海に来た
続きまーす。
海―――それは母なる海。太古の昔、地球上のあらゆる生物は海から生まれ、弱肉強食を育みつつ、逞しく進化していった。しかし、陸……つまり地上に憧れ海の生物達のほとんどが陸で生活を始めた。が、進化を続けるにあたって適応しきれず、絶滅してしまう生物も増え海に帰る生物もいた。
二手に別れた陸の生き物と海の生き物は更に進化を遂げ、何億年もかけ今の形に収まった。しかし、たった一つの生物を除いて。そう……皆さんご存知黒の彗星ことゴキ◯リだ。あれ、気持ち悪いよね。虫苦手だけど、一番駄目なやつ。動きとか見た目とか想像するだけで……ギャー!!!
トラウマなんだよね。うちで飼ってる猫のアオが台所でエンジョイしてて、気になって背後から近付いてみたら―――ヤツがいた。もう虫の息でアオがこっちに自慢気に見せてきたときの悪寒といったら!!!
………。想像するのはもうやめよう。何が言いたいかって言うと、決して地上の偉大さとかではないんだ。そういうことを考えないと、目の前で起きてる出来事に頭の情報処理が着いていかないだけ。
―――パラダイスがある。桃源郷なのかな? ここは。暑さもあって鼻血出そう……。そして、また!
「ちょ、ちょっと近い! 近いよ。二葉さん」
俺の腕を生と言っても過言がない二つの球体が挟み込む。布一枚! 布が一枚なんです!! そう。本日は雪矢と当初予定していた海へと訪れた。そこへ、あれよあれよと一人、また一人と増え、最終的に5人で来ている。
水着の試着会が5日前に終わって時間が経過したからか刺激が強い。それに二葉さんが到着早々、俺にしがみついて離れない。なんでだ?! 俺達別れたよね!? 付き合ってるときもスキンシップは激しかったけど、ここまでではなかった。いや、あれらも俺にとっては刺激が強すぎるけど。二葉さんは口を尖らせながら俺に言う。
「いいじゃん、別に。―――三隅以外にはこんなことしないよ?」
「そ、そういう問題じゃ……みんないるし」
おちゃらけた雰囲気から急にアンニュイな空気に変わる。いつもとは違った空気感と流し目が俺をドキリとさせる。でも、役得なんだけどやめて欲しい。みんな見てるんです。知り合いも知り合いじゃない人達も。二葉さんは自分の容姿をもっと自覚した方がいい。
「おーい。やっと車駐車できたよ―――って、何してんの?」
「み、水穂さん! これは……なんでもないよ!」
「じゃあ、居なければしていいんだ」
「そ、そういうわけじゃなくて!」
水穂さんが車を出してくれたのだが、あいにく駐車スペースが空いてなくて先に落とされたのだ。先に遊んでおいで、と。水穂さん、なんていい人! って感動してたら思いの外早く車を停めれたらしい。おかげで二葉さんとのやり取りを思いっきり目撃された。
慌てて、二葉さんの拘束を取ってついでに距離もとった。すると二葉さんの機嫌が悪くなっていくのが手に取るようにわかる。なんでだ! 俺じゃなくて大好きな雪矢にでもアピールすればいいのに。別れた事を雪矢にも伝えてないけど、自然消滅したみたいな事を言えば丸く収まるはずだ。
あからさまに頬が膨れてる。なんだろ? 既視感を感じる。ここ最近、こういう姿を見たなとその人の方へ目を向ける。こちらの視線に気づいたのか眉間に皺を寄せてきた。腕組みも忘れずに。なんか恐いので話題を逸らそう。
「せっかく来たんだから、遊ばないと! 何する?」
「おー。そうだなー。んじゃ、秋人泳がねー? やっぱ海と言えばだろ?」
「えっ……あんまり泳ぎ得意じゃないんだけど」
「足が届く所でやろうぜ。危ねーし」
「そうだね」
「それでは私達は日焼け止めなど塗ってからにしましょうか」
「そうね。秋人と雪矢は塗らないでいいの?」
「男は焼けてなんぼだからいらねー」
「じゃあ、俺は塗るよ。雪矢と違ってデリケートだし」
即座に賛成の手を挙げると雪矢に「ひでえ!」と言われた。知るか! 毎年海来て、塗れば良かったって後悔してるやつの言うことなど耳に入るか!! 中1の時、雪矢に肌を焼かないと男じゃないと言われ、こんがり焼いたら風呂3日くらい入るのしんどかったんだからな。滲みて滲みて……。
当時のクラスメートに日焼けした肌が似合わないと言われ、枕を揺らしたんだぞ! しかも女の子に言われたしね。雪矢が何か喚いているが、意に介さず無料貸出しのパラソルへ足を向ける。レジャーシートに腰をかけ、日焼け止めは、と鞄の中を探す。
因みにここの海はレジャーシートもパラソルも無料で貸してくれる。少し地元から遠いので、朝早く家を出なければならないが、今年は水穂さんに連れてきてもらえたので楽だった。車サイコー。
海の家の近くにはコインロッカーもあり、鍵だけは紛失しないようにと散々注意事項がポスターで貼られている。コインロッカーが常設されてて、トイレ、シャワーも台数完備されてるなんて……もはや楽園以外に表しようがない。まあ、コインロッカーは台数があまりないので早い者勝ちではあるのだが。
よって、鞄の中身は盗られても失くしても大丈夫なものしか入っていない。貴重品は全てロッカーに。フッフッフッ、とほくそ笑みながらお目当てのものを探し当てる。手に持ったブツを顎に手をあてながら眺める。が、次の瞬間手からかっ拐われた。へ? なぜに?
「自分じゃ塗りにくいでしょ? 塗ってあげようか?」
「え? いや、自分で塗れ―――」
「塗ってあげるね」
「あ、はい。お願いします」
笑顔が怖い。なんだろう、オーラとか見える人間じゃないんだけど。逆らってはいけないオーラが出てると言うか……。冷や汗を流しながら「じゃあ、うつ伏せで寝て」と二葉さんに言われ、意味もなく慌てる。その間、冷や汗が止まらなかったのは夏のせいだと無理矢理暗示をかける。
「もしかして緊張してる? 早く横になって?」
「はい! 喜んで!」
男ってしょうもないんです。別れても好きだし、美人に言われたら言うことを聞かなければならないのです。ほんとアホだよねー。
二葉続きですね。そして海の話も次回続きます!




