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日焼け止めと流血沙汰

続きまーす。

「ほら、三隅そんなに動いたらちゃんと塗れないでしょ」


「も、もう大丈夫だから」


「だーめ」


なんだこれは……。なんなんだこれは?! 近いし良い匂いはするし。吐息が首元をくすぐる。何をやっているのかと言うと、ただの日焼け止めを塗られているだけである。ただ問題なのは、汲まなく塗られまくっていること。


くすぐったくって! 塗れない背中とかを塗ってもらうなら全然ありなんだけど、二葉さんが全身汲まなく塗らないと駄目だと言い張り、自分で塗ると申し出たら見事に却下された。


水穂さんと四宮さんなんて二人で塗り合い、何故か俺達は放置された。待って! 置いていかないで! 人というのは時に無情なもので長年の知り合いだろうが、浅い交友関係だろうが一切の容赦なく見捨てられることもある。一つ賢くなったね!


水穂さんなんて、俺に敵意の眼差しを送り、四宮さんを連れて何処かへ行ってしまった。出来れば二葉さんを引き離してから去って欲しかった。だって、俺がどんなに言っても二葉さん止めないんだもの! しまいには、


「手も塗っておかないと変な焼け方するよ」


「ちょっ!!」


ニュルリ。日焼け止めの液体が滑る。慣れてないので気持ち悪い。だけど、そんな事言ってられない。二葉さんが手を恋人繋ぎみたいに指同士を絡め、ニギニギしてくる。嬉し恥ずかしい。そんなにしなくてももう塗れてるので大丈夫です! しばらくそうした後、満足気に頷き手を放された。


「はい! おしまい」


「あ、ありがとう」


顔一面真っ赤で茹でタコになりそうだ。暑い……こんなに暑かったっけ。パタパタとうちわ代わりに手で扇ぐ。すると、またもや俺を殺しにかかる一言を投下してきた。


「それじゃあ、今度は私を塗ってね」


「へ? えええええ! いやいやいやいや! それは無理だよ!」


「塗るだけだから大丈夫」


何が?! 何が大丈夫なわけ!? はい、と日焼け止めを渡される。受け取ってしまった。いや、うん。好奇心とか興味があったわけではないんだよ? うん。ただ断りすぎるのも良くないかなって……。はい、すみませんでした。正直に言います。塗りたい……二葉さんの柔肌を―――。またも、気持ち悪い思考になる。


頼まれたからには仕方ないと変に溜め息を吐いて、合法化させる。手に日焼け止めのクリームを垂らして、と。さあ、塗りますか! と、構えた瞬間。


「あ、三隅君塗り終わったんですね! 申し訳ないのですが、塗り残しがあるので塗ってもらえないですか?」


「え……」


ギギギと油がさされる前のロボットみたいに動きが鈍くなる。ゆっくりと声のする方へ顔を向けると、手に浮き輪を持った四宮さんの姿。はい、詰んだ。鼻の下伸ばしまくった顔を四宮さんに見られてしまった! 二葉さんはうつ伏せになってるから気付かないと思ってデレデレし過ぎてしまった。もっと口角を引き締めていれば!! 思わず歯噛みする。


「待って―――四宮さん、だっけ? 今は私が三隅に塗ってもらう時間だから。それにさっき一条のお姉さんに塗ってもらってたじゃん。ほんとに塗る所あるわけ?」


「そ、それが恥ずかしい話なんですけど、水着のトップの紐の下を塗ってもらうの忘れてまして―――二葉さんが三隅君の身体に塗ってる姿を見て思い出しました」


「へ、へぇ。よく見てるじゃない」


ちっ。見られないようにすれば良かった。牽制の意味でやった行為が……と小声が聞こえてくる。牽制って雪矢を巡ってなのだろうか? まあ、確かに雪矢はイケメンだから横取りされてしまう心配があるよね。そうか! 俺を抱き込むことで牽制を図ろうとしたんだね! くそ、イケメンが憎い!! 今なら憎悪の涙が流せそう。


二葉さんがブツブツと一人の世界へ入ってしまった隙に、四宮さんが行動に移す。水着のトップの紐を緩めて―――、


「って!! 何してんの!?」


「え? 取らないと塗れないので、取ったのですが可笑しいですか?」


「いやいや、俺男だしこんな公共の面前で」


「でも取らないと塗れないですよね? あ、心配して下さったんですか? それなら大丈夫ですよ。大事な所は隠しているので今のうちに塗ってください」


「ええ!? いやいや。そうだとしても良くは―――」


「は、早く! 手が痺れてきました」


「少々お待ちを!」


かつて無いほどに俊敏に動く。迅速に行動するのは紳士の嗜みだよね。え? 紳士じゃないって? ハハッ。何言ってんだか。四宮さんの背中に触れる。な、なんてスベスベなんだ! は、鼻血出そう……。鼻血と格闘していると、当の四宮さんから甘い吐息混じりにこんな声。


「ん……。み、三隅君くすぐったいです……ん!」


「ちょ、ちょっと! 何してんの! 人が悩んでた時に。三隅も離れて!! み、三隅?」


ヤバい。何、その声……マジで……そんな声出されたら俺止まらない……。止まら――――ブーッっと大量の鮮血が宙を舞う。ああ、短き人生だった。だが、悔いは無い。


ドサリと背中から倒れ、俺を呼ぶ声と心配そうな二人の顔を見たのが最後。視界が暗転した。


ほんと、悔いは無い人生だった。後で話を聞くと、その時の俺の表情はかつてない程真剣な面持ちだったそうだ。

無駄にイチャつきますよー。その為の水着回なので。

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