い方だから無縁で生きてきたけど、この世に生を受けて16年……女性の半裸体と甘い声で鼻血が出るとは……。免疫の無さに涙が出そう。
「う……ん。ここは?」
「あ、気がついた? ここは医務室よ」
見知らぬ天井だ。とか、言っておけば良かった。人生でそんなシチュエーション味わうことなんて早々ないはずだし。くそっ。思考が追いつかなかった。
俺の顔を覗き込みながら水穂さんがおでこに手を当ててくる。心配というよりも駄目な弟を見守るお姉さんみたいな表情。あ、こんなに駄目な弟持ったことがない。おっしゃる通り! あなた様の弟様は俺とはデキが違いますよね。
おでこから頬へ移動した手はやがてつねりに変わる。まあ、相変わらず痛くないんだけど。
「あにょ。ひゃべれにゃいのでしゅが(あの。喋れないのですが)」
「もう……あんまり心配させないで。鼻血が出るなんて何してたの?」
苦言を言った後、頬のつねりを止めてくれた。去り際に頬を撫で小さく「ごめんね」と言ってきた。俺の方が悪いのに―――心配させない為、真実は言えないが事の顛末を話す。納得はしていなかったが、引いてくれた。うん。絶対知られてはいけない内容だから俺の心の奥底にしまいこんでおこう。
「―――じゃあ、体は元気ってことよね?」
「うん。それはバッチリ!」
「わかった。それじゃあ、みんなの所に行きましょ。みんな心配してたから」
「そうだよね……」
心配かけたよね。だって急に鼻血噴くとか普通に考えて異常だもんね。……よし。みんなに誠心誠意謝ろう―――って思っていた時期が俺にもありました。
「うぉう。たいちょーよくなっばのふぁ? (おう。体調良くなったのか?)」
「うん。こんなこったろうとは思ってたよ。雪矢、ご飯を口に含んだまま喋るものじゃないよ。食べ終わって喋るか喋らないかのどっちかにしないと」
「うっ」と声を発した後、また目の前のご飯にがっつく雪矢。いやいや。可笑しいだろ。ここは飲み込んでから喋るのがセオリーじゃない? 何当たり前のように食事再開してんの? え、死ぬの? ちなみに二葉さんと四宮さんはかなり心配してくれた。ほら見ろ。女性はこんなに優しい。男は駄目だな! 儚いものよ、友情なんて……。
それよりも、死なないとしてもいい加減にしてほしい。俺の体調よりご飯を取るなんて……白状なやつ。俺が水穂さんに連れられて向かった先は海の家だった。海開きの季節しか営業をしないので行くと割とワクワクする。
心配して食事も喉を通らず、俺を待っていてくれると信じていたのでかなり拍子抜けした。どうせ俺なんか! とイジケていると、水穂さんの手が肩にかけられた。俺を慰めるように。
「私が先に食べとくように言ったのよ。ほら、秋人がいつ気が付くかわからなかったし」
「……そりゃそうだよね。よし! 俺も食べよー。何にしようかな?」
「三隅っ! カレー美味しかったからカレーにしたら?」
「焼きそばも美味しかったですよ」
「あ、ほんと?」
へぇ。二人はオーソドックスなのを頼んだんだな……。どうしようかな……こういう時迷ってしまうんだよね。海なんてそう何回も来れる訳じゃないし。俺は―――と、口を開きかけ更なる声の上塗りで書き消された。
「中華丼にしたら? 刺激物入ってないし、食べやすいでしょ?」
「え? あ、そうだね。それにしようかな」
中華丼なんてあるんだ。まあ、最近の海の家ってオーソドックスなものからメジャーじゃないメニューまで揃えてる所もあるって聞いたことあるし。あり得るのか。さすがに鼻血出して気絶したので刺激がないものが有難い。注文を済ませ、程なくして料理が届く。さっそくスプーンを持っていただきまーす! スッと手からスプーンが無くなる。
へ? と利き手を見やる。ない。スプーンが忽然といなくなった!
「はい、食べさせあげるから口開けて」
「……へ? ―――いやいやいや! じ、自分で食べれるよ! 子供じゃな―――むごっ」
「つべこべ言わず口開けな」
「ふぁい」
不覚にもドキッとしてしまった。水穂さんの姉御な部分を発見するたびに妙な気分になる。その後、最後の一口まで遠慮なく食べさせてもらった。まあ、見ようによっては餌付け感覚な気もしなくもないけど。ご満悦だ。世は満足である。王様ごっこを脳内で繰り出し、合法化する。しかし、今どういう状況なのかよく考えるべきだった。楽しい食事は程なくして終了を迎えた。お腹をさする。うん。美味しかった。能天気にそんな感想を抱く。
終始、二つの影がユラユラと揺れ動いていたことも知らずに。
綿棒で鼻血の件は作者の実体験です。二葉、水穂と続けば次は―――ですよね。
そして、新作の『仕事中は恐いけどお仕事以外では甘いんです。』もどうぞご覧下さいませ。但し、こちらの作品は不定期となっておりますので、宜しくお願いします!




