ミスコン優勝者
続きまーす。
冷や汗ってどんな時に出る? 焦りや不安、見られたくないものなどそういう時にかく汗だと思う。何が言いたいかと言うと俺も冷や汗をかいている張本人だということ。
止まらない汗は今もとめどなく流れ続けている。何を焦る事がある? と問われればなんと返せばいいのか。ただ言えるのは俺が悪くないと思っていることでもその人が駄目だと思ったら絶対に譲らない精神の人物が、俺に話し掛けてきたことだ。
「秋人。こんな所で何してんの? てか、その子誰?」
不機嫌な物言い。そちらに目をやると、腕を組んで俺と四宮さんを見下ろす美人。長めの髪を毛先だけ軽く巻き、茶髪が端正な顔立ちをより華やかに見せている。涼しげな目元と勝ち気な表情―――そして大人の女性の色香。
二葉さんの天真爛漫な笑顔や四宮さんの儚げでありほんわかした笑顔とはまた違って、自信に満ち溢れこちらを見つめる時の表情は特に色っぽくて……とにかく、大人の女性の余裕さを感じるのが、彼女だ。
たった3歳しか離れていないのに……自分が子供に感じてしまう。そんな魅惑的な女性だ。何処がとは言わないが、恐らく、女性特有の膨らみがかなり大きい……ごほん。やめとこう。ほんとに女性らしいのだ。
ここまで言えば薄々勘づいてくる人も増えてくるだろう。そう。この女性雪矢のお姉さん―――一条水穂さんだ。
なんて言い訳しようか考えあぐねていると、再び声をかけられる。言い訳なんて考えず、ありのままを即座に答えればよかったと後悔した。
「秋人? 言えないような人なわけ?」
「いいえ?! と、図書委員で一緒なだけだよ」
まただ。また目が笑ってなかった。なんでだ? 二葉さんも水穂さんも時々こういう表情をする。俺の周りの女性は俺に恨みでもあるのだろうか。俺が何をしたって言うんだ! 悲しみのあまり崩れ落ちそうになる。そこへ救いの手が差し伸べられる。
「こんにちは。初めまして。私、三隅君と同じ委員会に所属している四宮夏希と言います。あの、間違ってたらすみません。もしかして、◯大学のミスコンで一位になった一条水穂さんですか?」
「え、ええ。そうだけど……」
「やっぱり! お会い出来るなんて思ってなかったので夢みたいです!」
手を叩き、喜びを表現する四宮さん。え? 水穂さんってミスコン優勝したことあるの? すごっ。さすが顔面偏差値高い姉弟。
「そんなに有名なの?」
「何を言ってるんですか! 三隅君! ◯大学のミスコンと言えばメディアにも取り沙汰されてて8位入賞でも凄いって言われるんですよ?! その優勝を新入生でありながらかっさらったんだから超人、いえ、新星だと評してもいいくらいです」
「そ、そうなんだー」
思わず棒読みに。そんなに凄い事だったとは……。世の中知らないことだらけだなと改めて認識の甘さを痛感した。当の本人―――水穂さんは肩を震わせていた。あー、褒められるの苦手だから怒っちゃったかー、と手をおでこに当てると、あら不思議。
「……てんじゃない」
「え? あ、すみません。気持ち悪かったですよね」
「よくわかってんじゃない! 秋人、何この子! すっごく良い子!」
「へ? あ、うん。良い子だよ」
水穂さんが瞬時に四宮さんの肩を抱き、自分の方へ寄せる。四宮さんも戸惑いはあるが、水穂さんと褒め合い合戦を始め、俺だけ蚊帳の外にされた。さ、寂しくなんてないだからね! でも遠巻きで水穂さんを見ても頷ける。すると、自然と言葉が口から出た。
「でもほんとに水穂さんは昔から美人だったし、面倒見もよくて料理もできるから選ばれるのもよく分かるよね」
「なっ! 何言って……もう! 秋人ー!!」
「へ? えええ!」
持ってた鞄を振り上げ追いかけられる。本気で打ち下ろす気はないかもしれないけど、鬼気迫る顔過ぎて怖い! 美人だから余計迫力増して怖い。
結局追いつかれて――――運動神経もいい――――手でポカポカと肩を叩かれた。そんなに痛くないけど、こういう所。ほんと、俺が水穂さんを褒めると絶対こうやって怒るのだ。みんなには怒らないのに……理不尽だ。
そんな俺と水穂さんのやり取りを寂しげに見つめてる瞳に気付く事が出来なかった。
新キャラまたまた登場。大人の女性だー! でも中身は……。